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第7章 弟子と神器回収
強情精神
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次の日、〈イマジナリー〉の選抜メンバーはコーチンの門に集まっていた。
「ではみなさん、これから盗賊の捕獲に向かいます。この依頼を達成できればさらに私たちのギルドの評判は上がることでしょう」
香織が演説じみたことを言うが、皆少し緊張した面をしているが、それは仕方のないことだろう。なぜなら今回の任務はB級依頼。A級の香織とB級の咲良がいるので側から見ればそう難しい依頼ではないが、1人はA級になりたて、もう1人は戦っている姿を見たことがないのだから階級の低いものは不安になるのは当然だろう。
「では行きましょう」
香織の一言で一同はコーチンを後にする。
今回の依頼対象の盗賊が潜伏しているのはルーグの村があった所より更に山の奥地に入った所だ。ギルド〈妖精の羽〉の調査隊からの情報なので確かなものだろう。
「なぁ咲良、頼みがある」
道中、陸が咲良に話しかける。
「なんだ?」
「知っての通り、イマジナリーのメンバーは人殺しを禁じてる。んで今回の依頼は本来なら捕獲ではなく討伐だ。そこをあえて捕縛に限定してる。つまり…」
「なるほど。あいつらを守れ、と言うことか」
咲良は瞬時に陸が言いたいことを理解した。
捕獲と討伐なら、圧倒的に捕獲の方が難易度が高い。殺さない程度にというのは相当な実力差が必要となる。彼らの信念が戦闘において甘さとなることは目に見えている。
「心配するな。目の前の命くらい助けるさ」
「ふっ…やっぱり亮太は亮太だな」
陸は笑みを浮かべ、敢えて咲良ではなく亮太と呼んだ。
咲良になってもあの頃の亮太のままだと言いたいのだろう。
「亮兄!」
紗月が後ろから走ってきて、陸との間に割り込む。
「なんだ?」
「なんだ?じゃないよ!やっと会えたのに全然話できないし!」
「紗月はいつも亮兄亮兄ってうるさかったからな」
陸がからかうように言った。
「ちょっ!ちょっと!」
紗月は恥ずかしかったのかあたふたしている。
「それよりもだ。俺はもう亮太じゃない…咲良だ」
「私にとっては亮兄は亮兄だもん!」
「まぁいいじゃねえか咲良。1人くらい昔の名前で呼ぶ奴がいてもよ」
「はぁ…勝手にしろ」
咲良は紗月にはいくら言っても呼び名を変えてくれそうにないので諦めた。
「では今日はここで野営とします!」
日が落ちる頃、野営に適した拓けた場所を見つけ、香織の一言で皆、野営の準備に取り掛かる。
夕食の準備が整った頃、
「咲良ー!こっちで一緒に食おうぜ!」
陸の呼びかけで咲良は陸の元へと歩いていく。そこには紗月、秀樹、穂花も一緒にいた。
そして夕食のスープと乾パンを手渡される。
「目的地までそう遠くないのにえらい質素だな」
「これは香織さんの案でな。遠出した時は毎食こんな料理だからな。慣れておくためだそうだ」
「ま、俺は食えりゃなんでもいいんだが…」
咲良はスープと乾パンを食べるが量が少なくすぐに完食してしまった。
実はステータスが高くなればなるほど食べる量も比例して増えていく。なので咲良はスープと乾パンでは間食にもならないため、拡張袋から焼きたてのパンや肉の串を大量に取り出し食べだした。
「お、おい、咲良……」
「なんだ?」
陸は顔が引きつっている。
「亮兄…そんな大食いだっけ?」
「俺も前の旅の時は驚いたな」
紗月も咲良の食べっぷりに少し引いているが、秀樹と穂花はコーチンまでの旅で既に知っている。
「ん?なんかそのパンと肉おかしくないか?」
陸は何か引っかかる事があるのか疑問を投げ掛けてくる。
「あぁ、俺の拡張袋は中の時間が止まってるからな。出来立てを入れておけばいつでもどこでも出来立てが食えるってわけだ」
「ま、まじか!!!」
「すごっ!」
陸と紗月が驚き声を荒げ、周りの人達が一斉にこちらを見る。どうやら秀樹と穂花も気付いていなかったらしい。
「おいおい、とんでもねぇ拡張袋だな。ーーまさかそれもお前が作ったのか?ーー」
陸は最後の一言を周りに聞こえないように咲良に囁く。
『いや、これは違う。まぁ作れるけど』
「!!!!!」
咲良は質問に念話で返すと、陸は驚いたのか目を見開く。
『そう驚くな、念話は初めてか?』
「たまたま拾っただけだ」
急に無口になると紗月に怪しまれるので念話と会話を同時に行う。
これは高等技術で誰もが出来るわけではなく、そもそも現代ではあまり使える者はいない。
「そ、そうか」
陸は咲良の質問に肯定なのか頷きながら答える。どうやら周りは気付いていないようだ。
「性能の良い拡張袋を持っていたなら報告して頂きたいですね。それがあれば私達の旅路は快適になりますので」
すると突然香織が話に入ってきた。
「あえて質素な食事にして長旅での生活に慣れるようにするんじゃ無かったのか?」
「えぇ…しかしその拡張袋があるなら話は別です」
「……渡せと?」
咲良は香織の考えを予想して答える。
「その通りです。皆の役に立てるのですから当然でしょう」
「ちょっ、ちょっと」
咲良が不機嫌だと言うことに気が付いたのか陸が間に割って入る。
「どうしましたか?」
「確かに咲良の拡張袋があれば楽になります。でも…今の香織さんの意見は少し強情過ぎます」
「強情?ギルドのためなのですよ?」
「まだ咲良はイマジナリーのメンバーじゃない。今咲良から拡張袋を取り上げるとなれば、それは窃盗と変わりません」
陸は少し強めに香織の意見を否定した。
「…せん…ぱい?」
紗月が驚きながら呟く。
陸がここまで香織の意見に反対するのを見たことがなかったからだ。
「窃盗…ですか。そこまで言われる筋合いはないのですが…」
流石の香織も少し驚いたようで、少し動揺しながら答えた。
「そういう話は咲良がイマジナリーのメンバーになってからにしてください」
「……分かりました。ではこの依頼が終わり次第入ってもらうとしましょう」
そう言い残して香織は去っていった。
「すまない咲良」
陸はすぐさま香織の代わりに謝罪をする。
「いや、陸が謝る事じゃないさ。俺はイマジナリーに入るつもりはないからな」
「え?亮兄入らないの?」
紗月は咲良がイマジナリーに入ると思っていたらしい。
「あぁ、悪いな」
「…どうして…」
「俺は俺でやりたいことがあるからな」
「そ、それなら!イマジナリーに入ってすればいいじゃん!」
紗月は折角会えた咲良と離れたくないのか必死に説得を試みる。
「イマジナリーに入れば団体行動が基本になる。俺は世界中を旅するから1人の方が都合がいいんだよ」
咲良の本音は甘い考えの奴らとは一緒に行動しても利点がない事だが、ここは敢えて違う理由を述べた。
「なら私もついて行く!」
「紗月、無茶言うな。咲良には咲良の道がある」
咲良の目的を知っている陸が紗月の説得にまわる。
陸は紗月がついていけば足手纏いにしかならないと分かっているのだ。
「紗月、お前だけじゃなくて俺だって咲良と一緒に冒険したい。でもな…それは今じゃない」
「今…じゃない?」
「そうだ。俺は咲良と約束したんだ。いつか旅をしようと。だからその時紗月も一緒に旅をしよう」
「いつか……うん…分かった!」
どうやら紗月は納得してくれたようだ。
「そう言うことだ。その時まで我慢してくれ」
咲良は紗月の頭を撫でながら言う。
紗月は嬉しそうに「楽しみにしてるね」と答えた。
「さて、そろそろ休むか。他の人も寝始めてることだしな」
陸の一言で一同は就寝することにした。
次の日、陸が目覚めると咲良がいない事に気が付いた。
「起きたか」
すると後ろから少し汗をかいた咲良が森から姿を現わす。
「どこ行ってたんだ?」
「鍛錬だよ。毎日の習慣だからな」
「そうか。なら俺も明日から参加しようかな」
「俺と同じメニューはやめておけよ」
「分かってるよ」
その日から盗賊の棲家に着くまで毎朝、2人は一緒に鍛錬を行うようになった。
「ではみなさん、これから盗賊の捕獲に向かいます。この依頼を達成できればさらに私たちのギルドの評判は上がることでしょう」
香織が演説じみたことを言うが、皆少し緊張した面をしているが、それは仕方のないことだろう。なぜなら今回の任務はB級依頼。A級の香織とB級の咲良がいるので側から見ればそう難しい依頼ではないが、1人はA級になりたて、もう1人は戦っている姿を見たことがないのだから階級の低いものは不安になるのは当然だろう。
「では行きましょう」
香織の一言で一同はコーチンを後にする。
今回の依頼対象の盗賊が潜伏しているのはルーグの村があった所より更に山の奥地に入った所だ。ギルド〈妖精の羽〉の調査隊からの情報なので確かなものだろう。
「なぁ咲良、頼みがある」
道中、陸が咲良に話しかける。
「なんだ?」
「知っての通り、イマジナリーのメンバーは人殺しを禁じてる。んで今回の依頼は本来なら捕獲ではなく討伐だ。そこをあえて捕縛に限定してる。つまり…」
「なるほど。あいつらを守れ、と言うことか」
咲良は瞬時に陸が言いたいことを理解した。
捕獲と討伐なら、圧倒的に捕獲の方が難易度が高い。殺さない程度にというのは相当な実力差が必要となる。彼らの信念が戦闘において甘さとなることは目に見えている。
「心配するな。目の前の命くらい助けるさ」
「ふっ…やっぱり亮太は亮太だな」
陸は笑みを浮かべ、敢えて咲良ではなく亮太と呼んだ。
咲良になってもあの頃の亮太のままだと言いたいのだろう。
「亮兄!」
紗月が後ろから走ってきて、陸との間に割り込む。
「なんだ?」
「なんだ?じゃないよ!やっと会えたのに全然話できないし!」
「紗月はいつも亮兄亮兄ってうるさかったからな」
陸がからかうように言った。
「ちょっ!ちょっと!」
紗月は恥ずかしかったのかあたふたしている。
「それよりもだ。俺はもう亮太じゃない…咲良だ」
「私にとっては亮兄は亮兄だもん!」
「まぁいいじゃねえか咲良。1人くらい昔の名前で呼ぶ奴がいてもよ」
「はぁ…勝手にしろ」
咲良は紗月にはいくら言っても呼び名を変えてくれそうにないので諦めた。
「では今日はここで野営とします!」
日が落ちる頃、野営に適した拓けた場所を見つけ、香織の一言で皆、野営の準備に取り掛かる。
夕食の準備が整った頃、
「咲良ー!こっちで一緒に食おうぜ!」
陸の呼びかけで咲良は陸の元へと歩いていく。そこには紗月、秀樹、穂花も一緒にいた。
そして夕食のスープと乾パンを手渡される。
「目的地までそう遠くないのにえらい質素だな」
「これは香織さんの案でな。遠出した時は毎食こんな料理だからな。慣れておくためだそうだ」
「ま、俺は食えりゃなんでもいいんだが…」
咲良はスープと乾パンを食べるが量が少なくすぐに完食してしまった。
実はステータスが高くなればなるほど食べる量も比例して増えていく。なので咲良はスープと乾パンでは間食にもならないため、拡張袋から焼きたてのパンや肉の串を大量に取り出し食べだした。
「お、おい、咲良……」
「なんだ?」
陸は顔が引きつっている。
「亮兄…そんな大食いだっけ?」
「俺も前の旅の時は驚いたな」
紗月も咲良の食べっぷりに少し引いているが、秀樹と穂花はコーチンまでの旅で既に知っている。
「ん?なんかそのパンと肉おかしくないか?」
陸は何か引っかかる事があるのか疑問を投げ掛けてくる。
「あぁ、俺の拡張袋は中の時間が止まってるからな。出来立てを入れておけばいつでもどこでも出来立てが食えるってわけだ」
「ま、まじか!!!」
「すごっ!」
陸と紗月が驚き声を荒げ、周りの人達が一斉にこちらを見る。どうやら秀樹と穂花も気付いていなかったらしい。
「おいおい、とんでもねぇ拡張袋だな。ーーまさかそれもお前が作ったのか?ーー」
陸は最後の一言を周りに聞こえないように咲良に囁く。
『いや、これは違う。まぁ作れるけど』
「!!!!!」
咲良は質問に念話で返すと、陸は驚いたのか目を見開く。
『そう驚くな、念話は初めてか?』
「たまたま拾っただけだ」
急に無口になると紗月に怪しまれるので念話と会話を同時に行う。
これは高等技術で誰もが出来るわけではなく、そもそも現代ではあまり使える者はいない。
「そ、そうか」
陸は咲良の質問に肯定なのか頷きながら答える。どうやら周りは気付いていないようだ。
「性能の良い拡張袋を持っていたなら報告して頂きたいですね。それがあれば私達の旅路は快適になりますので」
すると突然香織が話に入ってきた。
「あえて質素な食事にして長旅での生活に慣れるようにするんじゃ無かったのか?」
「えぇ…しかしその拡張袋があるなら話は別です」
「……渡せと?」
咲良は香織の考えを予想して答える。
「その通りです。皆の役に立てるのですから当然でしょう」
「ちょっ、ちょっと」
咲良が不機嫌だと言うことに気が付いたのか陸が間に割って入る。
「どうしましたか?」
「確かに咲良の拡張袋があれば楽になります。でも…今の香織さんの意見は少し強情過ぎます」
「強情?ギルドのためなのですよ?」
「まだ咲良はイマジナリーのメンバーじゃない。今咲良から拡張袋を取り上げるとなれば、それは窃盗と変わりません」
陸は少し強めに香織の意見を否定した。
「…せん…ぱい?」
紗月が驚きながら呟く。
陸がここまで香織の意見に反対するのを見たことがなかったからだ。
「窃盗…ですか。そこまで言われる筋合いはないのですが…」
流石の香織も少し驚いたようで、少し動揺しながら答えた。
「そういう話は咲良がイマジナリーのメンバーになってからにしてください」
「……分かりました。ではこの依頼が終わり次第入ってもらうとしましょう」
そう言い残して香織は去っていった。
「すまない咲良」
陸はすぐさま香織の代わりに謝罪をする。
「いや、陸が謝る事じゃないさ。俺はイマジナリーに入るつもりはないからな」
「え?亮兄入らないの?」
紗月は咲良がイマジナリーに入ると思っていたらしい。
「あぁ、悪いな」
「…どうして…」
「俺は俺でやりたいことがあるからな」
「そ、それなら!イマジナリーに入ってすればいいじゃん!」
紗月は折角会えた咲良と離れたくないのか必死に説得を試みる。
「イマジナリーに入れば団体行動が基本になる。俺は世界中を旅するから1人の方が都合がいいんだよ」
咲良の本音は甘い考えの奴らとは一緒に行動しても利点がない事だが、ここは敢えて違う理由を述べた。
「なら私もついて行く!」
「紗月、無茶言うな。咲良には咲良の道がある」
咲良の目的を知っている陸が紗月の説得にまわる。
陸は紗月がついていけば足手纏いにしかならないと分かっているのだ。
「紗月、お前だけじゃなくて俺だって咲良と一緒に冒険したい。でもな…それは今じゃない」
「今…じゃない?」
「そうだ。俺は咲良と約束したんだ。いつか旅をしようと。だからその時紗月も一緒に旅をしよう」
「いつか……うん…分かった!」
どうやら紗月は納得してくれたようだ。
「そう言うことだ。その時まで我慢してくれ」
咲良は紗月の頭を撫でながら言う。
紗月は嬉しそうに「楽しみにしてるね」と答えた。
「さて、そろそろ休むか。他の人も寝始めてることだしな」
陸の一言で一同は就寝することにした。
次の日、陸が目覚めると咲良がいない事に気が付いた。
「起きたか」
すると後ろから少し汗をかいた咲良が森から姿を現わす。
「どこ行ってたんだ?」
「鍛錬だよ。毎日の習慣だからな」
「そうか。なら俺も明日から参加しようかな」
「俺と同じメニューはやめておけよ」
「分かってるよ」
その日から盗賊の棲家に着くまで毎朝、2人は一緒に鍛錬を行うようになった。
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