魔王の馬鹿息子(五歳)が魔法学校に入るそうです

何てかこうか?

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皇帝生誕九十年祭

第三十八話 オリギナ皇帝とシヲウル大魔王の話し合い

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「……おい、どうした? カテイナ? おい?
 これはどういうことだ? ジブリル、説明しろ」
「シヲウル様、少し長くなります。よろしいですか?」

 シヲウルが頷くとジブリルが椅子を出す。
 シヲウルがそれに座るとジブリルが説明を始めた。
 まずはじめに自分の監督不行き届きで、カテイナがジオール城に侵入を企てた件、この話をした時点でシヲウルが不機嫌極まりない顔になった。

「あの、どうか、カテイナ様には罰を与えないようにお願いします」
「お前の家ではそうだろうが、私の家は違う。お前が口出しすることは許さん。二回目だからな、シリタタキは二百回程度にしてやろうか」

 ジブリルは抗議したそうだったがそれを飲み込むとさらに話を続ける。
 ジオール城での火薬の爆発に巻き込まれた件、インパクトシェイカーの件、重傷を負って今は血が足りない状態であること。そして、この件をシヲウルからカテイナに話してほしいことを説明した。

「本来なら、私が説明する義務があるのですが、私ではどうしてもカテイナ様の意思を変えられません。シヲウル様ならそれが可能かと」

 シヲウルが眉間に手を当てている。ことの経緯を簡単に理解した範囲では皇帝に送り付けられた爆弾をカテイナが盗み、暴発させて慌てて帰ってきたと言うことか。この国の皇帝がその話を把握しているところが唯一の救いだ。

「今すぐ、皇帝に詫びを入れてくる。カテイナが気絶していようと関係ない。こいつも連れて行くぞ」

 ジブリルが声を発する前にシヲウルがゲート魔法を展開する。カテイナをわしづかみにするとジブリルの肩をつかむ。

「あ、今すぐですか?」
「そうだ。皇帝なら謁見の間にいるぞ」

 三人でゲートを通過する。
 つい一時間ほど前にいた場所にジブリルは戻ってきた。

……

「――遅かったな、魔界の王――」
「く、くくくっ。言ってくれる。爺の分際で……年の功って奴か?」
「――そうだ――」
「やれやれ、これだからこの爺は……私の祖父を討ち取っただけのことはあるな」
「――古い話だ――」
「そうだな。古い話だな。我が国のオリギナ皇族殺しは両手では数え切れん」

 老人の口元が緩む。
 オリギナと魔界はついほんのちょっと、十年前までは敵対関係だった。それを改善したのはシヲウルの提案だったが、提案を受けたのはこの老人だ。

「では、手短に済まそう。私は形式など、手間を取られるのが嫌いでね。今回私の息子が二度目の不法侵入をし、申し訳ない。カテイナには私が罰を与える。悪いがこれでチャラにしてほしい。停戦協定を破るつもりは無いんだよ」
「――然り、こちらも同じこと――」

 今度はシヲウルが笑った。
 おもむろにカテイナに気付け……と言うよりも背中を張っただけだが、カテイナをやさしくたたき起こす。

「いっってぇ、なにが……。
 はっ!? ここは、おい! ここはどっ!? どこでしょうか? お母さま」

 起きて、パニックになって、驚愕している。この百面相ともいえる現象に、老人が小さく息を漏らしている。
 カテイナは頭をわしづかみにされるとその老人に向かって思いっきり頭を下げさせられた。母が容赦なく頭の軌道を下に下げたものだから頭が少々床にめり込んでいる。

「ふが、がっげ、お、お母さま!」
「お前の口から詫びを入れろ、この爺がオリギナ皇帝だ」
「お、おれは……ぼ、僕は悪くな……」

 その言葉の次は言えない。シヲウルの顔を見たら切れる寸前だからだ。

「カテイナ様、不法侵入のことです。そこだけでもお願いします」
「甘やかすなジブリル。こいつ自身に何が悪かったのかを自分の頭で考えさせろ。間違ったり、わからないなら叩きのめせばいい」

 俺の判断は早い。もし、謝るとするなら。不法侵入と盗みだろう。爆弾で死にかけたことには全く納得していないが、現時点で母に殺されるのは回避しなければならない。

「お、オリギナ皇帝! この城に不法侵入してごめんなさい。あと宝物を盗もうとしてごめんなさい。
 でもお母様、こいつら爆弾を仕掛けてぼ、僕を殺そうとしたんです!」

 謝った直後に一転攻勢、自分自身の正当化を始める。当たり前だ。俺自身は全く納得できていない。悪さでの比較ならこいつらの方が悪いに決まっている。

「――爆発は我が国の不始末、そなたの罪は問うまい。ゼロミス――」

 名前を呼ばれた男が出てくる。
 すでにボロボロだ。
 しかし、こんな奴知らないし。関係ない奴をぼこぼこにして罰を与えたと言われたところで納得しないぞ。
 男は両手をついて土下座してくる。

「カテイナ様、この度の件、責任は全てこのゼロミスにあります。お許しください!!」

 どうすればいいのかわからず母を見る。土下座する男を見る母は一気に表情が冷えた。

「ジブリル、こいつが原因か?」
「オリギナ帝国の職務ではそうなります」
「ああ、そうか爆弾を見落とした責任はこいつだが、そもそも爆弾を仕掛けた奴がいたな」

 ……何を話しているんだ? 爆弾を仕掛けたのはオリギナ皇帝だろう? こいつの指示だろう? 首をかしげる。

「ジブリル、爆弾はあの爺の命令だよな?」
「いいえ、皇帝陛下ではありません。ほら、最初に贈り物を持ってきた国があったでしょう? オリギナ帝国はそれそのものに手を加えていないんです。あと、謁見の間ではあまりしゃべらない方が……シヲウル様と皇帝陛下には聞こえていますよ」

 びっくりして、皇帝を見る。我が母は地獄耳だ。囁き声とて聞こえていて当然、だが今の音量で皇帝に聞こえているものだろうか?

「――年は取るものではないな――」
「皇帝、子供の戯言だ、聞き流せ」
「――そなたが原因である――」

 シヲウルがそれで敵意を向ける。即座に護衛の二人が皇帝の前に出る。一触即発の状況だ。
 わずかににらみ合いが続くが、シヲウルが視線をそらした。

「やめよう。確かに私が最初に爺と言ったな。ええ? クソ爺」
「――親子よな――」

 老人が手を払う動作をすると護衛の二人が渋々と下がる。

「ふん、このままだと、私が粗相しそうだ。
 カテイナ、この不始末お前が納得できるように片付けてこい。その片付けの評価は私がする。ジブリル、おまえは事の顛末と詳細な報告をするように。あとこれはお守りだ」

 シヲウルがジブリルに金色のリストバンドをつけている。

「もしこの馬鹿がお前を傷つけるようなら即、私に教えてくれるものだ。この馬鹿の攻撃に反応してくれるからな」

 なんだその言い方、俺がジブリルを攻撃することなんてない。さっきはちょっと押さえつけてテレヴォイスを妨害しようとしただけだ。
 シヲウルをにらめば、小ばかにしたような顔で見下してくる。

「ふん、ジブリルがお前の攻撃を止めるために魔法の射線に入る事もあるからな」

 「今はお前のせいで使えないだろうが!」と言いたい。しかし怖くて言えない。不意にシヲウルが片手を振った。軽快な音を立てて首輪が消える。
 慌てて首を触る。……! やった、やったぞ!? 自由だ――!
 思わず、ガッツポーズ。それを見ているのかいないのか、シヲウルはすでにゲート魔法を開いて姿を消していた。
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