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6.厄災の魔女と一人の人間
小さな魔法使いの冒険
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築野はウィルに話があるからと、燈に席を外すよう促した。燈は仕事場に戻ったが、ちょうど昼食の時間だった為か、ラビィ達の姿が無かった。いつも商店街でパンのようなものを買って皆で食べているので、買い出しに行っているのかもしれない。燈は素直に待つ事にした。
床に紙が何枚か散らばっていたので、拾おうと身体を屈める。するとその途中で、視界の端に蒼く光る何かが見えた。視線を送ると、そこにはセイラから貰った蒼い本が床に落ちていた。先程までは無かったのに、と思いながら燈はそれを拾い上げた。
「どこに行っていたんだろう……」
以前この本が城に現れ、リュラの物語を見せた後、その姿は忽然と無くなっていた。自分の部屋に戻ったらあるかと思ったが、本は何処にも無く。まあ、神出鬼没の本だったのでいつか出てくるだろうと思っていたら今回、仕事場に現れた。この本が現れる時はいつだって、物語を見せる時。本は燈の手の中で勝手に頁を捲り始めた。そして、とある頁で止まる。その物語のタイトルは『小さな魔法使いの冒険』
―――
『小さな魔法使いの冒険』
とある所に人間と魔法使いの血を引く男の子がいた。彼は黒髪に蒼い瞳で、魔法使いとしては珍しい風貌。よく近所の同年代の子供に髪の色でからかわれたりしたが、男の子は自分の髪色を誇りに思っていた。何故なら、魔女の母親は男の子の髪の毛を優しく触っては「あの人みたいに綺麗な黒髪」と言ってくれるから。
あの人とは男の子の父親。少年は父親に会った事が無かったので、それを聞く度にまだ見ぬ父の顔を想像していた。
少年の母親である魔女は、この国一番の魔力を持っている。彼女は国の為に魔力を振るい、人々に安寧をもたらしていた。そんな彼女は少年が寝静まった後にこっそりと魔法を使って、ある事を実現させようとしていた。
それは異世界とこの世界が通じる道を造る事。実は彼女の夫は異世界の人間であり、この国の者ではない。彼は自分の夢の為に自らの世界へと戻ってしまった。魔女は彼と再会を夢見てこうして毎夜魔法で実験を繰り返していた。
そんなある日。少年の歳が五つになった頃。彼はいつもなら起きない時間に目が覚めてしまった。目が冴えてしまい、どうも眠れなさそうだったので、少年は自分の部屋を出て母親のいる部屋まで向かった。
お母さん、いるの?と聞いて母親の部屋に入ってみれば、彼女は椅子に座り、机に突っ伏していた。どうやら眠ってしまったらしい。少年は母によくちゃんとベッドで眠りなさいと叱られていたので、彼女にも注意しないと、と近付こうとして、ある事に気が付いた。
彼女が眠っているすぐ側にある戸棚が、何故か歪んでいた。建てつけが悪いとかではない。真っ直ぐ建っているはずのその戸棚はそこだけ空間が歪んでしまったかのようにぐにゃぐにゃと動いている。それはまるで、コーヒーに溶け込むミルクのように。その歪みの大きさは、丁度頭一個分だろうか。不思議に思った少年はそこを触ろうと近付いた。その瞬間。
「わああ!!」
戸棚に触るはずだったその手は歪みにとぶんと音を立てて突き抜けた。少年は慌てて手を戻そうとしたが、そのままズブズブと身体が引き寄せられてしまい、その歪みの中へ吸いこまれてしまった。目の前が真っ白になり、何も見えず、聞こえなくなる。少年は思わず目を瞑った。
一体いつまでそうしていただろうか。少年は恐る恐る目を開けた。するとそこにあったのは歪んだ戸棚も母親の姿も無かった。代わりに視界に広がるのは見た事のない世界。
大きな何かがうごめいていた。ごうんごうんと音を立てて動く銀色の物体は定期的な速度で何かを潰している。動く小さな道に、何かが均等に運ばれている。その銀色の物体が動く音がけたたましくて、少年は思わず耳を塞いだ。
一体ここは何処なのだろうと少年が混乱していると、背後から声を掛けられた。
「どうしたんだい、こんな所で」
振り返ると、そこには黒髪の男性が立っていた。三十代半ばくらいだろうか。見た事の無い上下紺色の服を着ている。手には何かの資料の用紙と本を持っている。髪と同じ色の瞳で少年を見下ろしていた。
「ここは関係者以外立ち入り禁止だよ。どうしてここへ?」
「分からない。気が付いたら、ここにいたの」
少年がそう言うと、男性は困ったように笑った。
「ここはそんなに簡単に入れる所じゃないんだけどなあ。君、名前は?」
少年は自分の名前を言った。
「なるほど。君は一人でここに来たのかな?」
少年は違うと首を振った。
「僕はお母さんの部屋にいたんだ。でも、気が付いたらここにいたの」
「うーん、良く分からないけど、お母さんと一緒にいたんだね。お母さんの名前は?」
少年が母親の名前を口にすると、男性は手に持っていた資料を地面に落としてしまう。そして二重が綺麗に縁取られた目を大きく見開いて少年を見つめる。その顔を見て、何と無く自分に似ていると少年は思った。男はまさか、でも彼女は…と一人で何かを言っていたが少年にはよく聞こえなかった。
「落ちたよ、おじさん」
少年は散らばった紙を拾い集めるとそれを男性に手渡した。男は呆然と少年を見下ろしていたが、少しして我に返り礼を言うとそれを受け取った。
「君のお母さんは何処に…?」
「分からない。僕、さっきまでお母さんの部屋にいたのに、変な渦に巻き込まれて気が付いたらここにいたんだ」
「…きっと君は違う世界から来てしまったんだ。ここは君が住んでいた世界ではないよ」
「違う世界?」
幼い少年は男性の言っている事が分からなくて首を傾げた。男性は優しく微笑んでしゃがみ込み、少年と視線を同じ高さにする。
「ねえ、君にお父さんはいるの?」
「僕が生まれた時からいなかったよ。でも、お母さんがいつか会わせてくれるって言っていたよ。お父さんは遠い世界にいるけれど、絶対に会えるからって」
「そうか、彼女は私との約束を覚えているんだな。そして、こうして約束の為に進んでいる」
少年は男性の言っている事が分からなかったが、特に何も言わなかった。突然変な場所へ来て知らない人と一緒にいるというのに、この男性の表情を見ていると気持ちが落ち着く自分がいた。
「君がここへ来てしまったのはきっと事故だ。多分何処かに君の世界へと通じる穴があるから一緒に探そう」
男性が手を差し出してくれたので、少年は素直にその手を取った。
歩いている最中に、男性が色々な事を教えてくれた。ここは玩具を作る工場。この銀色の大きな物体は機械といって玩具を作るのに欠かせない存在だという。少年の世界にも玩具はあったが、機械は自分の世界には無い。見た事の無い光景に目を輝かせた。
「君は、玩具が好きかな?」
「うん、とっても好き!」
少年が笑顔で言うと、男性は嬉しそうに顔を綻ばせた。
「じゃあ、君にとっておきの物をプレゼントしよう」
そう言って男性が見せたのは、蒼いペンダントだった。玩具には見えない程精巧で、蒼く輝く石が淡く輝いているように見えた。
「女の子物でごめんね。今男の子向けの玩具も開発しているから、今度来た時はそれをプレゼントするよ」
「これすごい綺麗!」
「そうだろう。これはうちのキャラクターである魔女ガールくうちゃんが持っているペンダントをモデルに作ったものなんだ。…といっても、あまりに精巧に作りすぎたから予算オーバーしてしまって没になってしまったのだけれど。それはサンプル品の一つだよ。良かったら君にあげるよ」
「ありがとう!」
蒼い石のネックレスに気を取られて男性の話を聞いていなかったのだが、少年は嬉しそうに礼を言った。男性はネックレスを少年の手に乗せてやると、大きな手で少年の手と共に包み込んで目を瞑った。両手で少年の小さな手を握る男は、何だか願いを込めているように見えた。
「おじさん?」
「……ああ、突然ごめんね。あの子も、よくこう願掛けをしていたから」
「あの子? 願掛け?」
男性は不思議な人だと少年は思った。言っている事は分からないのに、何故だか安心してしまう自分がいた。この感覚はそう、母親といる時と同じだ。男性はそのネックレスを少年の首へかけてあげる。その拍子に、ふと視線が少年の背後に向かう。
「ん、あれはもしかして君の世界へ通じる穴じゃないか…?」
少年が何かを言おうとした時、男性は彼の背後を指差した。少年が振り返ると、緑色の壁が波打つように不自然に歪んでいた。戸棚の歪みと同じだと少年はすぐに思った。
「きっとこの穴を抜ければお母さんに会えるよ。ここでお別れだ」
「おじさん、ありがとう」
「この事はお母さんに内緒にしな。きっと驚いてしまうだろうし、君が怒られてしまうかもしれない。…それと私の願いはまだ途中。こんな中途半端な姿をまだ彼女に見られたくないしね」
また理解出来ない事を言われたが、少年は大きく頷いた。そして男の手を離し、その歪みへと足を踏み出す。もうそろそろで手が触れる、という時に背後の男性が「そうだ」と思い出したように言う。
「言い忘れていたんだけれど、そのネックレスは君が守りたいと思った子にあげるといい。私が、彼女に、クレイスにそうしたように」
「おじさん、お母さんを知っているの…? おじさんは誰?」
「私は黒野征一。君の―」
男が喋っている途中で、空間の歪みに手が触れてしまった為、最後まで聞けなかった。吸い寄せられる感覚に陥りながら最後に見た男の顔は、とても嬉しそうで、哀しそうだった。少年の視界はすぐに白に染まり何も見えなくなった。
不思議な世界へ行った少年は、その後母親の部屋で目を覚ました。あの銀色の機械という物体は何処にも無く、あの人の姿も無い。
母はまだ眠っていて、少しだけ安心する。彼と約束したのだ。母親には内緒にすると。
少年の見たあの光景は果たして夢か幻か。それは彼の胸元にある蒼いネックレスが知っている―
―――
床に紙が何枚か散らばっていたので、拾おうと身体を屈める。するとその途中で、視界の端に蒼く光る何かが見えた。視線を送ると、そこにはセイラから貰った蒼い本が床に落ちていた。先程までは無かったのに、と思いながら燈はそれを拾い上げた。
「どこに行っていたんだろう……」
以前この本が城に現れ、リュラの物語を見せた後、その姿は忽然と無くなっていた。自分の部屋に戻ったらあるかと思ったが、本は何処にも無く。まあ、神出鬼没の本だったのでいつか出てくるだろうと思っていたら今回、仕事場に現れた。この本が現れる時はいつだって、物語を見せる時。本は燈の手の中で勝手に頁を捲り始めた。そして、とある頁で止まる。その物語のタイトルは『小さな魔法使いの冒険』
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とある所に人間と魔法使いの血を引く男の子がいた。彼は黒髪に蒼い瞳で、魔法使いとしては珍しい風貌。よく近所の同年代の子供に髪の色でからかわれたりしたが、男の子は自分の髪色を誇りに思っていた。何故なら、魔女の母親は男の子の髪の毛を優しく触っては「あの人みたいに綺麗な黒髪」と言ってくれるから。
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「わああ!!」
戸棚に触るはずだったその手は歪みにとぶんと音を立てて突き抜けた。少年は慌てて手を戻そうとしたが、そのままズブズブと身体が引き寄せられてしまい、その歪みの中へ吸いこまれてしまった。目の前が真っ白になり、何も見えず、聞こえなくなる。少年は思わず目を瞑った。
一体いつまでそうしていただろうか。少年は恐る恐る目を開けた。するとそこにあったのは歪んだ戸棚も母親の姿も無かった。代わりに視界に広がるのは見た事のない世界。
大きな何かがうごめいていた。ごうんごうんと音を立てて動く銀色の物体は定期的な速度で何かを潰している。動く小さな道に、何かが均等に運ばれている。その銀色の物体が動く音がけたたましくて、少年は思わず耳を塞いだ。
一体ここは何処なのだろうと少年が混乱していると、背後から声を掛けられた。
「どうしたんだい、こんな所で」
振り返ると、そこには黒髪の男性が立っていた。三十代半ばくらいだろうか。見た事の無い上下紺色の服を着ている。手には何かの資料の用紙と本を持っている。髪と同じ色の瞳で少年を見下ろしていた。
「ここは関係者以外立ち入り禁止だよ。どうしてここへ?」
「分からない。気が付いたら、ここにいたの」
少年がそう言うと、男性は困ったように笑った。
「ここはそんなに簡単に入れる所じゃないんだけどなあ。君、名前は?」
少年は自分の名前を言った。
「なるほど。君は一人でここに来たのかな?」
少年は違うと首を振った。
「僕はお母さんの部屋にいたんだ。でも、気が付いたらここにいたの」
「うーん、良く分からないけど、お母さんと一緒にいたんだね。お母さんの名前は?」
少年が母親の名前を口にすると、男性は手に持っていた資料を地面に落としてしまう。そして二重が綺麗に縁取られた目を大きく見開いて少年を見つめる。その顔を見て、何と無く自分に似ていると少年は思った。男はまさか、でも彼女は…と一人で何かを言っていたが少年にはよく聞こえなかった。
「落ちたよ、おじさん」
少年は散らばった紙を拾い集めるとそれを男性に手渡した。男は呆然と少年を見下ろしていたが、少しして我に返り礼を言うとそれを受け取った。
「君のお母さんは何処に…?」
「分からない。僕、さっきまでお母さんの部屋にいたのに、変な渦に巻き込まれて気が付いたらここにいたんだ」
「…きっと君は違う世界から来てしまったんだ。ここは君が住んでいた世界ではないよ」
「違う世界?」
幼い少年は男性の言っている事が分からなくて首を傾げた。男性は優しく微笑んでしゃがみ込み、少年と視線を同じ高さにする。
「ねえ、君にお父さんはいるの?」
「僕が生まれた時からいなかったよ。でも、お母さんがいつか会わせてくれるって言っていたよ。お父さんは遠い世界にいるけれど、絶対に会えるからって」
「そうか、彼女は私との約束を覚えているんだな。そして、こうして約束の為に進んでいる」
少年は男性の言っている事が分からなかったが、特に何も言わなかった。突然変な場所へ来て知らない人と一緒にいるというのに、この男性の表情を見ていると気持ちが落ち着く自分がいた。
「君がここへ来てしまったのはきっと事故だ。多分何処かに君の世界へと通じる穴があるから一緒に探そう」
男性が手を差し出してくれたので、少年は素直にその手を取った。
歩いている最中に、男性が色々な事を教えてくれた。ここは玩具を作る工場。この銀色の大きな物体は機械といって玩具を作るのに欠かせない存在だという。少年の世界にも玩具はあったが、機械は自分の世界には無い。見た事の無い光景に目を輝かせた。
「君は、玩具が好きかな?」
「うん、とっても好き!」
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「じゃあ、君にとっておきの物をプレゼントしよう」
そう言って男性が見せたのは、蒼いペンダントだった。玩具には見えない程精巧で、蒼く輝く石が淡く輝いているように見えた。
「女の子物でごめんね。今男の子向けの玩具も開発しているから、今度来た時はそれをプレゼントするよ」
「これすごい綺麗!」
「そうだろう。これはうちのキャラクターである魔女ガールくうちゃんが持っているペンダントをモデルに作ったものなんだ。…といっても、あまりに精巧に作りすぎたから予算オーバーしてしまって没になってしまったのだけれど。それはサンプル品の一つだよ。良かったら君にあげるよ」
「ありがとう!」
蒼い石のネックレスに気を取られて男性の話を聞いていなかったのだが、少年は嬉しそうに礼を言った。男性はネックレスを少年の手に乗せてやると、大きな手で少年の手と共に包み込んで目を瞑った。両手で少年の小さな手を握る男は、何だか願いを込めているように見えた。
「おじさん?」
「……ああ、突然ごめんね。あの子も、よくこう願掛けをしていたから」
「あの子? 願掛け?」
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「ん、あれはもしかして君の世界へ通じる穴じゃないか…?」
少年が何かを言おうとした時、男性は彼の背後を指差した。少年が振り返ると、緑色の壁が波打つように不自然に歪んでいた。戸棚の歪みと同じだと少年はすぐに思った。
「きっとこの穴を抜ければお母さんに会えるよ。ここでお別れだ」
「おじさん、ありがとう」
「この事はお母さんに内緒にしな。きっと驚いてしまうだろうし、君が怒られてしまうかもしれない。…それと私の願いはまだ途中。こんな中途半端な姿をまだ彼女に見られたくないしね」
また理解出来ない事を言われたが、少年は大きく頷いた。そして男の手を離し、その歪みへと足を踏み出す。もうそろそろで手が触れる、という時に背後の男性が「そうだ」と思い出したように言う。
「言い忘れていたんだけれど、そのネックレスは君が守りたいと思った子にあげるといい。私が、彼女に、クレイスにそうしたように」
「おじさん、お母さんを知っているの…? おじさんは誰?」
「私は黒野征一。君の―」
男が喋っている途中で、空間の歪みに手が触れてしまった為、最後まで聞けなかった。吸い寄せられる感覚に陥りながら最後に見た男の顔は、とても嬉しそうで、哀しそうだった。少年の視界はすぐに白に染まり何も見えなくなった。
不思議な世界へ行った少年は、その後母親の部屋で目を覚ました。あの銀色の機械という物体は何処にも無く、あの人の姿も無い。
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