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オリギナ魔法学校
第七話 親を使っての逆圧迫面接
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「授業中に済みません。クラウディアさん。今日の彼の事です」
「やっぱり何かやらかしましたかっ!? やらかしてましたよね!?」
校長が目の前で体を震わせている。あの馬鹿は校長に脅しを使ったのか? そう思えば学校に走った衝撃も、窓が全部飛び散って吹きさらしになっている校長室にも納得がいく。
「才能を見せつけられましたよ。あれほどの才能、オリギナ史上最高と言って差し支えない。危うく魔族に魂を売り払って入学させるところでした」
しゃべっている本人は笑みを必死に押さえつけている様相だ。彼の魔法の才能に魅せられている。部屋の惨状など二の次らしい。校長もオリギナ人、魔法に魅せられたただの狂人にすぎない。そうで無ければこのオリギナ魔法学校の校長なんてやっていられないだろう。
「あ……じゃあ彼は不合格ですか? よくぞご無事で」
「ちゃんとした理由を話したら不満たらたらでしたが引き上げてくれましたよ。ああ、それでもどれほど心苦しかったことか! 私はあと十年、どうあっても、この校長の椅子にしがみつかなくてはね」
「そ、それはご苦労様です」
「まあ、そんなことより。クラウディアさん。彼についてですが、貴方の見立てを聞かせて下さい。どれほどの才能をお持ちですか?」
「……わかりません」
それが私の正直な感想、テクニックだけなら負けない自信があるが、魔力の総量を比べられたらそよ風と竜巻を比べているようなもの。比較対象の私自身が話にならなすぎてカテイナの上限すらわからない。
「あらあら、学年一位の秀才がそんなことを」
「自分と比較しようにも比較できません。正直に告白しますが皇族でも、皇帝陛下でも及ばない魔力量です」
「そうでしょうとも、私の見立てと同じね。そうすると、彼を受け入れるためには何をすれば良いかしらね? 昔ジブリルさんを受け入れたときは片っ端から拘束具をつけたものだけれど、彼は嫌がりそうですし」
「カテイナちゃんを拘束するなら、大魔王シヲウルに頼まないと、彼女の拘束具だけがカテイナちゃんを拘束できていました。人間が用意した拘束具なんて彼なら片手で引きちぎりますよ」
「うふふ、すてきな事ですね」
ああ、この人、才能に魅せられて正気を失いかけている。オリギナが誇る魔法技術が極あっさり突破される事を言っているのに。つまり人類はカテイナに歯が立たない事を証明しているのに……。
「カテイナちゃんを入学させるならシヲウルを味方につけないと――」
「誰が、お前の味方につくんだ?」
背筋が凍り付いた。この声を直に聞くのは生涯で二度目、反射で壁を背に飛び退けた。視線だけは酷薄に金髪と赤い瞳をきらめかせ、音も無くゲートを開けてこの学校に侵入してきた。
「ああ、貴方がシヲウル様ですか?」
「その通りだ」
シヲウルはあたりを見渡している。その影に隠れてカテイナまで来ている。これは一体どういうことか?
「お母様、こいつがこの学校の校長、シュンカです。僕を不合格にした奴です!」
カテイナが校長を指さして非難するような口調だ。
一方でシュンカ校長が顔を伏せてむせている。笑いをかみ殺すのに失敗したらしい。一人で来たときの虎のような傲慢な態度が、母の前でまるで忠実な子犬のような態度に変わっている。
「も、申し訳ありません。シヲウル様、私がオリギナ魔法学校、校長のシュンカ・シュウトーです。本日はどのようなご用でしょうか?」
「ああ、私のガキのことなんだが……」
シヲウルが周りを見るのをやめない。吹っ飛んだ窓枠、ひびの入った柱、明らかにきしんで動いた本棚を見ている。
「もしかして、”ウチのガキ”がやらかしたか?」
「ええ、それはもう壮絶にやってくれました」
そのときのカテイナの顔はある意味で面白く、あまりにもの悲しいものだった。一気に血の気を失って茫然自失している。
彼らの先手を取ってシュンカ校長が声をかけている。
「私は素晴らしい才能と思っています。是非とも、彼には十年後に入学していただきたい。私は意地でも校長の座にしがみついて待っていますから。お願いします」
シュンカ校長が頭を下げる。シヲウルはほおを掻いている。思案顔だ。
「お前は入学許可を出すんだな?」
「ええ、もちろん。あと十年したら確実に。正直な事を言えば彼には入学許可を今すぐ出したいですよ。ですが、それでは才能に目がくらみ公平性を欠いたと言われるでしょうね。才能以外があまりにも足りないとね」
シヲウルが頭を掻いている。
「それなら今入れろよ! 俺は今入りたいんだ!」
「ええ、その小さな癇癪が抑えられたらすぐにでもね」
ギロリとシヲウルがカテイナをにらむ。それだけでさっきの声の勢いが無くなった。うつむいてしまっている。
「……はぁ、帰るか。邪魔をして済まなかったな」
「あの、本日はどのようなご用件だったのですか?」
「ウチの馬鹿の話だ。入学させろってうるさくてな。だが校長は推薦を受けてくれるそうだし。十年待てというのは私も賛成だ。この惨状を見たらな」
「お、お母様!」
「うるさい! お前は全く、建物を壊しかけるとは……いや、相手が残っているだけましか。とにかく推薦は通った。あと十年我慢しろ。以上だ。私は帰るぞ」
それだけ言うとシヲウルはゲートをくぐって帰ってしまった。後には怒りで震えるカテイナが残されている。
「あ、あのクソ鬼ババァ!!!」
カテイナの咆哮で衝撃が吹き抜ける。校舎が揺れる。これでもまだ自分に向けられたもので無いからマシなのだ。耳をふさいだ上でなお、頭を揺すられたようにふらつく。
疑問に思う間もなく閉じたはずのゲートが再び開く。にょっきり生えた手がカテイナの耳をつかんでそのまま彼をゲートに引きずり込んだ。カテイナはあまりの衝撃で悲鳴すら上げられなかった。
「どちらも素晴らしい才能をお持ちです」
シュンカ校長が興奮で頬を染めている。私にとってはここで恐怖を感じない校長も十分凄いです。
「やっぱり何かやらかしましたかっ!? やらかしてましたよね!?」
校長が目の前で体を震わせている。あの馬鹿は校長に脅しを使ったのか? そう思えば学校に走った衝撃も、窓が全部飛び散って吹きさらしになっている校長室にも納得がいく。
「才能を見せつけられましたよ。あれほどの才能、オリギナ史上最高と言って差し支えない。危うく魔族に魂を売り払って入学させるところでした」
しゃべっている本人は笑みを必死に押さえつけている様相だ。彼の魔法の才能に魅せられている。部屋の惨状など二の次らしい。校長もオリギナ人、魔法に魅せられたただの狂人にすぎない。そうで無ければこのオリギナ魔法学校の校長なんてやっていられないだろう。
「あ……じゃあ彼は不合格ですか? よくぞご無事で」
「ちゃんとした理由を話したら不満たらたらでしたが引き上げてくれましたよ。ああ、それでもどれほど心苦しかったことか! 私はあと十年、どうあっても、この校長の椅子にしがみつかなくてはね」
「そ、それはご苦労様です」
「まあ、そんなことより。クラウディアさん。彼についてですが、貴方の見立てを聞かせて下さい。どれほどの才能をお持ちですか?」
「……わかりません」
それが私の正直な感想、テクニックだけなら負けない自信があるが、魔力の総量を比べられたらそよ風と竜巻を比べているようなもの。比較対象の私自身が話にならなすぎてカテイナの上限すらわからない。
「あらあら、学年一位の秀才がそんなことを」
「自分と比較しようにも比較できません。正直に告白しますが皇族でも、皇帝陛下でも及ばない魔力量です」
「そうでしょうとも、私の見立てと同じね。そうすると、彼を受け入れるためには何をすれば良いかしらね? 昔ジブリルさんを受け入れたときは片っ端から拘束具をつけたものだけれど、彼は嫌がりそうですし」
「カテイナちゃんを拘束するなら、大魔王シヲウルに頼まないと、彼女の拘束具だけがカテイナちゃんを拘束できていました。人間が用意した拘束具なんて彼なら片手で引きちぎりますよ」
「うふふ、すてきな事ですね」
ああ、この人、才能に魅せられて正気を失いかけている。オリギナが誇る魔法技術が極あっさり突破される事を言っているのに。つまり人類はカテイナに歯が立たない事を証明しているのに……。
「カテイナちゃんを入学させるならシヲウルを味方につけないと――」
「誰が、お前の味方につくんだ?」
背筋が凍り付いた。この声を直に聞くのは生涯で二度目、反射で壁を背に飛び退けた。視線だけは酷薄に金髪と赤い瞳をきらめかせ、音も無くゲートを開けてこの学校に侵入してきた。
「ああ、貴方がシヲウル様ですか?」
「その通りだ」
シヲウルはあたりを見渡している。その影に隠れてカテイナまで来ている。これは一体どういうことか?
「お母様、こいつがこの学校の校長、シュンカです。僕を不合格にした奴です!」
カテイナが校長を指さして非難するような口調だ。
一方でシュンカ校長が顔を伏せてむせている。笑いをかみ殺すのに失敗したらしい。一人で来たときの虎のような傲慢な態度が、母の前でまるで忠実な子犬のような態度に変わっている。
「も、申し訳ありません。シヲウル様、私がオリギナ魔法学校、校長のシュンカ・シュウトーです。本日はどのようなご用でしょうか?」
「ああ、私のガキのことなんだが……」
シヲウルが周りを見るのをやめない。吹っ飛んだ窓枠、ひびの入った柱、明らかにきしんで動いた本棚を見ている。
「もしかして、”ウチのガキ”がやらかしたか?」
「ええ、それはもう壮絶にやってくれました」
そのときのカテイナの顔はある意味で面白く、あまりにもの悲しいものだった。一気に血の気を失って茫然自失している。
彼らの先手を取ってシュンカ校長が声をかけている。
「私は素晴らしい才能と思っています。是非とも、彼には十年後に入学していただきたい。私は意地でも校長の座にしがみついて待っていますから。お願いします」
シュンカ校長が頭を下げる。シヲウルはほおを掻いている。思案顔だ。
「お前は入学許可を出すんだな?」
「ええ、もちろん。あと十年したら確実に。正直な事を言えば彼には入学許可を今すぐ出したいですよ。ですが、それでは才能に目がくらみ公平性を欠いたと言われるでしょうね。才能以外があまりにも足りないとね」
シヲウルが頭を掻いている。
「それなら今入れろよ! 俺は今入りたいんだ!」
「ええ、その小さな癇癪が抑えられたらすぐにでもね」
ギロリとシヲウルがカテイナをにらむ。それだけでさっきの声の勢いが無くなった。うつむいてしまっている。
「……はぁ、帰るか。邪魔をして済まなかったな」
「あの、本日はどのようなご用件だったのですか?」
「ウチの馬鹿の話だ。入学させろってうるさくてな。だが校長は推薦を受けてくれるそうだし。十年待てというのは私も賛成だ。この惨状を見たらな」
「お、お母様!」
「うるさい! お前は全く、建物を壊しかけるとは……いや、相手が残っているだけましか。とにかく推薦は通った。あと十年我慢しろ。以上だ。私は帰るぞ」
それだけ言うとシヲウルはゲートをくぐって帰ってしまった。後には怒りで震えるカテイナが残されている。
「あ、あのクソ鬼ババァ!!!」
カテイナの咆哮で衝撃が吹き抜ける。校舎が揺れる。これでもまだ自分に向けられたもので無いからマシなのだ。耳をふさいだ上でなお、頭を揺すられたようにふらつく。
疑問に思う間もなく閉じたはずのゲートが再び開く。にょっきり生えた手がカテイナの耳をつかんでそのまま彼をゲートに引きずり込んだ。カテイナはあまりの衝撃で悲鳴すら上げられなかった。
「どちらも素晴らしい才能をお持ちです」
シュンカ校長が興奮で頬を染めている。私にとってはここで恐怖を感じない校長も十分凄いです。
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