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15、初めての鍛錬終了
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「変になりそうなくらい気持ちいいんですか?」
「きもちい……っ、きもちいけど、変で……っ」
ニコスとの鍛錬を始めてどれくらい経っただろうか。
今まで意識したこともなかった胸筋……というか乳首で信じられないほど感じてしまって、俺はもうわけがわからなくなっていた。
変だ。
おかしい。
こんなに気持ちいいはずない。
でも気持ちいい──……と感覚を肯定し、否定し、否定したことをまた肯定しての繰り返しで頭の中がぐちゃぐちゃだ。
鍛錬を始めてから一貫してニコスはさすがの経験豊富さで、とにかく羞恥を煽るのが上手い。
考えもしなかったのだ。
日常に潜む性的な可能性なんて。
騎士団での全裸でさえ頓着しないでいた。
シャワーも、着替えも、薄着も普通に行っていた。
(その上、スピロが俺の胸を視姦してるだなんて──)
「ルイ、……その涙は? 本気で嫌なのであれば今日はここまでにします」
「は……?」
言われて初めて自分が涙なんてこぼしたのだとわかった。……嫌だからじゃない。快楽がすぎて溢れた困惑の涙だ。
けれど今、ニコスの胸への愛撫が止まって感じることがあった。
(っ……ヒリヒリする)
自分の乳首が今どうなっているのかとても直視できないが、触られすぎて普通の状態じゃなくなっていることだけは感覚だけでも確かだった。
初回の鍛錬。泣くほど快楽が極まるまで耐えたのだから、今日はこのあたりで終了が妥当なんじゃないだろうか。
未経験にしてはなかなかがんばった。……と、思う。
よし、ニコスに言おう。
俺は濡れた頬を手の甲で荒くぬぐいながら、金色の瞳を懇願の眼差しで見つめる。
「嫌とかでは、ない」
「そうですか。では続きを──」
「っ、嫌じゃないんだけどちくびが限界っぽいからそろそろ終わりでよくないか?」
返答直後にすぐさま俺の胸元に顔をうずめようとしたニコスの顔を慌てて掴み、阻止した。乱暴にならないよう両頬を最小限の力で。掴む、というより頬に手を添えるような感じだ。
(うわ、頬がすべすべだなコイツ……)
剣だこやら擦り傷やらもあるガサついた俺の手でふれてよいものではない気がした。慌てて手を引こうとしたら、抗う力に止められる。手首を掴まれたのだ。爪の先まで整った、ニコスの美しい手に。
「限界、とは?」
真剣な声。かつ、目が据わっているように見えて少しひるむ。
完全に俺都合な終了宣言で気を悪くしたのかもしれない。
だがこうして間が空いてしまうともう今日は快楽の濁流に身を投じる勇気はなかった。
「なんかさ、……ヒリヒリして、痛いんだよ」
「ほう──、」
いつもより赤くなって立ったままの先端を、指の腹でくに…と優しく押される。
「んぁっ」
情けない声がこぼれて咄嗟に唇を噛んだ。
そんな俺を見たニコスはうっすらと微笑む。
「痛い時の声ですか、それが。気持ちよさの限界を超えなければ鍛錬にはなりませんよ。嘘はいけません」
嘘じゃないのに。
……でも、ニコスの指先で先端を乳輪に押しこむようにくにくにいじられると、痺れるような快感が沸き起こるのも事実だった。
「ん……っ、ゃ……ほんとにヒリヒリして痛むから……」
ニコスは胸をさわりながら俺の顔をじっと凝視して、ふっとため息をこぼす。「わかりました」と落ち着いた声が聞こえて驚いた。やめてくれるのか……?
「確かに執拗にさわりすぎたルイの乳首は今、いやらしく充血し、勃起し、敏感すぎる状態なのでしょう」
わざとだとわかるけれど露骨な言葉にカッと全身が熱くなる。
俺はとてもニコスと目を合わせていられなくて視線を伏せた。
「私があなたを凌辱する敵だった場合、この状態の胸だからこそさらに嬲って楽しむでしょう。ですが今日は初回ですし、許してあげます。鍛錬は終了です。──治療をほどこしましょう」
「え……っ、ニコス!?」
鍛錬終了にほっとしたのも束の間、ニコスの手が俺のシャツのボタンを丁寧に外し、両方の胸を露わにした。思わず直視してしまったそこはニコスの言うとおりいやらしい有り様で、ピンと硬くなった色付いた部分を、ニコスの指がくに…とつまむ。
「ぁっ、終わりって言った……ん……だろ?」
「治療をすると言いました。神聖力を使います」
「は!?」
「皮膚のダメージを和らげるので、大人しくしてください」
乳輪をくびりだすように摘まれ、無防備に存在を主張させられた中心部分をニコスの指の腹がすりすりと撫でる。
「んんっ……はぁ……ッ……こんなことに、力使っていいのか……?」
「いいんですよ。この鍛錬は、国の平和のためなのですから」
(まあ、そう……か)
「神聖力、そそぎますね」
さわられている乳首に、じんわりと熱の膜がはるような感覚。
「っ……ん……」
金色の、ニコスの瞳の色の力だ。胸元に注がれるその力はやがて粘度をもち、乳輪と乳首にねっとりと絡みつく。
まるで蜂蜜のような形状に混乱した。
これまでに何度か神聖力の世話になったが、熱を感じることはあっても質量を感じることはなかったのに。
しかも今、ニコスはその蜂蜜みたいな神聖力を俺の胸に塗りこむように指を動かすものだから、治療ではありえないような声がもれてしまう。
「ん……っ、はぁ……ニコス、何だよそれ……」
「何とは? 見てのとおり、神聖力での治療です。さわられて敏感になりすぎたあなたのちくびを私の崇高な力で癒してあげています」
胸の先端をぬりゅっとつままれ、しごくように動かされると堪らない気持ちになる。
「ふ……っ、つうに、普通にやって、くれ……ぁ……っ」
「普通の治療ですが。範囲が狭い場合はこうやって力を粘液状にして、患部に塗りこむほうが効果があるんですよ」
(そういうもんなのか……知らなかった)
納得はした。
けれどニコスが俺の胸に神聖力を塗れば塗るほど粘度が上がるのか、ねちゃ…と音がしていたたまれない。治療ではなくこれでは鍛錬の続きだ。だって、とんでもなく気持ちいいから。
(ああでも、変な声、だしたらダメだ……っ)
もう鍛錬は終わったのだから。俺は耐えるために腹筋に力を入れ、ふっ、ふっと息をこぼす。まるで苦しむみたいに。
そんな葛藤には構わず淡々と治療を続けるニコスは、2本の指をひたりと俺の胸の色づいた部分にあて、擦るように高速で上下に動かして神聖力を塗りこんでくる。
「ふ……っ、ぅ……」
ねっとりした神聖力にまみれた乳輪と乳首を優しく潰されながら、一気に摩擦された。……駄目だ気持ちいい。あまりにも快感が強い。
閉じる余裕がない唇の端から、たら…と唾液がこぼれた。
「ルイ、声を我慢する必要はありませんよ」
「っ……でも治療……ん……だし、……ふっ……」
「そう、治療です。だから楽にしてください。──ほら、」
きゅっと乳輪をつままれて、先端を潰すみたいに指先がつぷつぷと食いこんだ。
「あぁッ、んっ……それダメ、だ……ッ」
「我慢しなさい。たっぷりと神聖力を塗りこんでおかなければいけません。次回もここを中心的に鍛錬します」
(次回もまた胸を……?)
そうだ、今日で終わりじゃない。
快感には次があり、俺はもっといやらしいことにも耐えなければならないのだ。
そう思うと頭がぽーっとしてきて眩暈がした。
「はぁ……っ、ぁ……やっ、待ってニコス……っ」
俺はとんでもない予感に震えながらニコスの手を掴む。けれどニコスは胸に神聖力を塗りこむのをやめてくれず、乳首の先端にぬるぬると指の腹をすべらせて擦ってくる。
「ぁ……っ、もうそこ……ッ」
「ルイ、じっとしてください。…──わりと可愛いですよ、感じるあなたは」
「かわ……っ!? あっ、ダメ、…──ダメだニコス……ッ…────ぁ……」
下腹部が、スラックスの中でじわっと熱くなっていく。
…──信じられないことに漏らしたのだ。
ニコスが「っ、」と息を呑む気配があって胸元を支配していた快楽が途切れる。
けれど出始めてしまったらもう止められなくて。
俺は腕で顔を覆い隠しながら自らの粗相に耐えるしかない。
漏らすなんて。
嘘だと思いたい。
ニコスに、弟の大事な友人に乳首に快感を与えれて、神聖力の治療の過程で失禁した。
「ルイ、あなた──…ルイ?」
びしょびしょになった下半身の感覚と、ニコスの声が遠ざかる。
「ルイ、…──ルイ!?」
目を閉じてしまえばまぶたは鉛よりも重く、もうなんだか色々といいやと思った瞬間にぷつりと、世界が途絶えた。
◆ ◆ ◆
雲のない夜空に半分の月がのぼったその夜、《影の者》として主の前に片膝をついた青年は、生まれて初めて背筋が寒くなるという感覚を味わっていた。
「今の報告、どういうこと?」
おっとりとした声音と口調はいつもと変わらない。だが主の表情は冷めきっており浮かべた笑みは笑顔ではないのだとわかる。
凍えるような空気のなかそれでも報告の詳細を伝えるのが己の仕事だと、青年は震えそうになる唇をなんとか動かす。
「ルイ・ローラン様は本日、ニコス・デュラン様の邸宅に宿泊しております」
「なんでそのふたりが会ってるのかな。ふたりきりだった?」
「はい──。室内にはルイ様とニコス様の、おふたりだけでした」
「何してたの、ふたりで」
「その……」
「うん? なんで言いよどむの」
《影の者》は、木へと登り窓の外から見たニコスの私室で繰り広げられていた光景を、できる限り詳細に主へと報告した。
それが役目だからだ。
彼はもう5年間、ルイの日中の行動を監視し、月がこの部屋を照らす時刻に主に報告している。
──ルイとニコスは今日、性的な接触をした。
長々と報告したルイの行動は一言でいえばそういうことだった。
「ねえ、どういうこと。ふたりってそういう仲になったのかな」
「申し訳ありません。経緯や、ルイ様とニコス様のご関係については、現在同胞が調査中です」
今日はルイの父親に不測の事態があり、《影の者》にとっても慌ただしい1日だった。
ニコスの接触はローラン邸の廊下で。その時はルイの従者もまじえて何か揉めていた時間があった。かと思えばルイの私室でふたりきりの時間があり、見間違いでなければルイは涙を流していた。
どのやりとりもすべて会話までは拾えなかったことを謝罪しつつ、一部始終を報告し終えた時──
「ルイくん、……僕以外の人の前で泣いちゃうんだ」
《影の者》の主であるスピロ・ゴティエの瞳にどす黒い感情が静かに滲み、蒼色が濁るのを見た青年は息を詰めるしかないのだった。
「きもちい……っ、きもちいけど、変で……っ」
ニコスとの鍛錬を始めてどれくらい経っただろうか。
今まで意識したこともなかった胸筋……というか乳首で信じられないほど感じてしまって、俺はもうわけがわからなくなっていた。
変だ。
おかしい。
こんなに気持ちいいはずない。
でも気持ちいい──……と感覚を肯定し、否定し、否定したことをまた肯定しての繰り返しで頭の中がぐちゃぐちゃだ。
鍛錬を始めてから一貫してニコスはさすがの経験豊富さで、とにかく羞恥を煽るのが上手い。
考えもしなかったのだ。
日常に潜む性的な可能性なんて。
騎士団での全裸でさえ頓着しないでいた。
シャワーも、着替えも、薄着も普通に行っていた。
(その上、スピロが俺の胸を視姦してるだなんて──)
「ルイ、……その涙は? 本気で嫌なのであれば今日はここまでにします」
「は……?」
言われて初めて自分が涙なんてこぼしたのだとわかった。……嫌だからじゃない。快楽がすぎて溢れた困惑の涙だ。
けれど今、ニコスの胸への愛撫が止まって感じることがあった。
(っ……ヒリヒリする)
自分の乳首が今どうなっているのかとても直視できないが、触られすぎて普通の状態じゃなくなっていることだけは感覚だけでも確かだった。
初回の鍛錬。泣くほど快楽が極まるまで耐えたのだから、今日はこのあたりで終了が妥当なんじゃないだろうか。
未経験にしてはなかなかがんばった。……と、思う。
よし、ニコスに言おう。
俺は濡れた頬を手の甲で荒くぬぐいながら、金色の瞳を懇願の眼差しで見つめる。
「嫌とかでは、ない」
「そうですか。では続きを──」
「っ、嫌じゃないんだけどちくびが限界っぽいからそろそろ終わりでよくないか?」
返答直後にすぐさま俺の胸元に顔をうずめようとしたニコスの顔を慌てて掴み、阻止した。乱暴にならないよう両頬を最小限の力で。掴む、というより頬に手を添えるような感じだ。
(うわ、頬がすべすべだなコイツ……)
剣だこやら擦り傷やらもあるガサついた俺の手でふれてよいものではない気がした。慌てて手を引こうとしたら、抗う力に止められる。手首を掴まれたのだ。爪の先まで整った、ニコスの美しい手に。
「限界、とは?」
真剣な声。かつ、目が据わっているように見えて少しひるむ。
完全に俺都合な終了宣言で気を悪くしたのかもしれない。
だがこうして間が空いてしまうともう今日は快楽の濁流に身を投じる勇気はなかった。
「なんかさ、……ヒリヒリして、痛いんだよ」
「ほう──、」
いつもより赤くなって立ったままの先端を、指の腹でくに…と優しく押される。
「んぁっ」
情けない声がこぼれて咄嗟に唇を噛んだ。
そんな俺を見たニコスはうっすらと微笑む。
「痛い時の声ですか、それが。気持ちよさの限界を超えなければ鍛錬にはなりませんよ。嘘はいけません」
嘘じゃないのに。
……でも、ニコスの指先で先端を乳輪に押しこむようにくにくにいじられると、痺れるような快感が沸き起こるのも事実だった。
「ん……っ、ゃ……ほんとにヒリヒリして痛むから……」
ニコスは胸をさわりながら俺の顔をじっと凝視して、ふっとため息をこぼす。「わかりました」と落ち着いた声が聞こえて驚いた。やめてくれるのか……?
「確かに執拗にさわりすぎたルイの乳首は今、いやらしく充血し、勃起し、敏感すぎる状態なのでしょう」
わざとだとわかるけれど露骨な言葉にカッと全身が熱くなる。
俺はとてもニコスと目を合わせていられなくて視線を伏せた。
「私があなたを凌辱する敵だった場合、この状態の胸だからこそさらに嬲って楽しむでしょう。ですが今日は初回ですし、許してあげます。鍛錬は終了です。──治療をほどこしましょう」
「え……っ、ニコス!?」
鍛錬終了にほっとしたのも束の間、ニコスの手が俺のシャツのボタンを丁寧に外し、両方の胸を露わにした。思わず直視してしまったそこはニコスの言うとおりいやらしい有り様で、ピンと硬くなった色付いた部分を、ニコスの指がくに…とつまむ。
「ぁっ、終わりって言った……ん……だろ?」
「治療をすると言いました。神聖力を使います」
「は!?」
「皮膚のダメージを和らげるので、大人しくしてください」
乳輪をくびりだすように摘まれ、無防備に存在を主張させられた中心部分をニコスの指の腹がすりすりと撫でる。
「んんっ……はぁ……ッ……こんなことに、力使っていいのか……?」
「いいんですよ。この鍛錬は、国の平和のためなのですから」
(まあ、そう……か)
「神聖力、そそぎますね」
さわられている乳首に、じんわりと熱の膜がはるような感覚。
「っ……ん……」
金色の、ニコスの瞳の色の力だ。胸元に注がれるその力はやがて粘度をもち、乳輪と乳首にねっとりと絡みつく。
まるで蜂蜜のような形状に混乱した。
これまでに何度か神聖力の世話になったが、熱を感じることはあっても質量を感じることはなかったのに。
しかも今、ニコスはその蜂蜜みたいな神聖力を俺の胸に塗りこむように指を動かすものだから、治療ではありえないような声がもれてしまう。
「ん……っ、はぁ……ニコス、何だよそれ……」
「何とは? 見てのとおり、神聖力での治療です。さわられて敏感になりすぎたあなたのちくびを私の崇高な力で癒してあげています」
胸の先端をぬりゅっとつままれ、しごくように動かされると堪らない気持ちになる。
「ふ……っ、つうに、普通にやって、くれ……ぁ……っ」
「普通の治療ですが。範囲が狭い場合はこうやって力を粘液状にして、患部に塗りこむほうが効果があるんですよ」
(そういうもんなのか……知らなかった)
納得はした。
けれどニコスが俺の胸に神聖力を塗れば塗るほど粘度が上がるのか、ねちゃ…と音がしていたたまれない。治療ではなくこれでは鍛錬の続きだ。だって、とんでもなく気持ちいいから。
(ああでも、変な声、だしたらダメだ……っ)
もう鍛錬は終わったのだから。俺は耐えるために腹筋に力を入れ、ふっ、ふっと息をこぼす。まるで苦しむみたいに。
そんな葛藤には構わず淡々と治療を続けるニコスは、2本の指をひたりと俺の胸の色づいた部分にあて、擦るように高速で上下に動かして神聖力を塗りこんでくる。
「ふ……っ、ぅ……」
ねっとりした神聖力にまみれた乳輪と乳首を優しく潰されながら、一気に摩擦された。……駄目だ気持ちいい。あまりにも快感が強い。
閉じる余裕がない唇の端から、たら…と唾液がこぼれた。
「ルイ、声を我慢する必要はありませんよ」
「っ……でも治療……ん……だし、……ふっ……」
「そう、治療です。だから楽にしてください。──ほら、」
きゅっと乳輪をつままれて、先端を潰すみたいに指先がつぷつぷと食いこんだ。
「あぁッ、んっ……それダメ、だ……ッ」
「我慢しなさい。たっぷりと神聖力を塗りこんでおかなければいけません。次回もここを中心的に鍛錬します」
(次回もまた胸を……?)
そうだ、今日で終わりじゃない。
快感には次があり、俺はもっといやらしいことにも耐えなければならないのだ。
そう思うと頭がぽーっとしてきて眩暈がした。
「はぁ……っ、ぁ……やっ、待ってニコス……っ」
俺はとんでもない予感に震えながらニコスの手を掴む。けれどニコスは胸に神聖力を塗りこむのをやめてくれず、乳首の先端にぬるぬると指の腹をすべらせて擦ってくる。
「ぁ……っ、もうそこ……ッ」
「ルイ、じっとしてください。…──わりと可愛いですよ、感じるあなたは」
「かわ……っ!? あっ、ダメ、…──ダメだニコス……ッ…────ぁ……」
下腹部が、スラックスの中でじわっと熱くなっていく。
…──信じられないことに漏らしたのだ。
ニコスが「っ、」と息を呑む気配があって胸元を支配していた快楽が途切れる。
けれど出始めてしまったらもう止められなくて。
俺は腕で顔を覆い隠しながら自らの粗相に耐えるしかない。
漏らすなんて。
嘘だと思いたい。
ニコスに、弟の大事な友人に乳首に快感を与えれて、神聖力の治療の過程で失禁した。
「ルイ、あなた──…ルイ?」
びしょびしょになった下半身の感覚と、ニコスの声が遠ざかる。
「ルイ、…──ルイ!?」
目を閉じてしまえばまぶたは鉛よりも重く、もうなんだか色々といいやと思った瞬間にぷつりと、世界が途絶えた。
◆ ◆ ◆
雲のない夜空に半分の月がのぼったその夜、《影の者》として主の前に片膝をついた青年は、生まれて初めて背筋が寒くなるという感覚を味わっていた。
「今の報告、どういうこと?」
おっとりとした声音と口調はいつもと変わらない。だが主の表情は冷めきっており浮かべた笑みは笑顔ではないのだとわかる。
凍えるような空気のなかそれでも報告の詳細を伝えるのが己の仕事だと、青年は震えそうになる唇をなんとか動かす。
「ルイ・ローラン様は本日、ニコス・デュラン様の邸宅に宿泊しております」
「なんでそのふたりが会ってるのかな。ふたりきりだった?」
「はい──。室内にはルイ様とニコス様の、おふたりだけでした」
「何してたの、ふたりで」
「その……」
「うん? なんで言いよどむの」
《影の者》は、木へと登り窓の外から見たニコスの私室で繰り広げられていた光景を、できる限り詳細に主へと報告した。
それが役目だからだ。
彼はもう5年間、ルイの日中の行動を監視し、月がこの部屋を照らす時刻に主に報告している。
──ルイとニコスは今日、性的な接触をした。
長々と報告したルイの行動は一言でいえばそういうことだった。
「ねえ、どういうこと。ふたりってそういう仲になったのかな」
「申し訳ありません。経緯や、ルイ様とニコス様のご関係については、現在同胞が調査中です」
今日はルイの父親に不測の事態があり、《影の者》にとっても慌ただしい1日だった。
ニコスの接触はローラン邸の廊下で。その時はルイの従者もまじえて何か揉めていた時間があった。かと思えばルイの私室でふたりきりの時間があり、見間違いでなければルイは涙を流していた。
どのやりとりもすべて会話までは拾えなかったことを謝罪しつつ、一部始終を報告し終えた時──
「ルイくん、……僕以外の人の前で泣いちゃうんだ」
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