48 / 106
4.パレードと秘密
始まるパレード
しおりを挟む
「あ、みんな! パレードがそろそろ始まるみたいだよ!」
リックの声で全員が一斉に柵の方へ集まり、見下ろす。何処からかファンファーレの音が聞こえ、明るい音楽が聞こえてきた。道の端で待っていた人々もパレードの始まりの音を聞き歓声を上げる。
「あ、本当だ! うわー楽しみー!」
柵の前でぴょんぴょんと跳んではしゃぐラビィ。
「本当だね!」
燈も喜ぶが、ふと音の出所は何処なのか気になり、辺りを注意深く見てみる。すると、道の端に三メートルはありそうな花が等間隔で並んでいる事に気がついた。
人間の顔の大きさくらいの花びらはチューリップのようだ。細いがしっかりとした茎は地面にしっかりと根を張っている。蕾が少し開いており、どうやらそこから音が聞こえているらしい。
あの花がスピーカー代わりのようだ。さすがミレジカ。細部までファンタジーだ。軽快な音楽で今まで眠っていたオロロンもパッチリと目を醒まし、リックの頭の上に乗っかった。
「ロロ! やっと始まるろん! シェルバーもいるかな!」
「オロロンは本当にシェルバーが好きだね」
「当たり前だろん! シェルバーはお兄ちゃんだから!」
「そ、そっか…」
本人(?)が言っても、燈はどうしてもオロロンとシェルバーが兄弟と思えなかった。
そして、とうとうパレードが始まった。様々な鳥達が羽ばたき、首にかけられた籠の中から花弁を摘まんで落としていく。
「わあ、すごい…!」
花弁のシャワーに感嘆していると、燈の元へ一羽の白い鳩がやってきた。小さなシルクハットを被っている。鳩は戸惑う燈の前で籠から赤い花弁を取り出すと、
「どうぞ、お嬢さん」
そう言って、花弁を摘まんで渡してくれた。
「わ、ありがとう…!」
受け取って礼を言うと、シルクハットを被った紳士な鳩は、ニコリと笑って羽ばたいて去って行った。
「相変わらずキザな奴だな、あいつは…」
横で見ていたライジルが吐き捨てるように言う。
「ライジル、知っているの?」
「まあな。…まあ、あんな鳩はほっておいてパレードを楽しめよ燈」
あまり好きではないのか、ライジルは顔をしかめて言った。鳥達が花弁を散らせ始めてから少しして、道に人影が現れた。
まず道に現れたのは動物、獣人など様々な種族の子供達。三列になって歩く子供達は清潔感のある白い服を着ており頭には色鮮やかな花のレイを乗せている。全員赤色の花があしらわれたブーケを持っており、ブーケは赤いリボンで飾られている。
そのリボンは一本に伸び、列に並んでいる子達のブーケを繋いでいた。楽しそうに笑顔でいる子や、ガチガチに緊張してしまっている子がいる。
「皆可愛いねー。リックと同じくらいかな?」
「あー。多分一緒だよ。あんまり話した事ないけど」
「そうなの?」
「うん、僕…同じ年の友達っていないんだよねー」
「え!?」
まさかの言葉に、燈は思わずぎょっとしてしまった。明るくて人見知りもしなそうなので、てっきりリックは友達が多いものだと思っていた。
そういえば、同年代の子供と一緒にいる所を見た事が無い。まさか、仲間はずれにされているのでは…?という考えが頭を過ったが、
「あの子達と話が合わないんだよねー。皆子供っぽいっていうかさ」
「……あ、なるほどー…」
リックの言葉に納得してしまう。そういえば、リックは頭が良いのだった。普段は子供らしいから忘れがちだが、こちらの世界の学校である教養所を飛び級で卒業したリック。もしかしたら、私よりも頭が良いのでは。そう思ったら、何だか溜め息が漏れてしまった。
子供たちの列が終わると、次は同じ格好の人々が少しも列を乱さずに行進している。シェルバーのような群青の軍服を着ている。足の高さも大きく振る腕も同じ角度で、一糸乱れぬ行進に思わず歓声を上げる燈。
「すごいねえ…!」
「この人達は城の従者のようだね。…となると次がリュラ達の番だろうね」
ウィルが蒼色の瞳で行進を見ながら、独り言のように言う。
「従者さん……って事はシェルバーさんもいるのかな?」
「そうだろん! シェルバー何処かなあ…!」
視界の端で黒い物体がはしゃいでいるのが見えた。
シェルバーの弟であるオロロンは、兄の事になると本当に嬉しそうにする。一人っ子の燈は、その姿が何と無く羨ましく感じた。
一生懸命兄を探すオロロンの協力をしようと、軍服の人達の中にいるはずのシェルバーを探す。
しかし。
「……あれ?」
何処を探しても、金髪でベレー帽を被った青年は見当たらなかった。
「おろろん……シェルバーいないろん…」
柵にへばりついて探していたオロロンも見つけられなかったようだ。大きな瞳が涙で潤む。
「何でいないんだ? あいつは一応女王補佐だから行進から除外されるなんて事ないと思ったが」
ライジルも探していたのだろう。行進から目をそらさずに眉間に皺を寄せて言う。
「うーん…。じゃあ次出てくるんじゃないのー?」
「忘れたのラビィ。次は最後のヒューオとリュラジョーだよ」
あまり興味が無いのか、適当に言うラビィにリックが律義に訂正する。
「……」
ウィルは薄く笑みを浮かべたまま、リュラの乗る馬車が来る方向に視線を向けていた。
結局シェルバーが見つからないまま、大トリのリュラとヒュウの馬車がやってきた。馬車の姿を見た途端、住民達がわっと歓声を上げる。
「すごい人気だね…!」
「そりゃあそうでしょ!だってリュラジョーとヒューオだもん!」
リックは年相応に目をキラキラさせて興奮した様子であまり答えになっていない事を言う。こういう所は、本当に子供っぽい。白馬に引かれた白い馬車は、屋根が無いもので人が五人は入りそうな広さだ。馬車に乗っているのは、勿論二人。
「わあ…綺麗……!」
燈は歓声を上げる。リュラはいつも一つに纏めている赤い髪を下ろし、金色のティアラを付けている。
髪色と同じドレスは胸が大きく開いているので、胸元の銀色の鱗が遠目でも目立って見える。
いつもライダースーツに身を包み、煙管を吹かしているイメージが強かったので、優しく微笑みながら住人達に手を振っているリュラはとても新鮮だ。
「すごく綺麗……」
燈は頬に手を当ててほう、と息を吐いた。
「本当、綺麗だよねー…あの美しさと神秘的な雰囲気は龍族特有のものだなあ。……ねえ、ライジル?」
「……」
ラビィが話を振ったのに、ライジルは何も答えない。不思議に思った燈がライジルの顔を覗き込むと、彼はぼうっとした表情で馬車を見下ろしていた。心なしか、頬が赤いように見える。
ラビィもライジルの異変に気がついたようで、いたずらを思いついた少女のようにニヒヒと意地悪そうに笑った。
「あらぁ? ジルちゃんリュラジョーに見惚れているのー?」
「バッ……違う!!」
途端にライジルの顔が面白いくらいに赤くなる。
否定はしているが表情が真実を物語っていて、燈も思わずクスリと笑ってしまう。
「隠さなくてもいいよ。だってリュラさん、同性の私が見惚れるくらい綺麗だもん。ライジルの気持ち分かるよ」
「だ、から! そうじゃないって…!」
「ねえ、ウィルもそう思うよね?」
慌てて誤魔化そうとするライジルの隣にいるウィルに話を振ってみる。
「うん、そうだね」
すると全く気持ちの無い返事が返ってきた。笑顔で答えているものの、感情が籠っていないと思ってしまうのは何故だろうか。
ウィルはリックのようにはしゃがず、ラビィのように羨望せず、ライジルのように見惚れるわけでも無く、ただ笑顔を張り付けたまま馬車に乗るリュラを見下ろしていた。
「……」
少しも楽しんでいない。彼はパレードをただ見ているだけで、何も感じていないのではないかと思ってしまう。
彼にとっては、パレードもただの景色。変わり映えのしない殺風景な部屋にいても、人々が感銘を受けるような大自然の風景を目にしても、同じ瞳でその景色を見るのだろう。何と無く、そう思った。
「ヒューオ、顔の発疹治らなかったのかな…」
ウィルの横顔を複雑な気持ちで眺めていると、ふとリックがそんな事を呟いた。
「あ…」
ヒューオ。ヒュウ王。ミレジカの王であり、リュラの夫である男。リュラの美しいドレス姿に見とれてすっかり忘れていたが、彼の姿を見たいと熱望していた燈はすぐさま視線を女王の隣に移動させた。
「……あれ?」
真っ青なマントに身を包み、右手で手を振る人物は体格からして男だという事は分かる。しかし、顔は煌びやかな王冠より垂れる白い布によって顔が隠されており、彼の表情が全く分からない。
以前リュラが、ヒュウの病気で発疹が顔に出ていると言っていた。パレードに出席する程回復はしたが、顔の発疹は治らなかったのだろう。ヒュウの顔が見れなかった事は残念だったが、病気なのに国民の前に姿を現す事に感銘を受けた。
隣に並ぶリュラより頭一つ分大きく、布のせいで前が見えない為か、手を振る仕草が何処かぎこちない。体格は青いマントによって隠されている為、男と判別出来るくらい。左手は青いマントの下にやったままで出そうとしない。
「……何か、今日のヒューオ…いつもと違く無い?」
ふと、ラビィが呟いた。
「え、そうなの?」
初見の燈にはヒュウの違和感が分からないので、聞き返してしまう。
「うん…。何かいつもはもうちょっと堂々としているっていうか…。あ、でも堂々とした人じゃないんだけど…肝が据わっているの。なのに今日は挙動不審なんだよね…」
確かに顔をあちこちに向けて、ぎこちなく手を振る姿は挙動不審だ。とても肝が据わった人だとは思えない。
「具合が悪いから…とかかな?」
「うーん…そうだといいんだけど」
腑に落ちない、といった表情でラビィは口を尖らせた。
「うーん…」
そして唸っているのがもう一人。短い手でくちばしを触って何かを考えている黒くて丸いフォルムの鳥の獣人。
「オロロンどうかした?」
柵にしがみついて考え込むオロロンに、燈は声を掛けた。
リックの声で全員が一斉に柵の方へ集まり、見下ろす。何処からかファンファーレの音が聞こえ、明るい音楽が聞こえてきた。道の端で待っていた人々もパレードの始まりの音を聞き歓声を上げる。
「あ、本当だ! うわー楽しみー!」
柵の前でぴょんぴょんと跳んではしゃぐラビィ。
「本当だね!」
燈も喜ぶが、ふと音の出所は何処なのか気になり、辺りを注意深く見てみる。すると、道の端に三メートルはありそうな花が等間隔で並んでいる事に気がついた。
人間の顔の大きさくらいの花びらはチューリップのようだ。細いがしっかりとした茎は地面にしっかりと根を張っている。蕾が少し開いており、どうやらそこから音が聞こえているらしい。
あの花がスピーカー代わりのようだ。さすがミレジカ。細部までファンタジーだ。軽快な音楽で今まで眠っていたオロロンもパッチリと目を醒まし、リックの頭の上に乗っかった。
「ロロ! やっと始まるろん! シェルバーもいるかな!」
「オロロンは本当にシェルバーが好きだね」
「当たり前だろん! シェルバーはお兄ちゃんだから!」
「そ、そっか…」
本人(?)が言っても、燈はどうしてもオロロンとシェルバーが兄弟と思えなかった。
そして、とうとうパレードが始まった。様々な鳥達が羽ばたき、首にかけられた籠の中から花弁を摘まんで落としていく。
「わあ、すごい…!」
花弁のシャワーに感嘆していると、燈の元へ一羽の白い鳩がやってきた。小さなシルクハットを被っている。鳩は戸惑う燈の前で籠から赤い花弁を取り出すと、
「どうぞ、お嬢さん」
そう言って、花弁を摘まんで渡してくれた。
「わ、ありがとう…!」
受け取って礼を言うと、シルクハットを被った紳士な鳩は、ニコリと笑って羽ばたいて去って行った。
「相変わらずキザな奴だな、あいつは…」
横で見ていたライジルが吐き捨てるように言う。
「ライジル、知っているの?」
「まあな。…まあ、あんな鳩はほっておいてパレードを楽しめよ燈」
あまり好きではないのか、ライジルは顔をしかめて言った。鳥達が花弁を散らせ始めてから少しして、道に人影が現れた。
まず道に現れたのは動物、獣人など様々な種族の子供達。三列になって歩く子供達は清潔感のある白い服を着ており頭には色鮮やかな花のレイを乗せている。全員赤色の花があしらわれたブーケを持っており、ブーケは赤いリボンで飾られている。
そのリボンは一本に伸び、列に並んでいる子達のブーケを繋いでいた。楽しそうに笑顔でいる子や、ガチガチに緊張してしまっている子がいる。
「皆可愛いねー。リックと同じくらいかな?」
「あー。多分一緒だよ。あんまり話した事ないけど」
「そうなの?」
「うん、僕…同じ年の友達っていないんだよねー」
「え!?」
まさかの言葉に、燈は思わずぎょっとしてしまった。明るくて人見知りもしなそうなので、てっきりリックは友達が多いものだと思っていた。
そういえば、同年代の子供と一緒にいる所を見た事が無い。まさか、仲間はずれにされているのでは…?という考えが頭を過ったが、
「あの子達と話が合わないんだよねー。皆子供っぽいっていうかさ」
「……あ、なるほどー…」
リックの言葉に納得してしまう。そういえば、リックは頭が良いのだった。普段は子供らしいから忘れがちだが、こちらの世界の学校である教養所を飛び級で卒業したリック。もしかしたら、私よりも頭が良いのでは。そう思ったら、何だか溜め息が漏れてしまった。
子供たちの列が終わると、次は同じ格好の人々が少しも列を乱さずに行進している。シェルバーのような群青の軍服を着ている。足の高さも大きく振る腕も同じ角度で、一糸乱れぬ行進に思わず歓声を上げる燈。
「すごいねえ…!」
「この人達は城の従者のようだね。…となると次がリュラ達の番だろうね」
ウィルが蒼色の瞳で行進を見ながら、独り言のように言う。
「従者さん……って事はシェルバーさんもいるのかな?」
「そうだろん! シェルバー何処かなあ…!」
視界の端で黒い物体がはしゃいでいるのが見えた。
シェルバーの弟であるオロロンは、兄の事になると本当に嬉しそうにする。一人っ子の燈は、その姿が何と無く羨ましく感じた。
一生懸命兄を探すオロロンの協力をしようと、軍服の人達の中にいるはずのシェルバーを探す。
しかし。
「……あれ?」
何処を探しても、金髪でベレー帽を被った青年は見当たらなかった。
「おろろん……シェルバーいないろん…」
柵にへばりついて探していたオロロンも見つけられなかったようだ。大きな瞳が涙で潤む。
「何でいないんだ? あいつは一応女王補佐だから行進から除外されるなんて事ないと思ったが」
ライジルも探していたのだろう。行進から目をそらさずに眉間に皺を寄せて言う。
「うーん…。じゃあ次出てくるんじゃないのー?」
「忘れたのラビィ。次は最後のヒューオとリュラジョーだよ」
あまり興味が無いのか、適当に言うラビィにリックが律義に訂正する。
「……」
ウィルは薄く笑みを浮かべたまま、リュラの乗る馬車が来る方向に視線を向けていた。
結局シェルバーが見つからないまま、大トリのリュラとヒュウの馬車がやってきた。馬車の姿を見た途端、住民達がわっと歓声を上げる。
「すごい人気だね…!」
「そりゃあそうでしょ!だってリュラジョーとヒューオだもん!」
リックは年相応に目をキラキラさせて興奮した様子であまり答えになっていない事を言う。こういう所は、本当に子供っぽい。白馬に引かれた白い馬車は、屋根が無いもので人が五人は入りそうな広さだ。馬車に乗っているのは、勿論二人。
「わあ…綺麗……!」
燈は歓声を上げる。リュラはいつも一つに纏めている赤い髪を下ろし、金色のティアラを付けている。
髪色と同じドレスは胸が大きく開いているので、胸元の銀色の鱗が遠目でも目立って見える。
いつもライダースーツに身を包み、煙管を吹かしているイメージが強かったので、優しく微笑みながら住人達に手を振っているリュラはとても新鮮だ。
「すごく綺麗……」
燈は頬に手を当ててほう、と息を吐いた。
「本当、綺麗だよねー…あの美しさと神秘的な雰囲気は龍族特有のものだなあ。……ねえ、ライジル?」
「……」
ラビィが話を振ったのに、ライジルは何も答えない。不思議に思った燈がライジルの顔を覗き込むと、彼はぼうっとした表情で馬車を見下ろしていた。心なしか、頬が赤いように見える。
ラビィもライジルの異変に気がついたようで、いたずらを思いついた少女のようにニヒヒと意地悪そうに笑った。
「あらぁ? ジルちゃんリュラジョーに見惚れているのー?」
「バッ……違う!!」
途端にライジルの顔が面白いくらいに赤くなる。
否定はしているが表情が真実を物語っていて、燈も思わずクスリと笑ってしまう。
「隠さなくてもいいよ。だってリュラさん、同性の私が見惚れるくらい綺麗だもん。ライジルの気持ち分かるよ」
「だ、から! そうじゃないって…!」
「ねえ、ウィルもそう思うよね?」
慌てて誤魔化そうとするライジルの隣にいるウィルに話を振ってみる。
「うん、そうだね」
すると全く気持ちの無い返事が返ってきた。笑顔で答えているものの、感情が籠っていないと思ってしまうのは何故だろうか。
ウィルはリックのようにはしゃがず、ラビィのように羨望せず、ライジルのように見惚れるわけでも無く、ただ笑顔を張り付けたまま馬車に乗るリュラを見下ろしていた。
「……」
少しも楽しんでいない。彼はパレードをただ見ているだけで、何も感じていないのではないかと思ってしまう。
彼にとっては、パレードもただの景色。変わり映えのしない殺風景な部屋にいても、人々が感銘を受けるような大自然の風景を目にしても、同じ瞳でその景色を見るのだろう。何と無く、そう思った。
「ヒューオ、顔の発疹治らなかったのかな…」
ウィルの横顔を複雑な気持ちで眺めていると、ふとリックがそんな事を呟いた。
「あ…」
ヒューオ。ヒュウ王。ミレジカの王であり、リュラの夫である男。リュラの美しいドレス姿に見とれてすっかり忘れていたが、彼の姿を見たいと熱望していた燈はすぐさま視線を女王の隣に移動させた。
「……あれ?」
真っ青なマントに身を包み、右手で手を振る人物は体格からして男だという事は分かる。しかし、顔は煌びやかな王冠より垂れる白い布によって顔が隠されており、彼の表情が全く分からない。
以前リュラが、ヒュウの病気で発疹が顔に出ていると言っていた。パレードに出席する程回復はしたが、顔の発疹は治らなかったのだろう。ヒュウの顔が見れなかった事は残念だったが、病気なのに国民の前に姿を現す事に感銘を受けた。
隣に並ぶリュラより頭一つ分大きく、布のせいで前が見えない為か、手を振る仕草が何処かぎこちない。体格は青いマントによって隠されている為、男と判別出来るくらい。左手は青いマントの下にやったままで出そうとしない。
「……何か、今日のヒューオ…いつもと違く無い?」
ふと、ラビィが呟いた。
「え、そうなの?」
初見の燈にはヒュウの違和感が分からないので、聞き返してしまう。
「うん…。何かいつもはもうちょっと堂々としているっていうか…。あ、でも堂々とした人じゃないんだけど…肝が据わっているの。なのに今日は挙動不審なんだよね…」
確かに顔をあちこちに向けて、ぎこちなく手を振る姿は挙動不審だ。とても肝が据わった人だとは思えない。
「具合が悪いから…とかかな?」
「うーん…そうだといいんだけど」
腑に落ちない、といった表情でラビィは口を尖らせた。
「うーん…」
そして唸っているのがもう一人。短い手でくちばしを触って何かを考えている黒くて丸いフォルムの鳥の獣人。
「オロロンどうかした?」
柵にしがみついて考え込むオロロンに、燈は声を掛けた。
0
お気に入りに追加
20
あなたにおすすめの小説
【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
城で侍女をしているマリアンネと申します。お給金の良いお仕事ありませんか?
甘寧
ファンタジー
「武闘家貴族」「脳筋貴族」と呼ばれていた元子爵令嬢のマリアンネ。
友人に騙され多額の借金を作った脳筋父のせいで、屋敷、領土を差し押さえられ事実上の没落となり、その借金を返済する為、城で侍女の仕事をしつつ得意な武力を活かし副業で「便利屋」を掛け持ちしながら借金返済の為、奮闘する毎日。
マリアンネに執着するオネエ王子やマリアンネを取り巻く人達と様々な試練を越えていく。借金返済の為に……
そんなある日、便利屋の上司ゴリさんからの指令で幽霊屋敷を調査する事になり……
武闘家令嬢と呼ばれいたマリアンネの、借金返済までを綴った物語
【取り下げ予定】愛されない妃ですので。
ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。
国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。
「僕はきみを愛していない」
はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。
『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。
(ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?)
そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。
しかも、別の人間になっている?
なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。
*年齢制限を18→15に変更しました。
子ども扱いしないでください! 幼女化しちゃった完璧淑女は、騎士団長に甘やかされる
佐崎咲
恋愛
旧題:完璧すぎる君は一人でも生きていけると婚約破棄されたけど、騎士団長が即日プロポーズに来た上に甘やかしてきます
「君は完璧だ。一人でも生きていける。でも、彼女には私が必要なんだ」
なんだか聞いたことのある台詞だけれど、まさか現実で、しかも貴族社会に生きる人間からそれを聞くことになるとは思ってもいなかった。
彼の言う通り、私ロゼ=リンゼンハイムは『完璧な淑女』などと称されているけれど、それは努力のたまものであって、本質ではない。
私は幼い時に我儘な姉に追い出され、開き直って自然溢れる領地でそれはもうのびのびと、野を駆け山を駆け回っていたのだから。
それが、今度は跡継ぎ教育に嫌気がさした姉が自称病弱設定を作り出し、代わりに私がこの家を継ぐことになったから、王都に移って血反吐を吐くような努力を重ねたのだ。
そして今度は腐れ縁ともいうべき幼馴染みの友人に婚約者を横取りされたわけだけれど、それはまあ別にどうぞ差し上げますよというところなのだが。
ただ。
婚約破棄を告げられたばかりの私をその日訪ねた人が、もう一人いた。
切れ長の紺色の瞳に、長い金髪を一つに束ね、男女問わず目をひく美しい彼は、『微笑みの貴公子』と呼ばれる第二騎士団長のユアン=クラディス様。
彼はいつもとは違う、改まった口調で言った。
「どうか、私と結婚してください」
「お返事は急ぎません。先程リンゼンハイム伯爵には手紙を出させていただきました。許可が得られましたらまた改めさせていただきますが、まずはロゼ嬢に私の気持ちを知っておいていただきたかったのです」
私の戸惑いたるや、婚約破棄を告げられた時の比ではなかった。
彼のことはよく知っている。
彼もまた、私のことをよく知っている。
でも彼は『それ』が私だとは知らない。
まったくの別人に見えているはずなのだから。
なのに、何故私にプロポーズを?
しかもやたらと甘やかそうとしてくるんですけど。
どういうこと?
============
番外編は思いついたら追加していく予定です。
<レジーナ公式サイト番外編>
「番外編 相変わらずな日常」
レジーナ公式サイトにてアンケートに答えていただくと、書き下ろしweb番外編をお読みいただけます。
いつも攻め込まれてばかりのロゼが居眠り中のユアンを見つけ、この機会に……という話です。
※転載・複写はお断りいたします。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる