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第7章 弟子と神器回収
人命救助
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コーチンまで残り半分の距離まで来た。
冬が近いのか少し肌寒いが咲良には漆黒の外套がある。漆黒の外套には温度調節魔法陣が施されているため気にならない。
だが、そんな機能の装備を秀樹と穂花が持っているわけもなく、2人は寒そうに肌をさする。
「ちょっと寒くなってきたね」
「そうだな…少し急ぐか」
2人は本格的に冬が来る前にコーチンに着こうと急ぎ始めたその時…
ガサガサ!
「うっ……ぐふっ…」
全身血だらけの中年の男が森からヨロヨロと現れた。
「ど!どうした!…何があった!?」
「あ…う……」
秀樹が男に何があったのか聞くが、男はその場に倒れ、傷が深い為、うめき声しか返ってこない。
「一体何が……まさか!」
「秀樹くん!何かわかったの!?」
「正確な場所は知らないが、この道の周辺には小さな村があったはず!」
「なるほど」
咲良は秀樹の言葉で大方理解したが、穂花はさっぱり分かっておらずオドオドしている。
「え?どういうこと?」
「例の盗賊に襲われた可能性があるってことだ」
咲良が穂花に考えを伝えると秀樹も賛同する。
「どうしよう!助けないと!」
「おい…まさか行くのか?」
「当たり前だろ!見捨てれるわけない!」
「まだ仮定の話だろ」
慌てたず2人に咲良は冷静に言葉を投げかける。
「仮に盗賊だとしてもだ。お前らじゃ勝てないだろ」
「私も行く!もし盗賊だとしたら勝てないかもしれないけど出来ることはあるはず!」
穂花は咲良の言葉に聞く耳を持たず、何故か張り切っているように見える。
「なら勝手にしろ。俺は行かない」
咲良は血だらけの男に近づくとしゃがみ込み、男に氣を送り、活性化による治療を始める。すると少しずつ傷が塞がり始めた。
氣は治療においては魔力よりも効果が高い。
「え?…治ってる?」
「そういや咲良のステータスプレートの職業欄に魔法医師もあったな」
王都を出る前に一度だけ2人にステータスプレートを見せたことがあったが、秀樹はよく覚えていたものだと少し関心した。
氣を使った治療によって傷がある程度塞がると、拡張袋から葉に包まれた薬草をすり潰したものを塗っていく。さらに、液体の入った瓶も取り出し、男の口に突っ込んで無理やり飲ます。
「おい、応急処置だが少し楽になったはずだ。話せるか?」
「……あ…あぁ…」
男は立とうとするがフラついてまた倒れそうになり、咲良が咄嗟に支えて近くの木にもたれさせた。
「無理に動くな。これも飲め、増血剤だ」
拡張袋から赤い液体が入った瓶を取り出し男に飲ます。
「まだ油断できないな。ところで、お前らはなにしてるんだ?突っ立ってるなら手伝って欲しいんだが」
「そうだった!なぁあんた!村の方角はどっちだ!?」
「この…森を……東に…まっすぐ…す…すすん……だ…」
そのまま男は気絶してしまった。
傷の痛みの所為で精神的にもキツかったのだろう。
「東だな!行くぞ2人とも!」
「うん!急ごう!」
2人は森に向かおうとするが咲良は動かない。
「おい!咲良!早くしろ!」
「だから俺は行くとは言ってない。それに、この男はどうする?重傷だから動かすわけにはいかないが、このままここに放置すれば血の匂いに誘われた魔物に喰われるぞ」
「だったら私が見るよ!」
「知識はあるのか?まだ完治には程遠い。症状が悪化すれば確実に死ぬぞ」
穂花の安易な考えに呆れつつも現状をしっかり把握させるために説明するが…
「そ…それは…でも!咲良くんが行かないと村人を助けられない!」
「言ったろ。行くなら勝手にしろと」
「なんで!相手は危険度B級の盗賊だよ!この中で勝てるのは咲良くんだけなんだよ!」
穂花は熱くなってしまい根本的な部分を忘れてしまっている。
「落ち着け。何度も言うがまだ盗賊だと決まったわけじゃない。そんな確証のない情報では動けないし、怪我人が最優先なのは当然だろう」
「でも!もし本当に襲われていたらどうするの!!」
「それは運がなかったと言う他ない」
ここで男を放置して村まで行けば、この男は確実に死ぬだろうし、治療を終えてから村に向かったのでは間に合わない。
どちらか選べと言われたら咲良は目の前の命を選ぶ。
「な…なんでそんなこというの!」
「もういい穂花…ほっとけ…俺たちだけでも行こう。そんな卑怯者ほっとけ」
「勝手に言ってろ。恨みたきゃ何も出来ない自分自身を恨め」
「咲良くんの…バカ!」
そう言い残すと2人は森の奥にかけて言った。
「ふぅ…全く。疲れるわ…」
その後しばらく治療を続けると男が目を覚ました。
「こ…ここは…」
「気が付いたか…」
「あれ…傷が…」
「傷は粗方治した。もう大丈夫だ」
「あんたが……はっ!村が盗賊に!」
物事はそう上手くは行かないらしく、盗賊に襲われているという仮定は現実となった。
「助けを呼ばないと!…ゔっ」
男は傷口を抑えて蹲る。
「バカか…完治したわけじゃないんだ。今は休め」
「あんた!村を助けては……あ…いや…すまない…」
なぜか男は言いかけた言葉を飲み込み謝った。
「どうした?」
「傷を…治してもらったのに、これ以上…望んじゃいけねぇよな」
「謙虚だな。助けを呼ぶために血だらけでここまで来たんだろ?」
この男は命を助けてくれた恩人に村人まで助けろとは言えなかった。
普通この状況では助けを乞うのが人間だが、予想を反した男の態度に咲良はとても好意を抱いた。
「どなたか知らないがありがとう」
「気にするな。目の前の命は助けるさ」
「そうか…あんたの連れは?」
「村に向かった。だが盗賊は危険度B級らしい。あいつらには荷が重いだろう」
「そうか…悪い事をしてしまった…必死だったんだ」
「まぁ、あいつらが勝手にやったことだ」
そういうと咲良は男を背負った。
「…どこに?」
「村に行って助けてやる。そう時間は経ってないから間に合うだろう」
「い、いいのか?」
「盗賊に襲われているという確証も得た。そしてあんたの傷もある程度塞がったから動かしても大丈夫だ。なら助けに行かない道理はないだろう?」
「……ほ…本当か!?ありがとう!…村はあっちだ!」
男が指した方角にしばらく走ると生存本能で複数の気配を捉えた。
秀樹と穂花も無事のようだが、生き残っている村人は少ないように感じる。
盗賊の気配も探ると、数人高い能力を持っていると分かったが、それでもせいぜいC級かD級だ。しかし、そいつらをまとめて相手をするとなるとB級以上の冒険者でなければきついだろう。
ただ、盗賊の1人は妙な気配がする。
「…あそこか…」
森を抜けると村が見えてきた。
「おい…お前はここで待ってろ」
「え?…しかし…」
「怪我人にうろちょろされると面倒だからここにいろ」
咲良は魔力で男を覆い、防御壁を作ってから村に入る。
村は悲惨な状態だった。
男だけでなく女子ども構わず無残に殺され、あちこちにその死体が転がっている。
「ちっ……これは流石に胸くそ悪いな」
咲良も生きるためなら殺すが、これはただの虐殺だ。
あの傷だらけの男を見殺しにしてでも、早く村に来ていたら状況は変わったのだろうか。ちらりとその考えが頭をよぎったが後悔はしていない。
全ての命を助けようなど傲慢だ。目の前にある1つの命を助けることが出来ない者に大勢の命を助ける事など出来ない。
フゥーっと深く息を吐き、咲良は盗賊の元へと歩き出す。
冬が近いのか少し肌寒いが咲良には漆黒の外套がある。漆黒の外套には温度調節魔法陣が施されているため気にならない。
だが、そんな機能の装備を秀樹と穂花が持っているわけもなく、2人は寒そうに肌をさする。
「ちょっと寒くなってきたね」
「そうだな…少し急ぐか」
2人は本格的に冬が来る前にコーチンに着こうと急ぎ始めたその時…
ガサガサ!
「うっ……ぐふっ…」
全身血だらけの中年の男が森からヨロヨロと現れた。
「ど!どうした!…何があった!?」
「あ…う……」
秀樹が男に何があったのか聞くが、男はその場に倒れ、傷が深い為、うめき声しか返ってこない。
「一体何が……まさか!」
「秀樹くん!何かわかったの!?」
「正確な場所は知らないが、この道の周辺には小さな村があったはず!」
「なるほど」
咲良は秀樹の言葉で大方理解したが、穂花はさっぱり分かっておらずオドオドしている。
「え?どういうこと?」
「例の盗賊に襲われた可能性があるってことだ」
咲良が穂花に考えを伝えると秀樹も賛同する。
「どうしよう!助けないと!」
「おい…まさか行くのか?」
「当たり前だろ!見捨てれるわけない!」
「まだ仮定の話だろ」
慌てたず2人に咲良は冷静に言葉を投げかける。
「仮に盗賊だとしてもだ。お前らじゃ勝てないだろ」
「私も行く!もし盗賊だとしたら勝てないかもしれないけど出来ることはあるはず!」
穂花は咲良の言葉に聞く耳を持たず、何故か張り切っているように見える。
「なら勝手にしろ。俺は行かない」
咲良は血だらけの男に近づくとしゃがみ込み、男に氣を送り、活性化による治療を始める。すると少しずつ傷が塞がり始めた。
氣は治療においては魔力よりも効果が高い。
「え?…治ってる?」
「そういや咲良のステータスプレートの職業欄に魔法医師もあったな」
王都を出る前に一度だけ2人にステータスプレートを見せたことがあったが、秀樹はよく覚えていたものだと少し関心した。
氣を使った治療によって傷がある程度塞がると、拡張袋から葉に包まれた薬草をすり潰したものを塗っていく。さらに、液体の入った瓶も取り出し、男の口に突っ込んで無理やり飲ます。
「おい、応急処置だが少し楽になったはずだ。話せるか?」
「……あ…あぁ…」
男は立とうとするがフラついてまた倒れそうになり、咲良が咄嗟に支えて近くの木にもたれさせた。
「無理に動くな。これも飲め、増血剤だ」
拡張袋から赤い液体が入った瓶を取り出し男に飲ます。
「まだ油断できないな。ところで、お前らはなにしてるんだ?突っ立ってるなら手伝って欲しいんだが」
「そうだった!なぁあんた!村の方角はどっちだ!?」
「この…森を……東に…まっすぐ…す…すすん……だ…」
そのまま男は気絶してしまった。
傷の痛みの所為で精神的にもキツかったのだろう。
「東だな!行くぞ2人とも!」
「うん!急ごう!」
2人は森に向かおうとするが咲良は動かない。
「おい!咲良!早くしろ!」
「だから俺は行くとは言ってない。それに、この男はどうする?重傷だから動かすわけにはいかないが、このままここに放置すれば血の匂いに誘われた魔物に喰われるぞ」
「だったら私が見るよ!」
「知識はあるのか?まだ完治には程遠い。症状が悪化すれば確実に死ぬぞ」
穂花の安易な考えに呆れつつも現状をしっかり把握させるために説明するが…
「そ…それは…でも!咲良くんが行かないと村人を助けられない!」
「言ったろ。行くなら勝手にしろと」
「なんで!相手は危険度B級の盗賊だよ!この中で勝てるのは咲良くんだけなんだよ!」
穂花は熱くなってしまい根本的な部分を忘れてしまっている。
「落ち着け。何度も言うがまだ盗賊だと決まったわけじゃない。そんな確証のない情報では動けないし、怪我人が最優先なのは当然だろう」
「でも!もし本当に襲われていたらどうするの!!」
「それは運がなかったと言う他ない」
ここで男を放置して村まで行けば、この男は確実に死ぬだろうし、治療を終えてから村に向かったのでは間に合わない。
どちらか選べと言われたら咲良は目の前の命を選ぶ。
「な…なんでそんなこというの!」
「もういい穂花…ほっとけ…俺たちだけでも行こう。そんな卑怯者ほっとけ」
「勝手に言ってろ。恨みたきゃ何も出来ない自分自身を恨め」
「咲良くんの…バカ!」
そう言い残すと2人は森の奥にかけて言った。
「ふぅ…全く。疲れるわ…」
その後しばらく治療を続けると男が目を覚ました。
「こ…ここは…」
「気が付いたか…」
「あれ…傷が…」
「傷は粗方治した。もう大丈夫だ」
「あんたが……はっ!村が盗賊に!」
物事はそう上手くは行かないらしく、盗賊に襲われているという仮定は現実となった。
「助けを呼ばないと!…ゔっ」
男は傷口を抑えて蹲る。
「バカか…完治したわけじゃないんだ。今は休め」
「あんた!村を助けては……あ…いや…すまない…」
なぜか男は言いかけた言葉を飲み込み謝った。
「どうした?」
「傷を…治してもらったのに、これ以上…望んじゃいけねぇよな」
「謙虚だな。助けを呼ぶために血だらけでここまで来たんだろ?」
この男は命を助けてくれた恩人に村人まで助けろとは言えなかった。
普通この状況では助けを乞うのが人間だが、予想を反した男の態度に咲良はとても好意を抱いた。
「どなたか知らないがありがとう」
「気にするな。目の前の命は助けるさ」
「そうか…あんたの連れは?」
「村に向かった。だが盗賊は危険度B級らしい。あいつらには荷が重いだろう」
「そうか…悪い事をしてしまった…必死だったんだ」
「まぁ、あいつらが勝手にやったことだ」
そういうと咲良は男を背負った。
「…どこに?」
「村に行って助けてやる。そう時間は経ってないから間に合うだろう」
「い、いいのか?」
「盗賊に襲われているという確証も得た。そしてあんたの傷もある程度塞がったから動かしても大丈夫だ。なら助けに行かない道理はないだろう?」
「……ほ…本当か!?ありがとう!…村はあっちだ!」
男が指した方角にしばらく走ると生存本能で複数の気配を捉えた。
秀樹と穂花も無事のようだが、生き残っている村人は少ないように感じる。
盗賊の気配も探ると、数人高い能力を持っていると分かったが、それでもせいぜいC級かD級だ。しかし、そいつらをまとめて相手をするとなるとB級以上の冒険者でなければきついだろう。
ただ、盗賊の1人は妙な気配がする。
「…あそこか…」
森を抜けると村が見えてきた。
「おい…お前はここで待ってろ」
「え?…しかし…」
「怪我人にうろちょろされると面倒だからここにいろ」
咲良は魔力で男を覆い、防御壁を作ってから村に入る。
村は悲惨な状態だった。
男だけでなく女子ども構わず無残に殺され、あちこちにその死体が転がっている。
「ちっ……これは流石に胸くそ悪いな」
咲良も生きるためなら殺すが、これはただの虐殺だ。
あの傷だらけの男を見殺しにしてでも、早く村に来ていたら状況は変わったのだろうか。ちらりとその考えが頭をよぎったが後悔はしていない。
全ての命を助けようなど傲慢だ。目の前にある1つの命を助けることが出来ない者に大勢の命を助ける事など出来ない。
フゥーっと深く息を吐き、咲良は盗賊の元へと歩き出す。
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