神の盤上〜異世界漫遊〜

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第6章 新天地と冒険者

漸ク合流

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ギルド〈イマジナリー〉開業式典当日の朝、咲良はカゼルにある話をしていた。

「俺そろそろ王都を出ようと思う」
「……そうか…寂しくなるな…」
「また来るさ」
「そうしてくれ…にしてもどうして今なんだ?」

そういえばカゼルにはまだイマジナリーについて話していなかった。

「今日ギルドが開かれるのは知ってるよな?」
「あぁ…それがどうした?」
「そのギルドの名前は〈イマジナリー〉、俺がいた世界の言葉だ」
「!!!…なるほど…知り合いかもしれないのか」
「そういう事だ。もし知り合いなら、一緒に行動するかはまだ分からないが、もし違っていたとしても、そろそろ拠点は変えようと思っていた」
「そうか…知り合いだといいな!」
「あぁ…」
「でもなんで一緒に行くか分からないんだ?」

最もな疑問を咲良に投げ掛ける。

「こっちに来て俺自身色々変わったし、この世界のルールにあいつらが合っているかどうかもわからん…向こうじゃ人はもちろん、動物ですら殺す事なんてないからな」
「平和な世界だな」

確かに地球の方が安全ではあるのかもしれないが、咲良はアスガルドの住人は良くも悪くも素直に生きているから、地球の人間はかなり卑しく思えてしまう。

「見かけだけだよ。つまり俺はこの世界に染まりつつある。それに…もし帰れない場合、ずっと異世界人の知り合いと行動するメリットはないだろう」
「…あぁ…そう言われればそうだな。こっちで住むならこっちの奴らと行動した方が馴染めるしな」

咲良のいう通り、もし地球に帰る方法が無かったとしたら、異世界人だけで固まって行動するのは得策では無い。

「だから、会ってから決めるんだよ。向こうに戻る事しか考えてなかったりしても嫌だけどな」
「なんでだ?」
「今を楽しもうとしてないってことだろ?自由に生きて運良く帰れたらいいなぐらいが俺には丁度良いんだよ」
「咲良らしいな。咲良は帰りたいと思ってるのか?」
「帰る方法ぐらいは知っときたいが俺にはこの世界があってると思う」
「そうか!」

カゼルは少し嬉しそうだ。

「じゃあ行ってくる」

ギルド〈イマジナリー〉につくと、入り口に大きな花がいくつも添えられており、その扉には「関係者以外立ち入り禁止」と書かれている。
中からは祝いの挨拶だろうかガヤガヤと声が漏れている。

「さて…どうなることやら。あいつらじゃなくても異世界人である事は間違いない」

ギルド〈イマジナリー〉に入ると中にいる数人が咲良をみる。

「…………りょう……た?」
「え?………ほんとだ!佐伯くんだ!」

中には秀樹と穂花がいた。
2人は大学で唯一付き合いがあったグループの友人だ。
ちなみに佐伯とは咲良の名字だ。

「やっぱお前らだったか」
「亮太!やっぱお前もこの世界に来てたんだな!」
「あぁ…お前らもな」
「佐伯くん…ずっと…探してたんだよ…佐伯くんだけが…み…みつからなくって!」

穂花が泣き崩れる。

「俺だけ?なら他のメンバーは全員合流してるのか?」
「あぁ…詳しく話そう」

秀樹はこの1年間のことを話し出した。

あの光に包まれてから秀樹と後輩2人と見知らぬ森にいた。そこで魔物に襲われて、偶然通りかかった冒険者に助けられた。
そしてコーチンの街に着くと同じくこの世界に来ていた穂花と先輩たちがいた。

その後生きるための術を学ぶために冒険者になり、依頼を受けて生活した。

しばらくコーチンで生活していると街に委員長の香織が他のメンバーを引き連れてやって来た。
香織はこの世界に来てから現状の把握、生きる術、帰る方法を知るために委員のメンバーを探し回りながら旅をしていたようだ。
そして1年かかったが運良く咲良以外の全員が場所は違えど同じ北の国の領土に飛ばされていた為合流できた。

咲良が合流できなかったのは仕方のないことだろう。なぜなら咲良が居たのは通称「強者の墓場」と呼ばれる世界樹の森にいたからだ。
この世界に来たばかりの異世界人はもちろん、アスガルドの住人でさえ入れば生きて帰ってこれないと言われている場所に捜索のために入るのは不可能だ。
世界樹の森はアズール大陸の最北端にあるが、北の国領内ではない。

咲良は運悪くそんな危険地帯に地球から飛ばされたが、他のメンバーが飛ばされた場所は街の中や近くの森だったそうだ。
また、飛ばされた際1人だけだったのは咲良だけ。他は最低でも3人は初めから一緒だった。

そして、コーチンを拠点にメンバーを探すためにギルドの設立を冒険者組合に申請した。
咲良以外が合流すると、今までは委員会のメンバー以外はギルドメンバーにしなかったが、地球に帰る情報を得るために王都にも支部を作り、これからはアスガルドの冒険者もメンバーとして加入することにしたらしい。

「なるほど…ならお前ら2人がここにいる理由は設立の際の責任者かなんかか?」
「そうだ。4日後にはコーチンに戻るつもりだが…」
「佐伯くんも一緒にコーチンに行こう!」
「そうしろよ。陸がかなり心配してたぜ…香織さんがここまで探して見つからないなら死んだんじゃないかって言っても陸は絶対生きてるって諦めなかったからな」
「陸か…懐かしいな」

咲良の唯一無二の親友の名を聞き、陸に会いたい気持ちが湧き上がった。

「佐伯くん!一緒に来てくるよね!?ギルドメンバーになって一緒に冒険しようよ!」
「そうだな。ギルドメンバーになるかどうかはともかく一度会いに行くのは賛成だ」
「なんでともかくなの?」
「そりゃ俺にもこっちの世界で色々あったからな…こっちに知り合いもいるしな」
「そりゃそうだよなこっちに1年以上いりゃ知り合いも出来るわな……」
「そういうことだ。なら4日後またここにくるわ」
「もう行っちゃうの!?せっかく会えたのに!」

穂花はもっと咲良と話がしたいらしい。

「コーチンに行くには一月は掛かるはずだ。王都でやり残したことをしておきたいからな。今日はお前らかどうか確かめに来ただけだ」
「そうか。わかった!待ってるぞ」
「何か用があればカゼル商会までくるといい」

その後、2人と別れて咲良は王都を出る前にしておきたい事に取り掛かった。
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