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第5部 ここで生きていく 晴れた日は海を見て編

21 ラージュの覚悟

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「ん…」
「気がついたのね、タイガさん達を」
「はい!」
カーライルがゆっくりと目を覚ます、鮮やかなイエローグリーンの瞳がぼんやりと天井を見ている。
「身体はどう?辛い所はない?」
「起きたのか、調子はどうだ?」
「お話しできる?」
「ここは《トイタナ》という場所です、あのままあの国にいればあなたの命が持たないと判断して勝手に連れて来ました」
「飲み物貰ってきた、ミルクと果実水飲める?」
院長に身体を支えて貰い身体を起こす、矢継ぎ早に言われきょとんとカーライルがしていた。
「僕…もうあのお城にいなくていいの?」
「君が望むなら」
「あのお城…怖い赤いし冷たいしご飯美味しくない…陛下は優しいけど…あんまり来てくれない…」
「なら、ここで過ごしますか?」
10歳…王太子…という立場にしては拙い幼い印象に綴が優しく尋ねる、カーライルは迷う自分が次の王だと  《ロメンスギル》を継ぐ血統はラージュを除けばカーライルしかいなかった。
「…」
「少し待て、ラージュ俺だ。ああ…分かった少し待っていてくれ」
大河がその場からいきなり消える、カーライルの目がまん丸になった。
「カーライル!」
「へい…むぐ!」
大河が次に現れた時に隣にいたのはラージュだった、髪が乱れいつも豪奢な衣装に身を包んでいた彼も今はシャツとズボンのみでカーライルに駆け寄り強く抱き締めた。
「すまない!すまない!」
痩せ細った身体を強く抱き締める、折れそうな程の小さな身体…気づかなかった愚かな自分、責めても責めても責めたり無い。
「陛下…」
「自由にどうか…生きてくれ…まずは身体を治そう」
「僕の身体…」
「毒に侵されている…ここで治していけばいい」
大河がカーライルに伝える、それは嘘ではないが真実も伝えていない、カーライルの身体そのものが毒と化している今それを取り除く方法と身体を巡る毒の性質を調べていた。
「はい…」
「ラージュさん、これあげるよ」
晴海が札を10枚ラージュに渡す、転移魔法1往復分を10枚《ロメンスギル》と孤児院を往復できる物をラージュに贈る。
「無くなったらまたあげるよ、だから会いに来なよ」
「っ…こんなすごい代物…」
「いいよ」
1枚だけでも途方もない価値がある、それを躊躇いもなく晴海がラージュに渡した。
「いつか余は…俺は必ずこの恩に報いる」
「大げさだなあ」
「カーライル…《ロメンスギル》ではお前は生きられない、ここで自分の道が見つかるまで過ごして欲しい」
「…分かった、でも会いに来てくれる?」
「もちろんだ、これを…今からお前はライルだ。カーライル・デイル・アストリガーは何処にもいない…」
ラージュが首から下げていた古い髪紐で編み込まれた、琥珀の首飾りをカーライル…ライルの首に下げてもう一度抱き締める。
「陛下…」
「どうか自由に…」
「…はい…」
おそるおそる小さな細い手をラージュの背に回す、硬く厚みのある背中、憧れていた人は暖かった…。
「カーライルくん、改めライルくんようこそ!じゃ、歓迎会はじめよう!ドワーフの皆やズィーガーさん達や色んな人呼んでるし!準備はバッチリ!」
「そうかなら、俺は…」
「何言ってるんですか!ラージュさんも参加ですよ!」
「え?いや、俺は…」
「ほら、行きましょう!」
「ライルくんは僕が…」
帰ろうとするラージュを引き止め詠斗と率と晴海で外に連れていく、ライルは綴が抱え唖然とする院長達には大河が問題ないと伝え外に出るよう伝えた。
「ラージュさん、自由にですよ」
「そうだな…詠斗の言う通りだ」
ラージュは1つの決意を胸に、前へと進む。

「えとですね、詠斗さん達…この方は…」
「まちがえようなかろ…」
ラージュを見たズィーガーとドリーガンの顔が引き攣っているが、詠斗達は気にせずに宴会を始めていく。
「気にするな、今夜は俺はそうだな…ラシュでどうだ?詠斗達の心遣いを無駄にするなよ?」
『はい』
ラージュ改め今夜はラシュがニヤリと笑い軽やかに去っていく、王命として今夜は楽しむ事に決めたドリーガンはさっさと酒に走り、ズィーガーは逡巡した後どうにでもなれと、今頃《クイナト》の王宮はどうなっているのか…そして綴の腕の中ではしゃいでいるのは、痩せ細ってはいるが王太子ではないのかと…だが2人が楽しげに笑う姿は微笑ましく映る。
ズィーガーもまた後の事は後とにし今を楽しむ事にした。

「さあ、沢山肉焼くよー」
「こちらはドーナツとクッキーですよ!」
「パティもあるわよ、沢山食べてね!」
「こちらはスープもありますよ」
「魚もあるぞー」
「酒、酒ー」
「モギのミルクもどうぞー」
「どうぞー」
詠斗達や店の従業員達が持て成す、明日の分の仕込みも使ったので明日は店を休みにしパンや焼き菓子も振る舞い、ポップコーンも作り酒も瞬く間に(主にドワーフ)消え、ラージュもポップコーンを焼いてライルに渡す。
「少しだけ…」
「うん…おいしい…」
「そうか…」
ライルがラージュのポップコーンを食べて美味しいと微笑む、ラージュも笑う。
「俺にも頂けますか?」
そう、声を掛けたのはラキだった、ラージュは快く渡すと傍らにいた、小さな少女にわたした。
「ありがとうございます」
「ありがとー」
「沢山食べると良い」
「ミルクも飲みたいのー」
「分かった」
ラキが女の子の手を引き、ミルクの方へ向かった。
「そうか…では俺も戻るとしよう」
「行くの?」
「ああ、また来る。皆世話になった。ライルを頼む」
ラージュはそう言うと夜の闇に溶けるように、札を使い孤児院を後にした。
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