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3 失われる平穏
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エダの姿は魔力の持つ者にしか見えない。魔力を持つ者はほとんどが王族だ。――リィという特殊な存在を除いて。
しかし、目の前を走るフードの三人の内の一人が、エダを認識するような仕草を見せた。そして、まるでエダを見つける事が目的だったかのように、先程まで殺し合いをしていたリィには目もくれずに走り出したのだ。リィも胸がざわざわとした感覚に襲われる。
――彼らが向かったのは魔物の森。リィが幼少期から少し前までずっといた場所だ。懐かしむ余裕も無く、リィは目の前の敵に集中する。双剣をしまい、ズボンのポケットから透明な魔石を取り出す。それを右手で包み込み、親指と人差し指を立て、銃の形を真似る。走りながらだとなかなか狙いづらいが、右目で見ているので幾分か的の速度が遅く見える。リィは人差し指に氷の結晶を出現させると、それをフードの一人へ向けて放った。
照準はずれたが、それは男の右肩に命中した。男はよろめき、その場に崩れ落ちる。しかし、他の二人は仲間に目もくれずに走り続ける。リィも構わず追い掛ける。
「――う」
途中、目眩がしてリィは頭を振る。少し右目で見過ぎていたようだ。ググ村へ来る前に眠ってしまう程魔力も消費していたので、疲労も蓄積されている。不死ではあるが、体力の消耗はすぐには回復しない。
だが、目の前の彼らを逃すわけにはいかない。リィが再度魔石を使って氷魔法を放とうとした時だった。茂みから突然、いたちのような黒い獣が飛び掛かってきた。フードの男達に集中していたリィは虚を突かれて思わず閉じていた左目を開いてしまう。ここは魔物の森。魔物が突然出現してもおかしくない。
直ぐに対応出来ず、魔物の鋭い牙がリィの左腕に噛みつこうとした時だった。リィの背後から長い刀身が現れ、それが魔物を一刀両断した。小さな魔物は声にならない叫び声を上げて絶命した。
「リィ! 油断するな!」
「オウル…ありがとう」
背後から現れたのはオウルだった。負傷した左腕は布のような物が巻かれており、気休め程度の止血がされている。いつも額に巻いていた布が無くなっていたので、どうやらそれを代用したようだ。
「あいつら、ググ村を襲った奴らだよな」
「分からないけど…その可能性は高い」
「はっ、どちらかを生け捕りにして全部吐かせてから殺してやる…!」
オウルが憎しみを込めて吐き出すように言う。彼の怒りは最もだ。しかし、リィは彼に怒りや憎しみに囚われて欲しくは無いと思っていた。グルト城に仕えてから、オウルは表情が明るくなった。三十二年もググ村という閉鎖的な環境に縛り付けられていたから、王都の暮らしは彼にとって良い影響をもたらしたのだと思っている。魔物の森に来る時、オウルはいつも申し訳無さそうだった。そんな表情は、もうここ最近見ていない。
それにしても、黒いフードの男達は足が速く、撒かれないようにするのに必死で追いつける様子が無い。オウルもそう思ったようで、息を切らせながら口を開く。
「しかし、あいつら速いな。追いつく前に撒かれてしまうんじゃ…」
「大丈夫。この先は小高い丘のようになっているから、行き止まりだ」
木々が鬱蒼としており、陽の光が入らない魔物の森だが、唯一その丘は木々が生えていない。見た目は他の地と変わらないのだが、まるで木々がそこに生えるのを拒否しているかのようだ、とリィは思った事があった。
リィの言った通り、先には五メートル程の丘があり、そこでフードの男達は足止めされた。急勾配で道具が無いと登れない丘を前にし、諦めたのか男達はリィとオウルを迎え撃とうとこちらに身体を向けた。
「オウル」
「おうよ!」
短く言葉を交わすと、オウルが刀を構えて二人に突進する。オウルは刀など扱った事が無いので、持ち方も間違っているし、振るわずに突き刺そうとしている。彼らから見れば、オウルは隙だらけですぐにでも急所を狙える、思ったかもしれない。剣を持つ二人は体勢を低くしてオウルの脇腹や太股を狙う。
しかし、オウルは十八年も一人で魔物の森に通っていた男。そう易々とやられる男では無い。大きな身体からは想像出来ないしなやかさと素早さで二人の斬撃を避けると、刀の柄で一人の男の手を叩いた。その拍子に、男から剣が離れる。――その隙を、後ろでタイミングを見計らっていたリィは見逃さなかった。右目で相手を捕らえると、低い体勢のまま地を蹴り、バランスを崩した男の首元に双剣を走らせる。その直後に血の噴水が勢いよく出て、リィの身体を赤く染める。
「おう、後はてめぇだけだな」
男が骸となって地に伏したのを確認してから、オウルは最後の一人に刀を向けた。残った男は他の者達よりもやや小柄だ。フードで顔ははっきり見えないが、リィより幾分か若そうだ。一緒にいた男の血がじわじわと広がっていく様を見て、機械的だった男の顔に恐怖の色が帯びる。迷いの無かった太刀筋が嘘のように、剣を持つ手が、足が震えている。
様子がおかしい事に気付いたリィは「待て、オウル。威嚇するな」と言ったが、少々遅かった。
「……僕は、僕は僕は僕は……あああああああああっ!!」
男が錯乱し、自分の頭を両手で掴むと、その拍子にフードが露わになる。切り揃えられた髪はスカイブルーで、恐怖に怯える瞳は緑色。下手したらアリソンと同年代ではないかというくらい顔立ちが幼い。
しかし、その姿が見られたのは一瞬で、突然男は黒い光に包まれた。光の中で、男の姿が変貌していく。手足が太くなり、鋭い爪が生える。そして顔が変形し、黒と青の混ざった体毛が生えて行く。
リィとオウルはその変貌を唖然と見つめていた。人間だったものが人間ではない形になっていく。それがいかに恐ろしいか。――やがて、少年だったものは、四足歩行の黒と青の混じった体毛を持つ狼のような魔物に変貌した。充血した緑色の瞳は正気を失っていそうだが、獲物――リィを睨みつけている。
「なっ……魔物!?」
オウルが驚愕の声を上げた時だった。少年だった魔物は勢いよく跳躍し、リィに襲いかかった。目の前の出来事に意識を奪われていたリィはすぐに反応する事が出来ず、そのまま魔物に押し倒される。
「うぐ…!」
魔物の牙がリィの右肩に突き刺さる。リィは左手に持った双剣の片割れで魔物の肩部分に突き刺すが、右肩を噛む力は緩まない。そのまま噛み砕かれると思ったが、突然魔物がリィの方に顔を向けた。その緑色の目は焦点が定まっていないが、何故か金色の右目を見ているような気がした。そして魔物は、リィの顔に向けて大きな口を開けた。
――既視感。顔が喰われそうになっているというのに、リィはその光景に覚えがあるような気がした。それは遠い昔の記憶。優しい女性の声が聞こえる微かな記憶――
「リィ!」
オウルの声でハッと我に返る。そして、魔物が「ギャンッ」と悲鳴を上げて視界から消える。その代わりに映ったのはオウルが片足を突き出している姿。どうやらオウルが魔物を蹴り、どかしてくれたようだ。ついでに致命傷も喰らわせたようで、地面で震える魔物の背中には刀が深く刺さっていた。
「な、何なんだこいつ…。突然魔物になったが……もしかして人間に変身出来る魔物か?」
オウルは恐る恐る魔物に近付く。舌をダラリと出し、浅く息を吐いている。反撃する余裕はもう残っていないようだ。リィはゆっくりと起き上って負傷した右肩を触る。まだ傷は癒えていない。少しずつ傷が塞がっていくのを感じていると、背後から「リィ!」と自分を呼ぶ声が聞こえた。
振り返ると、アメリーがグランデルと共に馬に乗って現れた。後ろには騎士達数人が馬に乗って後ろを付いて来ている。どうやらアメリーが彼らを助けに呼んでくれたらしい。アメリーはグランデルに補佐されながら馬から降りると、リィに駆け寄った。
「リィ、大丈夫…!? 血だらけじゃない!」
「うん。もう治ったから大丈夫」
リィの言う通り、服の下にあったはずの噛まれた傷も、槍に貫かれていたはずの傷も既に塞がっていた。それを見てアメリーは眉を下げて複雑な表情を浮かべる。リィが大怪我をしたのは明白だったからだろう。少し遅れて、グランデルもリィに近付いて口を開く。
「リィ。黒いフードの男達はお前を襲ったのか?」
「…最初はオウルを狙っていた。その後は、俺」
「グランデルさん! それよりもこいつ、人間が魔物に変わったんだ! 黒いフードの奴らの一人だ!」
グランデルに思考する暇も与えず、オウルが地に伏せる黒と青が混じった獣を指差しながら叫ぶ。グランデルはオウルの言葉を信じられないと言いたげに眉を潜めた。オウルの指の先には魔物が刀で身体を貫かれたまま倒れていたが――突然、ビクリと身体を震わせて立ち上がると、よろめきながらも森の茂みに向かって走り出した。
「あっ! まだ生きていたのか!」
「オウル! 深入りするな! その傷は浅くないだろう!」
走って追い掛けようとしたオウルに、グランデルが一喝する。彼の傷は命に関わる程の傷ではないが、放置出来るものではない。
「……っ、だってよお。あいつらが、あいつらがググ村を……!」
「憎しみで身を滅ぼすつもりか? 他の者に追わせるから勝手な行動は取るな。……黒いフードの男だが二名程、息があった。あの魔物を捕まえ、その者達から話を聞き出すぞ」
オウルは悔しそうに歯噛みしたが、素直に従うと目頭を乱暴に拭って黒い獣が去った方向に背を向ける。グランデルの指示を受け、何名かの騎士が黒と青の魔物が消えた方向へと馬を走らせた。
リィはその様子を黙って見つめていた。彼の目線の先は、魔物の消えた茂みでもなく、悲しみと憎しみに震えるオウルでもなく――騎士隊長グランデル。リィは何故か、彼から一瞬だけ殺意を感じた気がした。
しかし、目の前を走るフードの三人の内の一人が、エダを認識するような仕草を見せた。そして、まるでエダを見つける事が目的だったかのように、先程まで殺し合いをしていたリィには目もくれずに走り出したのだ。リィも胸がざわざわとした感覚に襲われる。
――彼らが向かったのは魔物の森。リィが幼少期から少し前までずっといた場所だ。懐かしむ余裕も無く、リィは目の前の敵に集中する。双剣をしまい、ズボンのポケットから透明な魔石を取り出す。それを右手で包み込み、親指と人差し指を立て、銃の形を真似る。走りながらだとなかなか狙いづらいが、右目で見ているので幾分か的の速度が遅く見える。リィは人差し指に氷の結晶を出現させると、それをフードの一人へ向けて放った。
照準はずれたが、それは男の右肩に命中した。男はよろめき、その場に崩れ落ちる。しかし、他の二人は仲間に目もくれずに走り続ける。リィも構わず追い掛ける。
「――う」
途中、目眩がしてリィは頭を振る。少し右目で見過ぎていたようだ。ググ村へ来る前に眠ってしまう程魔力も消費していたので、疲労も蓄積されている。不死ではあるが、体力の消耗はすぐには回復しない。
だが、目の前の彼らを逃すわけにはいかない。リィが再度魔石を使って氷魔法を放とうとした時だった。茂みから突然、いたちのような黒い獣が飛び掛かってきた。フードの男達に集中していたリィは虚を突かれて思わず閉じていた左目を開いてしまう。ここは魔物の森。魔物が突然出現してもおかしくない。
直ぐに対応出来ず、魔物の鋭い牙がリィの左腕に噛みつこうとした時だった。リィの背後から長い刀身が現れ、それが魔物を一刀両断した。小さな魔物は声にならない叫び声を上げて絶命した。
「リィ! 油断するな!」
「オウル…ありがとう」
背後から現れたのはオウルだった。負傷した左腕は布のような物が巻かれており、気休め程度の止血がされている。いつも額に巻いていた布が無くなっていたので、どうやらそれを代用したようだ。
「あいつら、ググ村を襲った奴らだよな」
「分からないけど…その可能性は高い」
「はっ、どちらかを生け捕りにして全部吐かせてから殺してやる…!」
オウルが憎しみを込めて吐き出すように言う。彼の怒りは最もだ。しかし、リィは彼に怒りや憎しみに囚われて欲しくは無いと思っていた。グルト城に仕えてから、オウルは表情が明るくなった。三十二年もググ村という閉鎖的な環境に縛り付けられていたから、王都の暮らしは彼にとって良い影響をもたらしたのだと思っている。魔物の森に来る時、オウルはいつも申し訳無さそうだった。そんな表情は、もうここ最近見ていない。
それにしても、黒いフードの男達は足が速く、撒かれないようにするのに必死で追いつける様子が無い。オウルもそう思ったようで、息を切らせながら口を開く。
「しかし、あいつら速いな。追いつく前に撒かれてしまうんじゃ…」
「大丈夫。この先は小高い丘のようになっているから、行き止まりだ」
木々が鬱蒼としており、陽の光が入らない魔物の森だが、唯一その丘は木々が生えていない。見た目は他の地と変わらないのだが、まるで木々がそこに生えるのを拒否しているかのようだ、とリィは思った事があった。
リィの言った通り、先には五メートル程の丘があり、そこでフードの男達は足止めされた。急勾配で道具が無いと登れない丘を前にし、諦めたのか男達はリィとオウルを迎え撃とうとこちらに身体を向けた。
「オウル」
「おうよ!」
短く言葉を交わすと、オウルが刀を構えて二人に突進する。オウルは刀など扱った事が無いので、持ち方も間違っているし、振るわずに突き刺そうとしている。彼らから見れば、オウルは隙だらけですぐにでも急所を狙える、思ったかもしれない。剣を持つ二人は体勢を低くしてオウルの脇腹や太股を狙う。
しかし、オウルは十八年も一人で魔物の森に通っていた男。そう易々とやられる男では無い。大きな身体からは想像出来ないしなやかさと素早さで二人の斬撃を避けると、刀の柄で一人の男の手を叩いた。その拍子に、男から剣が離れる。――その隙を、後ろでタイミングを見計らっていたリィは見逃さなかった。右目で相手を捕らえると、低い体勢のまま地を蹴り、バランスを崩した男の首元に双剣を走らせる。その直後に血の噴水が勢いよく出て、リィの身体を赤く染める。
「おう、後はてめぇだけだな」
男が骸となって地に伏したのを確認してから、オウルは最後の一人に刀を向けた。残った男は他の者達よりもやや小柄だ。フードで顔ははっきり見えないが、リィより幾分か若そうだ。一緒にいた男の血がじわじわと広がっていく様を見て、機械的だった男の顔に恐怖の色が帯びる。迷いの無かった太刀筋が嘘のように、剣を持つ手が、足が震えている。
様子がおかしい事に気付いたリィは「待て、オウル。威嚇するな」と言ったが、少々遅かった。
「……僕は、僕は僕は僕は……あああああああああっ!!」
男が錯乱し、自分の頭を両手で掴むと、その拍子にフードが露わになる。切り揃えられた髪はスカイブルーで、恐怖に怯える瞳は緑色。下手したらアリソンと同年代ではないかというくらい顔立ちが幼い。
しかし、その姿が見られたのは一瞬で、突然男は黒い光に包まれた。光の中で、男の姿が変貌していく。手足が太くなり、鋭い爪が生える。そして顔が変形し、黒と青の混ざった体毛が生えて行く。
リィとオウルはその変貌を唖然と見つめていた。人間だったものが人間ではない形になっていく。それがいかに恐ろしいか。――やがて、少年だったものは、四足歩行の黒と青の混じった体毛を持つ狼のような魔物に変貌した。充血した緑色の瞳は正気を失っていそうだが、獲物――リィを睨みつけている。
「なっ……魔物!?」
オウルが驚愕の声を上げた時だった。少年だった魔物は勢いよく跳躍し、リィに襲いかかった。目の前の出来事に意識を奪われていたリィはすぐに反応する事が出来ず、そのまま魔物に押し倒される。
「うぐ…!」
魔物の牙がリィの右肩に突き刺さる。リィは左手に持った双剣の片割れで魔物の肩部分に突き刺すが、右肩を噛む力は緩まない。そのまま噛み砕かれると思ったが、突然魔物がリィの方に顔を向けた。その緑色の目は焦点が定まっていないが、何故か金色の右目を見ているような気がした。そして魔物は、リィの顔に向けて大きな口を開けた。
――既視感。顔が喰われそうになっているというのに、リィはその光景に覚えがあるような気がした。それは遠い昔の記憶。優しい女性の声が聞こえる微かな記憶――
「リィ!」
オウルの声でハッと我に返る。そして、魔物が「ギャンッ」と悲鳴を上げて視界から消える。その代わりに映ったのはオウルが片足を突き出している姿。どうやらオウルが魔物を蹴り、どかしてくれたようだ。ついでに致命傷も喰らわせたようで、地面で震える魔物の背中には刀が深く刺さっていた。
「な、何なんだこいつ…。突然魔物になったが……もしかして人間に変身出来る魔物か?」
オウルは恐る恐る魔物に近付く。舌をダラリと出し、浅く息を吐いている。反撃する余裕はもう残っていないようだ。リィはゆっくりと起き上って負傷した右肩を触る。まだ傷は癒えていない。少しずつ傷が塞がっていくのを感じていると、背後から「リィ!」と自分を呼ぶ声が聞こえた。
振り返ると、アメリーがグランデルと共に馬に乗って現れた。後ろには騎士達数人が馬に乗って後ろを付いて来ている。どうやらアメリーが彼らを助けに呼んでくれたらしい。アメリーはグランデルに補佐されながら馬から降りると、リィに駆け寄った。
「リィ、大丈夫…!? 血だらけじゃない!」
「うん。もう治ったから大丈夫」
リィの言う通り、服の下にあったはずの噛まれた傷も、槍に貫かれていたはずの傷も既に塞がっていた。それを見てアメリーは眉を下げて複雑な表情を浮かべる。リィが大怪我をしたのは明白だったからだろう。少し遅れて、グランデルもリィに近付いて口を開く。
「リィ。黒いフードの男達はお前を襲ったのか?」
「…最初はオウルを狙っていた。その後は、俺」
「グランデルさん! それよりもこいつ、人間が魔物に変わったんだ! 黒いフードの奴らの一人だ!」
グランデルに思考する暇も与えず、オウルが地に伏せる黒と青が混じった獣を指差しながら叫ぶ。グランデルはオウルの言葉を信じられないと言いたげに眉を潜めた。オウルの指の先には魔物が刀で身体を貫かれたまま倒れていたが――突然、ビクリと身体を震わせて立ち上がると、よろめきながらも森の茂みに向かって走り出した。
「あっ! まだ生きていたのか!」
「オウル! 深入りするな! その傷は浅くないだろう!」
走って追い掛けようとしたオウルに、グランデルが一喝する。彼の傷は命に関わる程の傷ではないが、放置出来るものではない。
「……っ、だってよお。あいつらが、あいつらがググ村を……!」
「憎しみで身を滅ぼすつもりか? 他の者に追わせるから勝手な行動は取るな。……黒いフードの男だが二名程、息があった。あの魔物を捕まえ、その者達から話を聞き出すぞ」
オウルは悔しそうに歯噛みしたが、素直に従うと目頭を乱暴に拭って黒い獣が去った方向に背を向ける。グランデルの指示を受け、何名かの騎士が黒と青の魔物が消えた方向へと馬を走らせた。
リィはその様子を黙って見つめていた。彼の目線の先は、魔物の消えた茂みでもなく、悲しみと憎しみに震えるオウルでもなく――騎士隊長グランデル。リィは何故か、彼から一瞬だけ殺意を感じた気がした。
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