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第4部 生きる世界に微笑んで 立ち止まったら空を見上げて編

18 若きモギ飼い ベルン少年の悩み

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「きみ、大丈夫かな?立てるかな?」
綴が大家の家の前で座り込み泣いている少年に手を差し出す、少年はこくりと頷いて手を借り立ち上がる。
「俺は詠斗」
「大河」
「率です」
「俺はジラな」
「…チグリス」
「僕は綴と言います。先ほどの遣り取りを見ていたんです…よければ話しを聞かせてくれませんか?こんな事急に言っても信じて貰えないと思いますが…」
「オレ…ベルンといいます……ううぅ…家が…オレのかぞくぅ…モギぃ…」
大きな目から大粒の涙が零れて落ちていく、うう…と泣き止まないので綴がしゃがんでベルンの背中を優しく叩く、温かい手にゆっくりとベルンの涙が引いていき綴の手を引いて家へ案内してもらう事になった。
ベルンの手は小さいが荒れていて細く栄養も足りていない、家に着いたらまずは食事をと思い綴は笑顔で明るくニコリと笑ってベルンを安心させるよう努めた。
「良いなー」
「ん、率くんどうかしたのか?」
「あ、いえ、手…僕は父と手とか繋いだ記憶も無くて…少し羨ましいなって…こんな状況で何を言っているんだって感じですが…」
「別に繋いで貰えば良いだろう?なんなら俺と繋ぐか?」
「え?」
大河からの意外な申し出にキョトンとしてしまう、クールな外見で誰かと手など繋ぎそうにはないタイプからの言葉に驚いてしまう。
「あ、いいなー俺も繋いで下さい、大河さん」
「ああ、ほら」
大河は詳しくは聞いていないが、詠斗も率も綴も家族との縁は薄い。
大河は父親とも祖父とも繋いだ記憶がある、大きくて暖かくてとても安心していた思い出、こうしていきなり異世界に来て不安を抱えていない訳ではないだろう、手を繋いで少しでも心が和らぐのなら年配者として幾らでも繋いでやろうと思う。
「ん…率…」
「ほら、俺も…」
チグリスもジラも率に手を差し出してくれる、恥ずかしい事は何もないしたい事をすれば良いと皆は思っている。
「え…あ、ありがとうございます。えと、なら帰ってから…お願いします」
顔を赤らめた率が頭を下げる、皆は綴とベルンの後ろを歩きながら笑い合った。

「ここが…オレの家です…みんなー帰ったよー」
「家…」
「というよりも…」
ベルンの家は物置小屋程度しかない、木の板を適当に組み合わせて作られた箱のような物だった。
「全員は入れないから外で食事にしよう、今テーブル出すから…って、うわぁ!」
ベルンの声で20頭程のモギ達が詠斗達を囲んでいる、ジラも囲まれているがチグリスだけにはモギ達は行かず様子を伺っていた。
「みんな…お客さんだよ」
ベルンの一声でモギ全員が距離を置いてくれる、関係性がしっかり取れている。
改めて丸太のテーブルと椅子を出して料理を並べていく、1つ1つにベルンが目を輝かせて見ている。
「さ、食べて食べて」
「話しはその後にしましょう、沢山食べて下さいね。ベルン君」
「は、はい」
スープや果物を多めに胃に負担がいかない柔らかい物を出す、ベルンは嬉しそうに食べていく。
「はい、果実水もどうぞ」
「もぐ…あがとうございもぐ…」
「ゆっくり食べてね」
「モギ達は食べなくても良いの?」
「…ベルンが食べ終わったのを見度どけたら食事行くと言っている」
チグリスが答える、ヤギと牛の様な見た目で目はヤギのあの水平に伸びた長方形の瞳孔でじっと見ている、怖い夢に出てきそうだなと詠斗は思った。
「おなかいっぱい…、お礼にオレのモギのミルク飲んで下さい!」
「悪いよ、売り物でしょう?」
「これしかお礼出来ないから」
「なら、貰おう。金は払う6人分頼む」
「はい!」
何頭か残り、残りはのモギ達は集団で森の方へ向かっていった。
ベルンが小屋からコップを持って来てモギ達のミルクを絞っていく、慣れた手付きで絞っている間モギは大人しくしている。
「ありがとう、いただきます」
『おいしい!』
「…おかわり」
「へへ、オレのモギ達のミルクはとても美味しいんです!」
「花の香りがして…甘味がある…」
「砂糖も無いのに」
「これは…店で出したら売れるな…」
「今あそこには草が無いんだよなぁ…」
「美味いなーどうだ、詠斗?良いんじゃのか?」
「こいつらは雑食…森もある…あと、アイツがいたな…詠斗、問題ない」
「チグリス…」
おかわりを貰い詠斗に頷く、詠斗はチグリスを信頼して決めた、ここで家賃を肩代わりしてもまた違う理由で搾取されるだろう、それにこの環境でこの小さな少年を置いてはいけない。
「ね、ベルン。もしモギみんなを連れて家賃がが掛からない所へ引っ越せるとしたらどうする?」
「え…そんな事出来るの?」
「出来る!」
ベルンは分かっていたここでの生活が限界な事、子供だから簡単に奪われてしまう事、モギ達は家族で財産で生きていく上で必要不可欠な存在な事、周りは心配し手助けはしてくれるが家族にはなってくれない、この町の人々も自分たちの生活でいっぱいいっぱいなのだ。
『ごめんなさい…貴方を置いていってしまう…』
倒れた母の最期の言葉、少し悩んでここにいてもここでの生活は厳しくなる一方だ、母親との思いでが沢山あるこの場所を離れるのは辛いが、ベルンにはモギという家族がいる彼らとこれからも一緒に生きていくには誰かの手が必要だ。
「モギと一緒ならオレ、どこへでもいきます!」
「よく言った!」
ジラがベルンの頭を撫でる、そうと決まればとまずは…。
「ベルン、さっきの大家の所に行って金を渡してここを引き払う」
「お、オレ金…」
「うちは『アウトランダーズ商会』今まで通り働いて金を稼げばいい」
大河は金は気にするなとは言わない、ずっとベルンが気にしてしまうだろうから、けれど返せとも言わない、金は稼げばいいその為の商会なのだから。
「ベルン、家の中の物全部回収していくね。収納あるから」
「あ、ありがとうございます」
「大河さん僕も行きます」
「ああ、チグリスは適当な所でモギ達を集めておいてくれ」
「ん…」
「俺も行くぞー」
大河、綴、ジラ、ベルンで大家の所へ、詠斗、率、チグリスで小屋の中の物や周辺の確認を行った。
モギ達が何頭かそのまま残りじっとこちらを見ている、何だか怖い夢に出て来そうだった。

「この子とモギ達を連れてこの村を出る、溜まっていた家賃を支払う」
「なっ、あの数のモギ達を!?」
「うちも商会なのでね。500,000ログだな、これで」
「ま、待てベルンからモギを購入したのか?」
「いえ、していませんよ。モギはベルンの家族ですから持ち主はベルンです」
この町《ヤナシャ》からもモギを購入すると1頭に付き税がかかるが、所有者の移住に制限はない。
「ぐ…ベルン良いのか、こんなしらん奴らと…家賃なら待ってやるし、少し値引きもしてやるぞ」
綴は大家の言動に引っ掛かりを覚えた、何故引き留めるのか…鑑定を意識的に強目に掛けてみる、大家:ベルン少年が牛乳を売る場所の場所代も取っている、その日の売り上げ1/3とってまーす その金も賭け事に使ってます 酷いと思います! 綴が顔を顰める子供から搾取した金で賭け事…。
「滞っていた家賃は支払いましたしこの町も出ます、失礼します」
綴がベルンの手を引いていく、何かを言いたげな大家を無視し家へと向かった。

「おかえりなさいー家の中の物全部収納したよ。後はあの荷車も持っていけばいい?」
「はい!荷物もありがとうございます!この荷車引いてミルクを売っています!」
「そうか、うちの店でも売るか?」
「はい!」
「オレ、モギたち呼びます!みんなーいくよー」
ドドド…森やら山のほうからモギ達が走って戻ってくる、中々の迫力だった。
「すごいな…」
「モギは家族愛が強いし頭も良いからなーベルンの事が好きで大切なんだろ」
「そうか…」
ジラがその光景を眺め口にする、ベルンは嬉しそうにモギ達を向かい入れ全員何も欠かさず転移魔法で畑へ戻った。
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