あなたは異世界に行ったら何をします?~良いことしてポイント稼いで気ままに生きていこう~

深楽朱夜

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第2部 スタートはゴール地点から 本が読みたければ稼がねば編

16 物件探し

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「ここが一件目かぁー。大きいな、というか貴族の屋敷みたい」

「広いな、古そうだ」

「あ、あの」

「詠斗、なんか食べたい」

「えーと、肉串食べる?」

「食う」

「あ、あのですねぇ」

「どうかしたか?」

「転移魔法と言うのは、1人を少し離れた場所に転移させるのに10人位の魔法使いが必要でして…」

「もちろん、黙っているだろ?」

「そうですが…」

ズィーガーはまさか地図を見て行ったこともない場所に転移出来る人間(?)がいるとは思わなった、勿論巨人族と人の半血種のズィーガーでも無理な話しだが…これは他の誰にも言えないだろう、大河や詠斗もこちらを信用しての事だろう、それに応えなければと誓った。

「いえ、勿論ですともこのズィーガーお2人に決して外部に漏らさぬと誓います」

「どうも」

「ありがとうございます!」

これから先長い長い付き合いになりそうだとズィーガーは思う、持って来た鍵を使い正面の屋敷の中へと3人を案内する。



「こちらの建物は貴族が所有していた屋敷ですね。このままの状態で15年程経っています。『トタラナ』は村ですが採れる資源が豊富で冒険者相手の商売が上手く軌道に乗りやすく、各国の貴族の別荘も大なり小なり存在し、この屋敷はその中でも有数の広さを誇ります。2階建ての12部屋水回りも古いですが良いものですね」

「埃臭くもなく、じめっとした感じもない。陽当たりも良さそうだ」

「厨房も広くて、飲食店とかにありそうな感じ!」

「外には井戸もあり、魔石も至る所に埋め込まれ快適な環境ですね」

厨房も広く調理器具もそのままにされ石造りの壁の床は水はけが良い仕様になっている、部屋もいくつか見たがそれぞれの部屋がシンプルだが質の良い物でまとめられ、食堂も広く窓が大きく光を取り入れやすくなっている。

「ここを手放した理由は?」

「貴族の継嗣の賭博やいわゆる金がかかる遊びによる破綻ですね、当主は遣り手で商売上手な方でした」

「よくある話か、幾らだ?」

「80,000,000ログほどですね」

「分かった、次の物件に行こう」

「わかりました、行きますよー」

「また転移魔法ですか!?」



「次の物件は可愛らしいですね」

2階建ての白い壁と壁に付いた小さい丸窓、チョコレート色の扉を開けると木の板の床にテーブルとキッチン、二階が居住スペースになっている、こんじまりとした定食屋向きな感じがする建物だった。

「この家を手放した理由は?」

「はい、…新婚夫婦の夫の浮気です」

「次の物件」

「はい、行きますよー」



「…はい、ここは元々飲食店をやっていまして。ご夫婦が高齢になり跡取りも無く店を畳んで売りに出しました」

「いいな」

「きれいですね」

「つい最近まで店を開いてましたね、パンやスープが美味しくて私も時々来ていました」

縦長の二階建ての白い石造りの柔らかな建物、中に入ればカウンターとテーブルが2つ狭くて小さいが奥行きがあり、カウンターの中には竈もありすぐにでも飲食店を始められそうだった。

「詠斗何か食べたい」

「果物でいい?」

「ん」

「金額は?」

「5,000,000ログです」

「次だな」



「…えとですね、こちらは酒場と宿屋だった建物です…売りに出ている理由は…店主の夜逃げです」

「古いな」

「…暗い感じ」

「下は酒場、2階は5部屋の一般的な宿屋ですね。厨房もありますし」

「いくらだ?」

「6,000,000ログです」

「……3件目を購入する、『アウトランダーズ商会』の口座から出してくれ」

「承知しました、手続きはこちらでしておきますので明日また来てください」

「分かった、ところでズィーガーさん飯はまだだろう?商会してくれた礼に飯をごちそうしよう」

「あ、昨日の芋やのお兄さんの店に行くんですね」

「ああ」

「行きますよー」



「魔法って便利ですよね」

もう転移に慣れたズィーガー思わず口にする、大河たちの目当ての店の前、今日馬車でこの距離を移動し物件を見たならば夜になっていただろう、時間は金に変えられないとはこういう場合をいうのだろう。

「お、兄ちゃん達来たか!さあ、入ってくれ!」

小さな小さな店からはいい匂いがしている食欲を刺激する、入れ口にドアは無く布の幕を捲って中に入るとカウンターと椅子、テーブルの等は無く必要最低限しかない。持ち帰り専門店のような雰囲気だった。

「いらっしゃい!アンタ達が話しを聞いて品物全部買ってってくれたってのは!ありがとうね、おやそっちの人は…ズィーガー商会の!こんな狭い店に!」

カウンターでせわしなく働く3人のうちの1人、恰幅のいいおばちゃんが出てきてまあまあと笑顔で出迎えてくれた。

「お兄さん達がうちのパティを食べたいって言ってくれたのは!あたしナティ!たっくさん作ったからうちの自慢のパティ食べてって!」

「うわあ、熱い。油で揚げているんだ。いただきます

テーブルに各々座り、小麦粉で皮を作り具を入れ横長に蒔いた物はどこか春巻きに似ていて美味しい、木皿で渡され串の様な物で口元に運ぶ。

「中に果物が入っていて美味しい!」

「……」

「うん、お菓子か」

「久しぶりに食べましたね」

それぞれ果実を絞った水を飲みながら無言で追加を食べていく、追加で来る物の味も芋や野菜味付けも変わり飽きが来ない。

「美味しかった、みんなに持って帰ろう」

「おかわり」

「チグリス何個目だ?」

「私も沢山食べてしまいました」

「兄ちゃん達沢山食べたなー」

奥から汗をかいたどうやらナティ達の父親らしいおじさんも水を飲んでいる、材料は持ち帰り分も作って尽きたとの事皆満足げな顔をしている。

「最後にアンタたちみたいな良いお客に会えて良かったよ。本当にありがとうな」

おじさんが心から満足している顔、おばちゃんとナティ達は遣り切れない顔をしていた。

「お、俺の自己紹介をしてなかったな。ナットっていうんだ宜しく!」

「俺は詠斗です!」

「俺は大河」

「チグリス」

「これからは農家一本だ!買いに来てくれるか?干し芋もつくるぞ!」

「買いには行くが、その前に他の場所で店が出来て、小麦や油や砂糖の仕入れが前と変わらなければ店を続けられるか?」

吹っ切れていたナットやナティその両親が互いに顔を見合わせる、お互い良い笑顔で頷いた。

「そりゃ、それが一番理想さ!」

「パティをもっと沢山の人に食べてもらいたいもの!」

「分かった、7日以内に新しい店を用意する。店舗の家賃は値上げする前の値段ならどうだ?」

「そんな夢のような話し…」

「7日までの生活する金だ、返さなくて良い。店を見てからでも遅くは無いだろう?ただ他の店でアンタたちみたいに値上げで困っている人たちとの共同での経営になると思うが、それも上手くやるつもりだ」

カウンターに100,000ログコインを置く、一般的なこの世界の1家族の1ヵ月分暮らせる位の金額だった。

「持ち帰りのパティを貰おう、何個ある?」

「え、あ、50個」

「なら、10個別にしてくれ」

「は、はいよ」

「これ1ついくらだ?」

「200ログだ」

「なら持ち帰り分と、今食った分で30,000ログも置いとく」

「い、いや、金は昨日貰っただろう!」

「この金で明日も店をやればいい」

「あ…、そうかありがとう」

「7日後にまた来る、行こう」

狐に化かされたようなそんな顔をしている4人に挨拶し店を後にする、葉に包まれたパティ10個はズィーガーに渡し他は収納にいれた。

「差し入れ、ゴーテンさん達と食べてくれ」

「承知しました、ありがとうございます。それで次は何を食べさせてくれるんですか?私の腹はまだまだ食べれますよ」

「次はパンだな」



「お兄さん達待ってたよ!」

路地で女の子がこちらに大きく手を振ってくれる、傍らには少し年上の少女によく似た少年が心配そうに立っていた。

「パン沢山作ったよー」

「あ、あの昨日のお金…」

「足りなかったか?」

「いえ、充分たりたんですけど。店の賃料が足りなくて…そ、その返せなくてごめんなさい!」

深々と頭を下げる少年、きっと怖かったのだろうカタカタと震えていた。

「なんだそんな事か気にしなくていい、それよりパンを貰ってもいいか?」

「どうぞーいつもうちのパンは世界一!」

「大河、食べたい」

「いいぞ」

「じゃあ、この店のパン代昨日よりも多いから」

40,000コインを出して少女に渡す、少年が驚いてそれを止めた。

「キッキダメ、お金は昨日貰ってるんだから」

「気にしなくていい、受け取れ」

藁で編んだ袋にパンを入れて10個程、ズィーガーに渡し残りは収納袋(偽装)に入れて全部しまう。

「君たちの工房に連れて行ってくれ」

「え、あの…」

「大丈夫だよ!キッキちゃん!えと…」

「セギです」

「大丈夫、セギくん!さあ行こう」

ニコニコと詠斗の柔らかい笑顔で警戒心を解いていく、工房に案内してもらう為に片づけを手伝い案内して貰う。



「ここが工房…」

案内してもらった場所は、小さい小屋の屋根に煙突の様な突起がある建物だった。

「戻ったよ、お客さんにも来てもらったよ」

「中に入れてもらうと、古さはあるがきちんと手入れが行き届いている窯や台や道具が所狭しと並んでいた。

「す、すみません!お礼にも行けず!お金まで!」

「いや、気にしなくていい。この工房で何店舗が共同で作業している?」

「日によって変わりますが4店です」

開口一番謝罪をしたのは、セギとキッキに似た青年だった。

「おにいちゃん、ママは?他のみんなは?」

「母さんたちは今ちょっとでているよ、もうすぐ帰って来るから…」

暗い顔で告げると外で話し合いの声が聞こえてくる、なにやら揉めているようだった。

「値上げはこれ以上は困ります!つい先日も値上げしたばかりじゃ」

「私に言われてもねぇ、商会の上が決めた事だから」

「あ、ママ!」

「何やら揉めているようですね」

ズィーガーがドアを開けて外に出ると、ブルラド商会の遣いらしい男がズィーガーの顔を見るなり背筋が伸びた。

「どうも、今私の知り合いがこちらで話をしているのでね。またにして貰えるか?」

「っ、分かりました!値上げは決まりましたから、払えなければ出て行って貰います!」

それだけ吐き捨てるように言うと男は、走って逃げるように去って行った。

「ズィーガー商会の…お恥ずかしい所を、助けていただきありがとうございます」

「いや、この辺りは…」

ズィーガーが言い淀む自分には口を挟む筋合いは無い、状況は誰よりも理解しているつもりだった。

「こちらは…」

「昨日パン全部買ってくれたお兄さん達だよ!」

「す、すみません!ご挨拶も出来ずに」

「いや、いい。それよりも話しをしに…」

キッカ達とよく似た面差し、深々頭を下げるのは血なのだろうか頭を上げて貰い話を聞いてもらう事にした。



「新しい店、家賃は前と同じ、小麦粉も…砂糖も!是非、是非その店で働かせて下さい!」

「俺達も!もう店畳むしかなくてな…」

「皆で協力しても限界があって、更に値上げで…」

荷車を牽いていて売っていた人々も戻って来て話が進み、7日後に新しい店で準備を行う事が決まった。

支度金として1家庭毎に100,000ログを配り、それで店が始まるまで過ごしてもらうことになり、皆安堵の表情を浮かべた。

「よろしくお願いします」

深々頭を下げて7日後に来る約束と、売れ残った商品を全て買い取り工房を後にした。

「ズィーガーさん、送っていこう」

「行きましょう」

「は、はい」

さて、自分はどうするか少し考えてみようかと揺れる景色の中ズィーガーは考えた。
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