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7、真剣な『メス堕ち回避』の作戦会議
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ニコスとプティをソファーに座らせ、俺はふたりのはす向かいに読書用の木製チェアを置いて腰を下ろした。
考えてみればニコスは俺の私室に招いた、初めての客人だ。
もてなしに悩む暇もなくプティの“前世”に関する説明が始まった。
「──と、いう訳です。信じてもらえないかもしれませんが……」
俺に話したことに加えて『アホエロ』や『メス堕ち』の生々しい内容もサラッと説明し終えたプティは、おそるおそると言った様子でニコスの顔色を窺っている。
長い脚を組んだ先にある自身のつま先を見つめたニコスは金色の目を細め、「なるほど」とだけつぶやいた。
現実味がなさすぎて適当に返事をしたのかと思うほど落ち着いた声だ。プティはしょんぼりと肩を落とす。
「やっぱり、真剣には聞いてもらえませんよね……」
「いいえ、私は真剣ですよ」
言葉通り適当さのない真摯な眼差しでプティを見据える。
「プティ、この世界はあなたによる創作物なのだと言いましたね」
「は、はい……前世の記憶なんです」
「ふむ──、」
ニコスはゆるく折り曲げた指を顎先にあて、沈黙する。
何かを言おうか言うまいか迷っているようにも見えたが、逡巡は少しの間だった。
「高位神官と王族のみが閲覧権限を持つ発行禁止書物に、興味深い内容がありました。『傍観者』という存在の可能性についてです」
「傍観者……?」
語句の意味はわかるが脈略が謎だ。
「世界は常に並行して存在しており、我々が認識しない世界線も存在する。時おり様々な要素が重なれば、別世界を観ることができる者が出現する。それが『傍観者』です」
ニコスの言葉がまったくピンとこず首を傾げる俺とは違い、プティは驚愕の表情で立ち上がった。
「プティ……?」
「ボクがこの世界を創ったんじゃなくて、前世のボクがこの世界を“観て”…──書いた」
ひとりごとみたいな声量でつぶやく。まるで自分の心に落とし込むみたいに。
プティは目を限界まで開いたみたいな顔で俺を見て、ニコスを見て、天井や壁、ベッドや窓の向こうの空を見つめる。やがて自分の手のひらを近距離で凝視して、ぐー、ぱーと動かしながら「うん」と力強い声で言った。
「ニコス様、『傍観者』っていう解釈、ものすごくしっくりきました!」
「私もそう思い、話したのです。他言しないでください」
「承知しました。──その書物を書いたお方は?」
「気がふれて、自害しました」
プティはヒュッと息を呑み、「自害……そっか」とソファーに沈んだ。
俺はプティを見守りつつ頭の中で結論を出す。今体感する現実がプティの創作物だとしてもプティが『傍観者』なのだとしても、彼が話した未来は起こりうるということだ。
俺は敵国に拉致され、父さんは命を落とし、セルジオスと国も最悪の方向へ進んでいく。
「とりあえず……プティが言ったことは、現実になるってことか」
「ここがその世界線なのであれば、そうなのでしょうね」
ニコスの答えに、新たなひらめきを得る。
「だったら俺が拉致されない…──や、もっと前の段階で、アムネシアとメイアンの奇襲を阻止するって世界線もあるんじゃないか?」
「ルイ様の言うとおり、その対策は可能だとボクも考えています」
なんだ、よかった。
快楽に負けない鍛錬なんて必要ない。
「でも念には念を入れたほうがいいと思うんです!」
「えっ」
「強制力が発動しちゃってルイ様が拉致される未来を防げなかった場合、敵国にひとり立ち向かう術はやっぱり必要です。ルイ様ご自身のためにも」
力説のプティに俺も負けじと反論する。
「じゃあ快楽どうのこうのじゃなくて、普通に騎士として強くなればいいだろ」
「敵は手練れです。しかも多勢に無勢の状況。ボクが“観た”彼らの攻撃はほとんどが性的なことだけでしたから、ナイフ使いとか体術が得意とかそういう相手の戦闘員としての力量もわからないし、対策も立てられません」
(アホエロ小説め……)
「残り1ヵ月ほどで騎士としての超人的な能力アップに時間を費やすより、あらかじめ性的な快感に慣れ、負けないよう鍛錬するほうが、よっぽど現実的かと」
「そうは言ってもなぁ……」
さっきからプティは簡単に鍛錬と言う。それはつまり『性的な快感を経験しまくれ』『性行為をしまくれ』という解釈であっているだろうか。だとしたら「よし任せとけ」と受け入れられるはずがない。だって俺は──
「あなたは男相手でも、簡単に足をひらくと聞いたことがあります」
「は……?」
ニコスのとんでも発言に唖然とする。
「何をためらっているのです。これまでどおり、不特定多数と交わり経験を重ねればいい。そうすれば敵に与えられる快楽に精神まで侵されることはなくなるのでは?」
俺が不特定多数とヤリまくってるって……?
何を言われたか正確に理解した瞬間、喉奥に苦しい塊が詰まって呼吸が浅くなる。いろいろ噂されているのは知っていたがそこまで下卑た内容は初めて聞いた。どちらかと言えば『庶民だから恋愛対象にならない』『あの顔の傷跡じゃ誰にも相手にされない』とかそういう方向性で馬鹿にされていると思っていた。
「まったく、汚らわしいです」
吐き捨てるようなニコスの言葉が、これまで知らなかった形の刃になって胸をぐっさりと突き刺す。
短い吐息がこぼれた。
どういう顔をしていいのかわからなくて、へらりと笑ってしまう。
「や──、いやいやいや。言っておくが俺、誰ともそういう経験ないけど」
「は?」
プティとニコスの声がきれいに重なった。
ふたりともなんかきょとんとしてるし念押ししておこう。
「誰とも、したことない。普通に考えたらわかるじゃん。俺が貴族の誰かとヤッたとして、絶対悪意もって変な噂流されそうだろ。女相手でも、……男でも。現に開いてもない脚を開いたって言われてるし」
「……あなたの悪癖は、庶民時代からのものだと言う者もいましたが」
しつこいニコスに、同じ刃を突き刺してしまいたい子供じみた衝動に駆られた。
「そういうニコスこそ、スプリングロードでお前を見かけるって話を聞いたことがあるぞ」
『スプリングロード』とは、性的行為を合法でプロと楽しむ店が集まる地域だ。
鍛錬の時に他の騎士の談笑を少し聞いただけだが、ニコスはかなりの美人を連れて堂々とスプリングロードを闊歩していたと盛り上がっていた。合法とはいえ神官という立場でああいう店に行くことは隠す者が多いはず。
「そんな噂がひろまってていいのかよ、四大貴族の高位神官なのに」
「何か勘違いしていませんか?」
「え?」
「神官は、性欲に煩わされることのないよう、ある一定の年齢に達したら経験を積むことを国から推奨されます」
「は……」
「愛する者と愛を育む行為に、なんら穢れはありません。私は堂々と、これからもスプリングロードに通います」
(愛する……って、ニコスはスプリングロードの人を愛してるのか?)
子供っぽい浅慮な反撃を後悔した。
行ったことのない俺でも知っているくらい、スプリングロードで働く者たちは手練れだという噂だ。ニコスはそんなプロに恋をして、垂らしこまれ、何度も通っているのかもしれない。
「……悪かった、ニコス」
「は──、何を急に謝罪しているんですか」
「母さんが言ってたんだ。スプリングロードのプロたちは、客を恋愛的な意味では決して愛さないって。だからプロでいられるんだって。お前、切ない恋をしてたんだな」
「妄想癖まであるんですか」
ニコスは「はっ」と馬鹿にしたような短い息を吐き、長い足を組みかえる。
「私には、愛する者などまだいません」
「え……だって『愛を育む行為』って言ったじゃん」
「愛する者はまだいない、だが本能でこみ上げる性的欲求を解消できず生活に支障が出る前に、その道のプロフェッショナルに任せているんです。これも国から推奨されている行為です。神官には多いですよ。そんなことも知らなかったんですか?」
まったく知らなかった。だって学園で習わなかったし。神官の友達もいないしそのあたりの事情を教えてくれるような友達もいないから……。いや、でもそういうことならまだ斬り込める。
「あっそ。じゃあやっぱ結局は性欲解消のために、ニコスは愛してない奴とヤッてるってことだろ」
「性欲解消のために愛のない行為をプロ以外とするよりよほど誠実でしょう。経済もまわる。国に貢献しています」
「う……まあ、確かに」
「私に謝ってください」
「はあ!?」
「侮辱しようとしたでしょう。さあ、心を込めた謝罪を」
「いやその前に事実じゃないことで、ニコスこそ俺を侮辱しただろ。謝れよ」
「事実じゃない証拠は?」
「ニコス様がルイ様の鍛錬に協力すれば、証拠をご自身で確認できるのではないでしょうか!」
割り込んできた明るい声。
しぃん……と静まり返った状態で俺とニコスはプティを見る。いつの間にそんな表情になっていたのかプティはつぶらな瞳をキラキラさせて、もう一度言う。
「ニコス様、ルイ様の鍛錬にどうか協力してください!」
「いや、プティそれは──」
「ニコス様はスプリングロードの玄人との経験が豊富。つまりニコス様ご自身も、玄人であられるということでしょう!?」
ずずいっと詰め寄るプティに圧されてか、ニコスは「こ、こら離れなさい」とたじろぐ。
「どうなんですか、ニコス様!? お答えください!」
「ま、まあ愛する者ができた時、お互いに至福の時間を過ごせるようにと、テクニックは伝授してもらっていますが……」
「ほらルイ様! ニコス様こそ適任です! この場に居合わせたのもきっと運命!」
「プティ、ちょっと落ちつ──」
「あとはおふたりで鍛錬の計画を!」
「いやプティ、」
「ボクはドアの外に待機していますので、坊ちゃまがどーうしても無理でしたらお呼びください! 坊ちゃまのため、国ため、ニコス様、どうかよろしくお願いします……!」
「プティ……?」
俺の「ティ」のところですでにプティはドアを開け、部屋を出ていった。
そういえばプティは見習い従者の頃、『仕事は遅いのに食事の集合と退勤だけは信じられないほど速い』とメイド長に呆れられていたっけ。
俺のことを嫌いな男とふたりきりで取り残されてしまった。
気まずさに顔をしかめながらニコスを見れば──
「できるわけない……いやだが団長様やセルジオスが……国が……」
(いやいやいやここはいつもみたいに『汚らわしい』とかなんとか言って、さっさとニコスも退出するところだろ?!)
考えてみればニコスは俺の私室に招いた、初めての客人だ。
もてなしに悩む暇もなくプティの“前世”に関する説明が始まった。
「──と、いう訳です。信じてもらえないかもしれませんが……」
俺に話したことに加えて『アホエロ』や『メス堕ち』の生々しい内容もサラッと説明し終えたプティは、おそるおそると言った様子でニコスの顔色を窺っている。
長い脚を組んだ先にある自身のつま先を見つめたニコスは金色の目を細め、「なるほど」とだけつぶやいた。
現実味がなさすぎて適当に返事をしたのかと思うほど落ち着いた声だ。プティはしょんぼりと肩を落とす。
「やっぱり、真剣には聞いてもらえませんよね……」
「いいえ、私は真剣ですよ」
言葉通り適当さのない真摯な眼差しでプティを見据える。
「プティ、この世界はあなたによる創作物なのだと言いましたね」
「は、はい……前世の記憶なんです」
「ふむ──、」
ニコスはゆるく折り曲げた指を顎先にあて、沈黙する。
何かを言おうか言うまいか迷っているようにも見えたが、逡巡は少しの間だった。
「高位神官と王族のみが閲覧権限を持つ発行禁止書物に、興味深い内容がありました。『傍観者』という存在の可能性についてです」
「傍観者……?」
語句の意味はわかるが脈略が謎だ。
「世界は常に並行して存在しており、我々が認識しない世界線も存在する。時おり様々な要素が重なれば、別世界を観ることができる者が出現する。それが『傍観者』です」
ニコスの言葉がまったくピンとこず首を傾げる俺とは違い、プティは驚愕の表情で立ち上がった。
「プティ……?」
「ボクがこの世界を創ったんじゃなくて、前世のボクがこの世界を“観て”…──書いた」
ひとりごとみたいな声量でつぶやく。まるで自分の心に落とし込むみたいに。
プティは目を限界まで開いたみたいな顔で俺を見て、ニコスを見て、天井や壁、ベッドや窓の向こうの空を見つめる。やがて自分の手のひらを近距離で凝視して、ぐー、ぱーと動かしながら「うん」と力強い声で言った。
「ニコス様、『傍観者』っていう解釈、ものすごくしっくりきました!」
「私もそう思い、話したのです。他言しないでください」
「承知しました。──その書物を書いたお方は?」
「気がふれて、自害しました」
プティはヒュッと息を呑み、「自害……そっか」とソファーに沈んだ。
俺はプティを見守りつつ頭の中で結論を出す。今体感する現実がプティの創作物だとしてもプティが『傍観者』なのだとしても、彼が話した未来は起こりうるということだ。
俺は敵国に拉致され、父さんは命を落とし、セルジオスと国も最悪の方向へ進んでいく。
「とりあえず……プティが言ったことは、現実になるってことか」
「ここがその世界線なのであれば、そうなのでしょうね」
ニコスの答えに、新たなひらめきを得る。
「だったら俺が拉致されない…──や、もっと前の段階で、アムネシアとメイアンの奇襲を阻止するって世界線もあるんじゃないか?」
「ルイ様の言うとおり、その対策は可能だとボクも考えています」
なんだ、よかった。
快楽に負けない鍛錬なんて必要ない。
「でも念には念を入れたほうがいいと思うんです!」
「えっ」
「強制力が発動しちゃってルイ様が拉致される未来を防げなかった場合、敵国にひとり立ち向かう術はやっぱり必要です。ルイ様ご自身のためにも」
力説のプティに俺も負けじと反論する。
「じゃあ快楽どうのこうのじゃなくて、普通に騎士として強くなればいいだろ」
「敵は手練れです。しかも多勢に無勢の状況。ボクが“観た”彼らの攻撃はほとんどが性的なことだけでしたから、ナイフ使いとか体術が得意とかそういう相手の戦闘員としての力量もわからないし、対策も立てられません」
(アホエロ小説め……)
「残り1ヵ月ほどで騎士としての超人的な能力アップに時間を費やすより、あらかじめ性的な快感に慣れ、負けないよう鍛錬するほうが、よっぽど現実的かと」
「そうは言ってもなぁ……」
さっきからプティは簡単に鍛錬と言う。それはつまり『性的な快感を経験しまくれ』『性行為をしまくれ』という解釈であっているだろうか。だとしたら「よし任せとけ」と受け入れられるはずがない。だって俺は──
「あなたは男相手でも、簡単に足をひらくと聞いたことがあります」
「は……?」
ニコスのとんでも発言に唖然とする。
「何をためらっているのです。これまでどおり、不特定多数と交わり経験を重ねればいい。そうすれば敵に与えられる快楽に精神まで侵されることはなくなるのでは?」
俺が不特定多数とヤリまくってるって……?
何を言われたか正確に理解した瞬間、喉奥に苦しい塊が詰まって呼吸が浅くなる。いろいろ噂されているのは知っていたがそこまで下卑た内容は初めて聞いた。どちらかと言えば『庶民だから恋愛対象にならない』『あの顔の傷跡じゃ誰にも相手にされない』とかそういう方向性で馬鹿にされていると思っていた。
「まったく、汚らわしいです」
吐き捨てるようなニコスの言葉が、これまで知らなかった形の刃になって胸をぐっさりと突き刺す。
短い吐息がこぼれた。
どういう顔をしていいのかわからなくて、へらりと笑ってしまう。
「や──、いやいやいや。言っておくが俺、誰ともそういう経験ないけど」
「は?」
プティとニコスの声がきれいに重なった。
ふたりともなんかきょとんとしてるし念押ししておこう。
「誰とも、したことない。普通に考えたらわかるじゃん。俺が貴族の誰かとヤッたとして、絶対悪意もって変な噂流されそうだろ。女相手でも、……男でも。現に開いてもない脚を開いたって言われてるし」
「……あなたの悪癖は、庶民時代からのものだと言う者もいましたが」
しつこいニコスに、同じ刃を突き刺してしまいたい子供じみた衝動に駆られた。
「そういうニコスこそ、スプリングロードでお前を見かけるって話を聞いたことがあるぞ」
『スプリングロード』とは、性的行為を合法でプロと楽しむ店が集まる地域だ。
鍛錬の時に他の騎士の談笑を少し聞いただけだが、ニコスはかなりの美人を連れて堂々とスプリングロードを闊歩していたと盛り上がっていた。合法とはいえ神官という立場でああいう店に行くことは隠す者が多いはず。
「そんな噂がひろまってていいのかよ、四大貴族の高位神官なのに」
「何か勘違いしていませんか?」
「え?」
「神官は、性欲に煩わされることのないよう、ある一定の年齢に達したら経験を積むことを国から推奨されます」
「は……」
「愛する者と愛を育む行為に、なんら穢れはありません。私は堂々と、これからもスプリングロードに通います」
(愛する……って、ニコスはスプリングロードの人を愛してるのか?)
子供っぽい浅慮な反撃を後悔した。
行ったことのない俺でも知っているくらい、スプリングロードで働く者たちは手練れだという噂だ。ニコスはそんなプロに恋をして、垂らしこまれ、何度も通っているのかもしれない。
「……悪かった、ニコス」
「は──、何を急に謝罪しているんですか」
「母さんが言ってたんだ。スプリングロードのプロたちは、客を恋愛的な意味では決して愛さないって。だからプロでいられるんだって。お前、切ない恋をしてたんだな」
「妄想癖まであるんですか」
ニコスは「はっ」と馬鹿にしたような短い息を吐き、長い足を組みかえる。
「私には、愛する者などまだいません」
「え……だって『愛を育む行為』って言ったじゃん」
「愛する者はまだいない、だが本能でこみ上げる性的欲求を解消できず生活に支障が出る前に、その道のプロフェッショナルに任せているんです。これも国から推奨されている行為です。神官には多いですよ。そんなことも知らなかったんですか?」
まったく知らなかった。だって学園で習わなかったし。神官の友達もいないしそのあたりの事情を教えてくれるような友達もいないから……。いや、でもそういうことならまだ斬り込める。
「あっそ。じゃあやっぱ結局は性欲解消のために、ニコスは愛してない奴とヤッてるってことだろ」
「性欲解消のために愛のない行為をプロ以外とするよりよほど誠実でしょう。経済もまわる。国に貢献しています」
「う……まあ、確かに」
「私に謝ってください」
「はあ!?」
「侮辱しようとしたでしょう。さあ、心を込めた謝罪を」
「いやその前に事実じゃないことで、ニコスこそ俺を侮辱しただろ。謝れよ」
「事実じゃない証拠は?」
「ニコス様がルイ様の鍛錬に協力すれば、証拠をご自身で確認できるのではないでしょうか!」
割り込んできた明るい声。
しぃん……と静まり返った状態で俺とニコスはプティを見る。いつの間にそんな表情になっていたのかプティはつぶらな瞳をキラキラさせて、もう一度言う。
「ニコス様、ルイ様の鍛錬にどうか協力してください!」
「いや、プティそれは──」
「ニコス様はスプリングロードの玄人との経験が豊富。つまりニコス様ご自身も、玄人であられるということでしょう!?」
ずずいっと詰め寄るプティに圧されてか、ニコスは「こ、こら離れなさい」とたじろぐ。
「どうなんですか、ニコス様!? お答えください!」
「ま、まあ愛する者ができた時、お互いに至福の時間を過ごせるようにと、テクニックは伝授してもらっていますが……」
「ほらルイ様! ニコス様こそ適任です! この場に居合わせたのもきっと運命!」
「プティ、ちょっと落ちつ──」
「あとはおふたりで鍛錬の計画を!」
「いやプティ、」
「ボクはドアの外に待機していますので、坊ちゃまがどーうしても無理でしたらお呼びください! 坊ちゃまのため、国ため、ニコス様、どうかよろしくお願いします……!」
「プティ……?」
俺の「ティ」のところですでにプティはドアを開け、部屋を出ていった。
そういえばプティは見習い従者の頃、『仕事は遅いのに食事の集合と退勤だけは信じられないほど速い』とメイド長に呆れられていたっけ。
俺のことを嫌いな男とふたりきりで取り残されてしまった。
気まずさに顔をしかめながらニコスを見れば──
「できるわけない……いやだが団長様やセルジオスが……国が……」
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