神の盤上〜異世界漫遊〜

バン

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第7章 弟子と神器回収

予想空振

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「これで形勢逆転だな」

刺青がさらに濃くなり、体格も一回り大きくなったお頭が勝ち誇るように咲良に告げる。

「ですね。負ける気がしませんよ」
「あはは!この感覚が堪らないなぁ。力が湧いてくるよぉ」

力が上がった所為か少し興奮状態の2人がお頭の意見に同調する。

「よく飲むのか?」

咲良は少しでも情報を引き出そうと話しかける。

「あぁ…俺らにとっちゃ必需品だ。もちろん副作用はあるが…これでお前に勝てる」
「だが所詮偽物の強さだろ」
「偽物だろうが構わない。さて、お喋りはこれまでだ……死ね」

お頭がそういうと、お頭は大剣、他の2人は剣と戦斧を構えて一斉に咲良に飛び掛かってきた。
しかし咲良はまたもその場から動かない。

「舐めるな!」
「真っ二つですよ」
「死ねぇ!」

3人は力いっぱい咲良に武器を振り下ろす。
しかし、すでに咲良はそこにおらず武器は空を切り地面を叩くだけで終わった。

「所詮その程度か」

声がした方に3人は一斉に振り返る。

「お前らに………本物の強さを見せてやる」

そう呟いた瞬間…

「ぐふっ!!」

剣を持った男が吹き飛び、壁に激突して意識を失う。

「…な…に…」
「何かの間違いだ!そんなことがあるわけグバァ!!!」

更に戦斧を持った男も壁まで吹き飛ばされた。
最後に残ったお頭は絶望の表情を浮かべ、冷や汗が止まらない。

「き、きさま…何を…何をした!!!!」
「単純なことだ。お前らには見えない速さで動いただけだ」
「あり得ない!俺たちは魔臓薬を飲んだんだぞ!」
「魔臓薬というのか。大層な名前だな」

どうやらあの緑の液体は魔臓薬という名前らしい。魔臓とは魔力を生み出す器官の事だが、臓器として形があるわけではなく解明もされていない。つまり何かしら特殊な魔力を含んだ液体という仮説が生まれる。

「そんなことはどうでもいい!」

お頭は焦り、咲良に叫ぶが情報を与えてしまったことに変わりはない。

「そうか…だがお前の負けという事実は何ら変わらない」
「くそっくそっ!こんなはずじゃ…計画が台無しになっちまう」
「ほぉ…どんな計画か気になるが…ここで俺にあったのが運の尽きだ」
「貴様…名は何だ?」

お頭が急に冷静さを取り戻すと咲良に尋ねる。

「咲良だ」
「その名…覚えておこう」

パリンッ

何かの割れる音がして、その出所を見るとお頭が左手に持っていた水晶のような物を握りつぶしていた。

「…なんだ?」

するとお頭の足元に魔法陣が展開される。

「あれは!」
「俺の名はオリバー、覚えておけ」

そう言い残すとオリバーは消えた。

「くそ…まさか転移魔法陣とは…」

咲良は苦々しい表情を浮かべる。
オリバーの足元に展開されたのは転移の効果がある魔法陣。転移魔法陣は模様によって移動する距離が変わるのだが、先ほどの模様はかなり複雑になっていたことから、もう近くにはいないだろう。

(しかし…転移の魔道具マジックアイテムを盗賊が持っているのは少し不自然だな)

咲良がそう思うのは当然だ。数ある魔法陣の中でも転移魔法陣は扱いが桁違いに難しく、物ではなく生命を転移させるとなると更に難易度は跳ね上がる。咲良が作った転移風呂敷も距離は無制限だが生命は無理だ。さらに魔法陣を付与する素材も何でもいいわけではなく、生命を転移させる魔道具マジックアイテムを作るには魔紅晶と呼ばれるとても希少な鉱石でなければならない。咲良も知識として知っているだけで実物を見たのは初めてだ。

咲良の移動速度なら転移される前に殺すことは可能だろうが、今回は捕縛のみだ。さらに無闇に転移魔法陣の中に入ったり術者に触れたりすると、誤作動により予期せぬ場所に飛ばされる、もしくは体の一部だけが転移されるという可能性もある。
もっと咲良がオリバーの動きを捉え、冷静であったなら対処することは出来たかもしれない。転移魔法陣が使われるとは予期していなかったために少なからず動揺してしまった咲良のミスだ。

「ま、しょうがねぇか」

咲良は気持ちを切り替えて意識を失っている盗賊3人を拡張袋から取り出した紐で拘束する。
すると同時に香織達が最深部へと入ってきた。

「咲良さん…いつの間に…」

香織はいつ咲良に追い越されたのか分からずに困惑する。

「この人たちはあなたが?」

拘束されている盗賊達に視線を移して尋ねる。

「あぁ、ボスには逃げられたけどな」
「逃げられた?」
「転移魔法陣が刻まれた魔道具マジックアイテムを持ってやがった」
「転移魔法陣?なんですかそれは」

どうやら香織は知らないらしく、後ろにいる陸や秀樹達の表情からも全員知らないと見える。
咲良は転移魔法陣について全員に説明するが、そもそも魔法陣の知識が不足しているので理解するのに少なからず時間がかかった。

「なるほど、そんな魔道具マジックアイテムがあったのですね。それは仕方がないですが、あなたのミスでもあるわけですね」
「まぁそうなるな」

咲良は悪気なく答えると、香織は少し考えるような仕草を見せる。

「……盗賊団はほぼ捕縛できましたし依頼は達成で大丈夫だとは思いますが、念のため〈妖精の羽〉のギルドマスターに確認しましょう。彼の方が私より詳しいでしょうから」
「なるほど」
「では戻りましょうか」

こうして咲良と〈イマジナリー〉の初の共同任務は終了した。
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