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第4部 生きる世界に微笑んで 立ち止まったら空を見上げて編
3 異世界流夜の過ごし方7
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『車?』
テーブルに座り4人で茶を飲む、干した果物や焼き菓子を並べつまみながら《不毛の地》の話しや周辺、今自分たちが行っている《アウトランダーズ商会》の事業の話などをし、その後互いの固有スキルの話へ。
「はい、大事な相棒です。廃車だったんですがここに来て綺麗にして貰い魔力で走るようになったので環境にも良いですし、ずっと一緒にいられますから…神様達には本当に感謝しています。お金の事もそうですし…」
「良かったですね」
「はい、なので明日のお店のお手伝いも。ダンジョンでお金を稼ぐのも頑張りたいので…こちらでお世話になりたいのですが…」
「もちろんですよ!日本の施設への寄付、俺も是非協力させて欲しいです」
「心強いな、こちらでも今孤児院の施設を移設しようと思っている色々教えて欲しい」
「僕もお手伝いします」
「皆さんありがとうございます」
この世界に召喚して貰えて良かった、神々が自分に感謝していたがこちらも感謝の気持ちに満たされていく。
「あ、そうだ。お風呂如何ですか?ドラゴンの皆さんが造ってくれたんです。一日中入れるんですよ」
「僕たちはもう入ったんで良ければ、シャワーもありますが…」
「急に異世界に来て話しを詰め込んで疲れただろう、洗濯機もあるし服も洗える。入るなら案内する」
「そう…ですね。入って頭をすっきりさせます」
「俺が案内してくる」
「はい、あ、カイネが準備終わったそうなので迎えに行ってきます」
「僕は卵料理…用意しますね」
「ああ」
「ここがお風呂…銭湯ですよねー」
「ドラゴン達が2日位で造っていたな、器用なものだ。使い方は日本と同じだから、俺はプールを造っている連中の様子を見てくる。ゆっくりして欲しい、帰りは先ほど渡したスマホで呼ぶか転移魔法でもいい」
「分かりました、スマホありがとうございます、僕の古い物だったので助かりました」
「いや。また後で…。ビール減っているな足しとくか…風呂上がり牛乳…瓶をカルに頼んで小さいのを…」
「よければ後で入れておきますね。コップもありますから大きい瓶でもいいかなー思います、お風呂上がりの牛乳最高ですよね」
「…分かる」
大河が大型冷蔵庫を開けて減ったビールを補充してから風呂場を後にする、綴も牛乳を入れて脱衣所で服を脱ぎ誰もいない浴場を楽しむ事にした。
「うわ、露天風呂まである…寮の時は入った気もしなったなー」
身体を洗い折角だから露天風呂に向かう、湯気が立つそこは日本と変わらなった。
「ふぅーうぅー気持ちいいなぁー」
風呂に浸かり空を見上げる靄が掛かった空の先に目を凝らすと13の星と白い月、風も無く静かだった。
「異世界に来たって実感があったりなかったり…」
「お、先人がおる。見慣れるぬな…」
「長、この方は新しくいらした方ですよ。先ほどラインでメッセージが来てましたよ」
「おお、我はドラゴンのアルケール。群れの長をしている」
「初めまして、私はナイデルと申します。ナイルの父です」
「私はレグ!ネズミ!」
「俺はレグの伴侶アゲイルだ宜しくな!」
入って来た4人の人型ドラゴンとネズミに挨拶され綴も挨拶を返す、横並びで皆で入ってまったりと湯船に浸かった。
「僕は更科 綴といいます、よろしくお願いします」
「綴殿ですね…よろしくお願いシモカワます。先ほど冷蔵庫に入っていた白い物は…」
「僕が日本から持ち込んだ牛乳という飲み物です。美味しいので是非飲んでみて下さい」
「そうですか、それそれは…」
湯船の中で綴が日本から持ち込んだ牛乳の話しになるが、レグがじっと綴の顔を見ている、不思議そうなというべきか首をずっと傾げていた。
「どうした?レグ?」
「綴は人か?魔王…でもないでも人でもない…でも神でもない…」
「分からないんです…神様達や千眼さんも同じような事を言っていました」
「我にもそう感じるな、だがどれにも当て嵌まらないぞ」
「ならば、我々が知らぬ存在なのかもしれませんね」
「……僕はずっと日本人だと思っていました、両親の顔も知りませんし…」
下を俯く揺れる湯船にはいつもと変わらない自分の顔が映る、何の変哲もない顔。
「ゆっくりと探してみればいいぞ!時間はあるからな!手伝うぞ!家族だろう?ここにいる皆は家族だって詠斗も想っている!」
「そう…ですね家族…はい!」
「うん!」
笑い合う見知らぬドラコン達と、こんなに笑えたのは何時振りだろうかお陰で楽しい風呂の時間を過ごす事が出来た…。
「すごいな、プールの形成がもう出来ている」
「だろー、あそこが競争用のプールでそっちがモグラちゃん達のプール、こっちが丸くして真ん中に島作って流れるプール!どうよ!」
時は遡り綴と大河が分かれた後の大河sideで建造中のプールの様子を見にきていた、広い土地で土を掘り起こしプールの形成を作っている最中だった。
ラドゥ達ときゅう達ですごい勢いで作っているようだ、これは《トイタナ》の店の裏の開拓に使えると内心大河はニヤリと笑った。
「このプールの型を焼いて、資材は足りないから鉱物ダンジョンに行って1狩り行ってくるわ」
「そうか、先ほど俺達と同じ異界人が召喚されたから、歓迎会をする。一段落着いたら来てくれ、きゅう達も連れて」
「了解ー」
再び作業に戻るラドゥを見送り、一体どんなプールができるのやらとせっせと土を掘って固めるハル達に果物と飲み物の差し入れをして畑に戻った。
「茹で卵と卵焼き沢山作っちゃいました。神々からも食べたいコールが入って…」
「使ったらすぐ増えるので延々20個調子に乗って、目玉焼きも…」
あははーと詠斗と率が笑う、戻ったばかりの大河と綴は互いに顔を見合せて笑った。
「食堂みたいだな」
「神様達も喜んでくれると良いですね」
茹で卵と卵焼き、目玉焼きは皿に盛りに盛って神々に備えるとあっという間に消えて無くなった、どんだけ待っていたのか早い。
「詠斗さん、率さんミルクスープ味見してみて下さい。美味しく出来ました!あ、おかえりなさい大河さん!皆さんのお店の下準備は完璧です!」
「ただいま、心配はしてないが滞りなく終わって良かったな、うまくこっちは俺達と同郷の…」
「綴と言います、宜しくお願いします」
「はい!俺はカイネと言います、宜しくお願いします。ツヅリさん!」
「カイネ、ミルクと玉子は綴さんがくれたんだよ」
「そうなんですね!生まれて初めてミルクを飲みました!こんなに美味しい物なんですね!」
「良かった、沢山飲んでね」
「はい!ありがとうございます!」
「カイネ、スープ美味しいです」
先に味見をした率がにこりと笑う、カイネも嬉しそうに笑う、微笑ましい雰囲気だった。
作業していた他のドラコン達やきゅう達も戻り、歓迎会の宴が始まった。
「このお肉美味しいですね!」
「沢山あるので、いっぱい食べて下さい」
「肉ダンジョンのボスの肉」
「こんなに美味しいんですね!」
「柔らかいです」
「綴がくれたミルク…茶に合う…」
お茶に牛乳を入れたミルクティーが気に入った千眼が、ティーカップから優雅に飲んでいる、ナイル、ナイデルやレグ、ハル達も同じ様に飲んで喜んでいた。
「スープも美味しい。味噌と牛乳合うんですね!」
「日本で働いてた時にパートのおばちゃんから教えてもらって、たまに作ってたんだ!美味しいよね」
「卵うまい…牛乳うまい」
「生でも食べれますから、このパンも美味しいですね」
「店で売るパンだからな」
「こんなに、美味しくて楽しい夕食は久しぶりです」
「明日も明後日も」
「毎日」
「楽しい飯が食える」
「はい」
和やかに宴が進む、皆笑顔が絶えず、ああ、此処に来て良かったと心の底から思った。
「テトラさんから頂いたパジャマ、すごく着心地がいいですね」
「カフとナフの糸で作っているから、着心地や肌触りが良いな」
テトラからパジャマを受け取り着替えてみると、しっくりと来る、詠斗達は手持ちのパジャマがあるのでテトラから寝るのに適したシンプルな上下の服を貰い袖を通した。
「ドラコンのみなさんはとても器用ですね、お風呂もスマホもプールまで…」
「好奇心が旺盛なんです」
「何にでも手をだしたがる…」
「そのお陰で風呂にも入れる」
「畑も広がったし」
「服も家電も助かってます」
「本当にすごいですね」
『……』
ナイルとチグリスの顔がほんのり赤く染まる、その姿に詠斗達が笑う、今まで家族という物に縁遠かった綴に異世界で出来た友であり家族だった。
「明日はお店のプレオープン!早目に休みましょう」
「お手伝い出来ずすみません」
「主達の明日の夜の食事と昼の食事は用意する…」
「頃合いを見て取りに来て下さいね」
「気にしなくていいのに、ありがとう」
「肉…ねる…おやすみ」
「チグリスはいつも通りだね、ではおやすみなさいー」
『おやすみ~』
各々布団に入る、紹介されたモグラのハル達は詠斗と寝て、きゅうとウィンとふーは図書スペースにいる千眼の側で休むようだ。
大河の隣の布団に入りこんなに大人数で寝るにも関わらず、心地よい気配と静けさだった…。
「ん…」
頭上に置いた眼鏡を掛けて身体を起こす、元々伊達眼鏡だったものだが今は無いと落ち着かない位には必要なアイテムを身に着け静かに起き上がった。
白い空間だが不思議とよく眠れる、大河達はすぅすぅと寝息を立てて寝ている。
図書スペースでは千眼ときゅうが本を読んでいるので、なんとなく話しがしたくて寄って行く。
「僕もお邪魔しても良いですか?」
「ああ…今ミルクを温めて飲もうとしていた所だ。飲むか?」
『きゅ!』『ぱしゃ』『ぴぃ』
きゅうとウィンも飲むようだ、千眼の向かいのイスに座り小さな鍋に火魔法を入れた魔石を敷き、静かに温まるのを眺めていた。
「蜂蜜を入れると美味しいと主が言っていた…」
「甘味と風味が良くなりますよ…」
千眼の収納から出されたティーカップと瓶入りの蜂蜜…匙で掬ってカップに淹れてホットミルクを注いで、綴に差し出しきゅうには平たい皿に、ウィンには小さな皿に出して少し冷ました物を置いてやると美味しそうに舐めている。
「異世界の物は美味しい…面白い…楽しい」
「そう言って貰えると嬉しいです…すごい本の種類ですよね、僕も読ませて貰おうと思うんですが…日本にいた時に本を読む時間も無かった…」
「なら…これからは沢山読める…」
「そうですね」
大河の本棚、今は千眼の夜の定位置となっていた。
『きゅ!』
「ああ…行こう」
ミルクを飲み終わったきゅうとウィンとふーが千眼を夜の散歩に誘う、綴も付いて行く事にした。
「夜はまた雰囲気が変わりますね…」
「生き物が少ないから静か…」
風魔法でふーをガラス鉢毎浮かせウィンを甲羅に乗せたきゅうがゆっくりと森の恵みを食べながら進んでいく、その後ろを綴と千眼が並んで歩く。
「千眼さん貴方の眼に僕はどう見えますか?人に見えますか」
「いいや…綴…私は真名の無い者の名を呼べない…主達の世界には真名が無い、だから主達の名を呼ばない…だが私が綴の名を呼べるこれが何を意味するか分かるか?」
「僕にも真名がある…」
千眼が静かに頷く、夜色の宝石のような美しさが目の前に存在している。
「僕は何なのでしょう?」
「答えはこの世界で何時か出るかもしれない…」
「焦らずに…という事ですね」
「先は長い…そうだろう?」
「ええ…」
不老不死になった実感は無い…いつかは自分の出自を明らかにした、この世界で新たな目標が出来た。
『きゅぅ!』
「帰ろう…」
「はい…、連れてきてくれてありがとうございます」
「また来よう…」
「はい、今度は僕がホットミルクを用意します」
「ああ…」
千眼が薄く笑う、綴も笑う気が合いそうな2人だった…。
テーブルに座り4人で茶を飲む、干した果物や焼き菓子を並べつまみながら《不毛の地》の話しや周辺、今自分たちが行っている《アウトランダーズ商会》の事業の話などをし、その後互いの固有スキルの話へ。
「はい、大事な相棒です。廃車だったんですがここに来て綺麗にして貰い魔力で走るようになったので環境にも良いですし、ずっと一緒にいられますから…神様達には本当に感謝しています。お金の事もそうですし…」
「良かったですね」
「はい、なので明日のお店のお手伝いも。ダンジョンでお金を稼ぐのも頑張りたいので…こちらでお世話になりたいのですが…」
「もちろんですよ!日本の施設への寄付、俺も是非協力させて欲しいです」
「心強いな、こちらでも今孤児院の施設を移設しようと思っている色々教えて欲しい」
「僕もお手伝いします」
「皆さんありがとうございます」
この世界に召喚して貰えて良かった、神々が自分に感謝していたがこちらも感謝の気持ちに満たされていく。
「あ、そうだ。お風呂如何ですか?ドラゴンの皆さんが造ってくれたんです。一日中入れるんですよ」
「僕たちはもう入ったんで良ければ、シャワーもありますが…」
「急に異世界に来て話しを詰め込んで疲れただろう、洗濯機もあるし服も洗える。入るなら案内する」
「そう…ですね。入って頭をすっきりさせます」
「俺が案内してくる」
「はい、あ、カイネが準備終わったそうなので迎えに行ってきます」
「僕は卵料理…用意しますね」
「ああ」
「ここがお風呂…銭湯ですよねー」
「ドラゴン達が2日位で造っていたな、器用なものだ。使い方は日本と同じだから、俺はプールを造っている連中の様子を見てくる。ゆっくりして欲しい、帰りは先ほど渡したスマホで呼ぶか転移魔法でもいい」
「分かりました、スマホありがとうございます、僕の古い物だったので助かりました」
「いや。また後で…。ビール減っているな足しとくか…風呂上がり牛乳…瓶をカルに頼んで小さいのを…」
「よければ後で入れておきますね。コップもありますから大きい瓶でもいいかなー思います、お風呂上がりの牛乳最高ですよね」
「…分かる」
大河が大型冷蔵庫を開けて減ったビールを補充してから風呂場を後にする、綴も牛乳を入れて脱衣所で服を脱ぎ誰もいない浴場を楽しむ事にした。
「うわ、露天風呂まである…寮の時は入った気もしなったなー」
身体を洗い折角だから露天風呂に向かう、湯気が立つそこは日本と変わらなった。
「ふぅーうぅー気持ちいいなぁー」
風呂に浸かり空を見上げる靄が掛かった空の先に目を凝らすと13の星と白い月、風も無く静かだった。
「異世界に来たって実感があったりなかったり…」
「お、先人がおる。見慣れるぬな…」
「長、この方は新しくいらした方ですよ。先ほどラインでメッセージが来てましたよ」
「おお、我はドラゴンのアルケール。群れの長をしている」
「初めまして、私はナイデルと申します。ナイルの父です」
「私はレグ!ネズミ!」
「俺はレグの伴侶アゲイルだ宜しくな!」
入って来た4人の人型ドラゴンとネズミに挨拶され綴も挨拶を返す、横並びで皆で入ってまったりと湯船に浸かった。
「僕は更科 綴といいます、よろしくお願いします」
「綴殿ですね…よろしくお願いシモカワます。先ほど冷蔵庫に入っていた白い物は…」
「僕が日本から持ち込んだ牛乳という飲み物です。美味しいので是非飲んでみて下さい」
「そうですか、それそれは…」
湯船の中で綴が日本から持ち込んだ牛乳の話しになるが、レグがじっと綴の顔を見ている、不思議そうなというべきか首をずっと傾げていた。
「どうした?レグ?」
「綴は人か?魔王…でもないでも人でもない…でも神でもない…」
「分からないんです…神様達や千眼さんも同じような事を言っていました」
「我にもそう感じるな、だがどれにも当て嵌まらないぞ」
「ならば、我々が知らぬ存在なのかもしれませんね」
「……僕はずっと日本人だと思っていました、両親の顔も知りませんし…」
下を俯く揺れる湯船にはいつもと変わらない自分の顔が映る、何の変哲もない顔。
「ゆっくりと探してみればいいぞ!時間はあるからな!手伝うぞ!家族だろう?ここにいる皆は家族だって詠斗も想っている!」
「そう…ですね家族…はい!」
「うん!」
笑い合う見知らぬドラコン達と、こんなに笑えたのは何時振りだろうかお陰で楽しい風呂の時間を過ごす事が出来た…。
「すごいな、プールの形成がもう出来ている」
「だろー、あそこが競争用のプールでそっちがモグラちゃん達のプール、こっちが丸くして真ん中に島作って流れるプール!どうよ!」
時は遡り綴と大河が分かれた後の大河sideで建造中のプールの様子を見にきていた、広い土地で土を掘り起こしプールの形成を作っている最中だった。
ラドゥ達ときゅう達ですごい勢いで作っているようだ、これは《トイタナ》の店の裏の開拓に使えると内心大河はニヤリと笑った。
「このプールの型を焼いて、資材は足りないから鉱物ダンジョンに行って1狩り行ってくるわ」
「そうか、先ほど俺達と同じ異界人が召喚されたから、歓迎会をする。一段落着いたら来てくれ、きゅう達も連れて」
「了解ー」
再び作業に戻るラドゥを見送り、一体どんなプールができるのやらとせっせと土を掘って固めるハル達に果物と飲み物の差し入れをして畑に戻った。
「茹で卵と卵焼き沢山作っちゃいました。神々からも食べたいコールが入って…」
「使ったらすぐ増えるので延々20個調子に乗って、目玉焼きも…」
あははーと詠斗と率が笑う、戻ったばかりの大河と綴は互いに顔を見合せて笑った。
「食堂みたいだな」
「神様達も喜んでくれると良いですね」
茹で卵と卵焼き、目玉焼きは皿に盛りに盛って神々に備えるとあっという間に消えて無くなった、どんだけ待っていたのか早い。
「詠斗さん、率さんミルクスープ味見してみて下さい。美味しく出来ました!あ、おかえりなさい大河さん!皆さんのお店の下準備は完璧です!」
「ただいま、心配はしてないが滞りなく終わって良かったな、うまくこっちは俺達と同郷の…」
「綴と言います、宜しくお願いします」
「はい!俺はカイネと言います、宜しくお願いします。ツヅリさん!」
「カイネ、ミルクと玉子は綴さんがくれたんだよ」
「そうなんですね!生まれて初めてミルクを飲みました!こんなに美味しい物なんですね!」
「良かった、沢山飲んでね」
「はい!ありがとうございます!」
「カイネ、スープ美味しいです」
先に味見をした率がにこりと笑う、カイネも嬉しそうに笑う、微笑ましい雰囲気だった。
作業していた他のドラコン達やきゅう達も戻り、歓迎会の宴が始まった。
「このお肉美味しいですね!」
「沢山あるので、いっぱい食べて下さい」
「肉ダンジョンのボスの肉」
「こんなに美味しいんですね!」
「柔らかいです」
「綴がくれたミルク…茶に合う…」
お茶に牛乳を入れたミルクティーが気に入った千眼が、ティーカップから優雅に飲んでいる、ナイル、ナイデルやレグ、ハル達も同じ様に飲んで喜んでいた。
「スープも美味しい。味噌と牛乳合うんですね!」
「日本で働いてた時にパートのおばちゃんから教えてもらって、たまに作ってたんだ!美味しいよね」
「卵うまい…牛乳うまい」
「生でも食べれますから、このパンも美味しいですね」
「店で売るパンだからな」
「こんなに、美味しくて楽しい夕食は久しぶりです」
「明日も明後日も」
「毎日」
「楽しい飯が食える」
「はい」
和やかに宴が進む、皆笑顔が絶えず、ああ、此処に来て良かったと心の底から思った。
「テトラさんから頂いたパジャマ、すごく着心地がいいですね」
「カフとナフの糸で作っているから、着心地や肌触りが良いな」
テトラからパジャマを受け取り着替えてみると、しっくりと来る、詠斗達は手持ちのパジャマがあるのでテトラから寝るのに適したシンプルな上下の服を貰い袖を通した。
「ドラコンのみなさんはとても器用ですね、お風呂もスマホもプールまで…」
「好奇心が旺盛なんです」
「何にでも手をだしたがる…」
「そのお陰で風呂にも入れる」
「畑も広がったし」
「服も家電も助かってます」
「本当にすごいですね」
『……』
ナイルとチグリスの顔がほんのり赤く染まる、その姿に詠斗達が笑う、今まで家族という物に縁遠かった綴に異世界で出来た友であり家族だった。
「明日はお店のプレオープン!早目に休みましょう」
「お手伝い出来ずすみません」
「主達の明日の夜の食事と昼の食事は用意する…」
「頃合いを見て取りに来て下さいね」
「気にしなくていいのに、ありがとう」
「肉…ねる…おやすみ」
「チグリスはいつも通りだね、ではおやすみなさいー」
『おやすみ~』
各々布団に入る、紹介されたモグラのハル達は詠斗と寝て、きゅうとウィンとふーは図書スペースにいる千眼の側で休むようだ。
大河の隣の布団に入りこんなに大人数で寝るにも関わらず、心地よい気配と静けさだった…。
「ん…」
頭上に置いた眼鏡を掛けて身体を起こす、元々伊達眼鏡だったものだが今は無いと落ち着かない位には必要なアイテムを身に着け静かに起き上がった。
白い空間だが不思議とよく眠れる、大河達はすぅすぅと寝息を立てて寝ている。
図書スペースでは千眼ときゅうが本を読んでいるので、なんとなく話しがしたくて寄って行く。
「僕もお邪魔しても良いですか?」
「ああ…今ミルクを温めて飲もうとしていた所だ。飲むか?」
『きゅ!』『ぱしゃ』『ぴぃ』
きゅうとウィンも飲むようだ、千眼の向かいのイスに座り小さな鍋に火魔法を入れた魔石を敷き、静かに温まるのを眺めていた。
「蜂蜜を入れると美味しいと主が言っていた…」
「甘味と風味が良くなりますよ…」
千眼の収納から出されたティーカップと瓶入りの蜂蜜…匙で掬ってカップに淹れてホットミルクを注いで、綴に差し出しきゅうには平たい皿に、ウィンには小さな皿に出して少し冷ました物を置いてやると美味しそうに舐めている。
「異世界の物は美味しい…面白い…楽しい」
「そう言って貰えると嬉しいです…すごい本の種類ですよね、僕も読ませて貰おうと思うんですが…日本にいた時に本を読む時間も無かった…」
「なら…これからは沢山読める…」
「そうですね」
大河の本棚、今は千眼の夜の定位置となっていた。
『きゅ!』
「ああ…行こう」
ミルクを飲み終わったきゅうとウィンとふーが千眼を夜の散歩に誘う、綴も付いて行く事にした。
「夜はまた雰囲気が変わりますね…」
「生き物が少ないから静か…」
風魔法でふーをガラス鉢毎浮かせウィンを甲羅に乗せたきゅうがゆっくりと森の恵みを食べながら進んでいく、その後ろを綴と千眼が並んで歩く。
「千眼さん貴方の眼に僕はどう見えますか?人に見えますか」
「いいや…綴…私は真名の無い者の名を呼べない…主達の世界には真名が無い、だから主達の名を呼ばない…だが私が綴の名を呼べるこれが何を意味するか分かるか?」
「僕にも真名がある…」
千眼が静かに頷く、夜色の宝石のような美しさが目の前に存在している。
「僕は何なのでしょう?」
「答えはこの世界で何時か出るかもしれない…」
「焦らずに…という事ですね」
「先は長い…そうだろう?」
「ええ…」
不老不死になった実感は無い…いつかは自分の出自を明らかにした、この世界で新たな目標が出来た。
『きゅぅ!』
「帰ろう…」
「はい…、連れてきてくれてありがとうございます」
「また来よう…」
「はい、今度は僕がホットミルクを用意します」
「ああ…」
千眼が薄く笑う、綴も笑う気が合いそうな2人だった…。
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