神の盤上〜異世界漫遊〜

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第10章 異世界人と隠された秘密

危険個体

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「話とは何です?」
「深刻そうな表情だな」

サイモンとハロルドが緊張した様子で尋ねてくる。普段冷静な咲良とマリアが深刻な表情を浮かべているのが2人には酷く恐ろしく感じた。

「そんな深刻な問題なの?」

ソフィも咲良があまり見せない表情である事に気付き、不安な気持ちが押し寄せる。

「話というのは他でもない。彼らを殺した奴についてだ」
「犯人が分かったのか!?」
「魔物であるのは間違いないだろうが…どんな魔物かは俺も分からん」
「なら何が分かったと言うのです?」
「彼らを襲った魔物は……1体だ」
「……え?」
「お、おいおい!そんなバカな!」
「咲良…本当なの?」

当然ながらマリアは気付いているので驚かないが、それ以外は衝撃的な事実に目を見開いて驚く。

「戦闘痕から見ても間違いない。恐らくその1体の魔物にここまで追われたんだろう」
「何故そう言い切れるのです?」

サイモンは何故其処まで言い切れるのか分からず咲良に問いかける。

「そもそもこんな狭い通路で魔物の群れと混戦したっていうのは無理がある」
「それは…確かに」

咲良の言い分にサイモンは納得した。確かに目の前の部屋は広いが、それはあくまでこの通路に比べての話だ。この部屋に調査部隊と救出部隊、そして魔物の群れが入るほどのスペースは無い。

「それと…こっちの通路で俺達は一度も魔物に遭遇していない。もし彼らを襲ったのが複数の魔物ならそいつらはどこに行ったんだ?」
「なるほどな…」
「理由はまだあるぞハロルド。右側の通路では魔物は追いかけて来なかったのに左側の魔物だけ追いかけてくるってのも変な話だろ」
「坊主…すげぇな。完全に盲点だった」
「マリアも気付いていたぞ」

咲良の観察眼にハロルドは心底感心するが、それと同時に特級との差を痛感した。冒険者階級でS級というのは一流に相当する筈なのだが、特級冒険者と戦闘面だけでなく観察眼でもここまで差があるとは思ってもいなかったのだ。

「これらの事から考えられるのは…その1体の魔物はこの通路を徘徊している可能性がある。つまり…」
「俺達も鉢合わせる可能性がある…という事か」
「その通りです」

咲良に代わってマリアが説明を続ける。咲良にだけ話をさせるのは気が引けたのかもしれない。

「更に言えば…その魔物はSS級の可能性が極めて高いと思われます」
「…SS級ですか…」

マリアの言葉にサイモンはゴクリと固唾を呑む。S級とSS級の魔物では強さの格が違うので魔力が使えない状況では出会いたくない相手だ。

「なので警戒を怠らないようにしなければならないのですが…それよりもこれからどうするかを考えるべきです」
「今回の依頼内容は救出及び内部調査。救出は手遅れだと分かった今、調査に移行すべきだがここは思った以上に危険だ。帰還するというのも選択肢の一つだ」

マリアの言葉を補助するように咲良が言うと、一同はどうすればよいのか考えだす。依頼遂行を目指すなら奥に進むべきだが、冒険者は引き際を見極めなければ生きてはいけない職業だ。

「俺は調査すべきだと思う。俺達が帰還してもどうせ他の奴が行く羽目になるんだからな」
「私も賛成です。それに…今は咲良くんという強力な味方がいますからね。咲良くんが王都に滞在している今がチャンスだと思います」
「私も調査したい!あの人達が何で亡くなったのかは知るべきだと思う!」
「だそうですよ咲良さん。どうしますか?」
「ま、良いんじゃないか?元々そのつもりで準備して来たんだ」

咲良はやれやれと首を振りながらも一同の意見を了承する。
この時気付いたが咲良はいつの間にかこの臨時パーティの決定権を持つリーダー的存在になっていた。無論特級冒険者である咲良がリーダーとなるのは何ら不思議な事ではないが、ギルドマスターのマリアを差し置いてリーダーになるのは少しばかり違和感だ。

「で、調査するにしてもどこから当たる?この通路の先に何があるかは知らないが、奥に続いているのは間違いなく右側の通路だ」
「その根拠は何だ?」
「さっきも言ったが右側の通路にいる魔物は近づく者だけに襲い掛かる。まるで何かを守るようにな。後は俺の勘だ」
「一理あるな。それに特級冒険者である坊主の勘というのも無視は出来ん」

ハロルドの言う通り、一定以上の実力を持ちつつ多くの経験を積んだ者の勘は案外当たる。咲良の場合は経験による勘はもとより、生存本能による第六感があるので勘の鋭さは他者の比ではない。

「咲良はどっちに行くべきだと思う?」

ソフィは自分も勘で分かるのではと思い実行してみたが、現実はそう甘くはないようで咲良に助言を求めた。

「俺なら右に行く。調査するには奥に進むのが一番効率的だからな。まぁこの通路でも何かしら見つかるかもしれんが…無ければ時間と体力を消費するだけだ」
「私も咲良さんの意見に賛成ですね。右の通路の方が危険ではありますが臭うのは確かです」
「2人が言うならそうなんだろうな」
「そうですね。しかし…あのS級の魔物の群れをどう突破するかが問題です」

サイモンは先程命の危機が何度かあった戦闘を思い出す。咲良とマリア、そしてクロの援護が無ければ死んでいた可能性もあったのだ。

「俺が先頭、クロを殿に配置して一点突破する。皆はその援護に回ってくれ」
「このパーティではその陣形がベストですね」

マリアは咲良の案に賛同する。最も攻撃力のある咲良が先陣を切り、次に強いクロが殿を務める事でソフィ達の負担を減らす事が出来、尚且つ中心のソフィ達に経験を積ませる事も可能となる。

「クロ…頼むぞ。これからの戦いは厳しいものになるだろう。何かあった時は氣を使える俺とクロで対応しなきゃならん」
「キュイ!」
「ふっ…頼もしいな」

咲良はクロの頭を撫でると、一同を連れて右側の通路へと続く分岐点まで歩き出した。
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