神の盤上〜異世界漫遊〜

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第6章 新天地と冒険者

流桜始動

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次の日、カゼルは咲良にある仕事を持ち掛けて来た。

「早速咲良には流桜として仕事を頼みたい」
「もう客がいるのか?」
「あぁ。昨日の仕事はそれ関連でな」
「俺関連?」

王都に来たばかりの咲良を知る者は殆どいない。知人といえば鍛治師のサラか、門番のトマスだけなので、そこからだろうか。

「輸送業を営むハロルドという旦那がいてな、俺の得意先なんだ。どうも旦那はサラの店にある炎界をえらく気に入ったらしい。サラからは譲って貰えなかったみたいだが、製作者が誰かは知ったらしく、咲良と一緒に住んでいる俺に話が回って来たって寸法だ」
「どんな話なんだ?」

そのハロルドは輸送業の傍、冒険者でもあるのだろうか。でなければ武具は必要ないはずだ。

「旦那は冒険者でもあってな。A級の凄腕なんだ」

どうやら咲良の予想は当たっていた。A級冒険者と言えば超ベテランの域だ。

「なるほど。そのハロルドの旦那が俺に作って欲しいと言うわけか」
「あぁ。咲良も旦那を気にいると思うぞ。豪快で愉快な人だからな。今から会いに行こうと思うんだが」
「わかった」



王都アムルの中心にはどっしりと構えている中世ヨーロッパ風の城があり、地球の平均的な城の何倍もあると思えるほどの大きさがある。
ハロルドが営む輸送業社はその城近くにあり、建物の大きさから、かなり規模が大きいと見える。

「来たか!お、そいつが例の鍛治師だな?よろしくな坊主!」

中に入ると2mはあるだろう巨体と、立派な髭を生やした中年の男が近づいて来た。どうやらこの男がハロルドのようだ。

「はじめましてハロルドさん。咲良といいます」
「よせよせ堅苦しい。気楽にいこうや!」
「なっ?豪快だろ?いろんな意味で」

カゼルがボソッと耳打ちしてくる。

「聞こえてるぞー」
「おっと、こりゃ失礼」

怒らないところを見ると、器の大きさも容易に想像できる。

「立ち話もなんだから俺の部屋に来い。旨い菓子があるんだ」

3人はハロルドの部屋、基社長室へ案内され、フカフカのソファに座ると同時に秘書であろう女性が菓子と茶を前に並べる。

「これは東の国の菓子らしくてな。貴重な砂糖をふんだんに使った団子というものらしい」

出された菓子は日本人にはお馴染みの饅頭だった。やはりアスガルドの東の国とは、地球でいう日本のような国のようだ。咲良の名も東の国の名なので、少なからず縁があり、いつか行ってみたいと思っていた。

「坊主は名前からして東の国の出身だな?ならこの団子は懐かしいんじゃないのか?」
「いえ、東の国の名前ではありますが、行ったことはありません」
「そうなのか?珍しいこともあるもんだ。まぁそんな事は今は良い。人間色々あるからな」

ハロルドはそれ以上聞いてこなかった。咲良の中でハロルドの株は目下急上昇中だ。

「なら早速仕事の話と行こうか!」

ハロルドは立ち上がると、隣の部屋から布に包まれた2mはある大剣を持ってきた。

「坊主には俺の相棒であるこの大剣を打ち直してもらいたい」
「拝見しても?」
「勿論だ!じっくり見てくれ」

その大剣はかなり年季が入っている。刃も所々掛けており、柄に巻いてある布には泥や血が染み付いていた。

「そいつは俺が冒険者になった時からずっと使っていてな。だが度重なる戦闘でくたびれちまった。恐らくもう俺の腕力には耐えられない」
「確かに、もう武器としては使えないでしょう」
「最近は違う大剣を握っていたがしっくり来ない。やっぱり慣れ親しんだ武器が一番だからな」
「そうですね。しかし何故俺に依頼を?」
「炎界という剣は見事だった。あの技術があれば俺の大剣を蘇らせてくれるんじゃないかと思ってな」

ハロルドにはしっかりと物の価値を見極める目があるようだし、武具を大切にしていると大剣を見て分かった。なにより人として気に入った。

「わかりました。引き受けさせて頂きます」
「ほんとか!?ありがとな!!」
「いえ、ハロルドさんの剣を打てるなら俺も光栄ですよ」
「必要な素材があれば用意しよう」
「ありがとうございます。しかし持ち合わせがあるので大丈夫です」
「ところで旦那」

二人の会話を静かに聞いていたカゼルが唐突に割って入る。

「なんだ?」
「咲良は鍛治師として活動するときは流桜と名乗ってるんだ」
「そうか、覚えておこう」

こんな時にも宣伝するカゼルの商人魂に咲良は苦笑いをこぼす。


その後すぐにカゼル商会の工房に戻って作業に取り掛かる。

今回は炎界の時とは違いベースとなる大剣がある。ハロルドに馴染むように重さと重心、柄はそのままで強度を上げる必要がある。

そこで、一度柄から刃を取り外して溶かす。
元々使われていた素材もしっかり活用する。そうする事でより馴染むだろう。なによりこの大剣がそれを望んでいる。

刃が溶けると、そこに弾力性のあるウーツ鋼、粘着石、魔石、再生石を投入する。


再生石
魔力を流す事で少しずつ再生し、元に戻る性質を持った鉱石。


全て溶かし終えると冷やして、特製ハンマーで打ち大剣の形へと変えていく。


大剣ができたのは日が暮れた頃だった。
かなりの大きさの為、時間がかかったのだ。


次の日、出来た大剣をハロルドは持っていく。
カゼルは連れてきていない。

「お待たせしました。こちらになります」

昨日と同じ部屋に案内された咲良はハロルドの前に大剣を置く。

「では失礼」

ハロルドは大剣を手に取り感触を確かめる。

「……こ、こいつは……すげぇ…前よりも手に馴染むようだ。ここまでとはな…流石に驚いた」
「満足していただけて良かったです」
「あぁ、大満足だ!良かったな相棒!これでまた一緒に戦える!」
「では、今回の説明をしても良いですか?」
「あぁ、頼む!」

咲良は前の大剣と変わったところを説明する。

「まず、その大剣の名前はグレイデル」
「グレイデルか…いい名だ」
「重さや重心は全く同じですが、耐久性はかなり上げました。後、勝手ながら再生能力を付けさせて貰いました」
「再生能力?」
「はい。刃こぼれした時に魔力を流してください。そうすればゆっくりとですが再生します」

グレイデルを打つ際、再生石を投入したのはこの能力を付与する為だ。

「まじか!!」
「但し手入れはしっかりとしてください。後、再生能力にも限度はありますのでそこもお忘れなく」
「わかった!おっと、ちょっと待ってろ」

部屋を後にしたかと思うと直ぐに戻ってきた。手に小さな袋を握りしめて。

「これが今回の報酬だ」

手渡された袋を開けると中には金貨が大量に入っている。目測だが50枚はあるだろう。

「こんなに受け取れません。タダでも構わないと思っているので。まぁカゼルには紹介料を払って貰いますが」
「む、そうか。だがせめて半分は受け取ってくれ。これ以上は譲らん」
「分かりました。では遠慮なく」

袋から金貨20枚ほど取り出して仕舞う。

「残りの半分は借りにしておく。何かあればいつでも俺を頼れ」
「ありがとうございます。ではまた」
「おう!」


流桜としての初めての仕事がハロルドで良かったと思いながら咲良は帰路に着いた。
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