魔王の馬鹿息子(五歳)が魔法学校に入るそうです

何てかこうか?

文字の大きさ
上 下
7 / 45
オリギナ魔法学校

第七話 親を使っての逆圧迫面接

しおりを挟む
「授業中に済みません。クラウディアさん。今日の彼の事です」
「やっぱり何かやらかしましたかっ!? やらかしてましたよね!?」

 校長が目の前で体を震わせている。あの馬鹿は校長に脅しを使ったのか? そう思えば学校に走った衝撃も、窓が全部飛び散って吹きさらしになっている校長室にも納得がいく。

「才能を見せつけられましたよ。あれほどの才能、オリギナ史上最高と言って差し支えない。危うく魔族に魂を売り払って入学させるところでした」

 しゃべっている本人は笑みを必死に押さえつけている様相だ。彼の魔法の才能に魅せられている。部屋の惨状など二の次らしい。校長もオリギナ人、魔法に魅せられたただの狂人にすぎない。そうで無ければこのオリギナ魔法学校の校長なんてやっていられないだろう。

「あ……じゃあ彼は不合格ですか? よくぞご無事で」
「ちゃんとした理由を話したら不満たらたらでしたが引き上げてくれましたよ。ああ、それでもどれほど心苦しかったことか! 私はあと十年、どうあっても、この校長の椅子にしがみつかなくてはね」
「そ、それはご苦労様です」
「まあ、そんなことより。クラウディアさん。彼についてですが、貴方の見立てを聞かせて下さい。どれほどの才能をお持ちですか?」
「……わかりません」

 それが私の正直な感想、テクニックだけなら負けない自信があるが、魔力の総量を比べられたらそよ風と竜巻を比べているようなもの。比較対象の私自身が話にならなすぎてカテイナの上限すらわからない。

「あらあら、学年一位の秀才がそんなことを」
「自分と比較しようにも比較できません。正直に告白しますが皇族でも、皇帝陛下でも及ばない魔力量です」
「そうでしょうとも、私の見立てと同じね。そうすると、彼を受け入れるためには何をすれば良いかしらね? 昔ジブリルさんを受け入れたときは片っ端から拘束具をつけたものだけれど、彼は嫌がりそうですし」
「カテイナちゃんを拘束するなら、大魔王シヲウルに頼まないと、彼女の拘束具だけがカテイナちゃんを拘束できていました。人間が用意した拘束具なんて彼なら片手で引きちぎりますよ」
「うふふ、すてきな事ですね」

 ああ、この人、才能に魅せられて正気を失いかけている。オリギナが誇る魔法技術が極あっさり突破される事を言っているのに。つまり人類はカテイナに歯が立たない事を証明しているのに……。

「カテイナちゃんを入学させるならシヲウルを味方につけないと――」
「誰が、お前の味方につくんだ?」

 背筋が凍り付いた。この声を直に聞くのは生涯で二度目、反射で壁を背に飛び退けた。視線だけは酷薄に金髪と赤い瞳をきらめかせ、音も無くゲートを開けてこの学校に侵入してきた。

「ああ、貴方がシヲウル様ですか?」
「その通りだ」

 シヲウルはあたりを見渡している。その影に隠れてカテイナまで来ている。これは一体どういうことか?

「お母様、こいつがこの学校の校長、シュンカです。僕を不合格にした奴です!」

 カテイナが校長を指さして非難するような口調だ。
 一方でシュンカ校長が顔を伏せてむせている。笑いをかみ殺すのに失敗したらしい。一人で来たときの虎のような傲慢な態度が、母の前でまるで忠実な子犬のような態度に変わっている。

「も、申し訳ありません。シヲウル様、私がオリギナ魔法学校、校長のシュンカ・シュウトーです。本日はどのようなご用でしょうか?」
「ああ、私のガキのことなんだが……」

 シヲウルが周りを見るのをやめない。吹っ飛んだ窓枠、ひびの入った柱、明らかにきしんで動いた本棚を見ている。

「もしかして、”ウチのガキ”がやらかしたか?」
「ええ、それはもう壮絶にやってくれました」

 そのときのカテイナの顔はある意味で面白く、あまりにもの悲しいものだった。一気に血の気を失って茫然自失している。
 彼らの先手を取ってシュンカ校長が声をかけている。

「私は素晴らしい才能と思っています。是非とも、彼には十年後に入学していただきたい。私は意地でも校長の座にしがみついて待っていますから。お願いします」

 シュンカ校長が頭を下げる。シヲウルはほおを掻いている。思案顔だ。

「お前は入学許可を出すんだな?」
「ええ、もちろん。あと十年したら確実に。正直な事を言えば彼には入学許可を今すぐ出したいですよ。ですが、それでは才能に目がくらみ公平性を欠いたと言われるでしょうね。才能以外があまりにも足りないとね」

 シヲウルが頭を掻いている。

「それなら今入れろよ! 俺は今入りたいんだ!」
「ええ、その小さな癇癪が抑えられたらすぐにでもね」

 ギロリとシヲウルがカテイナをにらむ。それだけでさっきの声の勢いが無くなった。うつむいてしまっている。

「……はぁ、帰るか。邪魔をして済まなかったな」
「あの、本日はどのようなご用件だったのですか?」
「ウチの馬鹿の話だ。入学させろってうるさくてな。だが校長は推薦を受けてくれるそうだし。十年待てというのは私も賛成だ。この惨状を見たらな」
「お、お母様!」
「うるさい! お前は全く、建物を壊しかけるとは……いや、相手が残っているだけましか。とにかく推薦は通った。あと十年我慢しろ。以上だ。私は帰るぞ」

 それだけ言うとシヲウルはゲートをくぐって帰ってしまった。後には怒りで震えるカテイナが残されている。

「あ、あのクソ鬼ババァ!!!」
 
 カテイナの咆哮で衝撃が吹き抜ける。校舎が揺れる。これでもまだ自分に向けられたもので無いからマシなのだ。耳をふさいだ上でなお、頭を揺すられたようにふらつく。
 疑問に思う間もなく閉じたはずのゲートが再び開く。にょっきり生えた手がカテイナの耳をつかんでそのまま彼をゲートに引きずり込んだ。カテイナはあまりの衝撃で悲鳴すら上げられなかった。

「どちらも素晴らしい才能をお持ちです」

 シュンカ校長が興奮で頬を染めている。私にとってはここで恐怖を感じない校長も十分凄いです。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?

シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。 クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。 貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ? 魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。 ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。 私の生活を邪魔をするなら潰すわよ? 1月5日 誤字脱字修正 54話 ★━戦闘シーンや猟奇的発言あり 流血シーンあり。 魔法・魔物あり。 ざぁま薄め。 恋愛要素あり。

公爵令嬢アナスタシアの華麗なる鉄槌

招杜羅147
ファンタジー
「婚約は破棄だ!」 毒殺容疑の冤罪で、婚約者の手によって投獄された公爵令嬢・アナスタシア。 彼女は獄中死し、それによって3年前に巻き戻る。 そして…。

疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!

ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。 退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた! 私を陥れようとする兄から逃れ、 不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。 逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋? 異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。 この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

処理中です...