神の盤上〜異世界漫遊〜

バン

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第9章 派生流派と天乱四柱

竜ノ守人

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咲良とクロは露店を何店舗か回った後、町の入り口付近の宿を取った。

「さてクロ、これからの旅についてだが…本格的に異世界人について調べようと思っている」
「キュ?」

クロは何故?という風に尋ねる。

「邪神系の魔物や邪神教といい妙な事件が多すぎる。あまり考えたくはないが邪神が復活するという可能性も考えないといけない。もちろん対抗する術もな」
「キュ…」

クロは真剣な眼差しで咲良を見つめる。

「クロ、お前がその対抗する術だ。今はまだ分からないだろうがな……そしてこれは直感だが邪神と異世界人には何かしらの繋がりがある様に思える。だからこれからは世界の謎に迫りつつ力を付けよう。俺たち2人でな」
「キュ…キュイ!」

クロはまだ完全に理解した訳では無さそうだが頑張る意思を咲良に示す。

「ならここでしっかり休養を取ろう。これから忙しくなるからな」

その後最近取れていなかったクロとの時間を楽しんでいると来客が来た。正確には来る気配を感じ取った。

「ソフィが来た様だ」

コンコンコンッ

「咲良さんですか?」
「あぁ、入れ」

部屋へと入って来たソフィだが、悲愴感漂う面持ちで普段の明るさは微塵も無かった。

「ちゃんと俺の居場所が分かった様だな……にしても…何かあったのか?」
「あ…あの…それが…」

ソフィはポロッと小粒の涙を流すとその場に座り込んでしまった。

「お…おい…」

咲良は突然の事に少し動揺するも、ソフィを椅子に座らせて落ち着くのを待った。

「すみません…ご迷惑おかけして」
「気にするな。海斗に何かされたのか?」
「そうじゃないんです。ただ、海斗君は私と一緒には来ないそうです」
「…そうか。まぁそれはソフィも予想出来ていただろう?」

海斗が一緒に来る可能性は高くない事は予想出来た。異世界人について何も知っておらず、六華亭という自分の店まで持った海斗はもしかするともう帰る希望を失っているのかもしれないからだ。

「海斗君はこの世界で生きていく事を選んだそうです。念願だった自分のお店を持つ事が出来たから幸せだって…」
「地球に未練はないと?」
「未練はあるそうですがもう諦めたと…今は生きる事で精一杯だそうです」
「ある意味賢明な判断だな。どこぞの馬鹿な異世界人よりな」
「何のこと?」
「いやこっちの話だ。だがそれほど辛かったのか?」

一生馬が合わないであろう女の姿が脳裏を過ったがすぐに話を元に戻す。

「一緒に来ないと言われた時、また1人になるんだって思うと…」
「何故1人になるんだ?俺とクロがいるだろう」
「え?けど…」
「友人は他にも居るだろう。また探せばいい」
「…いいの?」
「俺はそこまで冷たい人間じゃないさ」
「ありがとう…本当に……1人になるのはもう嫌…」
「旅は賑やかな方が楽しいからな。まぁ俺の旅は危険度が高いだろうが」

咲良は冗談半分でフッと笑みを浮かべるとソフィも釣られて笑みを浮かべた。

「そういえばソフィ、口調が変わってるぞ」

今までは咲良に敬語で話していたソフィだったが比較的フランクになった。1人にしないと言ってくれた咲良に本当の意味で心を開いたのかもしれない。

「あ…うん。ダメかな?」
「いいんじゃないか?その方がソフィらしい」
「そ、そうかな…」

ソフィは恥じらいからか赤面するが、その様子を見た咲良は性格も少し柔らかくなったんじゃないかと思わずにはいられなかった。

「なら改めてこれからよろしくソフィ」
「うん!よろしく咲良さん」
「さん付けも辞めたらどうだ?」
「そうだね…咲良」

咲良が微笑みながら手を差し出すとソフィは力いっぱいその手を握りしめた。

「ソフィ、提案なんだがパーティを組まないか?」
「パーティ?」
「そうだ。ギルドでパーティとして登録するんだ」
「本当の仲間って事になるね!」
「そうだな。そうと決まればすぐにでも行こう」

機嫌がうなぎ登りで良くなったソフィを連れて、咲良とクロはトーレリアスにたった一つだけあるギルドへ向かう。

「こんばんは。ご用は何でしょう?」
「パーティ登録をしたい」
「畏まりました。ではこちらに必要事項のご記入をお願いします」

受付嬢に手渡された洋紙にはパーティ名と所属者名を記入する欄があった。

「パーティ名か…考えてなかったな」
「どんな名前が良いかな…異世界の住人とか?」
「……ソフィ…」

咲良は呆れた視線をソフィに向ける。

「え?ダメだったかな。シンプルで良いなと思ったんだけど」
「シンプルすぎて個人情報ダダ漏れだ…異世界人だと言いふらしてる様なもんだぞ」
「じゃあ咲良は良い名前浮かんだの?」
「そうだな…竜の守り人というのはどうだ?」
「竜の守り人?どうして?」
「そういや俺の事をまだ話してなかったな」

ソフィにはまだクロの正体や世界の調停者について何も話していなかったが、これからパーティとして行動する以上ソフィには知る権利がある。今日にでも話せる事は話しておこうと咲良は心の中で決めた。

「それは後で話すとして俺はクロの親だ。それにソフィもよく面倒を見てくれる。だから竜の守り人だ」
「そっか、良い名前だね!私たちにピッタリだよ!」
「キュイキュイ」

クロもパタパタと2人の頭上を飛び回り上機嫌だが受付嬢には姿も声も捉えられていない。

咲良はアスガルド文字で竜の守り人と洋紙に記入した。

「後はメンバーだが椿も入れようと思う」
「それは良いけどここにいない人を勝手に入れる事出来るの?」
「それは任せろ」

咲良は洋紙の記入欄に名前を書くと受付嬢に手渡す。

「あの、こちらの椿という方はもしかして…」

椿が特級冒険者である事は世間にはあまり広まっていないがギルド職員は流石に把握しているようだ。

「特級冒険者の椿だ」
「やはりそうでしたか…申し訳ございませんがこの方をあなた方のパーティに所属させる事は出来ません」
「この場にいないからか?」
「連絡手段があればこの場にいない人物をパーティに所属させることは可能ですが特級冒険者となると話は変わってきます。まだ実績のない新設のパーティにギルド最高戦力の特級冒険者が所属出来る筈もありません」

心なしか受付嬢からは不機嫌な様子が見て取れる。

「椿の事は知っていても俺の事はまだ知らない様だな」

咲良は右手の人差し指に嵌めている特級冒険者専用の指輪を出すと受付嬢はまじまじと見つめて目を見開いた。

「こ…これは……まさか…もしかしてあなたが13人目の特級冒険者!?」

受付嬢が声を荒げて驚いたために、周りにいた冒険者は何事だと視線をこちらに向ける。

「そんなに驚く事か?」
「いやしかし……すみませんがステータスプレートの提示をお願いします」

受付嬢はまだ信じられないようなので咲良は大人しくステータスプレートを差し出す。そこには色々隠蔽されてはいるが職業欄にしっかりと特級冒険者と記されていた。

「し、失礼しました!」
「ふぅ…もう良いから早く手続きをしてくれ。ギルドになら椿と連絡を取る手段があるだろう」
「はい!すぐにでも手配致します!」

受付嬢は急に慌ただしく動き出した。
その後時間は掛かったものの何とかパーティ登録を終えた。ギルドには椿と直接連絡を取る手段はなかったが椿がどこかのギルドに来た時に確認を取ってくれるそうだ。

こうして後に天乱四柱と並んで後世まで語り継がれる竜の守り人が誕生した。
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