神の盤上〜異世界漫遊〜

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第8章 黒竜の雛と特級冒険者

組合本部

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「あれが王都アルカナ…」
「想像以上だな…湖が巨大すぎて王都がボンヤリとしか見えない」

咲良達はトラスを出発して3日後、南の国の王都アルカナに到着した。
アルカナは北の国の王都アムルとは違い城壁はないが、その代わり巨大な湖の中心に建てる事で自然の要塞となっている。そのため、岸から架かる3本の橋を渡る以外にアルカナに入る方法は無い。

「とりあえず宿の確保だな。ソフィの友人の情報集めはそれからだ」
「咲良さんの用事はどうするんですか?」
「それは後で構わない…と言いたい所だが、特級になれば情報を集めやすいかもしれない」
「なるほど。確かにそうかもしれませんね」
「しばらく別行動を取るのが良いだろう。審査にどれほど時間が掛かるか分からないからな」
「分かりました。宿は同じなので時々情報交換しましょう」
「あぁ。なら俺はこれからギルド本部に向かう」
「私は料理大会に出場していた人を探してみます」

ソフィの友人がまだアルカナにいるかどうかは分からないが、料理大会に出ていた者、またはその関係者を当たれば少なくとも手掛かりは得られるはずだ。

「分かった。クロ、ソフィと一緒にいてやってくれるか?」
「キュイ!」

クロが任せろと言うように鳴く。

「クロちゃん?どうしてですか?」
「ソフィはまだ大きな町に来たことがないだろう?町っていうのは大きくなればなるほど裏の面も出てくるものだ」
「裏の面…ですか?」
「そうだ。奴隷商、薬物売買など裏では様々な事が行われているだろう。うろちょろしていたら厄介ごとに巻き込まれないとも限らない」

王都等の巨大都市に闇の部分は付き物だ。ソフィが情報収集の際に治安の悪い地区に踏み込んでしまう可能性はある。そうなればE級のソフィに抗う術はない。

「クロちゃんが守ってくれるのですか?」
「いや、クロにはまだ戦う力はない。だがクロと俺は繋がっているからな。お互いに居場所が分かるんだ」
「そうなんですか!それは凄いですね。でも居場所が分かったとしても…」
「感情も分かるのさ。もし何かあればクロが知らせてくれる」
「それは頼もしいですね。クロちゃんお願いね」
「キュイキュイ!」
「なら行ってくる。クロ、頼んだぞ」
「キュキュ!」

咲良はクロとソフィと別れギルド本部に向かう。
しばらく歩くとすぐにギルド本部が見えてきた。アルカナの中でも王城と同じくらい大きな建物がギルド本部なので迷うことなく到着できた。

「ここがギルド本部…」

咲良は巨大な扉を開けて中へと進む。すると中にいた冒険者たちが咲良を睨みつける。

(この反応は予想通りだな。気にするだけ無駄か…)

ギルド本部は職員、もしくはA級以上の冒険者しか基本的には出入り出来ず、取り扱う依頼も高難度のものばかりだ。つまり咲良を睨んでいる冒険者はA級以上の猛者という事になる。恐らく初めて見る冒険者の実力を見定めているのだろう。

咲良は睨んでくる冒険者を無視しながら受付に進む。しかし受付にたどり着く前に2階の方から強烈な視線が咲良に降りかかる。

(……ほぅ。あいつか…)

咲良はその視線の方を見やると、着物の上に長羽織を羽織り、刀を腰に差した見るからに侍の様な長髪の男がいた。

(かなり出来る。間違いなく特級だな)

咲良はその侍が特級冒険者であると瞬時に理解した。
初めて会う特級にワクワクが止まらない咲良はニヤリと笑みを浮かべると、侍も咲良の実力がわかった様でニヤリと笑い返した。

(こんな所で出会えるとは…やっぱりこの世界は面白い)

咲良は侍から目を逸らすと受付嬢に声を掛ける。

「すみません。昇級の審査をお願いしたいのですが」
「審査ですね。まずは身分証をお願いします……はい、確認しました。あなたが咲良さんなんですね」
「知っているんですか?」
「えぇ勿論です。あの天乱四柱の方々から直々の推薦ですからね。本部でもかなり話題になっていますよ」

マリア達天乱四柱の名は想像以上に有名の様だ。

「では推薦状をお願いします。この後グランドマスターと面会していただきますのでしばらくお待ちください」

グランドマスターはギルドマスター達の頂点に君臨する者で、その権力は一国の王を凌ぐとさえ言われている。

「分かりました。一つお聞きしたいのですが?」
「なんでしょう」
「2階にいた刀を差した男は誰ですか?」
「椿さんの事ですね。あの方は東の国から来た侍のという剣士だそうです」
「椿…か…」

咲良は椿という男に親近感が湧いた。同じ刀を持ち、名前も咲良は流桜と名乗っているので近い。

「椿さんがどうかされましたか?」
「いえ、特級に会ったのは初めてなので」
「よくご存知でしたね。椿さんが特級である事はあまり知られていないのですが」

咲良は受付嬢に鎌をかけた。椿の力は見抜いたが階級が特級であるとはまだ知らなかった。基本的に階級というのは他者に簡単に教えていいものではないが、鎌をかけたお陰であっさりと情報を仕入れることが出来た。

「特級の実力までは隠せないと言う事ですよ」
「なるほど。咲良さんは良い眼をお持ちなんですね」
「冒険者にとっては必須でしょう」
「その通りですね。ではグランドマスターの所へご案内します」

咲良は受付嬢に連れられてグランドマスターの部屋へ案内される。

コンッコンッ

「咲良さんをお連れしました。通してよろしいでしょうか?」
「入れ」
「咲良さん、ここからはお一人でどうぞ」
「分かりました。失礼します」

咲良が中に入った瞬間、全身に棘が刺さった様な感覚を覚えた。

「……何のつもりだ?」
「ほぅ。儂の殺気を浴びても一切動揺しないとはのぅ」

咲良に殺気を浴びせたのは銀髪のエルフだ。見た目は30代だが雰囲気や話し方からして歳はかなり取っている様に思える。


すぐに殺気は消えたが咲良は無表情だ。

「すまんの。じゃがこれでお主の実力はある程度把握出来た」
「全く…エルフってのはどいつもこいつも」

咲良は初めてマリアに会った時のことを思い出した。あの時もこのエルフの様に殺気を浴びせられた。殺気を浴びた所で痛くも痒くもないが不愉快なのは変わりない。
こんな出会い方は今後一切御免被りたいと心から思う咲良だった。
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