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皇帝生誕九十年祭

第三十五話 大爆発のその後

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 ……体中がいたい。
 なにがおこ、おこった? ぐっ、げっほ。
 耳がキーンとなって、何も聞こえない。
 そういえば建物が見当たらない。星空が見える。そして景色が赤い。
 くそっ、体を回転させてうつぶせになる。
 だらっと血が垂れた。これが鼻血であると気が付くのにたっぷり十秒かかる。
 ちくしょう! これ俺の血か!? 
 手で顔を拭って血を確認する。
 はっとする。
 目の前にいきなり足が生えた。その先を追うように顔を上げる。複数の男が俺の周りに立っている。くそう。まさかこれ全部、こいつらの罠か……捕まってたまるか!!!
 とっさに地面にインパクトシェイカーを撃つ。俺を囲った男たちを衝撃波で吹っ飛ばしてやった。そして気が付く、ヤバい首輪が……容赦なく締まってくる!!
 げ、げげぇ!
 だがしかし、ここで捕まるわけにはいかない。さらに連続して魔法を使う。ゲート魔法だ! 首輪を両手で抑えつつ俺は即座にジブリルのいる大使館に撤退した。

……

「集結! 集結! 点呼!」
「警備六名、集結完了! 救助及び現場調査三名、追跡班二名、陛下への連絡員一名、展開せよ!」

 近衛兵の師団長、副師団長が即座に集結し、師団長二名が追跡にはいり、三名がカテイナに吹き飛ばされた四名の救助を行い、その後調査を行う、一人は皇帝親衛隊に連絡するために走る。
 城壁の外で待機していた分隊も、レトスも慌てて爆心点に駆け付ける。
 物置になっていた建屋はわずかに壁の残骸を残して吹き飛んでいる。

「あのクソガキっ、皇帝陛下のおひざ元で……殺してやる!」
「待ちたまえ。これは彼がやったのかね?」
「彼の魔力の痕跡があります。彼が犯人で間違いないですね」
「……その判断は早計だね。二度目の衝撃は彼で間違いないが、一度目は違うはずだ。君も私も最初の衝撃を感知できなかったはずだぞ」
「そんなことは関係ないでしょう? 彼はジオール城で騒ぎを起こした。穏便に済ませられる範囲を超えてしまった。処刑以外では済ませられない」

 レトスは苦い顔をしている。男にもレトスの心配がわかるつもりだ。カテイナを倒したら次は間違いなく、かの大魔王が相手になる。
 だが、オリギナ皇帝に手を出そうとしたのだからそれとこれとは話が別だ。

「私たちはカテイナを発見次第、総攻撃に移ります」
「……仕方ないね。私は現場調査に参加させてもらおう」

 彼らは手早く話を終えるとそれぞれのやり方に徹するため、わかれた。

……

 目を開けて天井を見る。……気絶していた。くそっ。流石に魔法帝国だ。あいつら全員で、俺をはめるために罠を張っていたのか。
 仰向けから起き上がろうとして手をつく。すごい柔らかいものに触った気がする。

「ジブリル……お前がやってくれたのか?」

 手を置いた先を見ればジブリルが昏倒していた。当然だろう、回復魔法に長けているとはいえ、大魔王の超魔力以外で他人のボロボロになった体を修復なんてしたら倒れる。
 俺がいるのはジブリルの自室だ。近くにあった鏡で顔を確認する。ほぼ無傷。血の跡が顔に残っているのは、拭く手間すら惜しんだんだろう。彼女の服も手も髪も血で汚れている。

「…カテイナ様、……どうか、どうか…ご無事で…」

 寝言でも俺の心配をしているのか……、俺は無事だ。お前のおかげでな。
 そっとジブリルから離れて体を確認する。
 しびれている個所はあるが、おおむね大丈夫だ。体の内側から回復魔法を駆け巡らせて回復が足らないところを補う。
 元の顔を確認して一息つく、次にわいてきたのは怒りだ。よくもやってくれたなという感情だ。こぶしを握る。思いっきり歯ぎしりする。俺は俺がどんなに悪くても、やりたいと思ったことはやる。
 冷静にはなれないが、不法侵入は悪かったと思う。だが連中は俺を殺そうとした。俺も悪かったがあいつらはもっと悪いんだ。俺の悪さを差し引いたところで、全員ぼっこぼこにしても足らない。

「ジブリル、ありがとな。俺はあいつらをぶちのめしてくるから、すぐに全員ぼこぼこにして土下座させて謝らせてくるぞ」

 ジブリルの手を取って、キスをする。これは誓いだ。そして覚悟だ。口に出したことは有言実行する。それがどんなに困難であろうと、俺は大好きなジブリルに誓う。

「……待ってください」
「なんだ、起きたのか? だが寝ていろ。お前は疲れているはずだ」
「そんなことはどうでもいいのです……カテイナ様のほうが、重傷で、大変で、苦しんでおられたはずです」

 その言葉に大げさに答える。両手を上げて肩を回し、首をひねる。

「見たか? お前のおかげで問題ない」
「……良かった……」

 ジブリルの頬に涙がつたう。全く、涙もろい奴だ。俺を見て、うれし泣きする奴はお前ぐらいだぞ?
 すっと、ジブリルが俺を抱きしめる。俺は棒立ちでこれを受ける。こいつの行動から悪意は感じられないし、感触で無事を確かめたいのだろう。

「……カテイナ様、後はこのジブリルにお任せください。オリギナ皇帝と話をつけてきます」
「ジブリル、これは俺がやる。全員を叩きのめしてくる。皇帝だろうと、近衛師団だろうと全員だ」
「ダメです。私が……」

 ギロリとジブリルをにらむ。こいつは優しすぎる。誰も傷つけない丁寧な解決を何年でもかけてやるつもりだろう。
 だが俺は違う。それに俺の腹の虫が収まらない。やられたらやり返す。暴力的でシンプルな解決法だ。

「……随分、お母さまに似てきましたね」
「おまえでも今の暴言は聞き逃せないぞ」
「すみません。それでもジブリルに時間をください。お願いします。お願いします」

 こいつは正しい、きっと誰よりも正しい。母よりも俺なんかよりもずっとずっと純白の正しさだ。こいつに比べたら俺は悪の塊だろう。しかし、だからこそ正しい解決じゃ納得できない部分がある。

「ジブリル、悪いな。俺は将来の大魔王だ。あきらめろ」
「そ、それでは、シヲウル様を呼ぶことに……なります」
「……絶対にやめろ。俺が殺される」

 俺の母はあまりにも容赦がない。殺されかけたことを差し引いても不法侵入したのが俺の意思とばれた瞬間、俺に殺意が向くはずだ。
 加えて人間如きの策略で死にかけたなんてのも母にとっては笑い話以上にはならない。むしろ失態とか汚点などのマイナス評価しかつかないだろう。“むしろ自分に連なる者がそれだけの失敗をした”これだけでも処刑理由になりえる。

「ジブリル、じゃあ、今日の昼間まで待ってやる。昼めし食ったら、俺は止まらないぞ」
「あ、ありがとうございます」

 ジブリルはフラフラと立ち上がると、大使館の職員に指示を出し、ジオール城に向かって行った。
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