神の盤上〜異世界漫遊〜

バン

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第8章 黒竜の雛と特級冒険者

国境通過

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用意された宿屋の角部屋に入るとクロが咲良の服を引っ張る。

「どうした?」
「キュイキュイ!」

クロが鳴くと同時にその身体が鈍い光に包まれる。

「クロ…それは…」

光が収まるとクロが居た場所に小さな男の子が立っていた。見た目は3~4才程の様だが間違いなくクロだ。クロノスの様に人化する能力に目覚めたのだろう。

「あ…う…あ…」
「喋れるのか!」

クロノスは人間とは声帯が違うので口に出して喋る事は出来なかった。しかし今クロは僅かではあるが声を発した。

「あ…い…」
「黒竜も進化するという事か…それよりも俺の気を汲んでくれたんだな」

このタイミングで人化出来るようになったという事は、咲良の気持ちを読み取ってくれたのだろう。

「無理に声に出す必要はないぞ。ゆっくりでいい」
「う…あい…」

まだまだ喋れそうには無いがこれで問題は解決した。人が多いところではクロに人化してもらえば済む話だ。そう思っていたがクロはすぐに竜に戻ってしまった。

「長時間はきついか。ま、そりゃそうだろうな」

人化には魔力が必要だ。生まれて間もないクロに長時間の人化は難しいのだろう。

「よしクロ。夕食を食べに行くか」
「キュイ?」

クロが姿はどうするのと聞いてくる。

「あのエルフはクロの存在には気付いているが姿までは見えていない。態々見せる必要はないさ」

そういうと2人は一階の食堂に降りる。

「あ、咲良さん。ちょうど同じタイミングでしたね」

案内された席にはソフィが既に座っていた。

「みたいだな」
「お待たせ!当店自慢のステーキだよ!」

女将が2人の前にかなり大きめの肉を置く。

「あと生肉とミルクもね」

3人は腹が減っていたのかガツガツと口に運んでいく。
クロも生肉とミルクを食べるが、その姿は見えないので周りの客が独りでに減っていく生肉とミルクを唖然と眺めていた。



そして次の日、3人はトラスを観光するために少し早起きした。

「すごいですね。色んな物が売ってます」
「そうだな。これは掘り出し物もありそうだな」

結局その日は日没まで観光を楽しんでいた。トラスは流通が盛んなだけあってかなりの物資を調達することが出来た。かなり大量に買い込んだが咲良は数々の依頼を熟したため、今やお金持ちの仲間入りを果たしているので痛くも痒くもなかった。



「国境に向けて出発ですね」
「そうだ。トラスで時間食ったからな。少し急ごう」
「キュイ!」

3人はトラスでの休息を終えて国境に向けて出発する。
国境まではそこまで遠くはない。3日も走ればたどり着ける距離だ。

「ではよろしくお願いします」

ソフィは咲良の背に乗っかるとクロも肩に留まる。

「今回は少し飛ばすからな。振動は前よりあるかもしれない」
「大丈夫です。しっかり掴まってますから」

咲良は走り出すが前回よりもかなり速く走る。咲良自身は急ぐ用事はないがソフィが気を使って1日観光させてくれたのだから、その遅れを取り戻せばソフィも喜ぶだろう。


そして2日後、予定よりかなり早く国境にたどり着いた。
北の国と南の国の国境には大きな川が流れており、幅50m、長さ2km程の巨大な橋が架かっている。

「身分証を見せろ」

橋の中間地点で南の国の兵士が咲良達にステータスプレートの提示を求めてくる。

「ふむ。B級とE級の冒険者か。南の国に何の用だ?」
「ギルド本部で階級審査を受ける事になっています。彼女はその連れですよ」
「なるほど。何かそれを証明するものは無いか?あればすぐにでも入国させてやれるんだが」
「ありますよ。ギルド〈明けの明星〉、〈妖精の羽〉のギルドマスター2名からの推薦状です」

咲良は推薦状を2通手渡す。

「こ、これは!…し、失礼しました!まさかあの天乱四柱様からの推薦とは…」
(天乱四柱?……あぁ、マリアやフィリスの事か)

マリアとフィリスは昔パーティを組んで冒険していたらしいのでそのパーティの名が天乱四柱と呼ばれているのだろう。何故そう呼ばれているかは定かではないが南の国の兵士が知っていると言うことはかなり有名なのだろう。

「通してもらえますか?」
「勿論であります!」

兵士はビシッと敬礼すると咲良たちを入国させてくれた。

「すんなりと入国出来ましたね」

ソフィはもっと時間がかかると思っていた様だ。

「そうだな。これのおかげだな」

咲良はヒラヒラと推薦状をなびかせながら呟く。

「さっきの兵士さんはとてもびっくりしていましたね」
「まぁ巨大なギルドのマスターだからな。影響力もそれなりにあるんだろう」
「そんな方々から推薦されるとはやっぱり咲良さんは凄いですね」
「運が良かったのさ。偶々知り合う機会があったからな。それより先を急ごう。アルカナまで後もう少しだ」
「はい!」

咲良は再びソフィを背負うとアルカナに向かって走り出す。
走りながら咲良は内心ワクワクしていた。このアスガルドに来て2年以上経過して初めて違う国に足を踏み入れたのだ。北の国を全て回ったわけではないが南の国とどう違うのか、どんな冒険が待っているのか、目で見て体で体験できる事にワクワクしないはずがなかった。
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