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第8部 晴れた空の下手を繋いで…

第3幕 第16話 《名も無き島》 2

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最初に移動した薬屋、小さい石造りの家には全員はいれないのでライガル、ニジェルガ、ラジカ、ドラゴンの商人で入り残りは外で待機している、いつもならこの辺りでおやつを欲しがるチグリスも周囲を警戒し、グローリーも3匹を肩に乗せて辺りを見回す。
「この島に住人はどのくらいいるんですか?」
「…………」
「いくらだ?」
「1,000ログです」
千歳がふいに傍らに立つ武器商人に尋ねる、無視をされたので大河が金額を聞きコインを渡す。
白髪の奴隷商人には足が悪いとの事で奴隷達のいる小屋で待つとの事、千歳も只待っているのも退屈だと不意に聞いただけで金を取られるとは鑑定した方が…役に立たないか…と思った。
「この島の住人には我々商人と奴隷のみです」
「へえ、少ないね」
「………」
「徹底しているなー」
「……?」
グローリーが首を傾げる、そうしている内に仕入れを済ませた面子が戻ったので次の道具屋に向かった。

「道具屋、武器…」
「これなに…?」
雑然としたけれど外観より遥かに広い店内に全員入り、色々見ているとグローリーがフラスコの様なガラス瓶の中に赤い石が入られた物を指す。
「そちらは水を入れて魔力を込めるとお湯がすぐ出来ます、寒い地の必須道具です」
「いくら?」
「1万ログです、魔力の注ぐ量で熱さを調整出来ます」
「買うお茶…」
「お、最近皆でお茶飲むからなー俺が買ってやるやる」
「ゴーシュパパありがと」
「おー」
電気ポットの様な物か大河達は思いゴーシュが買う、下街で朝お茶を淹れて皆で飲むの事にしているので丁度良い、透明で中が見えるのも良い。
「この本は…」
「700年前に滅んだ国の本です、失われた言語なので読めませんが装飾に宝石や現在絶滅した生物の革を使っているので希少価値があります」
大河が手に取った1冊の重厚な本、表紙は何かの革で出来ており小さな宝石が埋め込まれ、糸で刺繍を施した表紙のには大河には読める『生物図鑑』とあったので購入を決めた。
「いくらだ?」
「100万ログです」
「買おう」
100万ログコインを渡し本を収納にしまう、機械音声のような無機質な声に違和感を覚える。
「ん?これは?何」
懐記が黒い取っ手付きの箱が2つ並んでいるのに目を留め尋ねる、中を開ければ網の仕切りと天井には小さい穴がいくつも空いているのを確認した。
「保存食等を作る燻製器です、食料に乏しい地域の道具です。これは中に木くずを入れ、火を付ければ勝手に食べ頃まで燻してくれます」
「いいわ、2つ貰う。グリ、1つ渡すから下街で作れ」
「うん」
「作り方教える」
「2つで70万ログです」
ズィーガーやドラゴンの商人達も店主と確認を取りながら購入を進めていく、以外にも便利グッズや生活用品も多く面白い。
「おや、こちらはシーガー作の375(仮)の231と232の連作《黎明》ですか?しかもこの額縁はフラス作で間違いないですね。この絵を対で購入しましょう」
「全て合わせて2500万ログです」
「安いですね、他に彼ら作品はありますか?全て購入します」
「その絵は長い間売れていないのでその価格です、シーガー作375以外はこちらです。フラス作はこの《首無き王》のみございます。この対の《首を抱えの騎士》がありませんが」
「ふむ、全て購入します」
「8500万ログです」
「安いですね、この石像はまさか」
「最高峰の石工匠ヤワリの作品ですか?」
壁に掛けられた2対の黎明を切り抜いた絵に見事な彫刻を施した額縁、更に商人に尋ね他の作品も出して貰い全て購入を決めたラジカが、棚の奥に置かれた人の体に馬の頭部の小さな石像に目を向ければユナイドが隣に立って石像を見つめている、千歳も気になりラジカの隣に並んだ。
「さっきから、芸術品ばかり購入しているけど有名な芸術家達なのかな?」
「ええ、特にこな石工匠ヤワリは遊び心のある方だったようでどの作品にも仕掛けや細工を施しているんですよ」
「このヤワリの作品は魔力等ではなく指と頭で勝負します、製作時に依頼主の注文や自分の気まぐれで中に何かしら入れているんです。店主、解いてみても?」
ラジカ石像を持ち商人が頷く、切れ目等は何処にも見えない完全に1つの石から削った作品にしか見えないが、ラジカが暫く色々な角度で石像を見て赴ろに馬の目を外す。
「石に擬態させた宝石ですか、彼から見れば石も宝石も同じですね」
「今回は分解式ですね」
その後は無言でラジカが丁寧に分解していく、その様をユナイドと千歳がまじまじと見ると物の数分で分解し中から小さな子馬の石像が現れた。
「店主こちらはおいくらですか?」
「差し上げます」
「どうしてでしょうか?」
「……………」
店主が黙ってしまったのでラジカが懐から1万ログコインを放る、店主が受け取るつまりは話すという意味だろう。
「その石像が置かれて中を開けたのはお客さまで2人目です、以前開けた方は中を見てつまらないと元に戻して代金を支払いそのままです、次に開けたお客様が欲しいならば贈るようにとの事ですのでどうぞ」
「なるほど、私はその方と親しくなれそうにないですね。ですが頂けるなら有り難く頂戴します」
「私も同感です」
「そのつまらないと言った人は人かな?」 
「その質問にはお答えしかねます」
「そう、それは残念だね」
ラジカが収納服にしまいユナイドが頷く、千歳は少しも残念そうに見えない笑みを浮かべた。
「ラジカ支配人は芸術品ばかりこちらで購入していますが、やはり目録関係ですか?」
「それもありますが、趣味ですね。ユナイド副支配人もお持ちですか?」
「ええ、先程幾つか目録に載っているものがありましたので」
「目録?」
「ええ、とあるダンジョンの最終ドロップ品の目録です」
「生きた目録と呼ばれる所有者のみに読める目録ですよ」
千歳がラジカとユナイドに尋ねれば、2人が収納から革の単行本サイズの本を取り出す、ユナイドの表紙の色は緑、ラジカは黒い本だった。
「そんなダンジョンがあるんだ?何処にあるのかな?」
「分かりません、《解き掛けの羅針盤》の示す場所がダンジョンです」
「不明です、《解き掛けの羅針盤》を使いダンジョンに向かい攻略すると強制的に他の場所に転移されるので」
「もしかして、私の国の宝物庫の隅にあったあの羅針盤か?」
「こういうのか?」
『あ』
商品を見ていたラージュと大河も話しに加わり、大河が手に持っていた複雑な紋様と円盤中心に黄金の針が浮いていものを見てラジカとユナイドが同時に声を上げた。
「これですね、懐かしい…」
「まさしくこれです、この羅針盤がダンジョンの鍵になっているんです。1人に付き1つ、人数によって難易度が変わるダンジョンです。私は商会の支配人の最終試験でしたので1人で挑みましたが364日で攻略しました」
「私は…親しい人もいなかったので、1人で411日程で攻略できましたが…」
「長いな、その間食料とかはどうなるんだ?出られるのか?」
「いえ、途中で出ればそこで脱落です。1度しか挑めません、食料等はダンジョンから支給されます」
「なんなら外よりか快適でしたね、しかし何かを得ようとすれば問題やノルマ等があり…」
「いちいちそれをクリアしなければ食料等は手にはいりませんから」
うんざりとした様子で思い出しながら答えるラジカとユナイド、その話しを聞いたグローリーがこちらに来る。
「そのダンジョン行きたい…」
「この羅針盤があれば行けますよ、おすすめはしませんが。300日以上閉じ込められて得られるのは、この目録と盗みの技術と土壇場の冷静さ位です」
「後、多少のイラつきも我慢出来ます。厄介ごほん…お客様等の対応にも笑顔で対応出来るようになります…くらいしかないです」
「………いつかキリングと行く…」
「そうですか、ならこの羅針盤は私がグローリーさんに贈りましょう」
「なら、私の国の羅針盤は私から君に…」
「《解き掛けの羅針盤》は在庫100個以上あります、1つ100ログです」
『え?』
「人気の無い在庫過多品です、今の今迄用途不明品でしたので」
「なら、100全て頂きましょう」
「承知しました」
「何使うのかな?」
「孤児院の子供達に渡しますよ、いつかライルさんやラキさんやユラヴィカさん達が挑むかもしれないですから」
「そうか、その時はライルに国の宝物庫の羅針盤を渡そうか」
「とても聡明で賢く他者を思い遣る事が出来る心優しい彼らに相応しいダンジョンだと思いますよ」
「著しい成長は出来ますからね」
商人から在庫全て購入し、グローリーに2つ渡す。
「俺も興味あるな」
「僕も行きたいね」
「神々に頼んで似たようなダンジョンをカジノに用意して貰った方が良いです」
「そうですね、千歳さん達にはあのダンジョンは面白くないと思いますよ」
大河と千歳が行きたそうにするが、ラジカユナイドが首を振った。
「目録、それ自分専用なんだろう?」
「そうそう、よくない?」
「神々に言えば用意して貰えるのでは、この目録収集不可能な物とか沢山ありますし。龍皇国皇帝の鱗とか魔王の血に妖精の爪とか」
「私も人生賭けても難しい物が沢山ありますよ、紅竜の鱗にドルメキオンの毛にこちらも魔王の血です」
とラジカとユナイドが声に出して止まる、聞いていたニジェルガ、チグリス、トラングがそっと手に鱗と毛を乗せてくれた。
「魔王の血って僕の血でも良いのかな?」
『…………はい』
目録のページが収集完了になったのは言うまでもないが、些か複雑な気分の2人だった。

「このカップいいな、最近茶を飲むからな買うか。いくら?」
「12客セットで15万ログです」
「高い、まとめて買うから安くしろよ」
「そのカップは特殊なカップ達です、気まぐれですが希にそのカップサイズの失せ物を運んでくれますし、壊れも欠けもしません」
「は?なんだそのカップによくわからない機能付けて、普通のは?」
「12客で14万5千ログでどうですか?」
「だから余計な機能はいらないって、割れない欠けないは助かるが、飲み物入れるカップにいきなり物が出てきたら驚くだろ?」
一方こちらはティスVS商人の値引き合戦?が始まっている、ティーカップとソーサーにシンプルな蔦の装飾が気に入り買おうとするが、意味不明なオプションにティスは普通のカップを出せと言うが商人はそのカップを売りたいらしい。
「ティス…私が購入しますから」
「普通のカップが良い」
「それしかないです、後こちらのティースプーンも12個付けて14万ログで如何ですか?」
「はい、購入します」
「おい、ライガル」
「素敵な機能じゃないですか、デザインもいいですし」
「ちっ、あー今度飲みに来いよ」
「はい、是非」
「ふん」
会計を済ませカップを収納ショルダーにしまい、ライガルからそっぽを向く、ライガルは微笑を浮かべた。

「この対になっている耳飾り、何処で見た事があるな」
羅針盤の話しが終わり再び店内を物色する、ラージュの目に翡翠色の宝石をあしらった耳飾りが飛び込む。
「それは失われた技術《戻りの愛》の耳飾りです、1つを相手に贈り互いに身に付けていれば、どんな遠い場所でも1度だけ引き合わせてくれます。代償として耳飾りは壊れますが」
「いや、昔書物で読んだ事があるだけだ。これがその《戻りの愛》…」
「店主これを売ってくれ」
「1000万ログです」
「買うのですか?」
「1つは貴方に」
「あ…」
隣にニジェルガが立ち店主に購入を伝える、高いのか安いのか分からないがニジェルガの優しい微笑みにラージュの言葉が詰まる。
「耳に付けても?」
「はい、私も良いでしょうか?」
「もちろん」
ライガルがカップの代金と合わせて支払う、ニジェルガがラージュの右耳に付けてラージュがニジェルガの左耳に耳飾りを付けた。
「よく映える」
「ありがとうございます」
互いに笑い合う、ライガルとティスはそれを見て少し肩の力を抜いた…。
粗方買い物が終了し、次は奴隷商人の店へと向かった。
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