神の盤上〜異世界漫遊〜

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第8章 黒竜の雛と特級冒険者

証拠発見

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「クロちゃん。一緒に頑張ろうね!」
「キュワ!」

ソフィは咲良に頼まれてからずっとハワード家の別荘でとある人物を監視し続けていた。しかし見つかる事は無いが怪しい動きをしている様には見えなかった。

「どうしよう…怪しい動きがない。私が見逃してるだけなのかな…クロちゃんどう思う?」
「キュキュワ?」
「いっそのこと中に入っちゃおうか」
「キュキュ!」

ソフィの提案にクロはダメだと言わんばかりに鳴くが残念ながらソフィには伝わらなかった。
ソフィは見えざる者を発動させると別荘に忍び込む。クロは渋々といった感じでその後を着いていく。流石にクロもソフィ1人だけで行かせるわけにはいかなかった。

「……誰も居ないね。1人くらい居てもいいはずなんだけどな」
「キュキュ」

2人は中に入って何か証拠となる物が無いか探し回ったが、別荘は蛻の殻の様だった。ソフィはここ数日別荘の外で見張っていたのでハワード家の者や使用人が出入りしている事は確認済みなのだが今は誰も居ない。

「これはチャンスだよね?もっと色々探してみようかクロちゃん」
「キュウー」

これ以上踏み込むべきではないとクロは思っていたがソフィに伝える術はない。

しばらく別荘内を捜索しているとソフィはある書類を見つけた。それは2通の依頼書だった。

「こ…これって!」

ソフィは依頼内容に目を通すと思わず叫んでしまい、発動し続けていた見えざる者が解けてしまった。ソフィは覚醒者とはいえ魔力操作が咲良の様に出来るわけでは無いので少し集中力が乱れただけで魔法は発動しなくなってしまう。

「欲を出し過ぎたようですね」

いきなり後ろから声がして、驚いたソフィが振り返ると部屋の窓際に1人の男が立っていた。
恐らく窓から中に入ってきたのだろう。


「だ…だれ…」
「それはこちらのセリフ。ここまで隠密に優れたものは出会ったことがありませんね。あなたこそ何者ですか?」
「わ、私は…」

ソフィは見つかったことに動揺しすぎて上手く言葉を紡げない。

「悪人には見えませんが…これも依頼ですからすみませんが拘束させて頂きます」

男は一歩一歩ゆっくりと近づいてくる。そしてソフィに手を伸ばした瞬間…

「キュイー!」

クロがいきなり飛び出してその小さな身体で男に飛び掛かる。

「な!どこから!?」

銀匠の腕輪の効果が上手く働いていた様で男は突然の出来事に一瞬硬直してしまう。

「キュイキュイ!」

クロが男の顔面付近でバタバタと羽ばたきながらソフィに今の内に逃げろと言う風に鳴く。

「クロちゃん!!」

ソフィは何とかクロの意図が分かった様で再度見えざる者を発動して部屋を飛び出す。それと同時にクロが男に吹き飛ばされ窓から外に放り出された。

(ど…どうしよう…私の所為だ…クロちゃんが…)

ソフィは身を潜めながら別荘を抜け出そうとするがすでに男が玄関口で待ち構えていた。

(いつのまに!)

危うく声を出しかけたソフィは自らの口を手で押さえるが心臓の音がドクドクと身体中を駆け巡る。見えざる者のお陰でその音は外には漏れないがそれでも酷く煩く感じた。

(逃げられない…)

ソフィに戦う力は一切ない。それにあの男の雰囲気は咲良と似ており相当の実力者であると何となく感じ取っていた。

「姿は見えませんが…近くにいるのは分かっていますよ」
(バレてる!?)

見えざる者のお陰で居場所までは分かっていないようだが咲良同様勘が鋭いのかゆっくりとソフィのいる方向へ歩いてくる。

(あ…魔法が…)

ソフィは男が近づいてくる事に動揺してしまい再度見えざる者が解除される。

「見つけました。魔法か何かでしょうがやはり気配を隠すのが上手ですね」

男はソフィの気配がない理由が魔法であると見抜いていた。ソフィには戦闘能力が無いにも関わらず気配が無いので、そのアンバランス差から魔法によるものであると瞬時に見抜かれていたのだ。

ソフィは一か八かの勝負に出ることにした。もう見つかっているのでこのまま留まる事は自殺行為だ。

ソフィはフウーと深く息を吐き出すと男の横を抜けようと走り出した。

「やった!抜けた!」

何とか出し抜くことが出来たと思ったソフィだったが脇腹に強烈な痛みを感じると共に壁際まで吹き飛ばされた。

「………う…そ、そん…な…」

ソフィは全身の痛みに自然と涙が溢れてくる。

「キュイキュイ!」

外に放り出されたはずのクロがソフィを守るかのように男との間に割り込んだ。

「先程の魔物ですか。あなたの魔法で気配を消しているようですね」

男はクロの気配が無い理由はソフィの魔法であると勘違いしたようだが今それは些細なことだ。絶体絶命である事に変わりは無い。

「その姿は竜の様ですが…魔物は排除させて頂きます」

男は腰に差した刀を抜くとクロに切り掛かる。

「クロちゃん!!ダメェ!!!」

ソフィは叫ぶが男が止まる様子はない。

ガキィン!

咄嗟に目を瞑ったソフィだったが、耳に入ってきたのは肉が切れる音ではなく金属が擦れ合う音だった。

ソフィが目を開くとそこには…

「間に合ったか。全く…無茶しやがって」
「キュイ!!」
「さ、咲良…さん」

咲良が村正を抜いて男の一刀を防いでいた。
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