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第5部 ここで生きていく 晴れた日は海を見て編

13《エットナ》街の支店長

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「おはよう」
「おはようございます、朝ご飯ありますよ」
「ああ」
「ん…」
お馴染みの光景テントの中ではナイルが大河、チグリスが起きるのを待ってからの朝食。
「あの鳥は?外か…」
「それが…鉱物を持って来たカルを気に入ったようでついて行きました」
「まあ、鳥だしな。餌くれるヤツに懐くのが筋だろう」
「そうですね、もう存在しない種族なので単独で行動しないように伝えましたが。大河さん達も気に掛けて下さい」
「ああ、そうだな。今日のオムレツも美味いなチーズが入っていて…」
「ん…おかわり」
「本当ですか?私がカルさんに教えて貰って作ってみました。嬉しいです」
ナイルが嬉しそうに笑う、チグリスは相変わらずお代わりを次から次へとしていた。
チーズオムレツ、魚のスープとフルーツサラダと腸詰めとキノコのサンドイッチ…すぐに平らげモギのホットミルクで食事を終わらせた。
「大河さんこれを…今日街に戻る子供達に…。とてもクッキーを喜んで沢山食べていたと詠斗さん達から聞いたので…良ければ…」
葉に包んだ包みを2つ大河に渡す、ナイルの気持ち…人が苦手な彼なりに嬉しかったのだろう、大河は微笑し礼を伝えた。
「ナイル、ありがとう。喜ぶぞな」
「今日も、お菓子と昼食作っておきますからまた取りに来てくださいね」
「ああ、行ってくる」
「行ってらっしゃい」

「うぉお!奴隷の子供達を逃がしやがって!!!この役立たず!どうしてくれる!しかもあの中には《マネイナ》の王子もいたというのに!高貴な血は貴重だ!兄者になんといえば!!これもお前のせいだ!!」
ゲシュレン邸の地下で荒れ狂うゲシュレン、鞭を持ちフードを被った合成獣を激しく打ち据えた。
「あーくそ!くそ!!」
合成獣は黙って打ち据えられていた、喋れないのか喋らないのかそれは分からなかったが呻く声1つ上げずに打たれていた。
「ふーふー子供達を逃がした奴ら…只ものではないだろう…クソ!この街から早々に出ねば」
冷静と怒りが交互に感情を支配していく、遠い場所でまたほとぼりが冷めればここに戻ってくれば良い、それまでにまた人を…そっそく…立て!」
鞭を放りゲシュレンが地下を出る、合成獣もまた足音もなくゲシュレンの後ろをついて行く…。

「どうもーボクがズィーガー商会《エットナ》支店長のエッジです!さ、ご両親がお待ちですよ!」
子供達を転移(バレても気にしないby大河)し隣町の《エットナ》のズィーガー商会を、朝食を食べ終えた大河と孤児院側のテントにいた綴と少女たちと合流、詠斗達は店で仕事をし、ナイデル達は孤児の世話をして…各々役割に精を出している。
早速向かった《エットナ》支店ですぐに表れたのは、白にピンクの色を混ぜたふわふわな髪をした少年(?)がニコニコと大河達を出迎えた。
「エーネ!」
「ミアリ!」
「ママ!パパ」
「お母さん!お父さん!」
目の下を隈を作りやつれた両親たちが泣きながら駆け寄る子供達を抱きしめる、大河や綴も一先ず一安心といった所だ。
「これはクッキーだ、家族で食べると良い」
「ゆっくり休んでください」
クッキーの包みを渡し両親や少女たちが礼を何度も言い見送る、背後でエッジが何故かニコニコと圧を掛け乍ら待ち構えているのは気のせいだろうか…。
「お2人ともお時間はありますか!…あるんですね!ささ、こちらへ!うちはなんでも買い取りさせていただきますよぉー」
「なるほど…」
「折角ですしね…。お店も大丈夫そうですし」
「そうこなくちゃですね!こちらへ!」
ふわふわの髪を揺らしながら、薄い藤色の瞳を輝かせ外の倉庫へと案内した。

「いらっしゃませ」
《トイタナ》の店を早速開店させる、パンにもパティにもポップコーンにもミルクにも客は並び次々売れていく。
開店前に皆に裏手の孤児院の説明をし自分達も手伝うと迎え入れてくれ、ドラゴン達や千眼が最後の仕上げや細かい作業を行っている。
詠斗と率がパン屋とパティの店のを手伝い、晴海はベルンのミルク屋でカタンの手伝いをしている。
今日はモギを4頭、側で草を食みながら交代でミルクを絞られては草を食み雑草の掃除ににもなり子供達も可愛いと触っているが大人しくされるがままになっている。
「今日はパン屋は終わりかな、数増やしたけどあっという間だなー」
「看板出してきます、パティもおしまいで」
「分かったー」
率が看板を立てにいくポップコーンも盛況のようだ、カイネ、チグリス、ジラが次々作って売り捌いていく。
《ブルラド商会》もポップコーンを作って売っているとの事だが、そん影響も感じないほど盛況だった。
「ここのポップコーンは本当美味しい!」
「ブルラドのはダメね、味がない部分が多いし」
「高いし、量は少ないし…」
「飲み物も美味しいわ、ミルクはもちろんだけど。果実水も」
客からの声を聴く限り評判は悪いようだ、この値段でこの質を出すのは難しいだろう…。
自動販売機や無人販売なども面白いかもしれない、後で提案してみようと率は1人笑う。
「率ーポップコーンもこの列で終わりだー看板出しといてー」
「はーい」
ジラに頼まれポップコーンの列の最後尾に札も立て、ミルクもそれに合わせて終わりにする、3時間程の営業で利益はかなり出ているみんな無理せず働けるのが喜ばしい…。

「こちらが《エットナ》自慢の倉庫です!」
「何もないな…」
「大きい取引でもあったんですか?」
「いやーうちの倉庫はいつもこんな感じです。この辺りは特産品などもなくてですね、主にダンジョン品の売買で成り立ってます」
「この近くにダンジョンはありますか?」
「はい、小さいダンジョンがいくつか。どれも攻略済みですが、人気はイザラードダンジョンですかね」
「どんなダンジョンだ?」
「こういう魔物が出ます、ドロップ品は皮や鱗に肉ですね。最終階層で稀に特殊金属で出来た像がでます」
エッジの懐から出した手帳には、トカゲ…トカゲモドキの絵…要はこれがメインのダンジョンという訳だ。
「う…考えておく」
「面白そうですね」
大河の顔をが引き攣る、綴は面白そうと目を輝かせている。
「それも是非うちで買い取りますよ!」
「まずは、今持っているのを買い取りに出す」
「ツンドーラの木…どの位いります?」
「え!ツンドーラもあるんですか!葉も使えるし木も!何本でも!1本、100,000ログで買い取ります」
「なら、20本と…鉱物ダンジョンの鉱物と…」
「ギョロリとギュロリ貝に…」
「《クイナト》や《トタラナ》の特産品や酒、食べ物も買い取りますよ!」
次々と収納から出される品々にエッジの顔が明るくなる、食べ物は孤児院があるから出せないが蜂蜜酒や香辛料を中心に出していく、薬草も孤児院の為に吐き出したのでこれ位だった。
「どれもこれも素晴らしい!助かります!今査定行いますから…お時間を少し…」
「なら、ダンジョンのドロップ品を見たい」
「はい、それなら…こちらへどうぞ」
《クイナト》《トタラナ》に比べれば大分小さい店、買い取りカウンターと商品を置いた棚を案内する、買い取りカウンターに冒険者らしい数名がいる位で閑散としていた。
「どうぞ、ここに買い取り品を加工して販売しているので、他の在庫も気になるようでしたら中の職員に声を掛けて下さい。それでは急いで査定して来ます」
「はい」
「なるほど…皮も色々あるな」
「そうですね…柔らかいものや硬めの物…」
棚に並ぶ皮は大きさで値段が変わるようだ、加工…といっても臭みをとって多少鞣す位の程度、後はここで購入した物を防具店に持ち込み自分の用途に合わせて製品にして貰ったり、商人が仕入れに使ったりしているようだった。
「特産がない…か」
「もしかして、大河君も同じこと考えてます?」
「詠斗くんを見習って1つアイデアを売るか?」
「子供達の件引き受けたお礼にって事で」
「欲がない…」
「ふふ…お互い様って事ですね…。どうします?皮なら財布と…小さいショルダーとかですかね」
「その辺か…両手が空いている方が良いだろう」
「バッグとかですかね」
「お待たせしました!お茶の準備もしたのでどうぞ奥へ」
「ああ、それとこの皮借りても良いか?」
「はい、構いませんよ。ささ、こちらへ…」
ニコニコホクホク顔のエッジが奥へと促す、さて何を提案しようかと大河と綴は考えた。
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