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オリギナ魔法学校

第二十六話 恐怖の審判

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 目の前に大扉がある。
 古さびた鋼鉄の大扉、すさまじい大きさだ。ドラゴンすら通れるように作られている。しかし静かだ。大勢が集まるはずの間には人の気配がない。

「では私がシヲウル様に声をかけてきます」

 流石ジブリルだ。不機嫌な母の前に臆することなく立つことができる。仮にこれがシャッカでもウルフキングでもためらうし尻込みする。それを堂々と実行できるのだから流石魔王の右腕と言わざるを得ない。
 俺は一人扉の前から離れる。
 母が来る前に退散だ。俺にはまだジブリルほどの度胸は無い。城の外で適当に時間をつぶそう。

「どこに行く気だ?」

 足が止まった。冷汗が噴き出る。まさか、もう? 待ち構えていたのか!?

「お、お母さまにクラウディアが謝りたいっていうから」

 母が不機嫌なまま頭を掻いている。

「それでいきなり帰ってきたわけか」
「あ、あのぼ、僕は関係ないから、クラウディアが謝り終わるまで外に」

 視線が鋭い。威圧感だけで“逃げるな”と示している。膝が震え始める。こ、怖い。

「ま、いい。お前ら中に入れ。話は中で聞く」

 でかい扉を片手で押しのけて魔王が先に入る。“お前ら”と言われた以上、俺も逃げられない。トボトボとクラウディアの後に続いた。
 シヲウルは謁見の間の正面の玉座に座る。遅れてジブリルも駆けつけてきた。
 一同そろったところでシヲウルに跪拝する。

「……で? なんのようだ?」
「こ、この度は、愚かにも、大魔王シヲウル様に剣を向けて、しまい。わたくしの、無知が、原因とわいっ」

 やばいやばいぞ、クラウディアが謝っているのに滅茶苦茶にお母さまの機嫌が悪化しているのがわかる。視線が汚物でも見るかの如く冷えて、無表情になっていく。おかげでクラウディアが引きつって発音をミスった。

「原因とは言え、寛大な処置を、い――」
「もういい。謝罪なら受けん。それ以上しゃべるな」

 クラウディアが凍り付いた。俺も緊張のあまり動けない。

「そ、それではシヲウル様――」
「おまえも黙れ、ジブリル。
 私はな、謝罪をいわれて、はいそうですかと許せる性格じゃないんだよ」

 一同、ぐっと言葉に詰まる。
 冷酷な視線のまま立ち上がるとクラウディアの前に立つ。
 指先を額に当てる。

「どうしてくれようか……私の腹の虫が治まるように、永く悲鳴を上げさせる方法が思いつかん」

 はっきりと断言する。魔王が攻撃したら大概の奴は即死する。シャッカですら二発で瀕死だった。フランシスカを呼びたいところだが、クラウディアの代わりにシヲウルのサンドバックにはなってくれないだろう。

「はぁ、難儀なものだ。殴ってプチッとつぶしてもストレスしか残らん」

 指をどかして、すっと離れてドカッと玉座に座る。

「ウルフキングでも呼んで喰わせるか? それともシャッカにでも踊り食いさせる……まてまて、誰が片づけをするんだ。いやいや、そもそもうちを汚すのは無しだな」

 最悪な言葉をぶつぶつと繰り返して天を仰いでいる。

「もっと、もがき苦しむような、絶望にのたうつような方法はないのか? う~む。
 ふ、ふふっ、私も馬鹿だなぁ。いいアイディアが思い浮かばん」

 獰猛な獣が自虐な笑いを浮かべている。これに同調して笑ってはならない。ナックルが飛んでくるだろう。
 緊張の時間がどれくらいたっただろうか?

「だめだな。アイディアがない」

 母が思案に疲れたのか追い払うような手の仕草を見せた。
 ジブリルがほっと一息をつく、クラウディアも緊張の糸が切れたのかグラリと体が傾く。俺もぱっと立ち上がった。さっさとこんな重圧フィールド立ち去るのが正解だ。
 オリギナへのゲートを開く。

「それでは、お母さま。失礼しました」

 やっと、やっと終わった。母にはにこやかに笑顔を向けて立ち去ろうとする。
 そして俺の目の前でゲートが潰された。理解ができない。

「カテイナ、何だ、その顔は?」

 お、俺? ま、まさか、笑顔を向けただけでターゲットが変わった!?
 ま、まて、まだ、まだチャンスはっ! あるはずだ!
 な、なんて言えばいい? ここから去れるのがうれし……ぶっ殺されるぞ!? えっと、ちょっと、まだ待ってください!!!
 顔面をわしづかみにされる。

「これだからこのガキは……ちょっと甘い顔をすれば、すぐに付け上がる」

 ミリミリと顔がきしみを上げる。母は俺の耐久力を知っているため、容赦なく力を込めてくる。ほとんど涙目でジブリルを、クラウディアを見る。
 だれでもいいからたすけてくだしゃい。

「シヲウル様――」
「黙れジブリル」
「そ」

 舌打ちと一緒にジブリルに魔力の衝撃が伝わる。魔力の波動を対象に絞った。無理やり体の中を魔力で揺さぶりショックを与える、技とも言えないようなものだ。サーチウェーブの超強力版、ショックウェーブだ。
 ジブリルが無造作に仰向けに転倒する。
 クラウディアはシヲウルの指先を受けたのだ。この短時間での復活を期待するにはあまりにも酷だろう。
 自分で何とかするしかない! 覚悟を決めた。俺の手に一気に魔力を集める。

「これだから男は……」

 ガシッと急所を握られた。俺の覚悟が霧散する。

「ぎゅうぅうぅ」
「全く、ようやく大人しくなったか……、ガキでも男は粗野で困る。 
 ……! そうか、おまえは男だったな! 良いことを思いついたぞ!」

 絶対ろくでもないことだ。断言する。母が恍惚の表情をしているのは嗜虐心を満たす方法を見つけたということだ。

「コネクトペイン、二倍」

 この宣言と共に俺はクラウディアと同じ首輪をはめさせられている。対象者に痛みを共有させる魔法だ。しかも倍率が二倍……。

「クラウディア、お前への罰としてこの世で絶対に味わえない。人をやめるほどの苦痛を与えてやろう」

 クラウディアは弱々しく顔を上げる。それをあざ笑うかのようにシヲウルの攻撃が俺に炸裂した。

「地獄を味わえ!!! ゴールデン・ボール・クラッシャー!!!」

 俺の意識はここで途絶えている。
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