魔王の馬鹿息子(五歳)が魔法学校に入るそうです

何てかこうか?

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オリギナ魔法学校

第二十一話 お休みの時間

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「先に帰って寝てるぞ」
「君は……魔界に帰るの?」
「あー、クラウディアの部屋だ。夕ご飯になったら起きる」

 クラウディアが舌打ちしたのを見逃さないが、怒る以上に疲れた。見過ごす。

「じゃあ一緒に行って部屋の鍵、開けるから。お夕飯になったら起こしに行くよ」
「うん」

 クラウディアに手を引かれて歩く。大あくびをする。意識が半分なくなりそうだ。
 寮に戻る途中で俺たちを人影が遮る。え~っと、こいつ誰だっけ?

「よお、クラウディア。いつまでガキの面倒を見てさぼってる気だ?」
「クロニス君には関係ないでしょ」
「ちっ、まあそうだけどよぉ。そこのガキにオン・スコアが会いてぇってさ」
「自分で会いにくればいいじゃん。いつものことだけどオン・スコアってさ自分で動かないよね」
「じゃあ、断られたって言っておくぞ。あとでどうなっても知らねぇからな」

 あ~、ようやく思い出した。こいつ俺に教科書を投げた奴だ。……眠くなけりゃ叩いてやるのになぁ。……今は眠りたい。
 クラウディアの手を引っ張って顔を向けさせて俺の意思を告げる。

「クラウディア、眠い」
「……そう。眠いんだってさ、オン・スコアの話しはまた今度ね」

 オン・スコアの使い走りなんて無視してクラウディアの部屋に向かう。
 ベッドの上で大あくびだ。

「……なあ、クラウディア、さっきの……、オン・スコアって誰だ?」
「クリミナ王国の特別留学生……なんだけど、なんて言うか、かかわらない方がいいよ。あんまりいい噂が無いからさ」
「そっか……じゃあ忘れる。……くぅ」
 
 クラウディアが振り返ってみるとすでにカテイナは寝息をたてていた。
 
……

 薄目を開ける。なんだか外が騒がしい。

「ちょっとここ女子寮なんだけど? 男子は出て行ってよ!」
「後でどうなってもいいって言ってたじゃねぇか。どけよ、オン・スコアのとこにガキを連れて行くだけだ」
「マジで入るな!」

 うるさいなぁ。ドアの外でも声が筒抜けだ。
 睡眠がまだ足りていない。しかしドタバタは止まらない。むしろ大きくなっている。
 仕方ないからと起き出してドアを開けるのと男がクラウディアを押しのけたのがほぼ同時だ。
 胸倉をつかまれる。俺はそれをつかみ返した。男の顔が一気に変わる。男の腕の骨がミシリと音を立てた時点で力を抜いた。力加減を間違えたな。
 男は慌てて俺から離れる。

「て、てめぇ……」
「うるさいぞ。俺は眠いんだ。夕ご飯以外で起こすな」
「ふざけ――」
「ふざけてないぞ。俺を起こすな。あと、オン・スコアにもいっておけ……俺の邪魔するならぶっ飛ばすからな」

 俺は騒いでいた男の足元にゲートを広げて有無を言わせずに落とした。

「ど、どこに送ったの?」
「ここの玄関だ。それより、クラウディア、オン・スコアってなんだ? すごい奴なのか?」
「クリミナ王国の王子様だよ。だから特別留学生……お金持ちなんだろうなとは思うけど、私はかかわったことがないから深く知らない。というか在籍してるだけで授業に来てないからわからない」
「……つぎ来たらぶっ飛ばしてもいいんだよな?」
「ダメ。君の“ぶっ飛ばす”がどのレベルかわからない。それと彼に手を出すと国交の問題になるんだよ」
「お前は俺を聖剣の騒動の時に手加減なく引っぱたいたのにか?」

 俺だって次期魔界王だ。偉いのだ。この国の誰よりもだ。身分の差で手を控えるなら前の機会にそうして欲しかったと言外に込める。

「だって君なら反撃は自分でしたでしょう?」
「当たり前だ。反撃だって俺の権利だぞ。他の奴に任せるものか」
「彼の場合はそうじゃない。オリギナとクリミナの話になっちゃうんだよ。君でいうなら魔界との戦争だね」

 ?
 話が理解できない。なんで魔界が関係するのか? 俺とクラウディアの関係はどこまで行っても俺とクラウディアで完結するはずだ。
 
「なんでだ? 魔界なんて関係ないだろ?」
「君がそう言ってくれるから、それでいいんだよ」

 クラウディアが話の流れを切り替えるように夕飯の話を持ち出してきた。夕飯はしっかり食べておきたい。一も二もなくクラウディアとともに炊事場に向かった。
 個室がある三階から一階に降りる。玄関と一体化した大広間を通って炊事場に行く途中だ。
 クラウディアに向かって罵声が飛んできた。

「おい、あそこにいたぞ! クラウディア! どこ行くんだ!」
「オン・スコアさんが呼んでる。大人しくついてこいよ」
「あのガキには注意しろよ。正真正銘のバケモンだぞ」
 
 さっきの奴が近くに飛ばされたのを幸いに仲間を連れてきやがった。恐らくオン・スコアの取り巻き仲間だろう。
 クラウディアが俺の手を強くひく。三人組を相手に無視してそのまま歩を強める。
 そしたら後ろから飛んできた靴がクラウディアの頭にヒットした。

「いっつ~! 何してんのよ!」
「無視すんな! ガキを連れてこっちにこい!」

 大柄な三人がずかずかとこっちに向かってくる。
 囲まれたが……別にどうとでもなる。クラウディアを見れば怒っているだけだ。

「クラウディア、どうするんだ?」
「……まかせて」

 クラウディアが俺の前に出る。後ろにまわした手では魔力が集中している。

「わかった。行くよ。
 オン・スコアはどこにいるの?」

 クラウディアの一言で三人が油断した。互いにどうするかで目線をかわす。その刹那を縫って右手には“カウントシープ”、左手で“ドレス・ロック”、右足がダイレクトに……見なかったことにしよう。
 ワンテンポ遅れてドレス・ロックを打ち破って左手の男がとびかかる。

「ドレス・ロック」

 それをさらに俺の魔法で上掛けして動きを封じる。クラウディアとは魔法の威力が異なる。今度は打ち破ることはできない。

「ありがと、助かったよ」

 クラウディアの前では青い顔をしてうずくまった男と仰向けにいびきをかく男がいる。

「くそっ! 不意打ちなんて卑怯だぞ!」
「三人がかりで来てよく言うよね」
「おれもがっかりだ。この程度か。
 おい、オン・スコアの部屋はどこだ? めんどくさいからドレス・ロックをかけたまま送り込んでやる」
「! や、やめ――」
「じゃあ、ゴミ捨て場にしよう」

 相手の意見は聞いた。ゲートをゴミ捨て場につなげる。三人まとめてポイッと捨てる。
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