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第09部 魔王たちの産声 歪
第4幕
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《アタラクシア》で雨はあまり降らないが、水質が豊かな世界だった。
砂漠もあるが、水魔法の使い手も多く水にはそこまで困らない、雨は不吉な事が起こる前兆として人々からは歓迎されていなかった。
とある貴族の屋敷雨降る中、異装の男が1つの真実を告げる。
「私は頼まれたから答えるだけです、私はあくまで蒐集家です…悪しからず」
「は、はい!お願いします!どうか妻を殺した者を教えて下さい!」
自らを蒐集家と名乗った男は、口を大きく歪ませ笑みの形を作る。
周囲の者達も息を呑み、成り行きを見守った。
胸の辺りまで伸びた真夜中色の蒼い髪は癖が強く毛先がうねり、毛先は色の薄い紫色、左側の耳の辺りから紐と髪で編み込んだ丸い鈴の様な物が目を惹き、貴族や王族でもないのに色味の強い赤黒いシャツと薄い紫に見た事もない文様の刺繍が施された長い腰巻と紺色の蔦の刺繍が施されたズボン、そして何よりも目立つのが袖を通さず羽織るだけの足元まである上着には刺繍で多くの花や草が施され、男の何もかもが目立つ、兎に角異様に目立った。
見る者が見れば整った容姿…ともいえるがその異装に、顔にはあまり意識が向かなった。
「では、貴方の奥方様を殺したのは誰でもありません」
『は?』
「そうですね、強いて言うならば奥方様自身でしょうか」
「な、それは自殺という事ですか!?」
「私は奥方様を殺したのは誰かという質問には答えますが、何故自分を殺したのかは答えるつもりはありません、興味が無いので」
「あ、あああ」
「皆さんの方がご存じなのでは?」
蒐集家は嗤う、蒐集家に縋った貴族はその場に崩れ落ちた。
悲しみに暮れる家族など気にもせず蒐集家は笑みを浮かべ周囲を見渡す、家族…なんてくだらない繋がりなのだろう…血が繋がっているというだけでつまらない感情に振り回されている。
「つ、妻は他の男と浮気していました…私には3人の子供がいますが血が繋がっているのは2番目の子供だけです…私は妻を愛しています…だから妻の不貞に目を瞑りました」
「お、お父さま!」
「父上!」
床に顔を向け血を吐く様に吐き出す、後ろで事の成り行きを見ていた子供達、恐らく1番目と3番目の子らが青褪め叫ぶ。
「ほ、本当に愛していました…」
「……私は貴方の奥方様への愛を聞きに来たわけではありませんが、この際全て吐き出してしまいましょう…さあ、どうぞ貴方の愛を蒐集しましょう、私は蒐集家ですから」
「うう……妻を愛した…美しい妻を、妻と結婚したかった…だから…」
「だから?」
「妻の当時の婚約者の家に圧力を掛けて…」
「それで?」
「婚約者との婚約を破棄させた…」
「そう、そして」
「彼女の家に金を積んで彼女に結婚を申し込んだ」
「ええ、そして」
「私は彼女が元婚約者と密通していたのを知っていた」
「知ってそれで?」
「彼女を愛していた私はそれを赦した」
「それは貴方の愛」
チリン…蒐集家の髪飾りの鈴が鳴る、周囲は息を呑む。
「私は彼女に頼んだ、どうしても我が子が欲しいと、産んでくれるのならば何をしても良いと、他の男と密通しようが何をしようが構わないと」
「素晴らしい懐の深さですね」
「子供達も別け隔てなく愛情を注いだ」
「愛する奥方様の子ですからね」
「そうだ、私は彼女の全てを受け入れた…」
「それが貴方の奥方様への愛の形」
「ああ…だが」
「だが?さあ、続きを…」
「彼女は私を赦さなかった、2番目の子を愛さなかった」
「自分は愛したのに?」
「そうだ、そして最近元婚約者が死んだ…」
「奥方様はその後を追った」
「そうだ、うらやましい…私にもその欠片程でも愛情を貰えていれば…」
「貰えていれば?」
「こうはならなかった……」
この屋敷の主人が懐から鈍く光るナイルを取り出し、一思いに自分を貫こうとしたその瞬間、2番目の子供が父親の身体に覆い被さる。
「止めて下さい!お父様!お母様には愛されませんでしたが、私はお父様がいたからこうして生きていられるんです!お父様が逝くなら私も逝きます!」
「お、お前……ああ……す、すまない…」
「お父様…」
「では、続きは私がお代を頂戴した後に存分に」
「そうですな…いくらお支払いすれば…」
「お金ではなく“カジノ”に私を招待して下さい」
「あ、あの場所は」
「無論、弾かれたらそれはそれで構いません」
「わ、分かりました。今夜お連れします、どうぞお休み下さい…」
「どうも」
親子の情に興味のない蒐集家がさっさと報酬を貰おうかと、会話をぶったぎり欲しい物を伝える、この屋敷の主は何かを伝えようとし全て分かった上だと視線で蒐集家が伝える、執事に客室に案内され夜を待つ、ベッドにソファに調度品も中々質の良い部屋だ。
緋色の背負子を床に置き、懐から手帳を取り出しパラパラ捲る、とあるページで止めて口元を大きく歪め嗤った。
ソファよ座り心地は固い、外を見れば雨はまだ止まない、蒐集家が雨を呼ぶのか、雨が蒐集家を呼ぶのかは誰も知らない…いや蒐集家は知っているのかもしれない…。
第4幕 第1蒐 蒐集家 開幕
砂漠もあるが、水魔法の使い手も多く水にはそこまで困らない、雨は不吉な事が起こる前兆として人々からは歓迎されていなかった。
とある貴族の屋敷雨降る中、異装の男が1つの真実を告げる。
「私は頼まれたから答えるだけです、私はあくまで蒐集家です…悪しからず」
「は、はい!お願いします!どうか妻を殺した者を教えて下さい!」
自らを蒐集家と名乗った男は、口を大きく歪ませ笑みの形を作る。
周囲の者達も息を呑み、成り行きを見守った。
胸の辺りまで伸びた真夜中色の蒼い髪は癖が強く毛先がうねり、毛先は色の薄い紫色、左側の耳の辺りから紐と髪で編み込んだ丸い鈴の様な物が目を惹き、貴族や王族でもないのに色味の強い赤黒いシャツと薄い紫に見た事もない文様の刺繍が施された長い腰巻と紺色の蔦の刺繍が施されたズボン、そして何よりも目立つのが袖を通さず羽織るだけの足元まである上着には刺繍で多くの花や草が施され、男の何もかもが目立つ、兎に角異様に目立った。
見る者が見れば整った容姿…ともいえるがその異装に、顔にはあまり意識が向かなった。
「では、貴方の奥方様を殺したのは誰でもありません」
『は?』
「そうですね、強いて言うならば奥方様自身でしょうか」
「な、それは自殺という事ですか!?」
「私は奥方様を殺したのは誰かという質問には答えますが、何故自分を殺したのかは答えるつもりはありません、興味が無いので」
「あ、あああ」
「皆さんの方がご存じなのでは?」
蒐集家は嗤う、蒐集家に縋った貴族はその場に崩れ落ちた。
悲しみに暮れる家族など気にもせず蒐集家は笑みを浮かべ周囲を見渡す、家族…なんてくだらない繋がりなのだろう…血が繋がっているというだけでつまらない感情に振り回されている。
「つ、妻は他の男と浮気していました…私には3人の子供がいますが血が繋がっているのは2番目の子供だけです…私は妻を愛しています…だから妻の不貞に目を瞑りました」
「お、お父さま!」
「父上!」
床に顔を向け血を吐く様に吐き出す、後ろで事の成り行きを見ていた子供達、恐らく1番目と3番目の子らが青褪め叫ぶ。
「ほ、本当に愛していました…」
「……私は貴方の奥方様への愛を聞きに来たわけではありませんが、この際全て吐き出してしまいましょう…さあ、どうぞ貴方の愛を蒐集しましょう、私は蒐集家ですから」
「うう……妻を愛した…美しい妻を、妻と結婚したかった…だから…」
「だから?」
「妻の当時の婚約者の家に圧力を掛けて…」
「それで?」
「婚約者との婚約を破棄させた…」
「そう、そして」
「彼女の家に金を積んで彼女に結婚を申し込んだ」
「ええ、そして」
「私は彼女が元婚約者と密通していたのを知っていた」
「知ってそれで?」
「彼女を愛していた私はそれを赦した」
「それは貴方の愛」
チリン…蒐集家の髪飾りの鈴が鳴る、周囲は息を呑む。
「私は彼女に頼んだ、どうしても我が子が欲しいと、産んでくれるのならば何をしても良いと、他の男と密通しようが何をしようが構わないと」
「素晴らしい懐の深さですね」
「子供達も別け隔てなく愛情を注いだ」
「愛する奥方様の子ですからね」
「そうだ、私は彼女の全てを受け入れた…」
「それが貴方の奥方様への愛の形」
「ああ…だが」
「だが?さあ、続きを…」
「彼女は私を赦さなかった、2番目の子を愛さなかった」
「自分は愛したのに?」
「そうだ、そして最近元婚約者が死んだ…」
「奥方様はその後を追った」
「そうだ、うらやましい…私にもその欠片程でも愛情を貰えていれば…」
「貰えていれば?」
「こうはならなかった……」
この屋敷の主人が懐から鈍く光るナイルを取り出し、一思いに自分を貫こうとしたその瞬間、2番目の子供が父親の身体に覆い被さる。
「止めて下さい!お父様!お母様には愛されませんでしたが、私はお父様がいたからこうして生きていられるんです!お父様が逝くなら私も逝きます!」
「お、お前……ああ……す、すまない…」
「お父様…」
「では、続きは私がお代を頂戴した後に存分に」
「そうですな…いくらお支払いすれば…」
「お金ではなく“カジノ”に私を招待して下さい」
「あ、あの場所は」
「無論、弾かれたらそれはそれで構いません」
「わ、分かりました。今夜お連れします、どうぞお休み下さい…」
「どうも」
親子の情に興味のない蒐集家がさっさと報酬を貰おうかと、会話をぶったぎり欲しい物を伝える、この屋敷の主は何かを伝えようとし全て分かった上だと視線で蒐集家が伝える、執事に客室に案内され夜を待つ、ベッドにソファに調度品も中々質の良い部屋だ。
緋色の背負子を床に置き、懐から手帳を取り出しパラパラ捲る、とあるページで止めて口元を大きく歪め嗤った。
ソファよ座り心地は固い、外を見れば雨はまだ止まない、蒐集家が雨を呼ぶのか、雨が蒐集家を呼ぶのかは誰も知らない…いや蒐集家は知っているのかもしれない…。
第4幕 第1蒐 蒐集家 開幕
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