あなたは異世界に行ったら何をします?~良いことしてポイント稼いで気ままに生きていこう~

深楽朱夜

文字の大きさ
上 下
181 / 867
第7部 異世界帰りの魔王様はチートで無双したりしなかったり~サラリーマンの1から始める異世界ビジネスプラン~

7 5家(マイナス3)

しおりを挟む


(んー……何だか温かい)

 とても、優しい温もりに私の身体が包まれている───幸せ!

(これが……本当の幸せ)

 ───ずっとずっと私の心はどこか満たされないままだった。
 お母さんの顔色と機嫌だけを窺って生きていたあの頃。
 伯爵家に引き取られてからは「使えない」「ダメな子」「役立たず」散々、罵られた。
 少しでも褒めて貰えるようにと頑張ったけど、なかなか思うようにはいかなかった。

 全ての記憶が繋がってから、私にとっての幸せだった時を思い出そうとすると、そこにはあの男の子───カイザルがいる。

(初めてのお友達……)

 愛とか恋とかはよく分からなかった。
 それでも、私はカイザルと会っていたあの短い日々が楽しくて大好きだった。

(ありがとう、カイザル───)

「……眩し…………朝?」

 そんな幸せな気持ちで私は目を開ける。
 陽の光がかなり眩しい。
 もしかしてこれは結構いい時間なのでは?
  
(今、何時かしら?  どうして誰も起こしてくれな───)

「ん?」

 そこで自分の身体に巻きついている腕が目に入った。

「ひっ!  腕……人間の腕、よね?」

 最初に私は自分の腕の確認をした。間違いなく私の腕──はここにある。

「これは…………ハッ!」

 そこで、ようやく昨夜のことを思い出した。
 初夜が延期になったはずなのに、カイザルは部屋に戻らず私をベッドに押し倒して──

(たくさんキスをされた気がする!  それで、私……頭の中がトロンとして……)

「え……まさかの寝落ち?」

 そうとしか思えなかった。だってそこから先の記憶が無い。
 そうなるとこの腕、それとこの温もりは───

(一晩中、抱きしめてくれていたのかしら?)

 私を包むカイザルの温もりが、とにかく“私のことを大好き”と言ってくれているみたいで幸せな気持ちになれた。

「うっ……ん…………」
「は!  カイザルもお目覚めかしら?」

 私は慌てて後ろを振り向きカイザルの顔を見ようとした。

「…………コ、レット…………シェイ、ラ……」
「…………」

 すごいわ。ベッドの上で私を抱きしめながら、二人の女性の名前を寝言で呼んでいる。
 とっても不誠実な発言のはずなのに、ただの一途になっているという……

 私はそっとカイザルの頬に手を触れる。
 そしてそこに自分の顔を近づけてチュッと彼の頬にキスをした。

「カイザル───ありがとう」

 シェイラを強く想ってくれて。
 そして、コレットを見つけてくれて───


 ────


「……ん?  コレット?」
「───おはよう、カイザル」

 どうやらカイザルの目も覚めたらしい。
 だけど、少し寝ぼけているのかどこか焦点の合わない目で私をじっと見る。

「可愛い可愛い俺のコレットがいる……」
「カイザル?」
「夢の中でもコレットが俺の腕の中にいたのに、目が覚めてもコレット……」
「……コレットです」

 私がそう答えると、カイザルがへにゃっと笑った。

「──!?」

 これまで見たことのないその笑顔?  に私は大きく戸惑った。

(……もう!  本当にカイザルがわけ分からないわ!)

 小説では、愛してもいない私を娶りお飾りの妻として冷遇するはずのカイザル……
 今はこんなにヘニャヘニャの笑顔を見せている。
 小説と現実は違うのだと、すでにたくさん実感させられてきたけれど……

(……あの妙に無口な日々はなんだったの?)

 そのことも聞きたいと思っていたのに、まだ聞けていなかったことを思い出した。

「ねぇ、カイザル!」
「ん~?  コレット?」
「……っ」

 カイザルがへにゃっとした笑顔のまま私の名前を呼ぶ。
 ちょっと今聞いても大丈夫かな?  と思ったけれどやはり忘れないうちに聞いておこうと思った。

「……どうしてあなたずっと無愛想で無口だったの?」
「……無口?」
「私の記憶の中のカイザルも、それに昨夜のあなたもよく喋る人だったわ」
「……よく喋る?」
「なのに、結婚してから……いいえ、顔合わせの時もね?  あなたはびっくりするくらい無口だった。どうして!?」

 私が勢いよく訊ねると、カイザルはしばらく考え込んでから、ボンっと顔を赤くした。

「え……」

 何故ここで顔が赤くなる?

「そ、そ、そそそれは……」
「それは?」

 躊躇うカイザルに私はグイッと迫る。

「……」
「カイザル!」
「う!  ………………から」

 ようやくカイザルは観念したのか、ポソッと言った。

「シェイラが……」
「シェイラ?  どうして私?」
「────シェイラが言ったじゃないか!」
「ん?」

 私は首を傾げてカイザルの次の言葉を待った。

「しつこい男や口うるさい人は嫌われる……」
「え!」
「男の人は少し無口でミステリアスな人がカッコイイと!」
「…………あ!」

 そう言われてカイザルとの会話を思い出した。
 あの頃は“ミステリアス”がよく分からなかったけど確かにその話をしていた。

 ───よく分からないが、男は無口な方がカッコイイ……というわけか
 ───そうみたい
 ───ふーん……

(も、もしかして、あの時のカイザルの「ふーん……」は……興味のないふーんではなく……)

「え!  そ、それで……?」 
「……」

 私がびっくりしてカイザルの顔を見たら茹でダコになったカイザルが頷く。
 そして必死な顔で私に言った。

「───す、好きな人にはカッコイイと思って貰いたいじゃないか!」
「!」
「シェイラ……いや、コレットに少しでも俺をカッコイイと思って、それで俺を好きになってもらいたかったんだ!!!!」

(────やだ、可愛い!)

 そんなカイザルの言葉に私の胸が盛大にキュンとした。
 カイザルが望んだカッコイイではなく可愛い……でだけれど。

「それであんな態度を?」
「…………ミステリアスだっただろ?」
「……」

 いや、ただのコミュ障だったわよ……とは言えない。
 だけど、なんて不器用な人なの……そんな無理しなくても私は───

「……カイザルのことが好き」
「え?」
「無口だろうとお喋りだろうと関係ないわ?  私はあなたが好きよ」
「コレット……」

 カイザルの目が大きく見開かれる。

「シェイラも…………あなたが好きだったわ、カイザル」
「シェイラ……も?」
「ええ!  毎日毎日あなたに会えるのが楽しみだったわ───」

 と、そこまで言ったらカイザルがギュッと私を抱きしめ、あっという間に唇が塞がれた。

「んっ……」

(カイザルは可愛いけれど、手が早い……)

 なんて思った。


───


 そんな熱いキスをこれでもかとたくさん贈られた後にカイザルは私の耳元で言った。

「いいか、コレット。医者の許可がおりたら覚悟しておいてくれ。俺を煽ったのは君だ!」

 ────と。
 今度は私が茹でダコになって頷く番だった。そして───


「ちょっ……カイザル……擽ったい」
「だめ?」
「んん……ダメじゃない、けどぉ……!」

 何故かとっくに朝のはずなのに誰も部屋に起こしに来ない。
 なので、カイザルからのキス攻撃が止まらない。
 お互いの気持ちを確認しあえたことから、カイザルの中に遠慮という物が無くなった気がする。

(は、話を変えるのよ……)  

 イチャイチャな雰囲気じゃない話に!  そうすれば……
 と、そこで私はもう一つ浮かんだ疑問を訊ねることにした。

「そ、そうよ!  カイザル」
「んー……?」
「あ、あなたがシェイラにくれようとしていた、た、誕生日プレゼントって何!?」

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

無能な勇者はいらないと辺境へ追放されたのでチートアイテム【ミストルティン】を使って辺境をゆるりと開拓しようと思います

長尾 隆生
ファンタジー
仕事帰りに怪しげな占い師に『この先不幸に見舞われるが、これを持っていれば幸せになれる』と、小枝を500円で押し売りされた直後、異世界へ召喚されてしまうリュウジ。 しかし勇者として召喚されたのに、彼にはチート能力も何もないことが鑑定によって判明する。 途端に手のひらを返され『無能勇者』というレッテルを貼られずさんな扱いを受けた上に、一方的にリュウジは凶悪な魔物が住む地へ追放されてしまう。 しかしリュウジは知る。あの胡散臭い占い師に押し売りされた小枝が【ミストルティン】という様々なアイテムを吸収し、その力を自由自在に振るうことが可能で、更に経験を積めばレベルアップしてさらなる強力な能力を手に入れることが出来るチートアイテムだったことに。 「ミストルティン。アブソープション!」 『了解しましたマスター。レベルアップして新しいスキルを覚えました』 「やった! これでまた便利になるな」   これはワンコインで押し売りされた小枝を手に異世界へ突然召喚され無能とレッテルを貼られた男が幸せを掴む物語。 ~ワンコインで買った万能アイテムで幸せな人生を目指します~

異世界ソロ暮らし 田舎の家ごと山奥に転生したので、自由気ままなスローライフ始めました。

長尾 隆生
ファンタジー
【書籍情報】書籍3巻発売中ですのでよろしくお願いします。  女神様の手違いにより現世の輪廻転生から外され異世界に転生させられた田中拓海。  お詫びに貰った生産型スキル『緑の手』と『野菜の種』で異世界スローライフを目指したが、お腹が空いて、なにげなく食べた『種』の力によって女神様も予想しなかった力を知らずに手に入れてしまう。  のんびりスローライフを目指していた拓海だったが、『その地には居るはずがない魔物』に襲われた少女を助けた事でその計画の歯車は狂っていく。   ドワーフ、エルフ、獣人、人間族……そして竜族。  拓海は立ちはだかるその壁を拳一つでぶち壊し、理想のスローライフを目指すのだった。  中二心溢れる剣と魔法の世界で、徒手空拳のみで戦う男の成り上がりファンタジー開幕。 旧題:チートの種~知らない間に異世界最強になってスローライフ~

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生

野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。 普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。 そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。 そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。 そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。 うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。 いずれは王となるのも夢ではないかも!? ◇世界観的に命の価値は軽いです◇ カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

異世界へ五人の落ち人~聖女候補とされてしまいます~

かずきりり
ファンタジー
望んで異世界へと来たわけではない。 望んで召喚などしたわけでもない。 ただ、落ちただけ。 異世界から落ちて来た落ち人。 それは人知を超えた神力を体内に宿し、神からの「贈り人」とされる。 望まれていないけれど、偶々手に入る力を国は欲する。 だからこそ、より強い力を持つ者に聖女という称号を渡すわけだけれど…… 中に男が混じっている!? 帰りたいと、それだけを望む者も居る。 護衛騎士という名の監視もつけられて……  でも、私はもう大切な人は作らない。  どうせ、無くしてしまうのだから。 異世界に落ちた五人。 五人が五人共、色々な思わくもあり…… だけれど、私はただ流れに流され……

異世界召喚?やっと社畜から抜け出せる!

アルテミス
ファンタジー
第13回ファンタジー大賞に応募しました。応援してもらえると嬉しいです。 ->最終選考まで残ったようですが、奨励賞止まりだったようです。応援ありがとうございました! ーーーー ヤンキーが勇者として召喚された。 社畜歴十五年のベテラン社畜の俺は、世界に巻き込まれてしまう。 巻き込まれたので女神様の加護はないし、チートもらった訳でもない。幸い召喚の担当をした公爵様が俺の生活の面倒を見てくれるらしいけどね。 そんな俺が異世界で女神様と崇められている”下級神”より上位の"創造神"から加護を与えられる話。 ほのぼのライフを目指してます。 設定も決めずに書き始めたのでブレブレです。気楽〜に読んでください。 6/20-22HOT1位、ファンタジー1位頂きました。有難うございます。

はずれスキル念動力(ただしレベルMAX)で無双する~手をかざすだけです。詠唱とか必殺技とかいりません。念じるだけで倒せます~

さとう
ファンタジー
10歳になると、誰もがもらえるスキル。 キネーシス公爵家の長男、エルクがもらったスキルは『念動力』……ちょっとした物を引き寄せるだけの、はずれスキルだった。 弟のロシュオは『剣聖』、妹のサリッサは『魔聖』とレアなスキルをもらい、エルクの居場所は失われてしまう。そんなある日、後継者を決めるため、ロシュオと決闘をすることになったエルク。だが……その決闘は、エルクを除いた公爵家が仕組んだ『処刑』だった。 偶然の『事故』により、エルクは生死の境をさまよう。死にかけたエルクの魂が向かったのは『生と死の狭間』という不思議な空間で、そこにいた『神様』の気まぐれにより、エルクは自分を鍛えなおすことに。 二千年という長い時間、エルクは『念動力』を鍛えまくる。 現世に戻ったエルクは、十六歳になって目を覚ました。 はずれスキル『念動力』……ただしレベルMAXの力で無双する!!

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

ペットたちと一緒に異世界へ転生!?魔法を覚えて、皆とのんびり過ごしたい。

千晶もーこ
ファンタジー
疲労で亡くなってしまった和菓。 気付いたら、異世界に転生していた。 なんと、そこには前世で飼っていた犬、猫、インコもいた!? 物語のような魔法も覚えたいけど、一番は皆で楽しくのんびり過ごすのが目標です! ※この話は小説家になろう様へも掲載しています

処理中です...