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第9章 派生流派と天乱四柱
竜ノ威圧
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「おい、止まれ」
「何だてめぇら…何しに来やがった」
咲良と椿が堂々と屋敷の門に歩み出ると、門番をしていた2人の男が立ち塞がる。
「どうも」
「さようなら盗賊さん」
咲良と椿は同じタイミングで門番を殴ると、門を突き破って屋敷の奥まで吹き飛んでいった。
「何だ!!」
「何が起こった!?」
「すげー音したぞ!」
門の吹き飛ぶ衝撃音が屋敷中に響き渡った為、中が慌ただしくなる。
咲良と椿は悠々と屋敷に足を踏み入れる。屋敷は4階建てでロの字型をしており、中央は中庭となっている。その広場の奥からは4階に直通している大階段が一際目立つ。
「何者だ!」
「侵入者か!?」
事態を把握した数人の盗賊が武器を構えて2人の前に躍り出る。
「お前らここがどこか分かってんだろうな?」
「へへっ…良いじゃねぇか。カモにしてやるぜ」
「命知らずの馬鹿だな」
「それか余程の変わり者だな」
その盗賊は咲良と椿を襲った4人の盗賊だった。
「お前らか。道案内ご苦労だったな」
「盗んだ物は返してもらいますよ」
「ん?……あっ!」
「お、お前らはさっきの!」
盗賊共は咲良達の顔を覚えていたらしく、予想外の侵入者にかなり動揺している。
「なんでてめぇらがここにいやがる」
「簡単な事だ。襲われたフリをしてお前達の跡を付けていた」
「あなたたちのお陰でここを探す手間が省けました。感謝しますよ」
椿は馬鹿にしたように笑みを浮かべながら盗賊に言葉を投げかける。
「ふ…ふざけやがって!」
「また奪ってやるよ!」
「演技とはいえ気分は最悪だった。お返しはさせてもらうぞ」
「もちろんです」
2人は愛刀を抜く事無く距離を詰めて、各自1人ずつ瞬時に蹴り飛ばす。
「なにっ!」
「くそがっ!」
いきなり仲間を吹き飛ばされた盗賊は驚愕するが、ジャンに鍛えられているだけあって直ぐに切り替えて襲い掛かって来た。
そして周りに集まっていた他の盗賊も次々と2人に襲い掛かる。
『やはり中々骨がありますね』
『そうだな。ちらほらとA級程度の奴もいる』
『そこまで正確に分かるとは流石ですね』
2人は無数の攻撃を躱しつつ念話でやり取りする。
『それよりあそこを見ろ』
咲良は視線で大階段を示す。その大階段の真ん中付近に1人の男が立っていた。
『あれは…』
『気配からしてあいつがジャンだな?』
『ジャンです。間違いありません』
『なら行け。作戦通り他は俺に任せろ』
『はい!』
椿はジャンへと向かおうとするが、二人を囲むように大勢の盗賊が立ち塞がる。
『数というのは厄介ですね』
『任せろと言ったはずだ』
咲良が念話でそう言った瞬間、椿は背筋が凍りつく様な感覚に陥った。
(こ…これは……)
椿はこの感覚に覚えがあった。
かつてA級依頼を受けた時の事だ。当時椿はまだ特級には程遠く、S級に一歩足を踏み入れた程度の実力しかなかったが異例の速度でS級に昇格したため有頂天だった。そしてA級依頼でイレギュラーが起きた。討伐対象の魔物を倒して一安心した瞬間、目の前に燃えるような真っ赤な鱗の竜が現れたのだ。椿はその竜に睨まれた瞬間、身体中の穴から水分が抜け落ちるような感覚を覚えた。もしかすると実際に水分が抜けてしまったのかもしれないがそれは最早分からない事だ。
今椿が味わっている感覚はまさしく竜に睨まれるような感覚だった。
(これは…咲良さん?……しかし…)
この現象を起こしているのは間違い無く咲良だが、正体が何なのか椿には分からなかった。
ふと周りを見ると盗賊全員がガクガクと脚を震わせて怯えている。殺気による恐怖ではなく、存在自体を否定されるような雰囲気に呑まれている。
「さ、咲良さん…これは一体…」
「お前には教えておいてやる。これは竜格だ」
「りゅうかく?」
「人間には決して出せない竜の覇気を纏った威圧だ」
「りゅ…竜の?」
咲良が発しているのは黒竜の覇気を纏った威圧で導き手となった時に得た力だ。咲良はこれを竜格と呼んでいる。
殺気は「殺すぞ」と相手を脅す技で、実力がある、もしくは殺しに長けた者なら誰もが発せられるが抵抗する手段はいくらでもある。
しかし竜格は抵抗手段がほとんど無い。なぜなら「殺すぞ」ではなく「図が高い」であり、格の違いを分からせるものなのだから。
アスガルドに住む多くの種族は絶対的強者である竜種を本能的に恐怖する。ならば世界の調停者である黒竜の威圧を放つ咲良に怯えない者は少ないだろう。
椿が比較的平然としているのは咲良が竜格をコントロールしているからだ。
「行け。これで誰もお前とジャンの戦いを手出しする事はない」
「あなたは一体……」
椿は咲良に何かを聞こうとしたが、踏み留まったのかジャンへと向きなおると走って行った。
「さて、あいつらの戦いを観戦しても良いんだが…お前らどうする?」
咲良が周りの盗賊供に訊ねるが返事は返ってこなず、ポタポタと汗が地に落ちる音が聞こえてくる。
「悪いが竜格を弱める事は出来ない。格というのは下げられる代物じゃないからな」
盗賊供には何を言っているのか分からないだろう。それどころか耳にすら入っていないかもしれないが咲良は独り言を続ける。
「後悔しろ。お前らがこれまでしてきた悪事をな」
咲良はゆっくりと前に歩み出す。
まるで絶望が目の前に舞い降りたかの様に…
「何だてめぇら…何しに来やがった」
咲良と椿が堂々と屋敷の門に歩み出ると、門番をしていた2人の男が立ち塞がる。
「どうも」
「さようなら盗賊さん」
咲良と椿は同じタイミングで門番を殴ると、門を突き破って屋敷の奥まで吹き飛んでいった。
「何だ!!」
「何が起こった!?」
「すげー音したぞ!」
門の吹き飛ぶ衝撃音が屋敷中に響き渡った為、中が慌ただしくなる。
咲良と椿は悠々と屋敷に足を踏み入れる。屋敷は4階建てでロの字型をしており、中央は中庭となっている。その広場の奥からは4階に直通している大階段が一際目立つ。
「何者だ!」
「侵入者か!?」
事態を把握した数人の盗賊が武器を構えて2人の前に躍り出る。
「お前らここがどこか分かってんだろうな?」
「へへっ…良いじゃねぇか。カモにしてやるぜ」
「命知らずの馬鹿だな」
「それか余程の変わり者だな」
その盗賊は咲良と椿を襲った4人の盗賊だった。
「お前らか。道案内ご苦労だったな」
「盗んだ物は返してもらいますよ」
「ん?……あっ!」
「お、お前らはさっきの!」
盗賊共は咲良達の顔を覚えていたらしく、予想外の侵入者にかなり動揺している。
「なんでてめぇらがここにいやがる」
「簡単な事だ。襲われたフリをしてお前達の跡を付けていた」
「あなたたちのお陰でここを探す手間が省けました。感謝しますよ」
椿は馬鹿にしたように笑みを浮かべながら盗賊に言葉を投げかける。
「ふ…ふざけやがって!」
「また奪ってやるよ!」
「演技とはいえ気分は最悪だった。お返しはさせてもらうぞ」
「もちろんです」
2人は愛刀を抜く事無く距離を詰めて、各自1人ずつ瞬時に蹴り飛ばす。
「なにっ!」
「くそがっ!」
いきなり仲間を吹き飛ばされた盗賊は驚愕するが、ジャンに鍛えられているだけあって直ぐに切り替えて襲い掛かって来た。
そして周りに集まっていた他の盗賊も次々と2人に襲い掛かる。
『やはり中々骨がありますね』
『そうだな。ちらほらとA級程度の奴もいる』
『そこまで正確に分かるとは流石ですね』
2人は無数の攻撃を躱しつつ念話でやり取りする。
『それよりあそこを見ろ』
咲良は視線で大階段を示す。その大階段の真ん中付近に1人の男が立っていた。
『あれは…』
『気配からしてあいつがジャンだな?』
『ジャンです。間違いありません』
『なら行け。作戦通り他は俺に任せろ』
『はい!』
椿はジャンへと向かおうとするが、二人を囲むように大勢の盗賊が立ち塞がる。
『数というのは厄介ですね』
『任せろと言ったはずだ』
咲良が念話でそう言った瞬間、椿は背筋が凍りつく様な感覚に陥った。
(こ…これは……)
椿はこの感覚に覚えがあった。
かつてA級依頼を受けた時の事だ。当時椿はまだ特級には程遠く、S級に一歩足を踏み入れた程度の実力しかなかったが異例の速度でS級に昇格したため有頂天だった。そしてA級依頼でイレギュラーが起きた。討伐対象の魔物を倒して一安心した瞬間、目の前に燃えるような真っ赤な鱗の竜が現れたのだ。椿はその竜に睨まれた瞬間、身体中の穴から水分が抜け落ちるような感覚を覚えた。もしかすると実際に水分が抜けてしまったのかもしれないがそれは最早分からない事だ。
今椿が味わっている感覚はまさしく竜に睨まれるような感覚だった。
(これは…咲良さん?……しかし…)
この現象を起こしているのは間違い無く咲良だが、正体が何なのか椿には分からなかった。
ふと周りを見ると盗賊全員がガクガクと脚を震わせて怯えている。殺気による恐怖ではなく、存在自体を否定されるような雰囲気に呑まれている。
「さ、咲良さん…これは一体…」
「お前には教えておいてやる。これは竜格だ」
「りゅうかく?」
「人間には決して出せない竜の覇気を纏った威圧だ」
「りゅ…竜の?」
咲良が発しているのは黒竜の覇気を纏った威圧で導き手となった時に得た力だ。咲良はこれを竜格と呼んでいる。
殺気は「殺すぞ」と相手を脅す技で、実力がある、もしくは殺しに長けた者なら誰もが発せられるが抵抗する手段はいくらでもある。
しかし竜格は抵抗手段がほとんど無い。なぜなら「殺すぞ」ではなく「図が高い」であり、格の違いを分からせるものなのだから。
アスガルドに住む多くの種族は絶対的強者である竜種を本能的に恐怖する。ならば世界の調停者である黒竜の威圧を放つ咲良に怯えない者は少ないだろう。
椿が比較的平然としているのは咲良が竜格をコントロールしているからだ。
「行け。これで誰もお前とジャンの戦いを手出しする事はない」
「あなたは一体……」
椿は咲良に何かを聞こうとしたが、踏み留まったのかジャンへと向きなおると走って行った。
「さて、あいつらの戦いを観戦しても良いんだが…お前らどうする?」
咲良が周りの盗賊供に訊ねるが返事は返ってこなず、ポタポタと汗が地に落ちる音が聞こえてくる。
「悪いが竜格を弱める事は出来ない。格というのは下げられる代物じゃないからな」
盗賊供には何を言っているのか分からないだろう。それどころか耳にすら入っていないかもしれないが咲良は独り言を続ける。
「後悔しろ。お前らがこれまでしてきた悪事をな」
咲良はゆっくりと前に歩み出す。
まるで絶望が目の前に舞い降りたかの様に…
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