神の盤上〜異世界漫遊〜

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第8章 黒竜の雛と特級冒険者

収集困難

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「では改めて自己紹介といこうかの。儂はレオナルド・ローレンス。レオと呼ばれておる。見たとおりエルフじゃ」
「謝罪も無しか。失礼な爺だ」
「ほっほっほ。かまわんじゃろ?お主はそう短気ではあるまい」
「ま、今回だけは見逃してやる」
「そうかそうか。では本題に入ろうかの」

レオはそういうと1枚の紙を取り出す。

「これは?」
「お主には簡単なA級の依頼書じゃよ」
「何故A級なんだ?審査で依頼を受けるのは理解出来るが」
「この依頼は少し面倒な事になるかもしれんのじゃ」
「どういう意味だ?」
「これは機密依頼扱いなのじゃ。ある貴族令嬢から内密で頼むと言われての。難易度は高くないのじゃが誰でもいいという訳にもいかん。イレギュラーも十分あり得るからの」
「そこに現れたのが俺という訳か」
「そうじゃ。お主はこの様な依頼を受けた事がないじゃろう。特級になるには実力だけでは無く様々な対応力が試されるからの。審査にはピッタリじゃろう?」
「なるほどな…良いだろう。で、依頼内容は?」
「ユイルという青年を探すのじゃ」

レオはユイルと思わしき青年の似顔絵が描かれた紙を咲良に手渡す。

「それだけか?」

A級の依頼とはいえ、機密依頼なのだからどんな内容かと思えばただの人探し。流石の咲良も拍子抜けだ。

「但し、手掛かりは一切ないからの」
「そうか。ま、何とかなるだろう」

咲良はレオと別れ、ギルドを後にする。本当ならこのままソフィの手伝いをしてやりたい所だが依頼を受けた以上ソフィを優先するわけにはいかない。

(後でソフィに謝っとくか)

咲良はそう決めると、ユイルという青年の情報収集を開始する。


(知りたい情報は得ることが出来た。だが…レオの言う通りきな臭い事になりそうだな)

咲良は丸一日アルカナを駆け回りユイルの事を聞いた結果、ユイルはハワード家という南の国の大貴族の使用人として住み込みで働いており、よく市場に買い出しに来るらしい。その人柄の良さから使用人ではあるが愛される存在の様でユイルの事を聞けば皆快く答えてくれた。
そしてユイルの足取りも掴むことが出来た。理由は定かではないがユイルが1人でアルカナから東にあるドレシアという町の方角に向かった姿を見た者がいた。
このことからユイルはドレシアにいる可能性が高いと考えられるが、使用人が1人で出掛けるとは考えにくいので、もしかすると貴族絡みの何かが起こっているのかもしれない。

(考えても仕方ない……ドレシアに向かうか)

咲良はソフィにアルカナを少し離れる事を伝えた。クロには引き続きソフィと一緒にいるよう頼んだ。


(さて、一応ドレシアまでの道中に痕跡がないか調べておくか)

咲良はアルカナを出発しドレシアに向かう。あまり時間は掛けられないので魔装を発動し最速で移動する。目に氣を集中させる事で移動中も痕跡を探したがそれらしい物は見つからなかった。


「ここがドレシアか…」

咲良は半日でドレシアにたどり着いた。ドレシアは海に面しており漁業が盛んな港町だ。

(早速情報収集……の前に腹ごしらえだな。折角港町に来たんだからな)

咲良は近くの飲食店に入る。

「いらっしゃいませ。こちらへどうぞ」

咲良は店員に連れられて席に座るとメニューを手渡される。

「凄いな。今まで見たことないメニューばかりだ」
「港町に来られるのは初めてですか?」
「えぇ、ずっと北の国の王都に居ましたから」
「そうでしたか。それではおすすめの料理をお持ちしましょうか?」
「お願いします。後、刺身はありますか?」
「さしみ…とは何ですか?」

咲良は刺身を食べたいと思ったがアスガルドに刺身の文化は無いらしい。

「それはどのような料理なのですか?」
「新鮮な魚の生肉を薄く切ってそのまま食べるんですよ」
「それってもしかしておすしという料理では?先日アルカナで行われた料理大会で優勝した人が魚の生肉を使用していましたが」
「似た料理ですね。お寿司があるんですか?」
「メニューにはありませんが作る事は可能ですよ」
「ではそのお寿司もお願い出来ますか?」
「畏まりました」

店員は厨房へと入っていった。奥にいる料理人にお寿司の調理をお願いしてくれたのだろう。
その後、店員はお寿司の他にも様々な海鮮料理を提供してくれた。日本のお寿司と比べると流石に味は落ちるが、久しぶりの故郷に味に咲良の心は懐かしい気持ちで満たされた。
しかし、まさかこんな所でソフィに関する情報を得られるとは思いもしなかった。食事を終えた後に店員に料理大会について聞いたところ優勝者の名前は元。今どこにいるかは分からなかったがアルカナを既に発った事は判明した。

「美味しかった。また来ます」
「いつでもお待ちしております」

咲良は店を出るとユイルの情報を集めるためにドレシア中を走り回ったが情報は何一つ得られなかった。

(情報が無さすぎる。つまりユイルはドレシアにたどり着いていないという事か。これは思った以上に時間が掛かりそうだ)

咲良はやれやれとは思いながら再度ドレシアとアルカナ間を捜索する事にした。
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