神の盤上〜異世界漫遊〜

バン

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過去章 恐怖と成長

死ノ体感

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「ん…あれ?」

1人の男が目を覚ます。

「どこだここ?」

周りを見渡すと知らない森の中だ。

「教室にいたはず…」

何が起こったのか全くわからず、恐怖で心が満たされる。
しかし、なんとか気持ちを持ち直して辺りを探索する。

そして男は少し離れたところに人が2人倒れているのを見つけた。

2人の元へ寄ると知った顔だった。
倒れていたのは委員会の後輩である中山祐介と北山志保。

「祐介!志保!」

男は2人の身体を揺らして目を覚まさせる。

「ん…うん?」
「うーん、まだ眠たい」
「起きろー!!」

寝ぼけている2人に痺れを切らし声を荒げる。

「はっ、はい!」
「えっ…秀樹先輩?」
「やっと起きたか…ってそんな事よりここがどこだか分かるか?」

今起きたばかりの2人に聞いても答えが返って来るはずもないが、すがる思いで尋ねる。

「ここ?……え?なんで森?」
「教室にいたはずじゃ…」
「やっぱ分からないか、なんだよこれ」

予想通り、祐介も志保も分かっていないようだ。

「と…とりあえずこの森出ましょうよ。なんか嫌な感じ」

志保の言う通り、この森は静かすぎて不気味に感じる。

「確かにそうだな…ひとまず歩いて森を抜けるか」

秀樹、祐介、志保の3人は何が何だか分からないまま歩き出した。

後ろの物陰から何かがじっと見つめていることに気付かずに…


「それにしても…見たことない木ばっかりですよこの森」

祐介が木に触れながら呟く。

「そうか?」
「どこにでもある木に見えるけど」
「俺植物に詳しいんですよ。将来植物学者になりたくて勉強してたので」
「植物学者?珍しいな」

初めて聞いた祐介の夢に意外そうな表情を浮かべる。

「でもその祐介くんが言うんだから図鑑に載ってない木ばっかりってことだよね?」
「知識不足かもしれませんけど」

祐介の知識不足は否定出来ないが、それでも見知った木が一本もないのはどう考えてもおかしい。

「どういうことですかね?」
「寝ているうちに誘拐されて、日本奥地の秘境にでも捨てられたか?」
「ちょっ、面白くないですよ」

秀樹は冗談で言ったが、穂花には通じなかったようだ。

「もしかしたら小説に良くある異世界に飛ばされたって線も捨てがたいですね」
「祐介くんまで!」

秀樹と祐介はなんやかんやでこの状況を楽しんでいるように見えるが、実の所、恐怖を紛らわすために敢えて演じているだけだ。

と、その時…

グォォォォー
グォォォォー

不気味な鳴き声が辺りに響く。

「え?…何この声…」
「獣でもいるのか?」
「すぐにでもこの森出た方が良さそうですね」

さらに恐怖心を煽られ、その場を移動しようした瞬間…

ガサガサガサ

茂みから何かが飛び出して3人を取り囲んだ。

「ひっ!!!」

穂花が声にならない悲鳴をあげる。

3人を取り囲んだのは狼のような生物。
だが狼にしては見た目がおかしい。なぜならその狼は、骨の身体に僅かな肉や毛が付着しただけの姿をしていた。


死骨狼(D級)
死んだ犬や狼がアンデッド化した魔物。群れで狩をすることが多く、人肉を大好物としている。


「な…なんだよ…あれ」
「ほ…ほねが…」
「う…うわぁー」

祐介が一目散に逃げようとするがすでに四方八方を囲まれており逃げる事は叶わない。

「そ、そんな…」
「死にたくないよー…ひぐ…ひっぐ」

志保はすでに恐怖で泣き崩れてしまっている。

(俺がなんとかしないと…俺が…)

そう考えている秀樹だが恐怖で足が動かない。

その瞬間…

「ギャアァァァ…」

1匹の死骨狼が祐介の足に噛みつき、経験したことのない激痛に叫び声をあげる。

「こ、来ないで!」
「ゆ、祐介!!どうすれば…くそっ…くそっ!」

助けたい気持ちはあるのがまだ足は動かない。
それどころか…

「キャァァァァ」

今度は志保が腕を噛まれて叫んだ。
志保も祐介も必死に振り払おうとするが死骨狼は中々離さない。
さらに別の個体もジリジリと距離を詰めてくる。
その骨だけの口からはなぜかヨダレがダラダラと垂れている。
まるで秀樹たちをご馳走だと思っているかのようだ。
それがさらに秀樹の恐怖を駆り立てた。

「た…たす…げで…」
「いだい…よ…」

秀樹は2人を見ることしかできない。
そんな秀樹にも1匹の死骨狼が飛びかかってきた。

(あぁ…死んだな…おれ…)

秀樹は死を受け入れたのか目を閉じた。

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