魔王の馬鹿息子(五歳)が魔法学校に入るそうです

何てかこうか?

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VSクリミナ王国

第四十話 クラウディアの家の攻防戦

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「家が大変なんだってな」
「……」

 クラウディアはしゃべらなかったが泣きそうな顔だ。だが覚悟を決めて前を向いた。

「一度止まればゲートで家の中に送ってやるぞ」

 この言葉で馬が急停止する。

「お願い!」
「じゃあまずはテレヴィだ」

 大体の思い描いた座標の映像を映し、そこからクラウディアの家が映るように映像を調整する。
 まだ、クラウディアの家は陥落していないようだ。家の中から矢を撃っているのが見える。まあ反撃は十倍どころではないのだが。
 
「早くして!」
「わかってるぞ」

 映像を建物の敷地内に移動する。
 ちょっとびっくり、負傷者だらけで大変な状況だ。

「もういい! そこでいいから送って!」
「わかったぞ」

 今度はゲート魔法に切り替える。馬ごと通れるように開けたら、クラウディアは迷いなくそのまま突っ込んだ。
 俺もその後に続く。
 クラウディアはゲートの先で言葉を失っていたが、すぐに建屋に入っていく。お父さんとお母さんを探しているのか。叫びが聞こえた。
 俺は周りを見てみるがまあひどい状況だ。負傷者に避難民、それに時々矢が降ってくる。
 そして正面には兵士が殺到しているんだろう。血気盛んな叫び声が響いている。さらには扉を鈍器で叩いているような音が絶え間なく聞こえる。
 ま~、あれも一時間、持たないだろう。近衛師団とかいう連中は間に合わないだろうな。
 にひっと笑う。
 クラウディアは忙しそうだし。近衛師団が来れないなら、全部蹴散らしてこよう。どうせその目的で来たんだ。

「ガードロック」

 ドレスロックの建物版を扉に向けて撃つ。ま、しばらくは大丈夫だろう。
 タイミングを見てゲート魔法で敵の目の前に出る。

「なんだ、急に硬くなった気が」
「構わねぇぶち壊せ!」
「おい、なんだあいつ! どこから来た!」
「止まるな! 行け! ぶっ殺せ!」

 ざっと見渡した感じでは人数が数えきれない。まあいいか、繰り出された槍を片手で止めて全身を強化してわざわざ鎧の上から殴りつける。面白いように相手は転がっていき、他の連中を巻き込んで転倒している。
 それを機に周りから兵士が殺到してきた。
 一歩一歩、歩きながら相手を押し返していく。
 押し返す人数は歩くたびに増えていく。
 シューティングスターだったら、即全滅まで追い込めるだろうが、それでは俺が満足しない。今は好き勝手に動きたいのだ。

「おい、こいつは化け物だぞ!!! ニアフロントのクソガキだ!!!」

 その声に顔を向ける。
 ……あ~、どこかで見たような……あいつだ。クラウディアの馬車を襲った奴……。そうか、こいつら盗賊のフリして先にこの国にのりこんでいたのか。どおりで宣戦布告から展開が早いわけだ。
 かがんで相手の懐に潜り込んで、無理やり足をつかみ上げてぶん投げる。

「遠目にかこめ!!! 接近させるな!!!」

 怒号が飛び、次々に繰り出される槍、剣、弓矢、魔法の連撃を軽く見切って飛び込み相手に肉薄する。
 ……こいつらレベルが低いなぁ。近衛師団みたいな面白さが全くない。だんだんと逃げ腰になって、気が付けば人数が減っている。
 「かかって来いよ」と手で挑発してみる。周りを囲まれているが全く脅威を感じない。相手はじりじりと後ろに下がると俺に背を向けて走り出した。
 ……なんだ、つまら――! いや、何か来るな。後ろからだ!
 振り向けば攻撃魔法が列をなして飛んでくる。
 その後方には近衛師団の格好をした奴らがいる。
 ふん、俺に抜かれたからあわててきたのか。
 向き直ったらもう相手は残っていない。遁走している姿だけが見える。
 ため息をつく。この程度じゃ面白くもなんともない。
 一人、近衛師団の奴が飛んできた。

「ご無事ですか?」
「邪魔するなよ。折角遊んでいたのに」
「あれが遊びとは……、まあいいでしょう。今回は帝国民を救っていただきました。お礼を言わせてください」
「礼よりも遊び場が欲しい」
「それは皇帝陛下にカテイナ様の希望として伝えておきましょう、一度、ニアフロント家へ戻ってください。帝国民の収容と一緒に皇都に戻られるといい」

 腕組みして考えてみる。この程度の連中なら近衛師団で十分だし、俺の相手として力不足だ。
 上を見る。魔法三段撃ち、規則正しく間隔をあけて空中に展開している。こっちの連中のほうがはるかに面白そうなのだが……、仕方ない。

「こいつらはつまらないから戻る」
「それはありがたい。残りは我々でかたをつけます」

 クラウディアの家を攻めていた連中は近衛師団によって全面的におし返されている。
 この調子なら負けは無い。「あ~あ」とため息つきながらゲートでクラウディアのいる所に戻った。
 
……

 クラウディアは母と再会していた。二人して無事を喜びあい、すぐに父の話になった。

「お父さんは?」
「……港町に火の手が上がった時に、数名の従者を従えて行ったのだけど……でもすぐにあの連中が来たから、もう……」

 その先は言わなくてもわかるが、わからない。まだ希望があると思いたい。うち取られた首や、死体があったわけではない。
 だが絶望的な状態であることに変わりはない。
 港町に確認に行けるわけでもないし、いくら鍛えたと言っても学園も卒業していないレベルでは最前線で足手まといがせいぜいだ。
 悔しい。父の安否も確認できない自分が悔しい。

「こんなところにいたか、クラウディア」

 バッと振り返る。カテイナであれば最前線のさらに奥、港町まで侵入できる。
 カテイナにとびかかるようにして懇願する。

「カテイナちゃん、お願い! 港町まで連れて行って!」
「やだ。あいつらつまらないし、面白くない」
「じゃあ私だけでも送って! じゃないとお父さんが、お父さんが……」
「お父さん……俺には居ないなぁ。そんなに大事か? それが?」
「当たり前でしょう!?」

 自分ですさまじい剣幕を出しているのに気が付かない。
 怒気を込めて声を荒げると渋々ながらカテイナが協力すると言ってくれた。

「……こいつ怖ぇぇ」
「無駄口叩かない! 早く!」

 カテイナのテレヴィで町の惨状が映る中、少し大きめの講堂、ドラフトの役所みたいな建物が取り囲まれている。
 まだオリギナ帝国旗がはためいているが、建物からの反撃は無い。

「そこ! その議事堂に連れて行って!」
「わかったよ。……あとで皇帝に抗議してやる」

 開かれたゲートは負傷者だらけの議事堂内部だ。
 カテイナはクラウディアに首根っこ掴まれてゲートをくぐっていった。
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