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13、初めての鍛錬!!

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目標はずっと、父の胸筋だった。
服がパツパツになるくらいたっぷりと充実した胸元こそ男の象徴という気がしている。
だが、まだまだ父には到底及ばない。
それでも俺なりに鍛えてふっくらといい感じの形にできあがっている胸筋を──……今、ニコスの両手が揉んでいる。

(ニコスの手、傷ひとつないな)

人って多分、現実感がなさすぎる事態に直面すると思考が変な方向に飛ぶのだ。
ニコスの整えられた爪は清潔で美しい形だった。指が俺の鍛えた胸筋の全体をしっかりとさわれるほどに長かったり、節くれだっていることでなんとか男の手なのだとわかる。
ニコスが指に力をこめたり抜いたりする度にブラウスが皺を作ったりパツッと張ったりするのを、俺はただじっと見つめるしかできない。

(気持ちよく……なるのか、これが)

そうは思えなかった。

「なあ、ニコス」
「なんですか」

落ち着いた声で返事をしたニコスは俺の胸を揉む手は止めずに目を合わせてくる。
俺もさっきまでの緊張はどこへやら、だんだんと気持ちが落ち着いてきた。
胸筋を揉まれても、快楽とはほど遠い。性的な接触というよりもたまにプティがしてくれる疲労回復目的のマッサージのようでなんとなくリラックスしてきてしまった。
ふう、と息をついて肩の力を抜く。
鍛錬を始める時は正直世界がぐるぐると回っているような気分だった。
だから今、ニコスの綺麗な金色の目を平静で見返すことができて安堵している。……胸をさわられているという妙な状況の真っただ中ではあるけれど。

「やっぱさ、女とは違うしそこはあんま意味無いと思うぞ」
「プロの見解では、胸は男でも十分に性感帯になりえます」
「うーん……」

もにゅもにゅと胸元で動くニコスの手がなんだか不思議だ。
つい数時間前までは俺を視界に入れることすら嫌そうにしていた相手なのに。

(お……?)

ふいにニコスの揉み方に変化があった。
全体をほぐすみたいな手つきだったのが、胸筋の表面を優しく撫でるようなものへと。手のひらで円を描くようにされて、ますますマッサージ感が増す。

(くすぐったいな……)


「ルイ、集中してください」
「っ、悪い。けどくすぐったいんだって」
「まだ手始めとはいえ、子供がじゃれるような反応をされるとこちらも気が抜けます」
「子供って……はは、わかってる。集中するから」

ニコスは憮然とした顔つきになって、けれどすぐにキリッと表情を引き締め口を開く。

「今、私に何をされているか言葉にしてみてください」
「は……、胸筋を揉まれてる?」
「そうではなく、もっと性感が高まる言葉で」

(セイカンガタカマルって……)

なんじゃそりゃと思ってしまうが、これは国の平和がかかった真剣な鍛錬だ。
正直今くらいゆるめの雰囲気のほうが俺にはありがたいけれど、そうも言っていられない。

(ニコスに、胸筋を揉まれている。これを性感が高まる語彙で言うと──…)

「胸を、男に揉まれてる……?」
「まったく興奮しません。ルイはそれで性感が高まるんですか?」
「性感……っていうか、普通に恥ずかしいけど」
「駄目です。もっといやらしい言葉で。自分の官能を最大に煽る言葉をよく考え、感情をのせ、声に出してください」

真剣な顔で何言ってるんだニコス……と思うが、俺も真剣になるべきだ。鍛錬をする、身体を差し出す、あとは流れに任せる──ではなく、今以上にもっと本気でやるべきだ。
ニコスに胸筋を揉まれているこの状況を。

(俺の官能……いやらしい気持ちを、最大に煽る言葉で!)

「っ……お……っぱいを、ニコスに……弟の友達にさわられてる」
「は──」

胸元にあるニコスの手がぴたりと止まった。
見開かれた目の中で金色の瞳が揺れるのを見て、カッと全身から発火したみたいに熱くなる。

「うわああああああ待った! やっぱり今の取り消す!」
「……ルイ、」
「おっぱいとか言っちゃった! 自分が気持ち悪い!」
「そっちではなく、『弟の友達』という属性に興奮するんですか?」
「違うっ! 考えたら勝手に口からでただけだ……!」
「無意識下で出てきた言葉ということは、本心ということです」
「いやほんと違うから忘れてくれ……こんなのセルに顔向けできない……んぐッ」

顎先を掴まれ、動揺で背けていた顔を強引にニコスのほうへと向かされた。
金色の双眼に、みっともないほど肌を赤く染めた俺だけが映る。

「私もこの状況でセルジオスを思うと、非常にいたたまれない気分になります」
「だよ……な、悪い。そこはナシだわ」
「いいえ、だからこそ官能的です」
「は……?」

顎を掴んでいないほうのニコスの手が、ふたたび胸筋にふれた。優しく確かに全体を揉むようにして──…ふと、指先が中心から少し外側にずれた箇所を撫でる。

「ルイ、ブラウスの下は素肌ですか?」
「そうだけど……」
「では、…──ここ」

ニコスの爪の先が、こす…と撫でた箇所が不思議な感覚をもたらして俺は反射的に息を詰める。

「っ、ん……」
「ああ、いい声がでました。よかった。小さいですが、勃っていますよ」

小さいって。
勃つって。
今まで意識したことがない、なんで男にもあるんだろうと謎しかなかった胸の色付いた部分を、ニコスの指が弱めの力加減でこする。かと思えばくにくにと指の肌で潰すみたいにしたり、周辺をくるりと撫でたりされて。

「ッ……ん……、ニコス、そんなとこ……っ」
「そんなところではなく、私が今さわっているのはルイのちくびです。言って?」
「っ……」
「ルイ、言ってください」

言葉を強要するみたいにニコスは俺のそこをきゅっとつまんだ。

「ぅ……っ、ニコス、痛い……ッ」
「どこをどうされて、痛いんですか?」

つまんだままくにくにと揉むようにされて息がみだれる。

「ルイ、言いなさい」
「っ、ん……ちくび、ニコスに強くされて痛い……!」
「強くなんてしていませんよ? 痛いと感じるのはルイのここが初心なせいでしょう。ほら、さらに優しくしてあげます」
「あ……っ」

ふたたび指の腹でこす…と撫でられ、上下、左右にかりかりと弾くようにされて信じられないような声がもれた。思ず自分の口を片手で塞ぎ、ニコスを見る。
返ってきた眼差しの強さに何か思う前に、胸元へは新たな刺激が。またつままれて、今度は痛みよりもくすぐったさよりも、痺れるような、切ないような感覚が全身を駆けめぐるから混乱する。

「っ、ニコス……ッ」
「ルイ──、目が潤んできて、顔も赤い……首筋までも。ちくびで感じているんですね」

まさかそんな。
今まで意識したことすらない部分だ。
それなのにニコスの指に刺激を与えられ続け、「んっ」とか「ぁ……っ」とか変な声が勝手に口からこぼれてしまう。本当に自分の声なのかと問いたくなるそれを聞きたくなくて無理に会話をひねりだす。

「ニコス……んっ、そこ、もう今日は──」
「おやおや。ちくびをいじられてそんなふうになるとは……セルジオスの兄として失格ですね」
「!?」

頭に浮かんだセルジオスが蔑むような目で俺を見た。ものすごくいたたまれないのにどういうわけか胸元で沸き起こる快感が強くなる。俺は唇を噛み「ふー……っ」と切羽詰まった呼吸をして変な声がもれないよう、耐える。それなのにニコスは──

「ブラウスの上から、指でこうされただけでここまで感じられると……気になりますよね。ルイのちくびを口でしたら、どうなってしまうのか」
「は──…?」
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