武官と庶民の身分差違いの恋

リリリ

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第七話 朱凰の過去

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秋の夕暮れ、王都の街は落ち着いた雰囲気に包まれていた。愛は布を片付けながら、ふと気づくと、朱凰がいつものように市場に現れた。

「あ…朱凰様…」
愛は心の中で呟き、少し緊張しながら朱凰を見つめる。最近、何度も顔を合わせているが、まだ彼についてよく分からないことが多かった。

「お前、また布を売っているのか?」
朱凰が冷たい目で愛に声をかけた。その瞳は相変わらず無表情で、感情が読み取れない。

「はい、いつも通りです。」
愛は少し照れくさそうに笑う。「でも、今日は少し早く終わりますよ。お客様が少ないので。」

「そうか。」
朱凰はその返事に無関心な様子で軽く頷き、目をそらした。

しばらく沈黙が続く。愛は気まずさを感じながらも、何か話をしたくて口を開いた。

「朱凰様って、どうしてそんなに冷たいんですか?」
突然の質問に朱凰は一瞬だけ目を細め、驚いたような表情を見せた。

「……冷たい?」
「はい。」愛は続けて言う「いつも冷たくて、無表情で。でも…時々、子どもたちには優しいところを見せますよね。そんな朱凰様が、なんだか不思議で。」

朱凰はしばらく黙っていたが、やがて小さく笑った。その笑顔は、愛にとっては珍しいものだった。

「子どもたちか……」
朱凰は目を閉じ、どこか遠くを見つめるように話し始めた。
「俺が冷たいと思われるのは当然だ。生きてきた環境がそうさせているからな。」

愛は少し驚いた。「環境?」

朱凰は深く息をつき、ゆっくりと言葉を続けた。

「俺の家は貧乏だった。父は家族を養うために、日々働いていたが、常に足りないものばかりだった。俺は小さい頃からずっとそのことを考え続けてきた。家族を守るために、力を持つことが必要だと。」

愛は少し黙って朱凰の言葉を聞いていた。今までの冷徹な態度からは想像もつかない話だ。

「そして、俺は家族を支えるために、武官としての道を選んだ。でも、武官という職業は冷徹で無情な部分が多い。生き残るためには感情を捨てなければならない。」

朱凰の目が一瞬、暗い影を帯びた。愛はその瞳を見つめ、何か言いたい気持ちが芽生えたが言葉が出てこなかった。

「だから、冷たくて無感情に見えるんだろう。でも、そんな自分を否定するつもりはない。」
朱凰は静かに言った。

愛は少しだけ胸が痛くなった。朱凰がどれだけ努力してきたのか、そして彼が背負っているものを、今まで全く理解していなかったことに気づいたからだ。

「でも、なんで……」
愛は少し戸惑いながらも言葉を続ける。「子どもたちには優しいんですか?」

朱凰は少し間を置いてから答えた。

「……あの頃、家族を守るために戦っていた時…唯一、無邪気な笑顔をくれたのが弟だった。」
「弟……?」愛は驚き、朱凰を見つめた。

「そうだ。俺には年の離れた弟がいた。彼は俺が戦争に出る度に、俺を待っていてくれた。」朱凰の声に、わずかな感情がこもった。「弟の笑顔が、俺にとっての支えだった。だから子どもたちを見ていると少しだけその時の気持ちを思い出すんだ。」

その言葉に、愛は胸が締め付けられる思いがした。冷徹で無慈悲に見える朱凰の裏には、深い悲しみと愛が隠されていたのだ。

「でも、今の俺にはもう何も残っていない。」朱凰は静かに言った。

愛はしばらく黙っていたが、ゆっくりと口を開いた。

「朱凰様、私には分かりません。でも…朱凰様がそう言うなら、きっと辛かったんですね。」

その後、朱凰はしばらく沈黙したまま愛の前から去って行った。その背中を見送りながら、愛の胸には、これまでとは違った感情が芽生えていた。

「朱凰様……どんな過去を背負っていても、きっと、優しい人なんだ。」
愛は心の中で呟いた。朱凰の過去を知り、少しだけ彼のことが理解できた気がした。
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