神の盤上〜異世界漫遊〜

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第8章 黒竜の雛と特級冒険者

護衛対象

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「ここか…」

アーランにあるギルドは1つしかない。そのギルドは〈開拓の風〉という小規模ギルドだ
中に入るとちらほらと冒険者が目に入るがお世辞にも強いとは言えない者達ばかりだ。

咲良は依頼書が張り出されている掲示板でC級の依頼書を手に取る。内容は新人の冒険者を南の国の王都アルカナまで護衛することだ。王都アルカナまでは距離があるのでC級は妥当であるが、今まで依頼として護衛をしたことがなかったので少し興味が湧いたのだ。

「すみません。この依頼を受けたいのですが」

咲良は依頼書を受付嬢に手渡そうとするが…

「おいおい兄ちゃんよ。そりゃB級の依頼書だぞ?」
「見ない顔だな。お遊びなら帰りな」

2人の強面の冒険者が咲良にちょっかいを出してきた。

(初心者狩りでもしようっていうのか?こいつら暇なんだな)
「おい!何とか言ったらどうだ!」
「びびって声も出せねーのか?」

初心者狩りと呼ばれるギルドにおける恒例行事的なものがあるのは知っていたが、見る人が見れば咲良が初心者ではない事は分かるはずだ。つまりこの2人はそれを見抜く力が無いと言える。

「邪魔だ…どけ」

咲良は面倒に思い、手っ取り早く実力を分からせるためにギルドにいる全ての人間を軽く威圧した。それによってこれからちょっかいを出そうとしていた者への警告にもなる。

「聞こえなかったのか?邪魔だと言ったんだ」
「あ、はい!」
「し、失礼しました!」

威圧を間近で受けた2人は咲良が格上であると理解した様だ。地球によくある小説では、威圧しても気配に鈍感でそのまま裏に連れていかれるという話が多いので、その展開になることをほんの少しだけ期待していたが、どうやら彼らは物分かりが良い方らしい。

騒動が落ち着くと改めて受付嬢に依頼書を手渡す。

「プレートの提示をお願いします。…………B級でしたか」

受付嬢は先ほどのやり取りを目の前で見ていた。そしてもちろん咲良の威圧を浴びているのでB級はむしろ低いのでは無いかと思っていた。

「俺も王都アルカナまで向かう予定がありまして。もし期日に制限がないのなら護衛が可能なのですが」
「期日と言いますと?」
「急ぎの旅ではないので、この日までに南の国に到着しろという期日がある場合は無理なのですよ」
「なるほど。それなら大丈夫だと思いますよ。依頼主も急いではいなかったと記憶しています」
「そうですか。では受けます」
「畏まりました。ではこちらの宿屋に依頼主がいらっしゃいますのでそちらに出向いてください」
「わかりました」

咲良は受付嬢に教えられた宿に向かう。
ちなみにクロは今も咲良の肩に留まっているが銀匠の腕輪がしっかりと機能しているおかげで気付かれる様子はない。

「すみません。ギルドからこちらにソフィアという女性が泊まっていると聞いたのですが」
「あぁ、ソフィアちゃんなら今出掛けているよ。この時間はいつもいないからね」

宿の女将が対応してくれたが、依頼主のソフィアは運悪くいないらしい。

「いつ頃帰ってくるかわかりますか?」
「そうだねー。夕食までには帰ってくるはずだよ」
「わかりました。また来ます」

空振りに終わったため時間が出来た咲良とクロは暇を潰す為にアーランの周りを探索することにした。気晴らしと言ってもいいだろう。

「クロ、食べるか?」
「キュイ!」

咲良は歩きながらクロに魔物の肉を差し出すと上機嫌でかぶりついた。

しばらく歩いていると小さな湖の畔に出た。そこでクロとゆっくり過ごそうと思っていると湖の反対側に誰かが座っていた。シルエットからして女性の様だ。

(誰だ?知らない気配ではあるが…なんだ?)

咲良はその女性の気配に少し気を取られた。別に猛者というわけではないし、異質な気配というわけでもない。ただ何となく気になっただけだ。

咲良はゆっくりとその女性の元に近づいていく。

「ここでなにを?」
「きゃっ!」

咲良が後ろから声を掛けるとその女性は軽い悲鳴を上げた。咲良は日常的に気配を消す癖があるので咲良は女性を驚かす形になった。

「すまない。驚かすつもりはなかった」
「い、いえ…」

女性が咲良の方を振り返る。ようやく女性の全貌を見た咲良は少しドキッとしてしまった。
その女性の年齢は恐らく咲良と同じか少し若いだろう。吸い込まれそうな程透き通った瞳と肌にスッと通った鼻筋、腰まで伸びた黒髪は一切の痛みがないと思えるほどサラッとしており、日本と欧米とのハーフのような顔立ちをしている。その美貌とは裏腹に少し子供っぽい雰囲気も感じる。恐らく本人は隠しているつもりのようだが隠しきれていない。

「あの、あなたは?」
「通りすがりの冒険者だ。向こう岸から姿が見えて何をしているのか気になった」
「そうですか。私はいつもここで昔の事を思い出しています」
「昔の事?この景色に似ている場所でも?」
「えぇ…今はもう見る事の叶わない景色なんです」
「そうか。それは残念なことだな」
「そうですね…それよりも少し気になったんですけど…」
「なんだ?」
「私達って会ったことありませんか?」
「ないな。だが俺も会ったような気がした」

咲良が感じた違和感はその女性も感じているようだった。

「そうですよね。でもなぜか懐かしい気持ちがします」
「そうだな。それは否定しない」
「ふふっ。あなたと喋っていると故郷を思い出します」
「故郷はどこなんだ?」
「言ってもあなたには分からないと思います」

咲良はその女性の言葉に引っかかった。確かにアスガルドには大小様々な街や村があるが、それでも普通は言うはずだ。そこで咲良はある予想を立てた。

「もしかして…地球という場所ではないか?」
「……………え?」

女性の反応からして咲良の予想は当たっていたようだ。間違いなく彼女は異世界人だ。

「な…なんで…地球の事を……も、もしかして!」

女性はサッと立ち上がると咲良に詰め寄る。

「俺も地球出身だ。こっちでは異世界人という事だな」
「や、やっと会えた」

女性はその場で泣き崩れるように蹲ってしまった。

「お、おい…」

この状況に咲良は冷や汗を流す。傍から見れば咲良が泣かせた様に見えるからだ。周りに誰もいない事は気配で分かってはいたがキョロキョロと周りを見ずにはいられない咲良だった。

「す、すみません!」

暫くすると落ち着いたようだが、醜態を晒してしまった女性は顔を真っ赤にして咲良から離れる。

「い、いや…構わない」
「同じ境遇の方に会ったのは初めてで…」
「コーチンに行けば幾らでも異世界人に会えるぞ」
「そうなんですか!あ、そう言えばまだ自己紹介していませんでしたね。私はソフィア・ホワイトです。親しい人はソフィと呼んでいます。母が日本人でして、私も幼少時は日本に住んでいました」
「俺は地球では佐伯亮太。こっちでは咲良が名前になっている」
「咲良?違う名前を名乗っているんですか?」
「いや、とある事情で本当に名前が咲良に変わっているんだ」
「珍しい事もあるんですね」
「それがこの世界だからな。ところで…ソフィアというと王都アルカナまでの護衛依頼を出していないか?」

咲良が受けた依頼の主の名前はソフィアだ。ほぼ間違いなく同一人物だろう。

「はい。アルカナに地球の知り合いがいるかもしれないという情報を掴んだので行ってみたいのですが私には戦う力がなくて……もしかして!」
「あぁ…俺がその護衛役だ。こんな所で出会うとはな」
「護衛が咲良さんでよかったです!よろしくお願いしますね」
「こちらこそだ。なら依頼についての詳しい話をしたい。場所を移そう」

2人はアーランに戻るとソフィアの泊まっている宿で今後についての話を始めた。
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