あなたは異世界に行ったら何をします?~良いことしてポイント稼いで気ままに生きていこう~

深楽朱夜

文字の大きさ
上 下
278 / 867
第8部 晴れた空の下手を繋いで…

第3幕 第23話 船を売って下さい

しおりを挟む
「大海の覇王たるタータイルクッガ様並びに永久の伴侶たるキンガダイルラーガ殿の帰還、我ら海の旅人たるクーランタークが喜び申し上げます」
風早が船に梯子を掛け、雄大な碧い鯨のような姿から人型へ変わり船の先で挨拶を交わした。
『きゅ』『ぱしゃ』
「そのお姿は正しくタータイルクッガ様、永き貴方の不在は海を新たな時代へと運び、姿を変えました。我々クーランタークは再び貴方が海を支配し嘗ての静かな海に戻る事を望みます」
『きゅ』『ぱしゃ』
「あ、フラれたわ」
「…そうですが、新しい生の悦び、新たな航路を進むと…」
懐記がきゅうとふーが拒否したのを周囲に伝え、クーランタークの長、切れ長の海底の様な暗い蒼い瞳と腰まである長い髪を貝殻の緻密な細工の髪飾りで束ねた青年が深く息を吐いた。
「永き旅路、挨拶だけとは物寂しいですね。昼の支度を整えています、良ければ如何ですか?」
「おお、《アタラクシア》の救世主の皆さま並びに空の覇王たるドラゴンの皆さまと食事が出来るとは光栄です。ご挨拶が遅れました、私はこの群れの長フユーゲルと申します」
千歳が営業スマイルを浮かべ食事に招けば、長フユーゲルと一族の者達も賛同し恭しい礼を取る。
「ん、食べられない物とかは?」
「特にありません」
「では、こちらへ」
どことなく興奮を隠しきれないクーランタークの一族、プールで子供たちと遊ぶ海精のヒュール達に驚きながら船の中へと足を踏み入れた。

「ヒュールに妖精王や魔王までいるとは…異界からの救世主の皆さまは本当に偉大です」
大食堂の席に着きフユーゲルやその一族達も感嘆としている、テーブルに並んだ食事にも目を輝かせていた。
「さ、どうぞ」
千歳が微笑み食事が始まった、魚ダンジョンのドロップ品の調味料を使った料理、肉ダンジョンのドロップ品のステーキ、柔らかいパンに魚介のスープにチーズの盛り合わせに海藻のサラダとデザートに果物の盛り合わせとアイス。
「長、見たこともない品の数々です」
「す、すごい」
「本当にたべても良いのですか!?」
「ああ、良い香りです」
「折角の厚意だ頂こう」
フユーゲルを始め、一族の者達全員が一斉に食事を開始し所狭しと並んだ料理が次々なくなり崇幸のスキルコンビニからもパンやサンドイッチを出し、懐記達も追加やストックの料理を出し尽くし、果物も畑で散々収穫したカノリや晴海が出したアイスも綺麗に無くなり、途中で詠斗や率、綴と大河にジラやチグリス達が買い出しに向かい、カーク達に連絡し肉ダンジョンの肉を頼み、グローリーとティス、チグリス、ナイルに千華が魚ダンジョンに向かった。

「も、申し訳ない!ここ最近録に食べる事も出来ず」
「いえ、気持ちいい食べっぷりでしたね。事情を聞いても?」
恥ずかしそうに俯くクーランターク一族に千歳が訳を尋ねる、モギのミルクを配り落ち着いたフユーゲルがぽつりぼつりと話を始めた。
「我々は料理…知識はありますが普段は海の魚等を補食しながら海を進む旅人です、ガーランバラーダ…北海の支配者一族の1名が継承戦争に敗北し北海を追われこの海域に潜んでいるようで魚は喰われ住処を追われ、我々の食事もままならず」
「なるほど、それは災難でしたね。後5日程この船旅をこちらは《ホウラク》まで続けます、良ければこの船で休んでいかれますか?食事も出しますよ」
「そ、その事なのですが良ければこの船を我が一族に売っては頂けないでしょうか?図々しい頼みだとは思いますが、私も一族を守る為に手段を選べません。タータイルクッガ様が新たな海の時代をもたらす標とし、我々も新たな生活形態を築いていこうと思います。勿論我々は海の旅人として一族の財宝を差し出すつもりでいます」
「それは出来ません、この船は皆の意見を出し合い造り上げた宝です。僕達にはどんな至宝よりも尊い宝です」
千歳が即答する、厨房で崇幸らラウラスと話を聞いていた懐記は、冷たく突き放すような言葉を千歳が投げても彼らを見捨てたりはしないだろうと踏んでいた。
「差し出がましい真似を…申し訳ない」
「千歳…《アタラクシア号》は渡せないが…船は造ろう…」
「千眼さんならそう言うと思った、船造りハマったみたいだしね。小型船も造る位だからね」
千眼が千歳の隣に立つ、千歳が笑い《アタラクシア号》ではなく彼らの為に船を造る事を提案した。
「ま、魔王が船を…しかも我々の為に?」
「好きに造れる自由に…材料も…ある」
「千眼さん、俺も手伝うよ。楽しかったし」
「それならばヒュール達の意見も取り入れて彼らと生活を共にし海で守ってくれませんか?」
「そ、それは願ってもない。彼らは護りが固い海での幸運の吉兆!だ、だがそれに見合う程の物を我々は用意出来ない」
「俺達の仕事を手伝ったりしてくれたらいいんじゃないか?給料も支払うし、どうかな千歳君?」
「ええ、皆には話しをしておきますね。皆さんだけの船としてではなく、皆さんのように海で困っている生物の避難所として皆さんが先導するのが条件です。どうですか?」
「しょ、承知した!誠意を尽くそう!」
「では…こちらへ…海精も呼ぶ」
「すごい船を造るぞ!」
心無しか嬉しそうな千眼と張り切る崇幸に、フユーゲル達も嬉しげに船造りを早速始めた。
「一段落着いたね、ラジカさん行こうか?」
「忘れてないようですね」
「勿論」
千歳がラジカのお説教を受ける為に、他の場所への移動を提案する、ラジカも同意し千歳の後ろを付いて手頃な部屋に向かった…。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

無能な勇者はいらないと辺境へ追放されたのでチートアイテム【ミストルティン】を使って辺境をゆるりと開拓しようと思います

長尾 隆生
ファンタジー
仕事帰りに怪しげな占い師に『この先不幸に見舞われるが、これを持っていれば幸せになれる』と、小枝を500円で押し売りされた直後、異世界へ召喚されてしまうリュウジ。 しかし勇者として召喚されたのに、彼にはチート能力も何もないことが鑑定によって判明する。 途端に手のひらを返され『無能勇者』というレッテルを貼られずさんな扱いを受けた上に、一方的にリュウジは凶悪な魔物が住む地へ追放されてしまう。 しかしリュウジは知る。あの胡散臭い占い師に押し売りされた小枝が【ミストルティン】という様々なアイテムを吸収し、その力を自由自在に振るうことが可能で、更に経験を積めばレベルアップしてさらなる強力な能力を手に入れることが出来るチートアイテムだったことに。 「ミストルティン。アブソープション!」 『了解しましたマスター。レベルアップして新しいスキルを覚えました』 「やった! これでまた便利になるな」   これはワンコインで押し売りされた小枝を手に異世界へ突然召喚され無能とレッテルを貼られた男が幸せを掴む物語。 ~ワンコインで買った万能アイテムで幸せな人生を目指します~

異世界ソロ暮らし 田舎の家ごと山奥に転生したので、自由気ままなスローライフ始めました。

長尾 隆生
ファンタジー
【書籍情報】書籍3巻発売中ですのでよろしくお願いします。  女神様の手違いにより現世の輪廻転生から外され異世界に転生させられた田中拓海。  お詫びに貰った生産型スキル『緑の手』と『野菜の種』で異世界スローライフを目指したが、お腹が空いて、なにげなく食べた『種』の力によって女神様も予想しなかった力を知らずに手に入れてしまう。  のんびりスローライフを目指していた拓海だったが、『その地には居るはずがない魔物』に襲われた少女を助けた事でその計画の歯車は狂っていく。   ドワーフ、エルフ、獣人、人間族……そして竜族。  拓海は立ちはだかるその壁を拳一つでぶち壊し、理想のスローライフを目指すのだった。  中二心溢れる剣と魔法の世界で、徒手空拳のみで戦う男の成り上がりファンタジー開幕。 旧題:チートの種~知らない間に異世界最強になってスローライフ~

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生

野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。 普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。 そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。 そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。 そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。 うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。 いずれは王となるのも夢ではないかも!? ◇世界観的に命の価値は軽いです◇ カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

異世界へ五人の落ち人~聖女候補とされてしまいます~

かずきりり
ファンタジー
望んで異世界へと来たわけではない。 望んで召喚などしたわけでもない。 ただ、落ちただけ。 異世界から落ちて来た落ち人。 それは人知を超えた神力を体内に宿し、神からの「贈り人」とされる。 望まれていないけれど、偶々手に入る力を国は欲する。 だからこそ、より強い力を持つ者に聖女という称号を渡すわけだけれど…… 中に男が混じっている!? 帰りたいと、それだけを望む者も居る。 護衛騎士という名の監視もつけられて……  でも、私はもう大切な人は作らない。  どうせ、無くしてしまうのだから。 異世界に落ちた五人。 五人が五人共、色々な思わくもあり…… だけれど、私はただ流れに流され……

異世界召喚?やっと社畜から抜け出せる!

アルテミス
ファンタジー
第13回ファンタジー大賞に応募しました。応援してもらえると嬉しいです。 ->最終選考まで残ったようですが、奨励賞止まりだったようです。応援ありがとうございました! ーーーー ヤンキーが勇者として召喚された。 社畜歴十五年のベテラン社畜の俺は、世界に巻き込まれてしまう。 巻き込まれたので女神様の加護はないし、チートもらった訳でもない。幸い召喚の担当をした公爵様が俺の生活の面倒を見てくれるらしいけどね。 そんな俺が異世界で女神様と崇められている”下級神”より上位の"創造神"から加護を与えられる話。 ほのぼのライフを目指してます。 設定も決めずに書き始めたのでブレブレです。気楽〜に読んでください。 6/20-22HOT1位、ファンタジー1位頂きました。有難うございます。

はずれスキル念動力(ただしレベルMAX)で無双する~手をかざすだけです。詠唱とか必殺技とかいりません。念じるだけで倒せます~

さとう
ファンタジー
10歳になると、誰もがもらえるスキル。 キネーシス公爵家の長男、エルクがもらったスキルは『念動力』……ちょっとした物を引き寄せるだけの、はずれスキルだった。 弟のロシュオは『剣聖』、妹のサリッサは『魔聖』とレアなスキルをもらい、エルクの居場所は失われてしまう。そんなある日、後継者を決めるため、ロシュオと決闘をすることになったエルク。だが……その決闘は、エルクを除いた公爵家が仕組んだ『処刑』だった。 偶然の『事故』により、エルクは生死の境をさまよう。死にかけたエルクの魂が向かったのは『生と死の狭間』という不思議な空間で、そこにいた『神様』の気まぐれにより、エルクは自分を鍛えなおすことに。 二千年という長い時間、エルクは『念動力』を鍛えまくる。 現世に戻ったエルクは、十六歳になって目を覚ました。 はずれスキル『念動力』……ただしレベルMAXの力で無双する!!

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

ペットたちと一緒に異世界へ転生!?魔法を覚えて、皆とのんびり過ごしたい。

千晶もーこ
ファンタジー
疲労で亡くなってしまった和菓。 気付いたら、異世界に転生していた。 なんと、そこには前世で飼っていた犬、猫、インコもいた!? 物語のような魔法も覚えたいけど、一番は皆で楽しくのんびり過ごすのが目標です! ※この話は小説家になろう様へも掲載しています

処理中です...