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第09部 魔王たちの産声 歪

第01話 如月 一

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如月 一はこの世に産まれ出た瞬間から不幸…不幸せが確定していた子供だった…学の無い両親、ギャンブルに溺れる若い男と身体を売ってヒモ状態で暴力を振るう夫を養う女との間に、妊娠に気づかず気が付いたら後に引けない所迄来ていたので致し方なく産んだ子供。
一という名前は当時一を産んだ女が嵌っていたホストかアイドルか何かの名前をとってつけたらしいという事、一は自分の名に興味が無かった。
戸籍も無い、女が病院で親しくなった訳アリの少女が産まれたら孤児院に連れていくと言っていたので、自分もそうしようかと思ったが仕事仲間が子供は金になると教えてくれたので手元に置く事にした。
そういう商売をする女性達や訳ありの女性を受け入れてくれる病院、そこで一は産まれた。
一の遺伝子上の父親も母親も一に興味が無い、死んだら面倒だが生きていても面倒だと死んでも良いと思う程度の愛情の欠片も無い両親の思考とは裏腹に何故か一は丈夫で、健康的に育っていった。
食事も満足に与えない、学校にも禄に行かせていなければ一も特に興味を示さない、泣かなければ大して食事も与えられず、男がギャンブルに負ければ腹いせに殴る蹴るの暴力を受けるが一は泣きもしなかった。
「お前が女だったらなー」
「えー男でもいけんじゃん、こいつ顔は良いでしょう?タバコの火とかは止めてよね、金にならなくなっちゃう」
「ち、わーった
一の顔は顔が取り柄の男と濃い化粧が映える女のどちらも容姿だけはまともな両親から受け継ぎ、幼いながら綺麗な顔をしていた。
「へっ!じゃお前の知り合いに高く売れよ」
「いいよー」
一は賢い子供だった、産まれてからこの世界に存在する今の今までの全てを完全に記憶している、
笑わない泣かない、女の知り合いに高値で玩具にされる…幼いながらそれを理解した一は家を出た。
自分が何故此処まで優れているのか、何故普通の人間とかけ離れているのか、だが自分の優秀さには興味が無い、生きるのに必要な知識は全て彼の内にある。

あのクソ野郎どもから離れて済々した、いつか復讐はする、俺をこの世に出した事を後悔させてやる、俺は生きている…さて、どうしようか?
子どもで小さい…不便だが悪くはない、どうせすぐに成長する。
寝床を確保する、目を付けたのは誰も住んではいないが電気や水道が出る家か…誰かは済んでいるが住んでいる奴が家にいない奴か…この日本という国は意外にそういう家が多い、鍵ってもんがありゃ安心だと思っている平和ぼけした奴らが多いが俺は良い家を見つけた。
呆けかけの老人が1人で住んでいる家だ、たまにヘルパーが様子を見にくるだけの古い家に住んでいる老人の家に俺は潜り込む事にした。
「さあ、ご飯が出来たわよ」
この呆けかけた老人は死んだ夫の分の飯も作る、家族は金を出して面倒な事は全て他人にさせる、もうじきどうせ死ぬだろうとほっといているし好きにさせている、俺は夫に用意した飯を食っている。
美味いか不味いかはは知らん、比べるような程飯に興味はない、呆けかけているせいか塩や砂糖や分量を間違えているがどうでも良い、夜…深夜に俺は金を稼ぎに行く夜に子供が出歩けばめんどくせーようだが深夜だと夜に紛れやすい、土日の深夜は酔っ払いが地面に放置されているそいつらの金を抜く、日本は平和だから殺されないだろうと高を括っている。
昼は子供が出歩いても何も言われない時間…午後に学校から帰って遊びにいく子供のように、入りやすい家に侵入して金を盗むすぐに気づかれない程度の額、そして呆けかけの老人の家に帰る、それが俺の過ごし方だった。

「もう、母さんもダメね」
「この家を売るか」
案外その呆けかけ…いや呆けた老人との生活は長かったが、家族が老人を引き取り施設に行くようなのでその家を出た。
じゃあな、すっかり背も伸びた、盗んだ金も貯まった、次は何処に行こうか、旅でもするか日本中適当に。
盗んだチャリで適当に走る、適当に家に侵入し適当に盗む、どうせ見つかっても捕まってもどうでもいい、行ける所まで行くそんだけだ。

「おい、てめぇ。何ガン飛ばしてるぅぁ!」
こんな生活をしていれば会うのはこんな薬中しかいねぇのかと、俺はその薬中をみた。
「こぉんおがきぃ」
どうやら若いチンピラが薬に手を出し、トリップ中のようだった、お愉しみなようで何より。
日本を適当に旅する…始めて早数年、ケンカもしょっちゅうだが俺は才能が有るらしい、相手を一方的にボコし金を巻き上げる、泥棒よりもこっちの方が面白い。
今日もその類だ、薬中は唾を飛ばし濁った眼でナイフを取り出し無暗に振っている、夜の人気のない道で俺は運が良いのか悪ぃのか…運は産まれた時から無かったか、俺は嗤う…あんまり笑った事は無い、楽しい事もねぇじゃん、こんな世の中。
「なめんなよぉ」
「だりぃ」
俺はこの目の前にいる薬中を見ながらふと思った、コイツはこの世界に存在する価値が自分よりもあるのかと、いや無いだろうと答えが出た瞬間人を殺してみようと思った。
正当防衛…や面倒だ単純に殺してみたい、それはナイフを振りかざして向かってくる男の腕の膝と肘で挟みナイフを叩き落とした。
ナイフで向かってくる相手なぞ腐る程いた、銀色に光るナイフを拾い上げ腕を抑えて地面で呻く男の背中にナイフを突きつけた、心臓に…。
「がぁ」
獣じみた声を上げ、ぴくぴくと虫のように体を震わせ死んだ。
「こんなもんか」
血で染まる薬中の身体、金でも盗もうかと上着の裏側に硬い金属…拳銃を見つけ抜き取る。
「へえ、初めてみた」
コイツと財布から金を抜き取り、俺は思いついた事を実行する為に移動した。
なあ、1人殺したら2人も3人も同じだろう?

「久しぶりじゃん、なんも変わってねーな」
俺は俺をこの世に出したクソ野郎どもに復讐する…いや、礼をする為にそいつらの巣に戻った。
おんぼろの木造の一軒、家の気配を伺えばあいつらがいる、もうじき夜明けだしさっさと済ませるか、適当な民家の軒先にあった灯油を盗み家の前に撒く、そしてライターを放る、火が少しずつ広がる俺はほくそ笑み移動する、生きてようが死んでいようがどうでもいい。
俺は港に向かって歩く、もう夜が明ける、俺は走った…走って走って…港に辿り着く、海を覗き込む臭い…暗い…此処が俺の墓…悪くはない。
「じゃ、死にますか、あーすっきりした」
拳銃を出してこめかみに充てる、弾が入っている事もすぐに撃てる事も確認した。
呼吸を整え、俺はこの世界とおさらばする、引き金を引いてそして俺は死んだ…。

そして俺は《アタラクシア》で魔王になった…。
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