神の盤上〜異世界漫遊〜

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第9章 派生流派と天乱四柱

謎ノ大蛇

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「おいおい、慌てすぎだ」

焦るフィリスとガイモンの姿に咲良は呆れるがそれも仕方のない反応だと切り替えた。

「邪神魔蛇は俺とクロでやる。お前らはこの地に誰も入らないようにしてくれ。ソフィもだ」
「うん!」
「だがな…」

ガイモンはまだ渋っているようで険しい表情を浮かべる。

「初対面の俺を信じられないのも無理はない。だから同じ天乱四柱のフィリスを信じろ」
「む…そういわれると返す言葉が無い」
「なら決まりだな。咲良、頼んだぞ。お前の事だから大丈夫だとは思うが決して油断はするなよ」

フィリスは直接咲良の力を見た事が無いので忠告を促す。

「もちろんだ」
「咲良…無茶しないでね。クロちゃんも」

ソフィは咲良を信じているがそれでも心配な事に変わりは無く、そしてこの状況で何も出来ない自分が歯痒いのか複雑な表情をしている。

「ソフィもな。2人の足を引っ張る事になるかもしれないが自分の出来る事をしっかりやってこい」

ソフィの仕事はフィリス、ガイモンと共に咲良の戦闘に邪魔が入らないようにする事だ。つまり森の手前付近まで戻る事になるので魔物の群れと戦う可能性が高い。

「うん!自分なりに頑張ってみる」
「頑張れ。フィリス、ガイモン…ソフィを頼んだ」
「もちろんだ」
「儂に任せておけ」

咲良より弱いとは言っても天乱四柱の彼らはSS級冒険者だ。これほど頼りがいのある護衛はなかなかいないだろう。

「ならいけ。お前らがある程度離れたらすぐに仕掛ける」

咲良の一声でソフィ達はその場を離れて行った。

「クロ、これから厳しい戦いになるだろうが…覚悟は良いな?」
「キュイ!」
「良い返事だ…お、あいつらの気配がかなり遠くなった。そろそろ行くか」

咲良は魔装を発動すると村正を鞘から抜いて地面に突き刺した。

「先制攻撃だ。暁流肆ノ型 鬼哭!」

魔力と氣で生み出された刀身がズズズズッと地中奥深くまで突き刺さっていく。

「…ビンゴ」

伸びている刀身から何かを貫く感触が伝わって来た。

ドドドドドドド!

すると大地震でも来たかの様に地面が大きく揺れ始めた。

「来るぞクロ!」
「キュイ!」

咲良とクロが瞬時にその場を離れた瞬間…

ドガァーーーン!

咲良達が居た地点から地面を突き破って強大な大蛇が姿を現した。目測で全長1キロはあろうかという程巨大で長い。

「こいつが邪神魔蛇…か?」

咲良は現れた大蛇を見て少し不審に感じた。目の前にいる大蛇は間違いなく地中でずっと感知していた個体だ。だが邪神系の魔物にしては肌に伝わる威圧感が少し足りない様にも感じる。

(蛇を生み出すのに体力を使ったって事か?それか本体じゃないか…だが他に気配は感知出来ない)

「クロ、やるぞ!」
「キュイキュイ!」

一先ず目の前の敵に集中するために気持ちを切り替えると咲良は手を前に突き出した。

「氷花!」

咲良の掌から氷の結晶が生み出され大蛇へと舞っていき、大蛇の体のあちこちに付着する。
すると…

パキッパキッパキッ

氷花が触れた部分は花が咲くかのように凍り始めた。

ドンッドンッドンッドンッ!

大蛇は身体が凍る痛みで周りの木々をなぎ倒しながら暴れる。

「ちっ…ここまで巨大だと動くだけで地形が変わるな」

咲良は更に氷花を生み出して大蛇の体を凍らしていくが大蛇は更に激しく暴れまわった。
大蛇が凍り付いた時、既に森は原型を留めておらず荒野の様な景色へと変わっていた。

パキパキパキ

凍り付いたはずの大蛇から氷が割れる音が聞こえた。そして頭の部分の氷が砕け散るとそこからスルスルと大蛇が姿を現した。

「脱皮して逃れたか。器用な奴だな」

大蛇が抜け出た氷の中には皮が付着していた。どうやら氷花は体内まで凍らすには至らなかった様だ。

「クロ!行け!」

咲良の合図でクロが炎弾を数発放つ。
炎弾は見事命中し、辺りに焦げ臭い匂いが充満する。

「大した威力だ。これなら…氷剋 絶対零度…」

クロが放った炎弾によって脱皮したばかりの鱗が剥がれたので、そこに向かって咲良はすべての生命を停止させる無慈悲な魔法を発動する。

今度はパキパキと凍る音すらなく大蛇は生命を停止させた。

「おかしい。どうなってる」
「キュイ?」

絶対零度は咲良が今放てる最強の氷剋魔法だ。災害級にも効果はあると自負しているがこれでは効果がありすぎる。

(邪神魔狼の様に変化すると思ったんだが…)

邪神魔狼は体毛を黒くさせる事で真価を発揮した。この大蛇もそうなると思っていたのだが結果はあっさりと勝ってしまった。

咲良がこれからどうするべきか考えていたその時、今まで何度も救われてきた技能、生存本能が危険であると警笛を鳴らす。

「やばい!クロ!」

咲良は咄嗟にクロを掴んで遠くへと投げ飛ばした。

「ぐふっ…」

そして足元から音もなく尻尾の様な物体が現れ咲良を吹き飛ばした。

「…ぐ…くそ…何故だ…」

咲良は何とか体制を整えて着地する。クロは咲良のお陰で難を逃れた様でこちらに飛んできていた。

「気配が…ない」

咲良を吹き飛ばした正体は先程倒した大蛇とよく似た大蛇だが一切気配を感知出来なかった。それどころか目の前にいるにも拘らず今なお感知する事が出来ない。

「ソフィと同じ…いやそれ以上だ」

ソフィも気配を断つ事が出来るがまだムラがあるし、生存本能の勘である程度居場所が分かる。しかし目の前の大蛇は気配をまるで感じず、生存本能の勘も働きにくくなっている。
先程も生存本能によって気付く事は出来たが、勘の働きが普段より遅く避けるには至らなかった。

「これは思った以上に厄介な敵だ。感覚を狂わせる力を持っているかもしれん」

咲良の額から一粒の汗が滴り落ちた。
自身は気付いていないが無意識に村正を握る拳の力が強くなるほど焦っていた。
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