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第09部 魔王たちの産声 歪

第4幕 第6蒐 劇

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「明日で祭も終りかー」
「そうですねー面白かったですね!」
「また来年とかやらないかなー」
「千年祭だもんね、屋台はレストランに設置して祭と銭湯をコンセプトにするみたいですね」
夕暮れ時の祭を散策する、詠斗、率、晴海、綴、ガヤガヤとした喧騒の中を歩いている、ホテルの方も新規の客の受け入れを今日までにし、3日後に正式にスーパー銭湯兼従業員達の保養所として稼働する事になっていた。
「俺達も畑に戻って」
「やっぱりテントの我が家が一番だよね!」
「はい!」
「ええ、やっぱり思い出深い場所ですからね。暫くはゴーレムの修復と孤児院のお手伝いですね」
「俺も!後はシアちゃんやイザラとダンジョン行こうかな」
「俺も!」
「僕はナイルさんのお手伝いとそろそろ雑貨屋を始めます、崇幸さんもコンビニをホテルと《トイタナ》のフードコートに作ります!」
「手伝うよー」
「俺も!」
「僕もお手伝いします」
「ありがとうございます!可愛いお店作りますね!」
芝居を見に広場へ向かうとガヤガヤと賑やかに様々な小劇が行われていた、小太りの男の芝居が面白く毎日演目が変わるようなのでそこに詠斗達は向かった。
「さあさ、祭も後1日本日最後の演目『伝説の大義賊』の物語ー。声を小太りの男が張り上げ人形劇が始まる、とある芸術に明るい都に古くから存在する伝説的義賊、何とその伝説は400年以上、だーれもその姿形を見たことがない貧しいが芸術の才野を持つ若者達にコインや宝石を贈る、芸術に明るい都の人気者!」
小さい人形劇、舞台に降り注ぐコインや宝石を拾う派手な衣装の人形達、派手だが所々継ぎ接ぎだらけで細かいな綴は思った。
「そんな義賊、ある日1人の探求心旺盛な男がふらりと都を訪れ正体を暴いてみようかと動き出す、追う男と追われる義賊!追いかけっこは止まらないとまらなーい」
子供達が激しく動き回る2体の人形に息を飲む、やがて義賊に男の手が触れそうなその時、何処からともなく美しい女性の歌声が聴こえて人形の動きが止まった。
「現れたのは当時の都の最高峰の歌姫メーティシア!ああ、どうか義賊様を捕らえないで下さい、この方がいなければ私達は日々の生活に追われ芸術の素晴らしさを享受出来ませんでした。どうか、このままに」
歌声と共に小太りの男が朗々と語る、男の声だが不思議と歌姫の心が伝わる。
「男は歌姫と義賊にならばと、正体が知りたいと言う。胸に刻んで誰にも言わないだから…知りたいと…義賊は了承する、メーティシアは目を閉じ歌う…この世界に置いて唯一義賊の正体を知ったその男の行方は知れず今も尚義賊は貧しい若者達にコインや宝石を贈っている…彼を捕まえれば莫大な懸賞金が手に入るが誰も彼を捕えようとしない…皆様も芸術に明るい都に行った際は是非義賊の伝説を辿ってみては如何でしょうか?これにて閉幕…」
人形劇の舞台に話とコインと宝石が降り注いで子供達の拍手と歓声が上がり幕は閉じた。
「義賊というからには盗んだ物を人に配っていた事になると思いますが…」
「そう、だけどそのコインや宝石は盗賊や悪い事している奴らから拝借していたようだね」
「それなら、没収されたりしませんね」
綴の独り言に何時の間にかフードを被った男か女か分からない人物が答えてくれる、大河や千歳が教えてくれた謎の人物なのだろうか。
「そう、沢山の若者が義賊のお陰で自分の才能を伸ばしあの都は発展したんだ」
「今度行ってみます、家族と」
「楽しいよ」  
「綴さん、隣の劇も面白そうだよー」
「はーい、行きますねー。その都って…あれ」
晴海に呼ばれ目を離して視線を戻すと忽然と姿を消していた、綴はくすりと笑いまた会えるだろうと晴海達の方へ向かった。

『部屋の使い心地は如何ですか?』
「本当AIみたいだな」
『私の構成はスキルと魔力とマスターです』
「知っている、部屋の使い心地などどうでもいい」
『大河様にそう伝えておきます』
「どうぞお好きに」
店の確認と契約を終え最上階の部屋に戻れば、風早からの部屋の使い心地と改装部分の感想を求められたがどうでも良い、住めば都という言葉があるのだ。
今夜はカジノ前に大河達と食事をしろ言われている、したくもないがそれまでの時間風呂と着替えと店の準備とゴーレムの修復作業でもするかと収納の確認をする。
地上3階地下2階の店などどう1人で回せばいいのか全く面倒だ、どうせ向こうも昨日のイシュターへの暴言での意趣返しだろう。
蒐集家はつまらなさそうに、何をするか売るか考えた…。

「ご招待ありがとうございます」
「へえ。随分気合入っているじゃん」
「ええ、今夜は面白い事がありますから」
カジノタワーのビジネスエリアの会議室に皆集まり、持ち寄りで食事をテーブルに広げ立食形式で食べる事にした。
会議室に入った蒐集家の姿にジラが口笛を吹く、今夜の蒐集家の格好はスリーピースのスーツにジャケットはダブル、ネクタイ迄締めて髪型鈴が付いた髪飾りを使い後ろで束ねていた。
その出で立ちだけをみれば芸能人の様に見えなくもない、異質なのはそのスーツ、ネクタイ、袖を通さずに羽織っている衣服全てに草花の刺繍が施されていた。
「わあ、すごい!こんばんは!俺は晴海!」
「綺麗な刺繍ですね、僕は綴と言います」
「今日はトラングさんと104枚神経衰弱勝負ですよね」
「ええ、少々気合を入れ過ぎましたね。蒐集家と申します。商業エリアに店を構える事になりました。よければ今度遊びに来て下さいね。皆さんのお陰で良い店と泊まる所が手に入りましたから」
チリンと鈴が鳴る、オーナー達の機嫌を損なうなという規約を一応は守っているようだった。
「蒐集家さん?何を食べる俺は詠斗だよ」
「好きな物も嫌いな物も無いのでどれでも良いですし、何でも良いです」
「へえ、ならこれがおススメ、モギのミルクとこのダンジョン肉のステーキ!」
「俺は、こっち!魚ダンジョンの刺身!何でも食べれるって事でしょ?食べてみてよ!美味しいから」
「この世界で魚を生で食べる習慣があまりないようで、好き嫌いが無ければ是非試して下さい。この調味料、醤油か塩で食べるのが美味しいですよ」
「……貴方は好き嫌いあるんですか?」
「いえ、僕も好き嫌いないですね。甘い物も辛い物も好きです」
「そうですか、頂きますよ」
チリン…鈴が鳴り蒐集家が綴に好みを訪ねる、特に嫌いな物は無いという返事にそれ以上何も言わず箸を使って食べた。
「箸使えるんですね」
「ええ、昼に崇幸さん達が使っているのを見て覚えました」
「器用なんですね」
「さあ?」
「どうです?刺身は?」
「美味しいと思いますよ」
「それは良かったです」
綴がニコリと笑う、蒐集家は渡された分の刺身を食べきり勧められた物を食べて食事を終わらせた。
『只今よりカジノオープンします。今回は支配人より神経衰弱104枚勝負の勝敗を賭けるゲームが行われます。参加希望のお客様はカジノのフロントまでお越しください』
「これは、頑張りましょうか」
「トラングが勝手にやったのか?」
「いんや、俺とラジカと千歳と懐記の入れ知恵だ」
大河が放送を聞いて呆れる、ジラがニヤリと笑った。
「貴方は私に掛賭けてくれますか?」
「僕はどちらにも賭けません、どちらも応援しますから」
「それは、残念」
綴の優等生じみた答えに、蒐集家がどうでも良さそうな
薄ら笑いを浮かべた…。
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