上 下
68 / 807
第3部 歩く路は笑顔で 余裕を持って進んでいこう

9 噂と情報

しおりを挟む
「すみません、区画で借りてるテントの契約を終了したいのですが…」
「はい承知しました、テントは片付けましたか?」
「はい」
「では冒険者証を確認します」
「お願いします」
「……………」
「あの?」
「あ、すみません…ではこちらで契約終了となります」
「ありがとうございます」
詠斗の冒険者証を見て固まる受付嬢だっだが、すぐに手続きを処理して見送った。

「ね、今の人達でしょ?」
「シッ!」
詠斗達の姿が見えなくなった後で隣の受付嬢が好奇心を剥き出しに聞いてくるが、人差し指を口に立てその続きを止めた。
今近隣各国、商会やギルドで話題になっている面々だが、厳重な箝口令が敷かれ情報を僅かでも漏らせば厳しい処罰の対象となる。
ズィーガー商会と懇意にし、2つのダンジョンの最終階層攻略…普通ならば諸手を挙げて歴史的な快挙として大々的に広く知れ渡るものだが、本人達の強い希望により公表は控えて欲しいとの意思を汲み取ったズィーガー商会からの伝達があり、それに納得せず攻略者達の情報を公開しろとの圧力にダンジョンドロップ品の賄賂で黙らせたのはつい2日前の話し。
現在は水面下で彼らの探り合いが行われている、彼らの情報には莫大な金額を投じてなんとかお近づきになりこちらに引き込みたい、もしくは利用をして…等良からぬ考えを持つ輩が増えているが全く情報が出て来ないので、今現在は静かなものだがこうして好奇心旺盛な同僚がいるのも事実、頭が痛くもなる、冒険者ギルドのマスターであるダンダからも再三厳重に一切口外しないように命令が下っている。
各地の冒険者ギルドもズィーガー商会からの口止め、詮索しない事を条件として、鉱物ダンジョンの魔石やドロップ品を本来ならば数年分の予算を投じなければ手に入らない品々を受け取ってしまっている、迂闊な事を言えば今後の取り引きは無いとも言われれば黙る他なかった。
あのブルラド商会も仕切りに攻略者の情報を集めているようだ、いい話しは聞かない、ズィーガーがかなり賄賂を多く積み黙らせたようだがそれで済む商会でもない、躍起になって探り…こういう所から情報が漏れていく気がする。
「いいじゃないー、聞く位ー。」
「いいから、仕事して」
「なによぉーいいじゃない、お近づきになりたいわぁ」
化粧のけばけばしい胸を強調し、面倒な仕事は全てこちらに押し付け将来有望そうな冒険者達に媚を売る、同僚に冷えた視線を送る。
「私の事きっと気にいるわよー、私キレイだし、次来たら私が対応するわー」
「……」
聞いてられないと言わんばかりに黙々と仕事をこなす、背の高い男性が冒険者登録した際に対応した受付嬢は、冒険者ギルドの職員の中で一番美人と言われている女性だったが、見向きもされずさっと手続きして出て行った位だ、その受付嬢がそんな対応なら隣の受付嬢など更に相手にされないだろう、狭い世界で自分が1番だと思っているのは、羨ましいが仕事はして欲しかった…。

「ここが、テイクアウトと軽食が食べるお店ですね!」
「ああ…出来てきたな」
「お兄さん方きちょるか、1人増えたかの」
「こんにちは」
「はじめまして、率といいます」
「ほかほか、わしゃドリィーガンちゅうもんじゃ」
「大分出来て来てるな、もう完成じゃないか」
「すごい、仕事早いですね」
「うんむ、だが細かい所を…」
「お兄さん!酒じゃ!酒」
「お、酒もうときとるのか」
「酒きたぞー」
「……仕事は早いしな、ほら」
他のドワーフが呼ぶ店から次から次へとドワーフが出てくる、増えたのは気のせいだろうか…。
「肉やくぞー肉」
「お兄さん方も食ってけ」
「食う…」
「食べますか?」
「時間はあるからな」
「なら、ダンジョンの肉出しましょう」
チグリスがさっさと鉄板の前に座りドワーフ達と混ざる、ドワーフ達に肉を渡し…詠斗達と肉を交互に見るが何も言わず焼いていく。
「明日一度この店で働く人達に来て貰い、意見を貰う。特に何もなければ、改装は終了だ。金は最初に提示した分は払う」
「ま、待ってくれ、まだ細かい所を直さんと」
「屋根やら外の壁なんかも…」
「まだ厨房も」
「ほれ、椅子やら棚も…」
慌てるドワーフ達魂胆は見え見えだ、ビールが飲みたいからギリギリまで引っ張りたいのだろう。
「わかった、わかった。気の済むまでやればいいが、明日は見て貰う。それと他の場所の改装…改築を頼みたいんだが」
「それはもしや、最近買い手がついたちゅうあの屋敷かの?」
「よく分かったな」
「ありゃ、わしらが作った屋敷じゃが」
「なら話しは早い」
率と詠斗が焼いた腸詰めをパンに挟んで食べていると、ドワーフ達もマネして肉を挟んでガツガツ食べている、チグリスは大河の分を貰って食べていた。
「あの、屋敷の先代は良い方々だったじゃ」
「ドワーフのわしらにも優しくてのー」
「ああ、だが跡継ぎがのー」
「確か賭博だったか?」
「そう、賭博と女遊びとかでのー」
「ブルラド商会の賭博場に出入りし…それが失敗だったんじゃ」
その名前に大河と詠斗がピクリと反応する、率は2人の反応に様子を伺いながら話しに集中した。
「特に女じゃが…」
「そうじゃそうじゃ」
「なんとも世にも美しい女にでおうて…わしらは酒のほうがいいじゃがな」
「それに入れ込み過ぎて代々受け継がれてきた財産を売り…」
「そこから家は傾いた…」
「あっちゅうまじゃったよ」
「そうか…ご馳走になったし、興味深い話しも聞けたな、今日はもう休んでもいいだろ、ほら。明日も頼む」
「おしゃーもうちょい仕事してかえるぞい!屋敷の仕事も引き受けるじゃが、他の町で仕事してた仲間も来たしな!がんばるぞ」
ビールの缶を追加で30缶程置いていく、増えたのは気のせいではなかったらしい。
「あ、千眼さん達荷物全て持ってきて、これから肉ダンジョンの下の階層に行くって、ユナイドさんにはライン済みって来ました」
「あ、本当だ、スタンプ使ってる」
「これ、無料か?こんなのあったか?」
神々から何故かファイトのスタンプやら、肉スタンプ…チグリスも送っている、色々グループラインがごちゃごちゃしているから分けるか…など考えながら、パン屋もパティ屋に向かった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

元万能技術者の冒険者にして釣り人な日々

於田縫紀
ファンタジー
俺は神殿技術者だったが過労死して転生。そして冒険者となった日の夜に記憶や技能・魔法を取り戻した。しかしかつて持っていた能力や魔法の他に、釣りに必要だと神が判断した様々な技能や魔法がおまけされていた。 今世はこれらを利用してのんびり釣り、最小限に仕事をしようと思ったのだが…… (タイトルは異なりますが、カクヨム投稿中の『何でも作れる元神殿技術者の冒険者にして釣り人な日々』と同じお話です。更新が追いつくまでは毎日更新、追いついた後は隔日更新となります)

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?

お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。 飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい? 自重して目立たないようにする? 無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ! お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は? 主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。 (実践出来るかどうかは別だけど)

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

やさしい異世界転移

みなと
ファンタジー
妹の誕生日ケーキを買いに行く最中 謎の声に導かれて異世界へと転移してしまった主人公 神洞 優斗。 彼が転移した世界は魔法が発達しているファンタジーの世界だった! 元の世界に帰るまでの間優斗は学園に通い平穏に過ごす事にしたのだが……? この時の優斗は気付いていなかったのだ。 己の……いや"ユウト"としての逃れられない定めがすぐ近くまで来ている事に。 この物語は 優斗がこの世界で仲間と出会い、共に様々な困難に立ち向かい希望 絶望 別れ 後悔しながらも進み続けて、英雄になって誰かに希望を託すストーリーである。

リリゼットの学園生活 〜 聖魔法?我が家では誰でも使えますよ?

あくの
ファンタジー
 15になって領地の修道院から王立ディアーヌ学園、通称『学園』に通うことになったリリゼット。 加護細工の家系のドルバック伯爵家の娘として他家の令嬢達と交流開始するも世間知らずのリリゼットは令嬢との会話についていけない。 また姉と婚約者の破天荒な行動からリリゼットも同じなのかと学園の男子生徒が近寄ってくる。 長女気質のダンテス公爵家の長女リーゼはそんなリリゼットの危うさを危惧しており…。 リリゼットは楽しい学園生活を全うできるのか?!

異世界でお取り寄せ生活

マーチ・メイ
ファンタジー
異世界の魔力不足を補うため、年に数人が魔法を貰い渡り人として渡っていく、そんな世界である日、日本で普通に働いていた橋沼桜が選ばれた。 突然のことに驚く桜だったが、魔法を貰えると知りすぐさま快諾。 貰った魔法は、昔食べて美味しかったチョコレートをまた食べたいがためのお取り寄せ魔法。 意気揚々と異世界へ旅立ち、そして桜の異世界生活が始まる。 貰った魔法を満喫しつつ、異世界で知り合った人達と緩く、のんびりと異世界生活を楽しんでいたら、取り寄せ魔法でとんでもないことが起こり……!? そんな感じの話です。  のんびり緩い話が好きな人向け、恋愛要素は皆無です。 ※小説家になろう、カクヨムでも同時掲載しております。

積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!

ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。 悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。

処理中です...