神の盤上〜異世界漫遊〜

第6章 新天地と冒険者

神器開放

「ふっ！」

脚に力を込めてゴーレムに向かって跳躍する。
魔力で出来た鬼哭の刃が届かないなら直接斬るまでだ。

ガリガリッ

しかし、ゴーレムに傷を付けただけで斬るには至らない。

（これもダメか……だが今の感触……そんな事あんのか？）

何かに気付いた咲良だったが…

ブオッ

ゴーレムが巨大な腕で咲良を殴ろうとしてくるので、避けようとするが…

「な！…ぐはっ！」

想像以上の速さに避ける事が出来ず直撃を喰らう。
咄嗟に腕を交差させて衝撃を緩和させるが、それでもダメージは負う。

ガガガガガガッ

かなりの距離を吹き飛び、砂を捲き上げながら地面を転がるが、地面に手をついて飛び上がり体勢を整える。

「ぐっ……くそっ！油断した！」

相手は災害級。気を抜けばこちらがやられる可能性だってある。

「出し惜しみしてる場合じゃない」

ここから咲良は本当の意味で全力を出す。最初から全力ではあるが、それは今のステータスでの全力だ。

「頼むぞ相棒…」

村正の刀身を指でなぞって呟く。

「村正……神器解放！」

その瞬間…
村正から黒い靄のようなものが吹き出し咲良を包み込む。

そして黒い靄が収まると咲良の身体は黒いオーラを纏い、村正の刀身は純白から漆黒へと変化していた。

「行くぞ村正…」

そしてその場から咲良が消え、次に現れたのはゴーレムの背後だ。

「……影突…」

咲良が呟くと自身の影から無数の黒い棘が出てきてアンデッドやゴーレムを貫いた。

「次だ…影縫」

すると貫いた黒い棘がゴーレムの足に巻きついた。
ゴーレムはもがくが棘が千切れる様子はない。


影突
村正の神器開放時のみ使用可能。村正の能力である闇操作を用いて影を棘状に変化させる。

影縫
村正の神器開放時のみ使用可能。影突を用いて敵を捕縛する。


ゴーレムは必死に逃げようとするが影縫は伸びる性質持っているため暴れる程に絡みつく。

「リベンジだ…肆ノ型 鬼哭！」

漆黒の刀となった村正の鬼哭をゴーレムの左胸に繰り出すと、今度はあっさりと貫いた。

なぜ今回はあっさり貫いたのか。
それは村正の神器解放の効果が、全ステータスが素の状態で最も高いステータスとなるというものだからだ。咲良のステータスで最も高いのは器用と精神であり、そのクラスはＳＳＳ。つまり今咲良の全ステータスはＳＳＳとなる。

「行けたが…致命傷って感じはないな」

鬼哭が左胸を貫いたにもかかわらず黒いゴーレムはピンピンしている…それどころか…

「！！！」

ドロドロとした液状になり影から抜け出した。

「そんなこともできるのか…」

咲良はゴーレムが元に戻る前に暁流 星墜を空に向かって放つ。

ゴーレムが元に戻った瞬間…

「落ちろ！」

ドドドドドドドッ

上空に留まっていた無数の斬撃が流星のごとくゴーレムに襲いかかる。

すると辺りにゴーレムの破片と思われる黒い塊が散らばる。
咲良は瞬時にステータスプレートでかざすと…

（やっぱりそうか…）


邪神魔像（災害級）
太古の昔、邪神によって生み出された生物兵器。その身体はアダマンタイトとスライムの性質を兼ね備えているので形状、耐久性を自由自在に変える事ができる。
また、その表皮からは無限にアンデッドを生み出す事ができる。


咲良が神器開放前に邪神魔像を切った時、その手応えや鑑定の技能からアダマンタイトなのではないかと予想していた。しかし、鑑定は無機物限定なので確信が持てなかった。


グゴガ…ギギ…ガァァ

邪神魔像は元の姿に戻っており、声なのかどうかわからない不快な音を発している。

「全身がアダマンタイト…宝の宝庫だな」

ニヤリと咲良は笑みを浮かべる。
差し詰め、お宝を目の前にした盗賊のようだ。
どうやら咲良はアダマンタイトを回収する気らしい。

「柔らかくなるなら加工もしやすそうだな」

すでに咲良の頭には鍛治の事でいっぱいで邪神魔像が災害級ということなどどうでもよかった。
普通の冒険者なら災害級と分かれば卒倒するところだが、生憎咲良は鍛治師としてアダマンタイトが大量に手に入るという事に舞い上がっているのだ。


ドシン…ドシン

邪神魔像がアンデッドを無数に生み出しながら咲良へと向かってくる。

「まずはあいつの能力をどうにかしねぇとな…」

少し考えると咲良は拡張袋に手を入れて小太刀を取り出す。

「力を借りるぞクロノス」

見た目は普通の小太刀だが能力まで普通である訳がない。
なぜならこの小太刀は能無（のむ）というクロノスが作った神器なのだから。


神器：能無
刀身が透き通るほど薄い小太刀。魔力発現体である。
神器解放:刀身が透明になり、切りつけると小時間相手の能力を封じる。刺さった状態であればずっと封じる。また、魔力を消費することで相手の封じた能力を使用することが出来る。


「能無 神器解放！」

すると能無は刀身が透明になり柄だけとなる。

「ふっ！」

咲良は邪神魔像に向かって全力で能無を投げつける。

ドスッ

見事能無は邪神魔像の左腕に突き刺さった。

「これでやりやすくなった」

咲良はすばやく邪神魔像の足元に移動すると残りのアンデッドを全て村正で切り刻んでいく。

グギ…ガガガガ…

ドシンッドシンッドシンッ

邪神魔像は足元の咲良が鬱陶しく思ったのかその巨大な足で咲良を踏みつぶそうとしてくるが、素早く距離をとり回避すると…

「暁流 飛翔乱撃！」

ドドドドドドッ

邪神魔像に無数の飛翔が命中し、身体のあちこちに切り傷を作るがまだ浅い。
次の行動に移るために邪神魔像に近づこうとしたその時…

ドン！！

邪神魔像が勢いよく跳躍し、空高く舞い上がった。

「げ…その図体でかよ」

流石の咲良も予想外だ。災害級というだけはある。

そして…

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ

空高く飛び上がった邪神魔像は巨大な隕石のように咲良へと落下していく。

「くそっ…あれはマジでやばい」

咲良は冷や汗を垂らす。
いくら咲良でもこの攻撃を受けると無事では済まない。
退避しようにもこれほどの規模の攻撃となると余波だけでも重傷を負いそうだ。

「暁流 飛翔乱撃！」

落下してくる邪神魔像に無数の飛翔を放つ。

「オラァァァァァ！」

その後も飛翔を怒涛の勢いで放ち続ける。
咲良は攻撃を当てることで邪神魔像の落下速度を落とすつもりのようだ。

ドガァーン
ドドドドドドッ

全ての攻撃が命中し、とてつもない音と衝撃が辺りに広がる。

だがそれでも邪神魔像の勢いはあまり変わらない。

「まだダメか…」

もう邪神魔像は目前まで迫っている。

「なら…」

咲良が集中力を高めると村正から闇がとめどなく溢れてくる。

「爆影刃！」

溢れ出た闇が漆黒の柱となり邪神魔像に向かっていき音もなく右半身が消失した。
闇は全てを飲み込む。音さえも…


爆影刃
村正の神器解放時のみ使用可能。闇の密度を極限まで高めてレーザーとして相手に放つ。この高密度の闇に触れたものは消滅する。


「ハァハァ…ハァハァ…」

咲良はかなり息を切らしているが、すぐに邪神魔像の落下地点から距離を取る。
爆影刃は威力は申し分ないが、魔力をとてつもなく消費するため、今の咲良でも連発は出来ない。


ヒューーーー

ドガァーーーーン

肝心の邪神魔像は地面に激突するが右半身が消失しているため当初より威力は弱い。
それでもとてつもない爆風と砂埃が辺りを駆け抜ける。

「ぐぅぅ……」

その爆風は凄まじく咲良も立っているのがやっとだ。

しばらくしてようやく邪神魔像の姿が目に入る。
失った半身を再生しようと左半身が溶け出したかと思うと元に戻り、また溶け出したかと思うと元に戻っている。
しかし、邪神魔像の左腕には能無が刺さっているので能力は使えない。

「チャンスだな」

咲良は未だスライム化しようとしている邪神魔像の元へと近づいていくが…

「あぁーーー！！！しまった！！」

何か思い出したのか咲良の表情は浮かない。

「アダマンタイトが…」

どうやら邪神魔像の身体がアダマンタイトで出来ているのを忘れていたようだ。超記憶も意識しなければ役に立たないと思い知った。
そもそもアダマンタイトを消し飛ばせる咲良が凄いと言えるが…


「ちっ…まぁしゃーねーか」

咲良は気を引き締め直し、トドメを刺すためにまず影縫で動きを封じる。
だが流石災害級と言うべきか。半身を失ったのにも関わらず暴れまわり影を解こうとする。

「まだそんな力が…」

咲良は驚きつつもその場で抜刀の構えを取る。

「暁流抜刀術 破常」

スパッ

ドシーン


咲良の十八番とも言うべき空間を断ち切る斬撃が邪神魔像を真っ二つに切った。
生存本能で邪神魔像が確実に死んでいるのがわかった。

「ふぅ…やっと終わったか」

ホッと一息つき、邪神魔像の死体、基アダマンタイトを回収してまわるが咲良の表情は険しい。
今回の戦闘は運が味方をしてくれた。咲良の見解では邪神魔像はその巨体から繰り出される一撃よりも、アンデッドを生み出す能力やスライム化の能力が主体の魔物だったように思える。能無の能力が無ければもっと苦戦していた可能性がある。

この戦闘を機にさらに修行が必要だと痛感した咲良だった。