神の盤上〜異世界漫遊〜

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第8章 黒竜の雛と特級冒険者

旅ノ仲間

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コンコンコンッ

「咲良さんですか?どうぞ入ってください」

次の日の朝、咲良とクロはソフィの部屋を訪ねる。

「準備はできたか?」
「ばっちりです。あれ、クロちゃんはいないんですか?」
「今も俺の肩にいるよ。昨日と同じように集中すれば見える」
「……あ、ほんとだ。おはようクロちゃん!」
「キュキュ!」

クロと離れるたびに再認識しなければいけないのはソフィにとってもクロにとっても面倒であるのは確かだ。これは改良が必要だとは思ったがすぐに出来るわけではないので今は諦めてもらうしかない。

「よし、なら出発だ」
「はい!」
「キュワ!」

2人と1匹、いやここは3人と言うべきなのだろう。3人はアーランを後にする。クロノスは魔物よりも人として扱ってくれる方が嬉しいと言っていたのでクロもそうなのかもしれない。

「なら早速背負うが良いかソフィ?」
「はい。お願いします」

咲良がその場でしゃがみ込むとソフィは恐る恐る咲良の背中に身を任せる。クロは周りを少しパタパタと羽ばたいた後に咲良の頭の上に留まった。

ソフィは咲良の背中にしがみ付くと同時に何故か安心感が心を満たした。その安心感は落ち着くというよりは絶対的な猛者によって自分の命は完全に守られているような感覚だった。

咲良はしっかりとソフィを背負うと魔力を薄く伸ばして自身とクロ、ソフィを覆う様に展開する。これによって風圧を多少軽減出来るはずだ。

「クロ、ソフィ、出発だ」

咲良はそういうと猛スピードで駆け出す。

「キャアーー!」
「キュイキュイー!」

ソフィはあまりの速さに悲鳴を上げて、クロはもっと速くと言わんばかりに甲高く鳴く。

「もっと楽にして良いぞ。振動は殆ど感じないはずだ」

咲良は上半身の位置が上下しない様に足捌きで調整する。

「すごい!咲良さんすごいです!」
「慣れたようだな。しばらくはこのペースで進むからな」
「体力は大丈夫ですか?」
「心配ない。この速度なら休憩なしで2日は走れる」
「そんなに!?でも休憩はしてくださいね」
「分かってるさ。流石に夜は走らない」

実際は魔物がいたとしても咲良の速度には追いつけないので襲われる心配はない。しかし、いくら振動が無いとはいえずっと背負われているのは精神的に疲れるだろうし体も凝る。野営をするのはソフィの為である。








3人がアーランを出発して1週間が経過した。

「本当にすごいですね咲良さんは」

1週間経った今も咲良の速度は一切落ちない。

「鍛えているからな」
「どうしてここまで強くなったんですか?」
「優れた師匠に巡り会えたからな。それに異世界人がここで暮らしていくには不可欠なものだ」
「そうですね。危険な世界ですし」
「ソフィは帰りたいと思うのか?」
「もちろんです。家族に会いたいですから。咲良さんは違うのですか?」
「俺は…戻りたいとは思わない。地球ははっきり言って生きづらかった」
「そうでしたか…」

ソフィは咲良の背中で少し悲しそうな表情を浮かべる。

「ま、帰る方法は探すさ。何故この世界に来たのか、何故俺たちなのかは知りたいからな。人為的なものなら1発殴りたいところだな」
「咲良さんなら出来そうですね」
「帰る方法が分かれば教えてやるから心配するな」
「なら私も一緒に探します」
「機会があればな」
「はい!」

その後もたわいない会話を続けながら徐々に経由地点のトラスへと近づいていく。


そしてさらに1週間後、咲良たち一行はトラスにたどり着いた。
この1週間の間、咲良はソフィに魔力の操作方法を教えたりしていた。流石に背中でじっとしているのは退屈の様だったので暇つぶしには最適だと思い、走りながらソフィに教えていたが思いの外才能があった。陸との修行のように裏技で魔蔵を把握させたりはしていないが身体に魔力を流しただけである程度操作出来るようになっていた。
やはりクロノスの言う通り、異世界人は魔力の操作に長けていると再確認できた。咲良の考えでは魔力は地球には無い未知の物質なので、それが身体に流れる事で異物として感じやすいのかもしれない。





3人はトラスに入る。身分確認などは不要のようであっさりと中に入ることが出来た。
トラスは小さな町だが国境付近という事からか物資の流通が盛んのようであちこちに店が立ち並んでいる。
だが一番目を引くのは店ではなく人だ。人といっても人族ではなくエルフだ。南の国はエルフが多いので国境付近のアラスにいるのは納得だが、あちこちにエルフがいるのを見ると改めてここは異世界なのだと嫌でも実感出来てしまう。

「すごいな…」
「そうですね。ゲームの中みたいな気分です」

すでに咲良の背中から降りているソフィも同じような感想を抱いていたようだ。

「取り敢えず宿を取ろう」
「そうですね。明日少し店を見て回りませんか?」
「別に構わないが、急がなくていいのか?」
「それはそうですがせっかく来たんですから」
「ま、それもそうだな」

その後宿を探すとすぐに見つかった。その宿はエルフの若い女性が女将をしている店だった。もっとも、若いといっても人族よりも長生きなので実年齢は定かでは無いが…

「部屋は2つでいいの?」
「何か問題でも?」

エルフの女将が咲良とソフィを交互に見ながら答える。

「態々別室にする必要はないんじゃない?」
「そういう関係ではありませんので」
「あれ、違うんだ。お似合いなのに」
「俺にはもったいない女性ですよ。それよりも早く部屋を借りたいのですが」
「あ、忘れてたよ。二階の角部屋が2つ空いてるからそこ使うといいよ………ん?君の肩になんかいない?」

女将は銀匠の腕輪による偽装に違和感を感じ取ったらしい。

「よく分かりましたね。俺の相棒なんですが少し珍しい魔物ですので姿を隠しています」

咲良はあえてクロを従魔ではなく相棒と答えた。必要とあらば従魔という時もあるだろうがクロを従えているわけではない。あくまで親であり対等の関係だ。

「感知には自信があるの。まぁ姿は今も見えないけど…でも小さそうだし問題ないよ」
「そうですか、ありがとうございます。では夕食に生肉とミルクの追加をお願いします」
「わかった。準備しとく」

クロの存在をバレなければ問題ないと思い申告しなかったが問題なく受け入れてもらえた。ただエルフの感知能力は侮れないと感じた。咲良自身の実力が見抜かれる事はないだろうが、南の国に入ればクロを感知できるエルフは多くなりそうなので対策が必要だ。
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