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第5部 ここで生きていく 晴れた日は海を見て編

第1幕 第8話 裏見世物

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「では皆様、広場へ。10,000ログご用意してお待ち下さい」
ゲシュレンの傍らにいた男が見物料を受け取ろうとした所、コーカスがパンと手を叩いた。
「せっかくの出逢いの記念にここにいる方々の料金な我が《ラグライック商会》がお支払いしましょう」
「おお、流石はコーカス殿ですな。ではありがたく」
太った男が両脇に女の腰を抱き笑う、顔色の悪い男も身なりの良い老夫婦も頷く、大河達も特に異論はないのでそれに従った。
「では、後程。それでは我が見世物小屋の真価をお見せしましょう。因みにお気に召さればお値段は張りますがお売りする事も可能です」
ゲシュレンがパンパンと手を叩けば奥から檻に入れられた熊の様な巨体な双頭の動物、大きな水槽に入れられた頭と下半身は魚、胴体だけは人の女性をした魚のような生き物、猿の頭に胴から下は小さい馬の生物が並べられた。
「ひゅひ、流石はゲシュレン殿今宵もまた面白い生き物が並びますな」
「ええ、そうですとも」
「以前買ったのはすぐ駄目になったが楽しめた、ひゅひ、今回はこの魚が面白い」
こんな物鑑定しなくても分かる全て合成獣だ、何処にもどうにもならない生き物達…嫌悪感を堪え平静を装う。
「さ、さ、ゲシュレンさんいつものを」
老夫婦の夫の方が今か今かとゲシュレンを急き立てる、ゲシュレンは頷くとまた手叩き虫の息…恐らく失敗作か寿命の合成獣達を熊、魚、猿の合成獣達にそのまま喰わせていく、口を身体を血だらけにしながら貪り喰う様を見て楽しんでいた。
「うんうん、この魚を貰おうか」
「おお、ありがとうございます。あとでお屋敷に運びますよーお代はその時に」
「いやあ、ゲシュレンさん今宵もよい物を見せてもらった、また頼みますよ」
「勿論ですとも、ラジカ殿とそのお連れ様方も楽しめましたかな?」
「ええ、大変興味深い。では我々はこれで」
「また、お待ちしています」
ラジカが皆を連れたって外へ出て、詠斗が内心憤りを抱えながらテントへ戻った。

「おかえりなさ…」
「おかえ…」
テントの中で待っていたナイルと千眼の笑顔が固まる、その視線の先にはラジカがいた。
「どうも、《ラズライール商会》のラジカと申します」
「ごめんなさい、連れてきちゃったよ。今から《ロクロル》に戻る?」
「特に急ぎで戻る用もないので」
「なら、泊まっていく?お風呂もあるし」
「いいんですか?」
「…なら茶も飲むか?」
「クッキーもありますよ…」
「そうですか、ゆっくりさせて貰います」
「布団もラジカさんの分敷いとくから!」
「わざわざすみません」
「明日はどうする?」
「《ロクロル》に戻っても良いのですが、子供達の様子を見ようかと」
「毒は問題なく抜けたからな、皆状態も良く無かったからな完全に良い状態になるまで時間は掛かるだろうな」
「でしょうね、大分荒れた暮らしをしていましたし」
千眼が淹れた茶を飲む果物の香りとクッキーもさくさくとして美味しかった。

「まさか、魔王がいるとは」
「それはこちらの台詞だ…」
テントの中現在起きているのは千眼、ラジカ、きゅうとふーだけだった。
「このお茶美味しいですね、貴方も私も食事も睡眠も必要ないですが」
「こだわって淹れている…眠る事は出来ないが味は分かる…」
「そうですね」
「ここに加わるのか…?」
「さあ、でも面白そうですね」
「ああ…楽しいな」
「そうですか、暫くは彼らと行動するでしょうね。《テンランド》に他の魔王がいますがどうするんですか?」
「…近く行く事になる…」
「千華の魔王の件も」
「それは後だ」
「そうですか、ではこの話しは終わりで。本を借りますよ」
ラジカが手近な棚の本を1冊取り読み始める、それは大河の世界の本だった。

「何だ、お前は?使用人どもはどうした?」
「…」
先程ゲシュレンの店で魚の合成獣を買った男が部屋で1人酒を飲んでいた所、フードを被った男が突如窓から身軽に易々と侵入を果たす。
「誰か!おい!誰か!」
「…」
フードの男がゆっくりと近付く、男はとにかく声を上げるが誰も来なかった。
「金か?なんだ!」
「…」
手元から鈍く輝くナイフを取り出し男に向かって駆ける、男は逃げ惑う死にたくないからこの部屋からでようと足掻くがドアの前でナイフで腹を刺された。
「ぐ…」
フードを掴み男は怨み言を吐く、掴んだフードは剥がれ男は床に倒れ辺りが血に染まった。
「…」
血に染まったフードを回収し素早く窓から身を翻し夜の闇に消えていく、屋敷の主人と使用人達が死んでいるのを発見したのは、購入した魚を届けに来たゲシュレンの遣いの者達だった…。

「…渇く…足りない、ああ…辛い…ふふ…だって渇くのだから仕方ないですよね」
隠れ家で白が好きで黒が嫌いな男は喉元に手をあて渇きを訴える、渇いて渇いて抗えない、だがら嗤う疾うに狂ってしまっているのだから嗤うしかなかった。
「この渇きを満たしましょうか…」
いつまで続くか分からないが満たし続けていく他ない、男の目から一筋の赤い涙が伝った…。
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