あなたは異世界に行ったら何をします?~良いことしてポイント稼いで気ままに生きていこう~

深楽朱夜

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第012部 空の旅は安心安全にみんなで会いにいこう

第018話 酒場にて 2

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「おねーさん、厨房の隅貸してー」
「良いわよ!そっち使って」
「ありがと」
「ありがとうございます」
厨房のカウンターで女将に声を掛ければ汗を搔きながら奥のテーブルを指す、懐記達は本日の太客達なので快く貸してくれる。
「んー収納空間は…やっぱ無理っぽいわ、俺のスキルで食材はいけそう」
「距離が近いですからね」
「んー俺はフォンちゃんの玉子焼きからやるわ」
「僕はポテトサラダと腸詰を作ります…魔石コンロを使って下さい」
「サンキュ」
懐記がスキルから食材を出し外神が収納袋から道具を並べていく、懐記が手際良く卵を割り外神が芋を茹で腸詰めを刻んでいく、その手際に女将と家族は気になりながらもせっせと料理と酒を運んで行った。

「で、アイツらあれだよな、さっきから視線を感じる」
「あーなるほど、だから懐記ちゃんに料理を頼んだわけね。おにーちゃんとお話ししたかったのかと思った」
「んな訳ねーだろ」
フォンとフェシェスタのテーブル、酒を不味そうに飲むフォンにフェシェスタが周囲ではなくジラ達の方へ視線を一瞬向けてなんでもない風に食事を続けた。
「殺気、殺意なし」
「冒険者の振りをした騎士共だな」
「この国の?ホスィソっちゃんの護衛?」
「この国の騎士が冒険者の振りをしているには上等品だ」
「失礼する、仲間が酔っているのでこちらに座っても良いだろうか」
「ようこそー」
「ついでにこの酒飲め」
「もーフォンちゃんはー」
「構わない、私は飲めれば何でもいい」
周囲に聞こえない音量で会話をしていれば、杯を持ったツゥムストスが懐記が座っていた椅子に座り、フォンが残した酒を押しだしそれを受け取った。
「2日後のパーティー楽しみだね」『あの冒険者お宅のとこの?』
「ホスィソは緊張している」『いや、あの身成…貴族がいる…』
「俺は旨い飯が食えたら良い」『ちっ、めんどくさい』
フォン達の会話声に出す言葉と唇の動きが違う、こういった場所で間諜達が情報を交換をする際に使う手段だ、ジラがちらりと此方を確認するが酒やらトランプを楽しんでいる。
「頼まれた品ですー」
「ありがと」『何かの旅の途中か…』
「うまい、くえ」『あきらかにこっちに用があんだろ』
「うまい、辛いのがまた酒にあう」『これだけの精鋭揃いの中仕掛けてくるバカはいないだろう』
「お酒とこちらもお持ちしました」
「これフォンが好きなやつ」『にしては熱い視線だね』
「俺のだぞ、食いたきゃ懐記に頼め」『動くならやるが向こうは様子見か』
「この黄色いのも美味だな」『機会を伺っている、美味いな』
懐記達が作った物が運ばれ、他のテーブルにも振る舞われていく。
「フォンー懐記に作って貰ったのー?」
「食べたかったんだよ」『どうする?締め上げるか』
「えー俺も卵焼き食べたい」
「えーちゃん、ごめん。フォンわがままー」『こっち子供いるしね早目に片付けようか』
「懐記殿と外神殿は料理が美味いな、王宮の料理人が驚いていた」『なら、うちの部隊から出す。うちの国の恩人だ』
「懐記ー肉追加だ」『なら、頼むわ』
「もー言った側からー」『どこの誰かは教えて』
「パーティーの料理も懐記殿達が料理人達と作ると聞いている楽しみだ」『ああ、この後動く事にする』
フェシェスタが詠斗に謝り、フォンは更に追加を頼み、ツゥムストスの唇の動きを横目で確認したジラが軽く頷いた。

「あんた達料理上手ねー参考になるわ!」
「ああ!美味いな!芋がこんなに美味くなるとは!」
「んーこの腸詰めちょっと辛いけどおいしい」
「こんなうまいもん食べれて手伝いに来て良かったよ」
「ホントホント」
女将達に小休憩を取るよう進めて、料理と飲み物を出せば皆驚きつつ作り方を聞いたり懐記達の手元を見て教えて貰ったりとすっかり打ち解けていた。
「サラダ出して」
「はーい」
「肉焼けました…お願いします」
「あいよ!」
厨房は更に活気づき懐記達の料理や酒が運ばれていく、魔石コンロや冷蔵庫は厨房を使わせて貰った礼にと贈る事にしたが女将達は恐縮しつつ有り難く受け取った。
「戻ろ」
「はい」
粗方作りそろそろ明け方も近い、そんな時間なので切り上げようと懐記達は食堂に戻った。

「この焼いた串うま」『動いた』
「チーズ食うとミルク飲みてえ」『ジラ達の方か』
「そろそろ終わりだな、朝からやる事は山の如くだ」『貴族と騎士…あの老人見覚えがあるな』
店の片隅で食事をし此方を何度も見ていたフードを目深に被った男達がフードを取れば、ツゥムストスが杖を突いた小柄な老人を見て見覚えがあると矢継ぎ早に唇を動かす。
「歓談の中失礼する、ワシはセバンドナと申します。《傭兵王》ジラ殿とお見受けする、貴方と話がしたい」
「老いたなセバンドナ、断る」
「貴方は変わらないですな…あの頃のままいえ、更に美しさを増した…どうか話しを…」 
「無礼ですよ、《傭兵王》…国持たぬ名に王を冠する者に自国ではなく他国でそちらから声を掛ける等《ノゼバ国》は礼儀を捨てましたか?」
「なんだと!?」
「よせ」
「しかし!」
ちらりとジラが老人に視線を向け再び酒に口を付ける、トゥナーが割って入り、その冷えた物言いに護衛が腰の剣に手を掛けた。
「どうかどうか…今1度我が国を救っては頂けませんか?」
「断る、酒の席だ失せろ」
「お願い致します、ジラ殿!魔人が!《ガンネ国》が魔人を投入し…1度は傭兵の少年が凌いでくれましたが今1度責められればおしまいです、どうか!」
「魔人か…」
ジラは内心舌打ちする、あの戦争地帯に等行きたくもないが魔人と名前が出てしまえば話が変わってしまう、トゥナーを見れば彼もまた困惑した表情を浮べていた。
「ごめんなジラ、俺の探している魔人かもしれないのならば俺は行く」
「ギーギス」
だろうな、ジラはあの地にまた行くのかと内心嘆息したその時出る筈のない収納袋からコロンと音を立てて腕輪が1つ転がった…。
「貴方方がジラ君の親友であり、《英雄王・黎風》ナギ君を見捨て何1つ残さず残さず逝かせた事を忘れません」
トゥナーが思い出す嘗て在った出来事を嫌な蒸し返し方をしてしまう、自分の国の事しか考えていない使者達の身勝手な言い分にも腹が立つ。
「師匠…あいつは残している…そうか俺を呼んでいるのかナギ…」
「ジラ君…それは…」
ジラの持つ腕輪にトゥナーが眼を見開く、それは彼の物で間違いない…トゥナーは無表情なジラの顔を見て再び戦場の渦中に飛び込む事になるとは…トゥナーは彼が呼んでいるのならばと口を開き掛けた。
「待ってくれ、この国の恩人に他国の使者が戦場に誘致するなどあってはならない」
「そうですね、不法に我が国に入った上に王族の前での無礼」
「いや、この場合《ノゼバ国》ならばこの国を簡単に落とせると思われたか、見くびられた物だな」
ホスィソが立ち上がりトハトネが手を上げれば他の客たちの振りをした騎士達と、ダージとマーフも武器を構えセバンドナ達を取り囲んだ。
「そんな事は最初から分かっている…ここで不敬として首を撥ねられるのも、《ノゼバ国》に戻るのも老いて死ぬのも同じ事」
「セバンドンナ…死にに来たのか?」
「ワシの命で貴方が戦場に立ってくれるのならば安い物…もう長くは無い命…せめて1人でも散る命を減らす位はして逝きたいのです。覚悟はとうの昔です……ゴホゴホ…ゲホ」
「セバドンナ様!」
痩せた体が激しく咳き込む、傍の騎士が身体を支え、ジラは無表情にその様子を眺めた。
「その件《アウトランダーズ商会》が貰うわ、行きたい人ー?」
『はーい』
その様子を見ていた懐記が間に入り誘えばジラもトゥナーも返事を返す、ジラは腕輪を嵌めイシュターはその様子を眺めていた。
「てな訳でよろ」
「待った!詳しい話は聞くが出発はあさっ…じゃないな明日の朝だ。ホスィソのパーティをして王様になるのを見届ける、これは絶対だ。皆で見届けてから向かう」
「崇幸…」
「承知した」
「後、これ飲んでくれ。咳に効くから、不安なら鑑定か毒見をしてくれ」
「……ありがたく頂戴しよう」
崇幸がきっぱりと言いセバドンナは特に反論もしない、崇幸が収納袋から万能薬が入った瓶を手渡す、セバドンナは素直に受け取り懐にしまった。
「明日は忙しいから話は移動の際に聞くわ」
「貴方方は今から我が国の監視下に入って頂く」
「承知した…」
騎士と兵士達に連れて行かれるセバドンナの背は細く頼りない、嘗ては筋骨隆々の身体で巨大な
戦斧を振るい敵陣に突っ込んでいた男の歳を重ねた姿をジラは見送った…。
「今夜は眠れそうにないな…」
ジラはそう呟き明日以降の話を酒場から出て、バスの側で懐記が出した家で話し合いを行った。


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