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第09部 魔王たちの産声 歪

第015話 ん?兄弟??

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「ヒビカくんはクッキーとドーナツをあげるね」
「かわいいー何歳?」
「あ…11歳です、おいしい!!」
「沢山食べてね」
「あ…でも…」
「どうした?」
「弟達にも食べさせたいなって…」
「そうか、ヒビカの家は何処だ?」
「《クートン》という場所です」
「よし、分かった。弟達に食べさせてやろう」
「うん、そうだねーお兄ちゃんばかりだとずるいもんね、俺と崇幸兄と行くからトイちゃんとニトちゃんは先にベルンちゃんたちの所へ戻っていてよ」
ニトとトイがヒビカの頭を撫でながらドーナツとクッキーを勧める、ヒビカが顔を赤らめモジモジしながらクッキーとドーナツを食べれば美味しいと感動し弟達にも食べさせたいとしょんぼりするので、崇幸が頭を撫でてとりあえず行ってみようかとヒビカにサンドイッチも食べて貰う。
『ゆき…舵…行くのは良いがその子供…キーラソーの亜種だ』
『キーラソー?』
『え?』
舵と崇幸の声にトイとニトが驚く、水色の髪に水色の瞳の少年をマジマジと見つめて首を傾げた。
「キーラソーってあのキーラソーかな?」
「たぶん?」
「まあ、でも色々な動物は沢山見たし」
「そうだなーま、なんとかなるかな。行ってくるよ」
「千眼さんもいるから…」
「そうだね…もし何かあったら…あ、チグリスさんかナイルさんに行って貰って下さい!」
「それいいですね!」
「分かった」
「2人が言うならそうするか」
トイとニトはカルンと赤ん坊を連れて、ベルン達の元へと先に帰り代わりにチグリスとナイルに声を掛ければナイルは皇国で料理教室や飲食店へのアドバイスにと忙しいようなので、チグリスと仕事が1段落先についた千歳の5名で《クートン》に向かった。

「崇幸…」 
「あんパンとメロンパンどっちがいい?」
「両方」
「じゃ、ヒビカと半分な?千歳君悪いな、明日は俺も手伝うから」
「ありがとうございます、中々興味深いですよ。この世界の生計も」
「そうか」
《クートン》という場所、野原にたどり着いた5名早速チグリスが崇幸にねだるのでまずはメロンパンを半分にしてチグリスとヒビカに渡す、チグリスは2口で食べてしまうがヒビカは大事そうに食べている。
「ヒビカ君は何人兄弟?」
「11兄弟です!今お母さんのお腹に兄弟がいます!」
『………』
「キーラソーは多産…」
「単体で子を成す」
固まる千歳、崇幸、舵にチグリスと千眼が説明をする、この野原は見晴らしがよく家らしき物も無い、草や木も無い……どうやってヒビカ達が生活しているのか疑問だ。
「あそこが家です」
『え?』
「キーラソーは巣穴で生活する」
「何でも食べる…土…」
「えぇーヒビカちゃんも穴で生活しているの?」
「俺は身体が大きいからその辺で寝ます!お母さん!みんな!帰ったよ!」
ヒビカが盛り上がった土の穴に声を掛けると、中から土色の耳の垂れた出っ歯なウサギがわんさか出てくる。
「わ!小さい!かわいいー」
「お、小さいなー」
「……ウサギかな?ネズミかな?」
「集団だと自分達より遥かに大きい獲物も狩る…ウィンと相性が悪い…」
「食べ物かあれば縄張り争いはしない…ウィンの方が格が上…」
わらわら出て来るキーラソー、皆痩せ細っていて元気が無い。
「これだけいて母体に子がいるなら共食いが始まる筈…」
「共食い!?」
「強い個体だけが生き残る…皆ギリギリだ…母体も亜種か…」
「お母さん…本当は俺も分かっているんです。弟たちも良いって俺が少しでも稼いでご飯とか用意するんですけど…足りないから…お母さん…みんな…」
舵がチグリスの言葉に驚くが崇幸も千歳も黙って聞き、ヒビカの歯を食い縛り涙を堪える姿を見る。
「回復薬でどうにか持ちこたえる者も明日まで持たない者も母体もギリギリだ…収穫家の元へ連れて行くと良い」
「ヒビカ!?良いか?」
「お母さんと弟たちを助けてくれる?」
「約束はしない…」
「っつ、お願いします!」
「僕が連れていこう」
千眼の声は冷たいがヒビカは頭を下げる、千歳が転移で蒐集家のいる毒の森へと転移を行った。

『弱ったキーラソーを千歳さま達が連れて来ます。治療を』
風早が車内放送で伝え、大河、ゴーシュ、コォンが立ち上がる。
「まあ、いいでしょう」
個室から出てきた蒐集家も特に抵抗もなく食堂に集まり、千歳達が到着する。
「頼むよ」
「構いませんよ」
『弱っているのね~共食いしないね~ん』
「手伝うぞ」
『あいつが勝手にやるのね~ん』
ゴーシュが抱っこしていたコォンを放し、コォンは部屋の隅に行く、千歳がちらと見るが用件は後回しにして蒐集家に従う。
「選別します、栄養が足りていない個体は《島船》で滋養のある物を食べさせて下さい。母体……亜種…か…これは預かります。カウンを下さい、磨り潰して…スープを懐記さんを《島船》に呼んで下さいレシピを伝えます。後はこちらの個体を預かります」
「分かった、僕が《島船》にいこう」
「あ、懐記君。いますぐ《島船》に来てくれ」
「今手持ちはこれだけ」
「もう少し数が欲しいですね、こちらはこれで構いませんが」
「分かった」
「懐記さんに渡して下さい」
「オッケ、崇幸兄トイちゃんとこ連れて行って」
「分かった、ヒビカも服を着替えよう。すぐ戻るから俺と来てくれ」
「は、はい。お母さん…行ってくるね」
崇幸がヒビカの手を引き連れて行く、あまり人がいない方が良いだろうという判断をし、千歳が個体を連れ《島船》へ向かい、舵と崇幸とヒビカはトイ達の元へと向かった。

「この母体…不味い」
「自分を犠牲に子供を生かそうとしていますねが、さて胎内の子供たちも危険ですね」
ゴーシュが左眼の薔薇を散らしながら、蒐集家も少し考え込む。
テーブルに乗せられた何匹かは蒐集家の指示でゴーシュと大河が回復薬を少し飲ませて呑み込んだのを確認しまた呑み込ませるのを繰り返す、皆小さく弱々しい。
母親も腹は膨らんでいたが痩せ細り、呼吸も浅く眼を閉じている。
「腹を切れば確実に母体が死にますね、回復するまで持ちこたえる事も出来ない、出産日は過ぎているが体力が無くて出産出来ない…か…」
『4位の空間歪曲で出せばいいのね~』
「空間歪曲は胎内は無効でしょう、わざと言ってますね」
『知らないのね~』
「喧嘩するな、崇幸には時間稼いで貰うか…」
「こんな会話子供に聞かせられないな」
ゴーシュが崇幸にラインし、大河が眉根を寄せる。
「手は…ある…」
「貴方が?それは興味ありますね」
『3位…』
「番外個体水棙鬼(すいれつき)手を貸して貰う…」
『弱体しても3位は3位なのね~いいのね~』
ゴーシュは崇幸にラインし、千眼が前に出てコォンを呼ぶ、コォンは立ちあがりテーブルの前に立った。
「今から言う…」
チリン…蒐集家の鈴の音が鳴り、口元を大きく歪ませ嗤った…。
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