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第09部 魔王たちの産声 歪

第4幕 第4蒐 毒視公

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「支配人、本日の営業は間も無く終了となります、明日仕切り直しは如何ですか?」
「承知しました」
「お久しぶりです、傭兵王殿に《ラズライール商会》の支配人殿、お元気そうで」
「俺は会いたくなかったがな」 
「こちらもです、《ガルディア》は貴方のせいで雨ですよ」
「何が欲しいんだ、くれてやるから帰れよ」
「噂を聞き遊びに来ただけですよ、雨は私が呼んだ訳ではないのですがね」
「んなことぁどうでもいい、ここの景品全てやるから帰れよ」
他の客達がオーナー達と傭兵王の登場に固唾を飲む、誰も彼もが気配を消して事の成り行きを見守った。
「連れないですね、身体の調子は良さそうですね、気になっていたんです。それと古代の龍の目覚め(・・・)お慶び申し上げます」
蒐集家が慇懃にイシュターに向けてお辞儀をする、嫌に鼻につく程度には様になっていた。
「お陰様でな、ほら、何が欲しいんだよ?」
「私が死んだのではなく、眠っていたと知っていたのか?」
「はい」
大きく口を歪めチリンと鈴が鳴る、その言葉に僅かに悪意を大河、千歳、懐記は感じた
「欲しい物は古代種のドラゴンの鱗と解毒の食器でしょうか」
「でしょうね、貴方の事だ。毒を解毒する魔法具などつまらないと破壊するつもりでしょう」
「はい」
トラングが下がり、蒐集家が口元を大きく歪めラジカの問いに答える、ジラが舌打ちラジカがあからさまに不機嫌になる。
「まだ営業終了まで時間はありますよね、支配人さん明日のゲーム楽しみにしています。私は他のゲームをしましょう、欲しい物は自分でゲットしたいので貰うつもりはないですよ」
席から立ち上がる、睨むラジカと何のゲームをしようかと周囲を見渡そうとすると大河が一歩前に出た。
「おい」
「はい」
「イシュターが死んでいなかったのを何故神々に知らせなかった?」
「知らせてどうかなるのですか?」
「蘇生させる方法があるだろう」
「あはは、ふ、あはは」
「大河!コイツとしゃべるな」
「気になっただけだ、千年だろう?息子だって産まれていたんだ。知らせてやればすくなくとも千年待たなかった」
「あはは、神々に知らせたとて魔力回廊を奪われた古代龍の蘇生は無理ですよ?」
「俺達は出来たが」
「ふふ…条件があったんですよ、偶然の一言で片付けてしまえば簡単ですけど」
「なんだ、その条件は?俺達の何がイシュターを蘇生させた?」
「教えませんよ、でも面白い事を話してあげます」
「大河、私は構わない。ただ、知っていたのかどうかを知りたかっただけだ」
大河と蒐集家の会話にイシュターが矢継ぎ早に口を挟む、チリンと鈴が鳴り蒐集家は誰も頼んでもいない知りたくもない事を話し始めた。
「あはは、もう、遅い。千年前に魔王が古代種に戦いを挑んだ際全員敗けると…いえ1種だけもしかしたら引き分けか勝てる可能性のある古代種もいたのですが、全員が人身御供として龍を差し出したんです。魔王と龍相性も悪く、敗ける勝負に挑んで敗けて魔力回廊を奪われた。逃げもせず、自分が敗けても他の古代種達とは戦わない事を条件にしたんです、お前が敗けたのは自分が弱かったからだ」
「ああ、その通りだ」
「それだけですよ、面白い話しでしょう?」
「何処がだ」
つらつらと話しをペラペラしゃべる他の客達は震え引き、大河は否定する。
「あ、そうそう。そのもしかしたら勝てたかもしれない種は《空廻る者》ですねー中々良い勝負になると思いましたが残念ですね?ねぇ」
首を傾げラジカの方を見る、ラジカは拳を握り蒐集家を平静を装った視線で見つめた。
「そろそろ、クローズだ」
「それはそれは、残念です。あ、こちらの商業エリアに店をだのでよろしくお願いします」
『断る』
「2人とも、さすがにそれは」
「規約があるからな、禁止品等がなければ誰でも店は出せるだろう」
にこりと笑う蒐集家のとんでも発言に流石の千歳と大河も窘める、いくらイシュターを見下したといえども線引きはする。
「そちらの2人の言う通りですが、支配人殿と傭兵王には大層嫌われていますし…一応手土産もあるのでそれを見てから判断して下さい」
口元に緩い笑みを浮かべ蒐集家の脇の空間から緋色の輝きを放つ拳大の輝石が現れ、植物の刺繍を細かく施された黒い手袋の掌の上に置きイシュターに差し出した。
「以前魔王の奴隷と戦った際の戦利品です、貴方の魔術回廊の一部ですね。どうぞ」
「必要ない、私の回廊は既に再構築されている。好きにしろ」
「それは残念です、さてどうしましょうか」
「待って下さい、それは貴方の元に置いておけない。こちらに渡して下さい」
ちっとも残念そうな雰囲気がしない、ラジカが手を出した。
「なら、商業エリアの出店を許可して下さい」
「いいだろう、それを渡して貰おう」
大河がラジカの隣に立ち、回廊を受け取りラジカに渡した。
「明日、手続きをします。朝、商業エリアに来て下さい」
「はい、それと」
「何かあるんですか」
「宿、紹介してくれませんか?」
「この上に泊まれ」
「1泊いくらです?」
「金はいい」
「私は借りを作るのが嫌いなので、お支払いします」
「なら、余計タダだ。風早店仕舞いだ、この客を上に案内しろ。支配人、終了だ」
『承知しました、ではエレベーターにお乗り下さい。ご希望の階数はございますか?』
「最上階で」
大河が蒐集家に顎でエレベーターに向かうよう指図し、トラングが閉店を告げ客達がメダルの交換等を行い緩やかに本日のカジノの営業が終了した。

「んだよ~あの客!飲みたくもない極上の高いが不味い酒を無理矢理飲まされた気分~あー最悪~」
「それ、良いの?悪いの?」
スタッフルームに戻ってスタッフ達を先に生け簀エリアに向かわせ、トラングが制服のジャケットを脱ぎ捨てソファにどかりと座り整えた髪をかきむしった。
例えに懐記が笑い、トラングが余計剥れた。
「風早、あの客は?」
『……見えません』
「遮断しているのでしょう」
「引き続き様子を見てくれ」
『申し訳ありません、上手く認識出来ません』
「そうか」
「実力は魔王クラスかな」
「それ以上の危険な奴かもな」
「食べに行こ、風早っちルームサービスって事で食べるか聞いて」
「おい、懐記ー」
『承知しました』
ジラが額を押さえる、ラジカも嫌そうな感じだ。
『必要ないとの事です』
「そ」
「ラジカ、明日俺もあの客に会う。トラング明日神経衰弱をリベンジするのか?」
「リベンジ?」
「復讐、やり返す、次は勝つと言う意味合いに近い言葉だ」
「へえ~それ気に入った!リベンジする」
「そうか、勝てよ」
「トラング、負けるなよ」
「へ~い」
大河が教えてくれたリベンジという言葉、気に入ったようで笑みが浮かび全員で生け簀に向かった。

「おいし」
「嫌な事があった後の飯はうまい、カノリも飲むか。イシュターほら、チグリスも」
「ああ」
「ん」
「崇幸さん、サイダー下さい」
「ほら、舵も」
「ありがと」
「サンキュー、しかし何その蒐集家?胡散臭いねー」
生け簀エリアでフユーゲル達クーランタークとヒュールにゴーレム達が魚料理を提供してくれる、主に焼き魚や刺し身にフライとスープ、どれも懐記のお墨付きを貰いフユーゲル達も自信を持っていた。
「得体はしれないな」
「《アタラクシア》の探偵ですか…」
「あくまでも表向きは蒐集家ですがね、毒視公等とも呼ばれています」
「どくみこう?」
ラジカが刺し身を醤油とわさびで食べながら、詠斗達に教える。
「毒に精通しているんだよ、後この世界に存在するかもしれないししないかもしれない毒ダンジョンの最初で最後の攻略者とも謂われているがな。あいつのお陰で俺は生き延びたが、あいつは俺が妖精の血を飲まされた時の治療の報酬は《オータム》という国を落とせってやつで、ドラゴンの鱗喰う羽目になった時の治療報酬は《スピタス》って国を滅ぼせってやつだった。腕は確かだ」
「え、ジラさん滅ぼしたの?」
「ああ、《オータム》は暴君で民には感謝されたな。《スピタス》は小さい国で全体で奴隷売買やら旅人を殺して金品略奪してた盗賊国家だったからな」
「何故そんな報酬にしたんだ?人助けか?」
「まさか、あいつは貸しを作るのが大好きで貸しを借りるのが大嫌いだからからな。俺と誰かに恩でも売ったんだろ」
ジラが串に刺した塩焼きを食べながら首を横にする、治療の報酬は国盗り…金をいくらでも支払う方がマシだろう。
「でも、その人がいなかったらジラさんはもしかしたら…」
「死んでたかもな」
「じゃ、命の恩人じゃない!」
「晴海…命の恩人かもしれないが、あいつとは相容れないからな」
「んー」
ジラが晴海の頭を撫でてやる、晴海は腑に落ちないようだった。
「ラジカは?彼と何があったのかな?」
「商売敵というか、何度か同じ商品を巡って敗けているんです」
「ラジカが?」
「ええ、毒関連の物を購入しようとするとよくかち合いましたね。いつも一歩前をいっています」
千歳がラジカに蒐集家との事について聞けば、商売敵のような間柄だという、事だった。
「ラジカが嫌なら、会う必要はないよ」
「ありがとうございます、彼の動向は気になりますから。何かしらが起こりますし」
「明日は僕と大河君も行くから、カジノにもね」
「はい」
次々料理が運ばれ、蒐集家の事は一度置いて楽しむ事にした。
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