あなたは異世界に行ったら何をします?~良いことしてポイント稼いで気ままに生きていこう~

深楽朱夜

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第8部 晴れた空の下手を繋いで…

プロローグ 最後も異世界から

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《アタラクシア》…壮大で荘厳な世界、住まう者達は《アタラクシア》に感謝し畏怖し愛し生きている。
《アタラクシア》は平等でない、種に対し不平等に区別を行う、そして《アタラクシア》を遥か空の上で見守る神々、神々は《アタラクシア》に干渉しない…そう、《アタラクシア》が病む迄は…。
神々は《アタラクシア》を愛している、だから病を癒し元の姿に戻り、悠久の安寧を再びと願っている。
魔王がいてドラゴンがいて、《アタラクシア》の創世から存在する生物達…雄大な肥沃な大地…それを見守る事こそが神々の至上…だった。

「過去を愛し…現在を愛しみ…未来を抱く…さ、最期の召喚を…」
『……………』
「気持ちは分かります」
「ふむ、現状の《アタラクシア》は想定の範囲内の良好…安定といったところだ」
「魔王を召喚した時にはどうなるか分かりませんでしたが…」
「止まらない…進む…先へ」
「っよし!やるか!」
「いきましょうなのです!」
「最後の異界人…きっと《アタラクシア》を好きになってくれるこれまでの皆さんのような方だと信じ、我々に出来る事はしましょう…」
「彼らのお陰で我々も変わっていける…」
「魔王も魔神も…」
「彼らに招かれて降りる《アタラクシア》は暖かくて楽しくて…」
「美味しくて優しいです」
「私も行きたいですよ」
クスクスと《神の庭》で神々の笑い声が広がる、今迄で一番穏やかな最期の召喚前の会話。
決して自分たちがした事が非道なものではない事を、《アタラクシア》で生きる彼らが証明してくれている、きっとこれからも困難はあるが彼らはきっと神々に罪悪感を抱かせないだろう。
「では、始めます」
『異議なし』

「召喚する異界人は、計8人。《アタラクシア》の治癒の状態により順次行う、担う者 導く者 手を差し出す者 掬う者 与える者 変革する者 もたらす者 そして最後は…××××××を持って召喚を完了とする」
「召喚する異世界は地球」
「召喚する者は日本という場所に生きる者」
「今を生きる世界に未練がない者」
「《アタラクシア》で生きていける者」
「我々の勝手な都合で呼ぶには誠意を持って」
「誓いを」
「心と魂と肉体に」
「我らの出来る限りを以て」
「祈りと願いを」
「ここに示す」
「我ら13の神の誓いを契約とする」
最初に手を挙げた者から時計回りに、1人づつ右手を挙げ誓いを立て一周すると、中央の《アタラクシア》の雲の穴が消滅した…。
「では、招こうこの《神ノ庭》に最後の異界人 ××××××を…」
神々の頭上に渦巻く雲、ゆっくりと白い空間を侵食し広がっていく。

「は?今日でクビ?なんでですか?」
23時の倉庫の事務室にて呼び出された草臥れた鼠色の作業着に、身を包んだ羽佐間 舵(はざま かじ)は腹が出っ張った禿頭の社長とその隣りでニヤニヤと笑う化粧の濃い事務員というよりかは夜の仕事が似合うような若い女が、自分の緩くウェーブを掛けた髪を巻いてこの状況を楽しんでいた。
「うちも不景気でねーえとほら経営コンサル?に頼んだら、人件費をまずねっ…てやつでね」
「だからって急過ぎますよ!」
「えー羽佐間さん中卒でしょー経営コンサルのひとがぁー今は最低でも高卒ーからじゃないとってー」
「いやー舵君すまないね。古株だったのに、これ少ないけど退職金ねー」
「………そーですか」
「手続きはこっちでやっときますからぁーご心配なくぅー」
「お世話になりました!」
禿頭の社長から薄い封筒の退職金を受け取り、ロッカーに向かった。

「クソ!もぉーなんだってこんな事に…はぁ…明日からハローワークいかないと…明日の天気は…晴れか…日傘…はぁ…」
細いロッカーを開けて靴だけ履き替える、この倉庫ははっきりいえば海外労働者もいて治安が良くない貴重品は常に身に着け靴だけ入れている鍵があっても無くても一緒、ここの従業員達は皆そうしている、仕事用の靴を入れるビニールを探すのも面倒だしとさっさと外に出て止めていたボロのママチャリのカゴに靴を放り、中学卒業から働いていた職場をちらりと横目で見て自転車を走らせようとした所で中古の充電が切れるのが早いスマホを取り出す、着信に数少ない連絡先の大家とあり出ると慌てている、とうとう呆けたのかと耳を傾ければその内容に慌てて自転車を舵が飛ばした、本日…いや日付も切り替わり掛けの今明日も厄日だ。


「ありがとーございましたぁ」
深夜2時過ぎのコンビニで客の1人が買い物を済ませれば、BGMが流れる静かな店内になる、駅近くの商店街付近の24時間コンビニ、終電もないこんな時間に客はあまり来ない。
この時間のやる事は賞味期限のチェックと雑誌の入れ替え程度、1人でこなせば程よい仕事量。
人件費と募集を掛けても来ないコンビニをワンオペで熟さなければならないので休憩は出来る時にしてくれというオーナーの指示に従って適宜とるようにしている、皆藤 崇幸(みなふじ たかゆき)は長い物に巻かれる流されやすい中年だった。
「うう…崇幸兄…」
「お、どうした舵何があった」
「それが…」
客の来店音が聞こえ顔を上げればそこには顔なじみの常連客の舵…同じ養護施設出身だが、年齢的に一緒にいた年数は無いが時々様子を見に行っていた崇幸と親しくなりこうして今でも交流のある舵が半泣きでしかも雨も降っていないのに濡れている姿に目を丸くした。
「もぉー俺ダメかもぉー、仕事は首になるし大家から連絡が来てアパートに戻ったら部屋は水浸し…」
「なんでまた…」
「2階のヤツが酔っぱらって暴れて水道管破裂させて…古いアパートだったから気づいたら下の俺の部屋水浸し…しかも…ゲーム類全部おしゃか…うう…泣きそう。細かい保障とは損害の計算は今日の午前中とかにやるって、ホテルとかに避難してくれって言われてさー」
「お前…だから早くあんなアパート出ろって…」
「うう、安い給料じゃあんなとこしかないよー」
「ったく、次の仕事と家見つかるまで俺んちに来いよ」
「それは申し訳ない…駅の近くのビジネスホテルにでも行くよ」
「いいって、俺んちもお前のとこと変わらんがま、良いだろ」
「崇幸兄ぃ…」
「ここのカフェスペースで休んで一緒に戻るか?それとも鍵渡すから一緒に帰るか?濡れてるから先帰ってシャワー浴びて服着替えるのがいんじゃないか?」
「そうするー」
崇幸の尻ポケットから鍵を出して受け取る、コーヒーや軽食を購入して舵に持たせて一緒に店の外に出て見送る事にした。
「じゃ、また後でな…ちょっと休めよ」
「うん…」
崇幸の原チャの隣に止めていた自転車に乗ろうとした瞬間に2人の足元に、宇宙の様な空間が発生し2人を呑み込む。
「は?」
「なっ、舵!」
「崇幸にい…」
舵の腕を掴み崇幸が引き寄せ2人と自転車と、原チャリが吞み込まれ空間が閉じていった…。
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