神の盤上〜異世界漫遊〜

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第9章 派生流派と天乱四柱

悩ムル者

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「そうか。ジャンは逃げたか」

暁月流の道場に戻って琴音に事の顛末を報告する。琴音は何か気になる事がある様で険しい表情を浮かべる。

「邪神教か…」
「何か知っているのか?」
「あぁ。天乱四柱と呼ばれる冒険者の1人から古代の遺物について聞いた事がある」
「マリアとフィリスか」
「知り合いか?」
「まぁそんな所だ」

天乱四柱はかなり有名な様だが冒険者の階級でいえば琴音の方が上だ。そんな琴音がマリアやフィリスと知り合いなのは不思議な事ではない。

「なら咲良は古代の遺産が邪神に関連する魔物なのは知っているか?」
「あぁ、2体ほど倒した事がある」
「…は?冗談だろ?」

咲良の発言に琴音は苦笑いを浮かべる。

「この状況で俺が冗談を言うとでも?」
「邪神系統の魔物は災害級に分類されるんだぞ?」
「災害級!?本当ですか咲良さん!?」
「運よく相性の良い相手だっただけだ」
「それでもとんでもない事には変わりねぇんだが…話が逸れたな。その古代の遺物が近年世界中で突如現れて猛威を振るう事件が何件も起きている。しかもいきなり現れると暴れるだけ暴れてパッと消えちまうらしい」

琴音の言葉に椿は思わず息を呑んだ。
嘗て椿が遭遇した赤竜も災害級に位置しているのでその恐ろしさは身に染みて分かっている。思い出しただけでも身震いするほどに。

「初めて聞いたぞそんな情報」
「そりゃ当然だ。俺独自のルートで得た情報だからな。ギルドは把握出来ていねぇだろうさ」
「ギルドが把握していない?」
「あぁ…だが不思議な事じゃねぇぞ。古代の遺物が暴れたのは他の大陸だからな。いくらギルドといえど他の大陸の情報を得るのは難しいからな」
「なるほど。その情報をギルドに伝えていないのは情報源を知られたくないからか」
「そういう事だ。まぁこの大陸でも古代の遺物が現れていた事は知らなかったが…」

琴音は少し眉を寄せながら咲良を軽く睨む。
どうやら咲良が邪神魔像と邪神魔狼を倒したという情報を掴めていなかった事が悔しいらしい。

「ギルドにも伝えなかった情報を俺にはあっさりと教えるんだな」
「咲良になら構わねぇよ。お前も色々重要な情報を知ってそうだからな」
「俺を情報源にするつもりか」

確かに咲良は邪神や神器、クロノスの事など他では知り得ない情報を数多く持っている。それは必要な者からすると喉から手が出るほど欲しい情報だ。

「咲良にとっても悪い話じゃねぇだろ?」
「良いだろう。だが何でも話すと思ったら大間違いだぞ」
「分かってるぜ。それで良い」

琴音と契約を交わした後、咲良は疲れを癒す為に休息を取った。


次の日、部屋に近づく気配を感じた咲良は目を覚ます。

「咲良さん、入っても良いですか?」
「椿か。入れ」

中に招き入れると椿の表情が浮かない事に気付いた。
椿の他にもう1つの気配を感じたが、その人物は出てくる様子はない。

「どうした?」
「邪神教の事で少し…」

ジャンの所からこの屋敷に戻る途中で椿は咲良から邪神がどんな存在なのか簡単に聞いていた。その所為で椿はこれからどうすればいいのか分からなかった。

「邪神を復活させるなどあってはならない事です。しかし…今の私では何も出来ない事を痛感しました」
「お前はどうしたいんだ?」
「もちろんジャンを止めたいです。それに転移結晶という外道な魔道具マジックアイテムも使わせる訳にはいきません」

椿の中で転移結晶を作る為に人間の心臓を使うなど許せなかった。そして非人道的な魔道具を平気で使う邪神教も見逃す訳にはいかなかった。
しかし、今回の戦闘で椿はジャンに勝てなかっただけではなく、覚悟の無さから咲良の邪魔までしてしまった。それは特級冒険者、そして暁月流の後継者として恥ずべき事だ。

そもそも咲良が何故魔紅晶の製造方法を知っているのかについてだが、情報源はもちろん伝説の鍛冶師クロノスだ。彼からは魔紅晶以外にも決して製造してはならない物、手元にあっても素材に使ってはいけない物が多数ある事を聞いていた。だがそれはあくまで鍛冶師の修行の一環として教わっただけなので作った事など勿論ない。


「で、俺にどうしろと?」
「私を咲良さんの旅に連れて行って下さい!」

椿の突然のお願いに咲良はどう返事をすればいいのか迷った。椿は邪神教と戦うにはまだ実力が足りない。しかしソフィを同行させている今、足手纏いだからという理由で断ることは出来ない。
今後の伸びしろを考慮すれば連れて行っても良いのではないかと考え、答えを椿に告げようとしたが咲良が言葉を発する事は無かった。今の椿に最も相応しい答えを持っている人物がこちらに向かって来たからだ。

「椿、今出ていくのは俺が許さんぞ」

近づいて来た人物、琴音が眉間に皺を寄せながら椿に声を掛ける。

「し、師匠!聞いていたんですか!?」
「お前が深刻な顔をして咲良の元に行くのが見えてな。話は聞かせてもらったぞ」
「行かせて下さい師匠!」
「ダメだ。今のお前にはまだ実力が無い。俺の気配に気付けなかったのが証拠だ。咲良は初めから気付いていたぞ」
「確かに…私は師匠の気配を感じ取れなかった。だからこそ私は咲良さんと行きたいのです!強くなるために!」
「理由はよく分かった。だがダメなものはダメだ」

琴音はどうあっても椿を旅に出させる気はないらしい。

「そんな…」
「そう落ち込むな。今はダメだと言っているんだ」
「それはどういう…」
「着いてこい。咲良もだ」

言われるがまま2人は琴音の後を着いていく。

案内されたのは屋敷の大広間だった。
琴音は大広間の角まで進むと床に敷き詰められた畳の一枚をバンッと力強く叩く。するとカラクリ扉の様に畳が開き、その下から地下に続く階段が姿を現す。

「こんな仕掛けがあったなんて…この先に何が…」
「行けば分かる。黙って着いてこい」

階段を下りると琴音は光を灯す魔道具マジックアイテムを起動させる。そして目に入ってきたのは一本の刀が安置された小さな祭壇だった。
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