あなたは異世界に行ったら何をします?~良いことしてポイント稼いで気ままに生きていこう~

深楽朱夜

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第7部 異世界帰りの魔王様はチートで無双したりしなかったり~サラリーマンの1から始める異世界ビジネスプラン~

STAGE.2-14 魔王と問題児 打つ手ナッシング

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「んー、こっちにはラッキーじゃん。アシュアっち返して」
「では、こちらは不運ですね。お断りします」
蒐刻魔王の黄昏の瞳が魔神グローリーの方に向く、同じ黄昏の瞳とは言え全く違って見える。
蒐刻魔王の黄昏の瞳がこれから不吉な事が起こりそうな不穏を帯びた夜が訪れ前触れの色ならば、グローリーの黄昏の瞳は静かで穏やかな夜が迎えられる安定した色…対極のような瞳、人形めいた無表情なグローリーと薄く嘲笑う蒐刻魔王、相容れない先に反応したのはグローリーだった。
「おや、魔神の本能でしょうか?敵意剥き出しですね」 
「このヒト…変…」
グローリーが両手に魔聖剣と聖魔剣を出し構えて、懐記とティスを守るように立ち塞がる。
「ああ、本物の魔神がこれ程とはなんとおぞましい…」
薄笑いを浮かべる蒐刻魔王、ライガルもグローリーの隣に立ち剣を構えた。
「ね、話しをしたいんだけど?」
「話しですか?申し訳ありません、此方も暇ではないので…次の機会でも構いませんか?」
「そ、でも逃がさない」
懐記の問いに丁寧だが慇懃に答える、懐記はブレスレットの宝石の1つに魔力を込めて発動させる、それは綴の縛鎖魔法だった。
「これは星の御子の…なるほど…確かに効果的ですね」 
「勿体ぶらずに此処は出し惜しみしないって感じで」
蒐刻魔王の身体に鎖が絡み付くが特に大して気にも止めず、視線はキリングの方を見ていた。
「ね、このままみんなの所に連れて行くんだけど、今言いたい事ある?」
「そうですねーあの魔王が使えるかどうかですかね、それと…私はこう見えてとても臆病なので大した準備もせず此処には来ないという事でしょうか」
「ま、そうでしょ。俺もそうする」
「おや、意見が合いましたね。嬉しいです」
「どーも」
懐記が更に縛鎖魔法を追加し、蒐刻魔王を雁字搦めにしていく。
「懐記…このヒト此処にいない…幻…?」
「あーだから余裕な訳ねー」
「これだから忌々しい…」
グローリーがくまなく蒐刻魔王を見聞し結果、此処に本体はいないと結論を出し、懐記のやる気は地に落ちた。
「で、まあ折角だし。アシュアっち何処に隠したのよ、教えて」
「答えるつもりはない」
「懐記?このヒト持って帰りたい?」
「まあ、持って帰れるなら」
「わかった…分体でも持って帰れるように…そのまま捕まえていて」
『は?』
懐記、蒐刻魔王、ライガル、ティスの声が被る、縛鎖魔法を掛けられたままグローリーが無色の巨大な鳥を出現させ蒐刻魔王を嘴からそのまま呑み込む。
「サンキュ、グリ」
「魔王を捕縛…とかあり?」
「無茶苦茶ですね…あの魔法…魔法でもないですよあれは…」
無色の鳥の腹の中に閉じ込められた蒐刻魔王がため息を漏らす、生きた牢獄という内に閉じ込められたような不快感が蒐刻魔王の身体を這う。
「んじゃ、千歳っち達の処へいこか」
「……そこの序列第10位洌獄魔王(れつごくまおう)私を助けなさい、そこの魔神を彼らの手から取り返してあげますよ」
「魔王の甘言は聞かない、俺は魔王じゃない」
「魔王ですよ貴方は、何故魔神に執着しているか理解出来ませんが」
「……なら、魔王かどうかはどうでもいいがグローリーを取り戻してくれるのか?」
「この内にいるのも嫌なので協力しましょう」
「だめ」
キリングの剣を持つ手に力が入る、それを察したグローリーの言葉と共に無色の鳥の形態がより強固な物へと変わる、黒と白の螺旋状の鉄格子が蒐刻魔王を囲み鳥の体内に液体が満たされた。
「おぞましい化け物ですね、規格外過ぎます」
「あー、グリっちやりすぎ。でもサンキュ」
「??……?」
「グリっち?」
「救世主様、その魔神は私の魔力を吸い上げていますよ?私の魔力をスキルを使って吸収しています、続ければ暴発しますよ」
懐記が諌めながら礼を伝えると、無表情にグローリーが口元を押さえる明らかに異常が起きている、鳥の体内の無色の液体が灰色に濃く染まっていく、優雅に足を組み懐記に語り掛けた。
「おい、グリ!止めろ!」
「グローリーさんスキルの解除を!」
「……??出来ない??どうして?」
「私の魔力は美味しいですか?まあ、貴方が暴発しても一向に構いませんが…この内は大変不快ですね。10位が動かないのであれば…自分で出ましょう。さあ、たっぷり召し上がれ」
「っつ!???」
「グローリー!」
グローリーの苦しむ様にキリングが剣で蒐刻魔王を閉じ込めた鳥を切り刻み消失させ解放させる、懐記がその隙を見逃さず再度縛鎖魔法を使おうとするが、無色の壁がそれを阻む。
「クソ!切り離された」
「空間の断裂です、彼方には行けません」
「グリっち、こっちに来れるか?」
懐記、ティス、ライガル、ギルマス側と蒐刻魔王、キリング、グローリー側に切り離されてしまう。
「グローリー大丈夫か?」
「よく、そんな物に触れようと思いますね」
「……」
蹲るグローリーに手を伸ばす、その様を見て蒐刻魔王が吐き捨てる。
「まあ、良いでしょう…行きま…」
キリングの手を取る事なくグローリーが顔を上げれば、瞬時にキリングと蒐刻魔王の腕を一閃で斬り落とす、2人が咄嗟に距離を取り蒐刻魔王が転移をしようと空間を裂くが何も起きない、2人共に血は流れてはいないが反応は遅れた。
「は、はは…神と同位?まさか…魔王の術を掌握するとは…」
「グローリー、止めろ!」
蒐刻魔王の薄ら笑いとキリングの言葉どちらもグローリーには届かない、ゆっくりと立ち上がり聖魔剣、魔聖剣を2人に容赦無く振り下ろす。
「分体ですから破壊されても構わないですが、このまま好き勝手されるのも業腹ですから…魔人を真なる魔神にした10位、貴方には責任を取って貰いましょう」
斬り落とされた腕を再生させ、キリングの足元に刺を打ち込み行動を止め、グローリーの全身にも刺を打ち込み行動不能へと追い込む。
「神様ズ、危険な状況なんだけどなんとかなんない?」
『今、なんとか介入出来るようにしていますが。魔神…グローリーの暴走が我々の力を阻んでいます、急激に魔王の力を吸収し我々と同格まで能力を引き上げています、今彼は地上にいる疑似神のような存在です』
「グリっちも忙しいねー魔神やら疑似神やら、了解。こっちも打つ手ナッシング、あの魔王がなんとかするのを待つわ」
『可笑しな話しですが、序列第12位の魔王が我々が介入出来る迄にグローリーの力を下げて貰うように…お願いします』
「おーい、あのさ今神様ズに連絡したんだけどーなんとかグリの能力を神様ズが介入出来るまで下げてくんない?」
「それは構いませんよ、今やろうとしていますし」
「そ、頼むわ」
「では、黙って見ていて下さい」
「それは分からないわ」
スマホの通話を切り蒐刻魔王に声を掛ける、最早串刺し状態のグローリーを横目に動けないキリングの前に片膝を付く。
「痛みは無いですよ」
「は?」
キリングの右眼に親指、人差し指、中指を食い込ませゆっくりと黄金の宝石の瞳を容易くくり貫く。
「うっ」
「何て事を…」
「あいつ、まさか」
ティスとライガルが目を背ける、懐記がこれから蒐刻魔王がやろうとしている事に気付いたが見守る事にした。
「産まれてこなければ良かったですね」
そう言って踠き続けるグローリーの右眼に指を這わせキリングと同じようにくり貫く、蒐刻魔王の指はグローリーの眼に触れたせいでぐじゅぐじゅと黒い瘴気を放ちキリングの眼をグローリーに嵌め込み、今度はキリングの眼窩にグローリーの眼を嵌め込んだ。
「あっ、あー!!!」
「まあ、まともな者なら耐えられないですよね?さて、行きましょうか」
「面白そうな事してんじゃん、俺も混ぜろよー」
「げっ」
「このタイミングですか…」
「次から次へと…」
冒険者ギルドの屋根から此方に向かって風の刃が流れ、蒐刻魔王の壁が粉々に砕かれた。
ティスとライガルがうんざりした声を出し、その隙で蒐刻魔王が苦しむキリングを連れて転移で姿を消し、串刺しになっていたグローリーの刺も消え地面に蹲る。
「あはあは、伯父上ーおひさー嫁さんもー。あとそっちの美人もー」 
『トラング…』
「グリっち大丈夫か?」
「……元に戻った…懐記」
「なら、いんじゃない。その目もイカしてるわ」
「キリング…」
「ん、まずはお疲れ」
ティスとライガルの知り合いの侵入者は丸っと無視し、グローリーに手を差し出す、人形めいた無表情の中右眼に嵌め込まれた黄金の宝石の様に煌めく瞳だけが異質な輝きを放っていた…。
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