魔王の馬鹿息子(五歳)が魔法学校に入るそうです

何てかこうか?

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皇帝生誕九十年祭

第三十話 シヲウルの弱点の話

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 目を開ける。起き上がるのも億劫なほど疲れている。久しぶりに全力で暴れたのだから当然だが、くすぶる感情はまだ消えていない。
 布団の中だ。だが目に入る風景は大使館じゃない。暗いが窓から入る星明りで大体見える。
 壁を見て天井を見る。だいぶ質素なつくりだが、最低限は整えられている。そして広さは、普通の建物じゃないな。……クラウディアの家だな? 館のどこかの一室だろう。
 だるいなぁ。起きる気にならない。
 それにジブリルを呼ぼうにも声を出す気にもなれない。
 なんだか筋肉痛みたいに全身痛いのだ。深く息を吐いて目をつぶって耳に意識を集中する。

「カテイナ君は――」 これはクラウディアの声だな。
「カテイナ様でしたら大丈夫ですよ」 こっちはジブリルの声だ。

 二人共遠くにいるのかだいぶ集中しないと聞こえない。

「何でこちらに来られたのですか?」
「カテイナ様の望みでしたので、まさかあれほどの拒絶的な発作を起こすとは思いませんでしたが」
「そうですか――」
「だいぶ、やつれましたね」
「――流石に大 魔王 様にやられ まし たか ら」

 心なしかクラウディアの声が震えているように感じる。
 そして何かが落ちた音がした。

「大丈夫ですか? クラウディアさん」
「はっ、はは、 すみません。みっともない所をお見せしました。名前やあの姿を思い出すだけで震えが来てしまって」
「……わかりますよ。私もシヲウル様のお傍に仕えて心胆が凍り付くことは何回かありましたから」

 クラウディアが何か落としたのか。
 まあ、あの母の脅威にさらされて震えが来ない奴なんてよほどの鈍感か、スライムみたいな心がない奴だろう。

「ジブリルさんは強いですね。正直、私にはこの震えの止め方すらわからない」
「そんなことはありません。私もシヲウル様の前に立つたびに手に汗握っていますよ。あの方に嘘は厳禁ですから、常に正直、わからないことはわからないとはっきり言う。ひたすらそれだけを守っていました」
「そうですか」
「私の周りにはもっと頭の良い人物がいましたよ。ただシヲウル様に取り入ろうとしたり、出し抜こうとした人は悉くやり返されていましたね。結局、馬鹿正直な私みたいなのしか残らなかったのですよ」

 それで笑い声がきこえた。
 俺もジブリルは正直だと思っている。嘘をつけば即バレするし、鬼ババアから見ても裏表がないからわかりやすかったんだろうな。

「そうです。貴方に一つシヲウル様の笑い話と言うか失敗したことを教えましょう」
「え、……それは聞いても大丈夫なことですか?」
「胸に秘めて、決して他言無用、それさえ守ればあまりシヲウル様を怖がる必要はなくなります。心が震えたときにこの話を思い出せば緊張がほぐれますから」
「も、もしも、うっかり漏らしてしまったら?」
「さあ、シヲウル様の機嫌次第ですが、大丈夫です。その時は私も道連れになりますから」
「せ、責任重大ですね」

 はっと頭を起こす。この話は俺も聞いておかなければならない。鬼ババアの弱点がわかるかもしれないからだ。
 ひときわ声が小さくなる。俺も集中力を上げて聞き耳を立てるが、“サイレンス”と聞こえた。くそっ、秘密会議をするつもりか!?
 むくりと起き上がる。
 全身筋肉痛みたいに痛い。それでもこの話だけは聞き逃してはならない。声が聞こえていた方向に向かって歩き出す。抜き足差し足忍び足だ。
 慎重に部屋のドアを開ける。ドアの先は通路だ。窓からの星明りを頼りにすり足で素早く移動する。
 ジブリルとクラウディアがいるであろう部屋に対して耳を当てる。
 ……くそっ、聞こえないな。
 リスクは高いがドアを開けてしまおう。話に集中してれば気が付かれない可能性が高い。
 ドアノブを慎重にひねってゆっくり押す。
 ようやくヒソヒソ声が聞こえてきた。

「本当ですか?」
「ええ、当時立ち会いましたから。すごく大変な事態ですよ。暴れまくりでしたから」
「それは麻酔が効かなかったらそうでしょうけど」
「シヲウル様は耐性がありすぎてそこらの麻酔なんて効きませんからね。それ以来トラウマになっておられます」
「信じられない」
「私がみたシヲウル様の泣き顔はその一回だけですがね」
「泣いたんですか? あの大魔王が?」
「ええ、鼻水も出て、とんでもない顔でしたよ」

 プククククと笑い声が聞こえる。くそっ、大事なところが終わった後だ。麻酔、マヒの類が効かないことは俺自身で十分に理解している。
 少しだけ戸惑うが、俺の復讐のためにこの話は聞いておかなければならない。ジブリルはダメだろうがクラウディアなら脅せばいける。
 ドアを叩きつけるような勢いで開ける。

「おい、お前ら、俺にもその話を教えろ!」
「か、カテイナ様!?」
「カテイナちゃん!?」

 二人とも驚いている。今がチャンスだ! 圧倒する!

「シヲウルの弱点を話せ! 俺がその弱点を攻撃する!! 俺が鬼ババアを泣かしてやるぞ!!!」

 二人共沈黙する。
 そして、二人共、小刻みに震え出した。
 途端に爆笑する二人。

「流石にカテイナちゃんは知らないか」
「カテイナ様には無理です」

 二人で俺を小ばかにしている。歯を見せて怒鳴る。

「ジブリル!」
「申し訳ありません。ご無礼をお許しください」
「クラウディア!」
「お母さんに直接聞きなよ。君になら教えてくれるよ。多分だけど」

 そんなことできるか! クラウディアに突進する。
 腕を取ってひねり上げる。

「いた、いたたたた!」
「さあ、吐け! 鬼ババアの秘密を!」
「ひ、秘密ねぇ、く、くくくく、あはははは」

 まだ笑っている余裕があるのか? もっと角度をつけてやる!
 途端にパキッと音がなって、慌てて離した。脅しのつもりでへし折ってしまったら意味がない。それに魔力が使えないから元に戻せない。

「カテイナ様!」
「あっ、お、お前がいけないんだぞ、話さないから」
「~~、いっつ、だから聞きたければお母さんに聞けばいいでしょ。いたっ」

 ジブリルが即座に立ち上がってクラウディアを診ている。すぐに腕に回復魔法をかけてはじめた。

「ありがとうジブリルさん」
「動かないで! 私も回復魔法は得意ですが、一気に骨はつなげません。一時間はこのままです」

 ジブリルは患部を見て手を当てている。クラウディアが俺に対して憐憫の憐れむような目を向けてくる。
 ぶすっとした表情を作る。こいつにも脅しが効かないってことはどうしようもないってことだ。
 
「カテイナ様、クラウディアさんに謝ってください」
「クラウディアが悪いんだ……」
「カテイナ様!」

 ジブリルが正しいのはわかっている。わかっているが正しさのごり押しはやめて欲しい。視線を向ければ、哀願するような目で見てくる。
 ジブリルには戦闘に関する力がない。俺には頼むしかないのだ。
 そっぽを向く。どうせこいつはこのままで動けないのだ。

「別にいいですよ。ジブリルさん」
「ですが、こういうことはちゃんとしないと」
「私がカテイナ君は乱暴者で、女の子を泣かせても責任を取らない男だって言いふらすだけですから」

 クラウディアをにらみつける。俺の悪評が広まるのは良くない。
 だが、この短時間では納得できない。気持ちが落ち着かないのだ。

「わかりました。このことはお母様にも報告させていただきます」

 ビクッと反応する。鬼ババアにバレるのだけはまずい。特に男の俺が女のクラウディアの骨をへし折ったなどと言われた日には、複雑骨折のうえフットマットにされるかもしれない。

「クラウディア、悪かった」
「もっと丁寧にできませんか?」
「わがままってつけ足して報告してあげる」
「な、なんだよそれ!
 う、むっ、わ、わかった。
 ……クラウディア、ごめんなさい。腕を折って悪かった。許して下さい」
「流石です、カテイナ様」
「頭を下げられないの?」

 歯をギリッとならして、ペコリと頭を下げてもう一度同じセリフを言う。
 にらみつけてやるがクラウディアはどこ吹く風だ。

「あ~あ、なんだか安心したらおなか減っちゃったなぁ」
「でしたら、私がご飯を作りますよ。おなかに優しい物を沢山」
「いいんですか?」
「腕の治療が終わったら、すぐに取り掛かりますね」
「ありがとうございます」
「ジブリル、俺には?」
「もちろん、しっかりした物を作りますよ」
「え~、カテイナちゃんも食べるの?」
「任せて下さい。二人分ぐらいならすぐに作れますから」
「ジブリル、肉、俺はでっかい肉が食べたい」
「じゃあハンバーグのシチュー煮を作りましょう」

 俺はガッツポーズをとる。ジブリルは俺の命令に従い大きなハンバーグを作るだろう。俺もなんだか食い物を意識したら急に腹が減ってきた。
 二時間後、やけに遅くなったが暖かい夕食を三人で食べて、その日は館に泊まった。
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